ストレンジ



ファンタジスタ王国のアメディア市。
ここにある掃除屋黒月の前に、一人の少女が立っている。

一方中には二人の少女がいた。
二人仲良くソファに座って画用紙にクレヨンで絵をつづっている。

外にも中にも、他に人はいない。外に立っている少女は、、扉を二回ノックした。
その音に、中にいた少女の一人が顔を上げる。

「ど、どうしましょう……お客様でしょうか?」
「しらん」

そっけなく返され、少し途方にくれる。

「ごめんくださ〜い!」
「あぁ!やっぱりお客様です!え、えっと……セリーヤさん、応対お願いしていいですか?」
「セリ?」
「はい!きっと、いつも皆さんがしている事をすれば大丈夫なはずです!!」

そういって、少女は二階に駆け上がって行った。
仕方なく、セリーヤと呼ばれた少女は扉を開ける。
ひょっこりと外から顔を出した少女は、セリーヤの顔を見て少しきょとんとした。

「あれ?ここの娘さん?」
「セリー・ヤ」
「セリーヤちゃんっていうの?ボクはアリー。ねぇ、お家の人いる?」
「ヒナなら、いる」
「ヒナ?」

上手いこと噛みあわない会話に、アリーと名乗った少女は首をかしげた。

「えっと……とりあえず、中入ってもいいかな?」
「ヨシ」

頷くと、セリーヤはアリーを中に促し、今しがた自分が座っていたソファへ促す。
テーブルには画用紙とクレヨンが広がっていて、少女はまたきょとんとした。

「ん」
「え?」

渡されたのは、緑色のクレヨン。

「かくべし」
「かくべしって……ボクもお絵かきすればいいの?」
「イイ」

何故、自分がクレヨンで絵を描かねばならないのか。
だれか答えられたら答えて欲しい。
仕方なく何を描こうか考えている時。

ガッシャーーーーン!!

何かが割れる音が響いて、アリーは反射的に立ち上がった。

「何!?」
「無問題。たぶん、ヒナ」
「え?」
「ヒナ、よく割る」

何をだ。
心の中でそう突っ込んだことは、きっと罪ではないはずだ。

「でも、様子見に行った方がいいんじゃないかな?」
「ソオ?」
「そうだよ、きっと」

そういうと、セリーヤはすたすたとどこかへ歩いて行った。
アリーがそれについていくと、どうやらそこはキッチンだったようだ。
白いフードを被った人物が、座り込んでいる。

「ヒナ」
「あ!!セ、セリーヤさん!と……」
「あ、ボクアリーっていいます」
「アリーさん、ですか?私、ヒナっていいます。
あ、あの、すみません、今すぐにお茶の用意を……あ、でも、危ないから入っちゃ駄目です!!」

キッチンが危ないなんてどんな家なんだと思う間もなく、ヒナと名乗った人物は割れたカップを取り出した。

「今カップ割っちゃって……破片が飛び散ってると危ないですから、動かないでくださいね」
「……もしかして、よく割るって……コレ?」
「コレ」

セリーヤはしっかりと頷く。
ヒナは箒とチリトリを持ってきて割ったカップを片付けようとするのだが、何故だか掃除は酷くなるばかりだった。
そして掃除をしている間にも食器は割れていき、ポットの中身はひっくりかえる。
セリーヤはそんなことにも動じず無表情で、ヒナの短い悲鳴が上がるたびにアリーはオロオロとするのだった。

「………ボクがやる!!」
「え?で、でも……」
「いいから!!お願いだからあなたは外で待ってて!!」

そういってヒナを追い出し、アリーは何故か他人の家の掃除をする羽目になったのだった。



掃除を終え、アリーは改めてソファに座る。ヒナとセリーヤも一緒だった。

「えっと、アリーさん、申し訳ないんですが今皆さん外出中でして……私たち居候なので、お仕事の話よく解らないので、少し待っていてもらえますか?」
「かくべし」

そういってセリーヤはまたクレヨンを差し出す。
差し出されたクレヨンを受け取ると、セリーヤはセリーヤで絵を描き始めた。
しばらくセリーヤが絵を書くのを眺めていると、セリーヤは手を止めてその画用紙をアリーに見せた。

