目が覚めたら、私はハリポタ世界にいた。
時間軸は、「炎のゴブレット」。
私は代表選手にされて。
第一の課題で手に入れた卵。
それを開けて出てきたのは、水中人の声ではなく。
竜巻だった。
私は巻き込まれてやってきた。
……否、戻 っ て き た 。
No.14
「私……?」
「え!? あの母親が!?」
ハリーが声を上げ、華恋は目を見開く。
「ハリー、日本語……?」
「え? あれ……そう言えばこれ、英語じゃない。なのに如何して分かるんだろう」
一体何が起こっているのだろう。
親子は、華恋達の横を通り過ぎて行った。
「ねぇ、華恋……今のが、君って如何いう事? 僕達、未来に来たの?」
分からない。
分からないけど、一つだけ。
「来たのは未来じゃない……私にとっては過去、そしてハリー達にとっては現在若しくは過去の異世界だ」
「過去? でも今、母親を自分だって……」
「母親じゃないよ。今通り過ぎた、子供の方」
「えぇ!? あれって、男の子じゃないの!?」
――どうせ私は男の子みたいでしたよ!!
「佳代ちゃ〜ん!」
通り過ぎていった華恋が、大きな声で呼ばう。
佳代とは、誰の事だろう。けれど、何処かで聞いた事がある気がする。
そうだ、母の話だ。幼い頃、佳代と言う名前の子と仲が良かったらしい。それは引越し前の話。華恋が引っ越したのは、幼稚園入学直前。一体、今は何年の何月だろうか。北国の冬服を着てるのに暑くないのだから、冬だろうと言う事は分かるのだが……。
簡単に確かめる方法ならある。「華恋」に、何歳だか聞けば良い。母や他の人から不審に思われるのは、承知の上だ。休暇中で服装がローブではないのが、せめてもの救いだ。この上ローブなんて着ていようものなら、不審者極まりない。
「え、ちょっと! 華恋、何処行くの?」
「今が何年だか確かめる」
予想通り、「華恋」は社宅内の公園にいた。
母親達は、集まって話をしている。
「ママー。今日のばんごはんもおもち食べたい!」
「ええ。たくさん残ってるからね。
うち、パパが出張行ってたでしょ? だから昨日、鏡開きしたの」
子供に返事をしてから、一緒にいる誰かの親に話す母親。
鏡開きは確か、一月十一日だ。出張行っていたから今日、という事は今日は一月十一日以降と言う事になる。
「ハリーは私が話をしだしたら、入ってきて」
華恋はその母親の集まりと一人の子供を通り過ぎ、真っ直ぐ「華恋」に向かっていった。
「華恋」はジャングルジムに登っている最中だ。華恋の頭ぐらいの高さまで登っている。
「凄いねぇ。小さいのに、こんなに高く登れるなんて」
へへと嬉しそうに「華恋」は笑う。警戒というものを、全く知らないこの頃。
「いくつ?」
「三さい!」
「へぇ〜」
「おねえさんは?」
「十四歳だよ」
ハリーが、こちらへやってきた。
「あっ。待ち合わせてた人が来たから、じゃあね」
「うん! バイバイ〜!」
何とも奇妙な感覚だった。この頃の事は、全く覚えていない。この公園は幽かに覚えている気もする。その程度。
確かに自分自身なのだが、その実感が沸かない。けれど何処か自分なのだと認識していて、会話をしているのが不思議だった。
「今、この世界は一九九五年の一月十一日以降みたい」
「じゃあ、僕達の所とあんまり変わりないんだ。たったの二週間ぐらいしか」
「そういう事になるね」
華恋達はちょっと歩いた所にあったコンビニでおにぎりを買って、近くの公園のベンチで食べている。
お金は、ダイアゴン横丁へスネイプと行った時、何となく懐かしくて千円分だけ日本円に両替した物があった。硬化にしておいて、正解だった。硬化も平成九年以降の物は使えないが、お札だと千円丸ごと使えない所だった。ダイアゴン横丁に感謝だ。
この後、如何したものか。戻る方法を探さなくてはいけない。
華恋は、公園にいる子供達の母親らしき人の輪に入っていった。そして、図書館の場所を聞く。
如何やら、随分遠いらしい。けれど、他に方法は無い。
「何はともあれ、まず図書館か。ハーマイオニーと一緒だね」
「ハーマイオニーほど勉強家じゃないけどね。他に方法がないでしょ? まさか、マグルに聞き込みする訳にもいかないし」
華恋達が図書館に着いた時は、もう閉館十分前だった
歩きつかれ、へとへとだった。十分で調べられる気もしない。
とりあえず、科学系統の本棚の所へ来て、瞬間移動だの何だのの研究資料を探してみる。しかし、何かそういった関係の本が見つかる前に、閉館時間は来てしまった。
「華恋、これから如何する? 戻れるかもわからないし……」
「……」
華恋は、ずり落ちた卵を抱えなおす。
――ん?
