マグル出身の彼女。
 僕は、彼女が大嫌いだ。
 何だって、汚らわしいマグルがスリザリンに入れる?
 それに彼女は恐ろしく馬鹿だ。己の闇を隠す術を知らない。





No.1





「聞いて、リドル。ルイスったら酷いのよ。ちょっとぶつかったぐらいで、睨んできたの!」
「いつも一人でいるし、喋らないし、なんか暗いわよね。彼女。友達がいないからやっかんでるのかも」
 それしきの事を、態々僕に話す必要も無いと思うけどね。
 でもそういう言い方は、奴と一緒だ。自分の闇を、隠しもせずに。なんて愚かな女なんだろう。
「あまり大声でそういう話をしない方がいいよ。先生の耳に入ったら大変だからね」
 表情に笑顔を貼り付けてそう言うと、彼女達は真っ赤になって行ってしまった。
 これでやっと、静かになったよ。

 図書室に入って、僕は奥の席へと向かう。
 そこは、本棚で死角となる所。五月蝿い奴らもやって来ない。
 今日はその席に、先客がいた。
 ……ここに来た事を後悔した。

 先客の名は、マーガレット・ルイス。

 マグル出身の癖にスリザリンに入った「奴」だ。
 今日は諦めよう。
 背を向け立ち去ろうとすると、最悪な事に声をかけられてしまった。
「リドル? 貴方もここを使ってたのね。どうぞ。邪魔者は退くから」
 ルイスは僕の横を通り抜けていく。
 通り抜ける一瞬に見た横顔には、何の表情も無かった。美人ではないけれど、笑えばもっとマシになるだろうに。
 あんな奴に態々譲ってもらった席に座りたいとは思わない。
 僕は顔を顰めてその席を一瞥すると、寮へと戻っていった。寝室ならば、まだ静かだろう。





 スリザリンの談話室にいるのは、ルイスだけだった。
 自分が嫌われている事ぐらい分かっているだろうに、如何して態々こんな所で本を読むのだろう。

「あら。やめたの? 折角譲ったのに。天邪鬼なのね」
 彼女は容赦ない。こんなのにも笑顔を向けられる僕は、自分でも凄いと思う。
「態々譲ってくれたのに悪かったね。
いいよ、あの席で読みたかったんだろう? 僕は他の用事を思い出してね」
 僕の言葉に、ルイスは全く関係の無い返事をする。
「よくそうやって馬鹿みたいにヘラヘラ笑ってられるわね。そういうの、八方美人って言うのよ。知ってる?」

 僕が馬鹿みたいだって?
 この笑顔は仮面だ。
 君は仮面をかぶる事もしない。そんな君が僕を馬鹿呼ばわりするのかい?
「酷い言いようだなぁ。僕は監督生だからね。例え君がどんな人であろうと、監督生である僕が君を迫害する訳にはいかないだろう?」
「へぇ? 監督生は他の生徒を迫害できない、ねぇ……私はマグル出身なのよ?」
 僕は思わず眉を顰めそうになる。こいつは、それを恥じないのか。
「だから何だい?」
「スリザリン生は皆、マグル出身者を嫌っているじゃない。そして、貴方も例外ではないでしょう? それどころか、貴方は皆以上にマグル出身者である私を嫌っているように見えるけど」
「僕が嫌ってる? まさか――」

「いい加減、その偽の笑顔はやめてくれないかしら。気味が悪いわ」

 思わず、目を見張った。まさか、「穢れた血」なんかに見破られるなんて。
 ルイスは薄笑いを浮かべる。
「気づかれているとは思わなかった、って顔ね。本当に馬鹿だわ。笑顔で全てを得る事が出来るとは限らないのに」
 僕は吐き捨てるように言う。
「よく気づいたね。『穢れた血』が」
「表情は素を出しても、言葉は控えた方がいいわよ。顔は誰か入ってきても見えないけど、言葉は聞こえるもの。
気づかれたのが、そんなに不思議?」
 そう言って、更に笑みを濃くする。
 前言撤回だ。こいつは笑ってもマシにならない。

「そうね……私も、貴方と同じだから分かったのよ。こんな言い方したら、貴方はお気に召さないんでしょうけど」
「同じ、だって? 確かに気に入らないね。僕と君なんかを一緒にするな」
 「穢れた血」が思い上がるな。
 僕は、君とは違う。
 僕は「スリザリンの継承者」だ。高貴なる血を引いているんだ。

 マーガレット・ルイス――
 絶対、こいつをバジリスクの生贄にしてやる。





 薄暗い室内。地下だからか、空気はじめじめとしている。最も、この季節は雨が多いんだけどね。
 やっと――やっと、見つける事ができた。
「スリザリンよ。ホグワーツ四強の中で最強の者よ。我に話したまえ」
 サラザール・スリザリンの巨大な石の頭が動き出す。石像の口はだんだん広がっていき、大きな穴になった。
 来る。穴の奥から、ズルズルと巨体の動く音がする。

 そして、バジリスクはその姿を現わした。
 巨大な蛇は穴の前でとぐろを巻き、低く頭を垂れる。その様子は、主人に忠実な犬のようだ。
 これで、確かなものとなった。

 僕は、サラザール・スリザリンの末裔だ。

 狙うは、ホグワーツで付け上がっている「穢れた血」達。
 特に、あのルイスって女。
 奴の恐怖に歪んだ死に顔を、もう直ぐ拝める事が出来る。

 待っているがいい。
 そうだな……直ぐに殺してしまってはつまらない。楽しみは最後まで取っておくとしよう。周りから、じりじりと責めていく。
 怪物だけが恐怖ではない。人だって、恐怖になりえる。
 ほんと、君が己の闇を隠さないのは好都合だよ。
 まずは……そうだね、グリフィンドールの女子生徒だ。彼女はつい昨日、ルイスに暴言を吐き、冷たくあしらわれていた。その彼女が殺られれば――周りは如何思うか。





 さあ、楽しい暗黒の幕開けだ。


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2006/12/10