ホグワーツの冬休みは、日本よりも早く始まった。
クリスマスまであと一週間。
パンジーはドラコがOKしてくれてから、大抵ドラコと一緒にいる。華恋はまた、一人でいる事が多くなった。尤も、宿題を片付けるのに誰かと一緒の必要なんて無い。
久しぶりの一人行動は、なかなか気楽なものだった。
No.13
「久しぶりね、カレン」
「あぁ、うん」
華恋は時々、図書室へ来ていた。魔法界の本は、面白い。
そして図書室といえば、ハーマイオニーだ。
「何を調べているの? 貴女、魔法史は苦手そうだったのに」
「授業は、ね。でも小説として読めば、マグルのに比べりゃ面白いから。趣味で読む分には、難しい部分理解出来てなくても問題無いし」
ハーマイオニーは呆れながらも笑っていた。
「ねぇ、貴女ってあの卵の事、わかった? ハリーったら全然調べようとしないのよ……」
「ハリーの為の情報収集?」
「違うわ!」
「ごめん、冗談だよ。私は分かってるよ。……目的を遂げるには、あらゆる手段を試す必要がある」
「え? それって、組分け帽子の歌よね? スリザリンの。『どんな手段を使っても目的遂げる狡猾さ』って」
「違うよ。それがヒント」
ヒントなんて出さなくても、ハリーにはディゴリーが教えてくれる。それを待てば良いだけだ。
けれど、それは話さなかった。ディゴリーの違反を伝える事になってしまうし、こんな所で話して誰かの耳に入ってもいけない。
クリスマスプレゼントは、トリオの他に、パンジー、それからウィーズリー夫人、シリウスから来ていた。
なかなか皆、凝った物だ。華恋が皆に贈った物は、ハニーデュークスで買ったお菓子だけ。どんな物が良いのか分からず、結局無難な物になってしまった。
来年はもう少し考えようと心に誓うのだった。
とうとう、パーティーの時間が来た。
華恋は髪を結いなおし、ドレスローブに着がえた。
「カレン、貴女それだけ!?」
「何が」
「髪をもう少しいじったり、ちょっとお化粧したり、アクセつけたりしないの!?」
しようにも持っていないし、第一、仕方が分からない。
パンジーが着ているドレスは淡いピンクで、フリルだらけ。確かにパンジーから見れば、華恋の格好はシンプル過ぎるかも知れない。けれど、華恋にごてごてとしたアクセサリーが似合うとは思えない。
華恋の意向には構わず、パンジーは華恋を眺めながら吟味していた。
「私は貴女のドレスに会うようなアクセも何も持ってないし……ミリセント! 貴女、如何?」
パンジーは同室の他の子達にまで声をかけ始める。
華恋は慌てて引き止めた。大して話した事も無い子達まで巻き込んで、大げさな事になるのは気が引ける。
「いいよ、パンジー! 私、先に行くね! ポラコフを探さなきゃいけないから!」
それとも、ポリアンだっただろうか。それとも、ナポリタン?
ポリアコフだった。
彼は、ダームストラングの生徒だ。
代表選手は、皆が入った後に入場する。目立つ事に辟易しながらも、扉の横の待機場所へと向かう。
人ごみの中に、ハリーやハーマイオニーやディゴリー、多分チョウやパーバティだろうと思われる女子生徒達を発見した。
ハーマイオニーの変わりように、華恋は感嘆する。美人な上、可愛い。ロンも、本当に最初からハーマイオニーを誘えば良かったのに。
ダンスパーティーは、最悪だった。
原作を隅々まで読んでおくべきだった。訪れた他校生達を、宴会の場でしっかり覚えておくべきだった。けれど、今となってはもう遅い。
ポリアコフ。何処かで聞いた名前だと思っていた。ハロウィンの日、ダームストラングはスリザリンのテーブルにいたから、誰かが呼んだのを聞いたのだろうと気にしなかった。
けれど、今になって思い出した。この、隣の惨状を見て。
ポリアコフは、ボーバトンとダームストラングがホグワーツに来た日、食べこぼしでローブをベタベタにしていた人だった。
こんな人とこの後踊ると言うのが、本当に嫌だ。
口を開けて食べるな。何故そんなに零れる。皿を押さえて食え。
言いたい事は山ほどある。
最悪だ。
