大きくなぁれ。
「だーかーらー、お前には無理だって!」
「でも、大きい方がいいでしょう?」
「理想と現実って違うもんだぞ?」
「もう!」
「何の話だ?」
アリスとメアリーの会話に小首をかしげながら、シラユキはテラスの席に着いた。
ピーターは、まだ買い物をしているらしい。待ち合わせであるこのテラスには来ていない。
先にいたアリスとメアリーは、何か話しながら各々の注文したものを口に含んでいた。
メアリーはアイスティー。アリスはオレンジジュースとチョコレートケーキ。
シラユキはウェイターにアイスコーヒーを注文した。
「おかえり、シラユキ」
「ああ。で、何の話なんだ?身長か?」
「いや」
メアリーは首を横に振って、自分の胸を指差した。
「胸の話」
「おいこら。それはセクハラか?アリスに対するセクハラか?殺すぞ?」
「いやだって、アリスが通りかかった姉ちゃんみて胸大きくなりたいって言うからさぁ」
ゴン!といい音がしてメアリーの頭にげんこつが落ちてきた。
「いってぇぇぇぇぇ!!」
「おい騒ぐなよ。迷惑だろう」
「あんたが殴らなければ騒がずにすんだんですけどね!?」
「アリス、あまりメアリーのいう事真に受けるなよ?」
「シカトだー!華麗にシカトだー!」
「お前もうしゃべるなよ」
ふう、と溜息をついて、アリスはストローに口をつけた。
「わたし、シラユキみたいになりたいのよ。
大人の女性、っていうの?」
「お前チビで寸胴だもんなー」
「メアリー。ミシンで口縫うぞ?」
その目は本気だったので、メアリーは口をつぐんだ。
「アリスはまだまだ成長期じゃないか。これからもっと大きくなるだろう?」
「でも、わたしもう13歳なのに!13歳でこれって、やばくないかしら!?」
「大丈夫、まだまだ大きくなるさ」
シラユキは優しく微笑んで、アリスの頭をなでた。
「アリスは私のようになりたいといったが、私はアリスが羨ましいぞ?」
「どうして?」
「女の子らしいからな」
アリスは首をかしげた。
シラユキは雪のように白い肌、唇は赤い薔薇、髪は綺麗な黒で、とても美人なのに。
「アリス覚えてるか?ユキ姉ェの家」
「え?ええ」
「フリルだのテディベアだのあったろ。あれ、ユキ姉ェの趣味だぜ?」
シラユキの家は、フリルやテディベアで女の子の部屋らしかった。
でも当のシラユキが今着ているのはレザーの黒い、露出が凄く高い服。
おまけにこのお姉さん、素手で男を殴り飛ばすのであった。
「フリルやテディベアは凄く好きなんだがな……よく似合わないといわれる」
「いやほんっとだよな」
「だから私はアリスが羨ましい。アリスがテディベア抱っこしてみろ。物凄くかわいいじゃないか!」
シラユキのあまりの真剣ぶりに、声に出してアリスは笑った。
それを見てシラユキは微笑む。
「アリスはアリスのまま大きくなればいい。心も身体もな?」
「うん。でも……胸ってどうしたら大きくなるのかしら?」
「揉まれれば?」
言葉を発したとたんに、メアリーは椅子から吹っ飛ばされていた。
「いって!!!!」
「おい店主。ミシンないか、ミシン。ないならいっそ私が手縫いで口を縫う。針と糸をくれ」
「冗談だって!!ユキ姉ェーーー!やめてーーー!オレ達友達だろ!!?」
「いいわシラユキ。やっちゃって」
「アリスてめぇ!!!」
アリスのお許しが出て、シラユキはにっこりと笑ってメアリーを見た。
その微笑にメアリーは思わず青ざめ、引きつった笑いを浮かべた。
「……何してるんだ?」
その声に、メアリーははっとして地べたを這い蹲るように進んでその声の主にすがりついた。
「ピーーーーーターーーー!!」
「な、なんだよ……」
声の主、ピーターは自分にすがりつくメアリーと仁王立ちしているシラユキ、傍観しているアリスを見比べる。
「邪魔をするなよピーター。今からそいつの口を縫うんだ」
「は?」
「誤解なんだって!アリスが胸大きくしたいって言うからさ、じゃあ揉まれればいいだろって言っただけなんだって!」
言い切った瞬間、メアリーは思いっきりピーターに蹴飛ばされ宙を舞った。
「いってーーーーー!!」
「シラユキ、ボクも協力する」
「ああ、感謝する」
「なんでだよー!お前も男ならそう思うだろー!?」
「13歳にその発言は犯罪だって気づけ!!」
ぎゃあぎゃあと喚きながら店から逃走するメアリーを追って、シラユキも店から飛び出していった。
はあ、と溜息をつきながらピーターは店員とお客に迷惑かけました、と頭を下げ、アリスに行くよ、と声をかけて店から出る。
アリスは頷いて荷物を持ってピーターを追った。
「全く……メアリーには本当困るな」
「メアリーなりに小さいわたしを励ましてくれてるんだと思うわ。……たぶん」
「そうかぁ?」
怪訝そうにピーターは顎をしゃくった。
そこには、未だシラユキに追いかけられているメアリーの姿がある。
「見た目は女の子並に可愛いくせに、こういうときだけ男なら、とか言うな!」
「だってオレ男だもーーん!そりゃそこらの女よりは可愛いけどさぁ!」
「荒波に揉まれてこい!!一撃で送ってやるから!」
「ユキ姉ェ!そんなことしたら可愛いオレの顔拝めなくなるぜ!?つか一撃!!?」
はあ、とアリスは溜息をついてピーターと顔を見合わせた。
「気のせいだわ、たぶん」
「だろ?」
苦笑してベンチにこしかけ、メアリーがシラユキからなんとか許してもらうのをぼんやりと眺めた。
「DOLL EMPRESS」にて3周年&40000打記念のフリー配布小説を持ち帰らせて頂きました。
三周年、四万打、おめでとうございます!
アンケート締め切りの延期をお願いしてまでリクした、「名前のない物語」の三人のほのぼの。2つもリクしてしまい、本当に申し訳ありません! そして、それでも書いて下さった事に感謝してもしきれません。
2007/05