「アリー」
「ボク?」
「これ、アリー」

指差すそこには、お世辞にも上手とはいえない子どもらしい絵で、人のようなものが描かれていた。
たぶん、アリーを描いた、といいたいんだろう。

「ボクを描いてくれたの?ありがとう」
「ん」

セリーヤは頷いて、またクレヨンをうごかしはじめた。
丁度その時、チリンチリンとベルがなる。
そちらを振り向けば、黒衣の少年がぽかんと扉の前に立っていた。

「アス・ラ、おか・え・りー」
「おかえりなさいアスラさん」
「た、ただいま……えっと……お客さん?」
「アリー」
「はーい、ボクアリーでーす!」
「名前じゃなくて!!」

とりあえず少年はアスラと名乗り、ソファに腰掛けた。

「えっと、じゃあ、アリーさん、掃除の依頼ですか?」
「掃除?掃除ならさっきしたよ〜」
「はい?」
「あ、私が食器割ってしまって……」
「またぁ!!?」
「ご、ごめんなさい!!」

がっくりとうな垂れたアスラは、すぐに気を取り直してアリーに向き直る。

「えっと、おれ達に依頼があったんですよね?」
「あ、うん!あのね、ヴィルヌって人を探してるんだけど……情報ないかな?」
「……………はい?」

アスラと話のかみ合わない話を数分過ごした後、アリーは叫んだ。

「えぇぇぇぇぇぇ!!?ここって情報屋じゃないのぉぉ!!?」
「掃除屋ですよ!看板あったでしょう!?」
「だって、ちゃーんと住所メモしてきたんだよ!」

アリーの出したメモを、ヒナが覗き込んだ。
そして、ローブの下で苦笑する。

「あの……これ、隣町のみたいですけど……」
「へ?」

アリーはまじまじとメモを見た。

「ゴメン、間違えちゃったみたい!」

ガックリと、アスラはうな垂れた。



「どうもお騒がせしました!」

掃除をさせてしまったお詫びとして、アスラがお茶をいれ談笑していたのだが、そろそろ宿に向うとのことでアリーは玄関の前で見送られていた。

「いえ。見つかるといいですね」
「うん!そっちもお仕事頑張ってね」
「はは……それより、本当、掃除なんかさせちゃってすみません」
「いいよ、別に。見てられなかったし」
「うぅ……すみません……。私、アリーさんみたいに掃除ができる女の子になります!」
「いや、女じゃなくても掃除できるから」

ヒナとアスラのやり取りに、アリーは笑う。

「じゃ、ボクはこれで」

ひらひらと手を振って、アリーは黒月を後にした。
その手には画用紙が一枚握られている。
そして、テーブルの上には画用紙が一枚。
アリーの持っている画用紙にはアリーの顔が、テーブルの上の画用紙にはセリーヤの顔が描いてあった。
もっとも、アリーの画用紙の顔は子どもらしい絵でほとんど顔の判別なんかは出来ないのだが。

「変な人たちだったな〜……掃除屋なんて物騒な仕事してるみたいだったのにボクが男って気付かなかったし……。
ま、いっかぁ!バレちゃっても困るもんね」

そう呟く声は、誰にも聞こえなかった。


「DOLL EMPRESS」にて。50000打記念企画で、リクエストさせて頂きました。
五万打、おめでとうございます!
うちのアリーとコラボしてくださりました。図々しくも、二人も指定してゴメンナサイ! にもかかわらず、快く書いてくださった菜々草様に感謝です。
※『灰色の王女』修正前に書いていただいたため、一部今とは名前が異なります。

戻る

2007/10