忘れ去って誰かと話そうにも、ハリーは離れた位置にいるし、ハーマイオニーはクラムと話している。
早く終われ。只管それを願っていた。
噴水の音だけが、辺りに聞こえている。
随分と寒いが、広間の喧騒の中にいるよりはマシだ。
ポリアコフは、ダンスも周りを見ながらオタオタしていた。嘘を吐いたのだ。彼は、カルカロフに注意されっ放しだった。だから、見返してやりたかったのだろう。代表選手と踊るという目立つ立場になる事で。
――ふざけんなよ……。
華恋は利用されただけだった。
せめて、見返したいのなら、ダンスの練習ぐらいはして置けばここまでは思わなかったろうに。
「貴女を見た途端、俺にはわかった」
不意に聞こえた、ハグリッドの声。
「何がわかったの。アグリッド」
華恋が淵に座った噴水の、反対側にいる。
あのシーンだと、直ぐに分かった。ハグリッドが、半巨人だと言ってしまうシーン。そしてそれを、リータ・スキーターが聞いている。
ここは、出て行って止めた方が良いのだろうか。
一瞬そう考えたが、思いとどまった。この後、ハグリッドは記事を書かれて引き篭もる。けれど、それをダンブルドア、ハリー、ロン、ハーマイオニーが引っ張り出す。そしてハグリッドはもう、隠さずに堂々とするようになる。ハグリッドは今、自分が半巨人だという事を隠している。自分に恥じ入っている。そんな必要は無いのに。
これは、ハグリッドが一歩前進する為の事だから。
――だから……。
華恋は、ハグリッドが自分の事を話し、マダム・マクシームが荒々しく去っていくのを黙って聞いていた。
「……カレン、第二の課題が分かったんだって?」
「分かったじゃない。分かってるって私は言ったの」
「本に書いてあったって事か」
図書室でまた資料探しをしていると、ハリーがやってきた。
ハリーはまだ、分かっていないらしい。
「ハーマイオニーから聞いたけど……一体如何いう事なんだ? 組分け帽子の歌がヒントだなんて。それもスリザリンの」
「そのまんまだよ。ハリー、ディゴリーからもヒントを貰ったんじゃないの?」
「それも、本に書いてあったの?」
「まぁね。いいじゃない。素直に聞き入れれば。変な意地張ってないでさ」
「カレンはいいじゃないか。本を読んで知ってるんだから。フェアじゃないよな」
華恋だって、ずるをしているようで嫌だ。
嫌だけど、知っているものは如何しようもない。
「それじゃ、カレンはあの卵を開けてないんだ?」
「うん」
言われてみれば、開けていない。
何か違ったりするのだろうか。
「よし! じゃあ、今、開けてみるか」
「えぇぇっ!? 今!?」
「うん。取ってくるよ。あんまり音が反響しない方がいいからなぁ……中庭の噴水のトコで待ってて。あそこなら大抵人もいないから、他の人の迷惑にもならないし」
――これで他の人と違ったりしたら、面白いよなぁ。
華恋は寮の寝室に寄って、卵を持って中庭へ向かった。
そこにいるのはハリーだけ。
「なんで僕も一緒に聞かなきゃいけないんだよ」
「え。だって、これで皆と違ったりしたら面白いじゃない。それを確認する為にさ」
「何が面白いんだ……」
「開けるよ。ほぼ100%の確率で同じだと思うから、耳栓の準備して」
「だったらいいじゃん……」
華恋は、爪を立てて卵をこじ開けた。
同時に、強い風が巻き起こる。
「うっわ……っ、何だ、これ!!」
「ほぼ0%の確率が当たったみたいね……!」
「なんでちょっと嬉しそうなの!!」
風は更に強さを増し、竜巻となる。
華恋とハリーは、その風に巻き上げられた。
「何処だよ、ここ……」
「……」
――何処だろうねぇ……。
目の前には、何処かのアパートがあった。それともマンションか、社宅か。
ガラガラと、おもちゃのタイヤのような音がする。
音のした方を見てみれば、三輪車をこいだ男の子がやってくる。その後ろから、慌ててついてくる母親。
華恋は言葉を失った。
嘘。
なんで。
如何して。
そんな、まさか。
頭の中で、言葉が渦巻く。そして、ぽつりと呟いた。
「私……?」
2009/12/31