「そうだ! この卵を開けたら、風が吹いてここへ来たじゃない! だから、もう一度開けたら戻れるんじゃない!?」
「そっか! 如何して今まで気づかなかったんだろう」
華恋は、爪を立てて卵をこじ開けた。
……しーんと言う効果音でも聞こえてきそうだ。
何も起こらない。
「なんで!? なんでよ――――――っ!!」
千円−おにぎり代では、何処にも泊まれない。
「スコージファイ」
風呂は無いから、魔法で清潔さを保っておく。夏でなくて、本当に良かった。
華恋達は、路地裏で寝る事にした。
……寒い。
これは、所謂ホームレスでは無いだろうか。服は元々北国だから、日本の冬服より暖かい。けれど、手袋は万国薄さ共通だ。
更に、卵が寒さで冷たくなっている。
なかなか眠れない。
「華恋、寝た?」
「寝てない。っていうか今何時?」
「ルーモス。――十二時ちょっと過ぎたぐらい」
「そっか……皆、心配してるかな?」
……「皆」。
言ってから思う。「皆」って、誰だろう。
華恋を心配する人なんて、いるのだろうか。今年いきなり現れた華恋なんかを。
愛想も良くない。特に友達を作ろうともしない。消極的で暗い華恋。誰が心配してくれると言うのだろう。
「あの子さ……本当に華恋なの?」
「昼間の第一村人? 私だよ。自分の小さい頃は写真で見た事あるし、自分を見間違う筈ないでしょ。親も一緒だったし」
「……」
「何が言いたいの?」
しかしやはり、ハリーの返事は無い。眠ったのだろうか。
轟音に、華恋は目を覚ました。
――地鳴り……?
華恋はぼんやりと、白々明けの空を見つめる。
そして、周囲が赤い事に気がついた。
「わっわわ、何、これ!!?」
「火事だ! アグアメンティー!」
ハリーは杖を出し、周囲の炎に水を向ける。けれど、その程度の水はあっと言う間に飲み込まれ蒸発する。精々、華恋達の周囲だけでも保つ程度だ。
華恋は辺りを見回す。
「ねえ、ハリー。おかしくない?」
「うん。僕達、外にいた筈だ」
辺りは炎に包まれている。それは、如何見ても室内だった。何処の部屋だか分からない。
「それだけじゃないよ。熱くない」
「え? ……そう言えば」
途端に、警報が鳴り出した。ジリリリと喧しい音が、頭に響く。
華恋は、自分の名を呼ぶ声が聞こえた気がした。しかし振り返ってみても、そこにあるのは炎ばかり。
「華恋! 箒だ!」
「えっ?」
ハリーは、辺りのガラクタの中から箒を探し当てていた。それに跨り、華恋にも乗るよう合図する。
妙な既視感を覚えた。この情景を、華恋は知っている気がする。けれど、思い出してはいけない。そんな気がする。
華恋はハリーの所まで駆け寄る。
するりと、卵が華恋の腕の間を抜け落ちた。呆気無かった。卵は、衝撃で大きく破損してしまっていた。
「嘘……」
唯一の手掛かりだったのに。
華恋は杖を振ったが、駄目だと分かっている気がした。
「レパロ!」
卵は元の形になった。
しかし、またひびが入る。
「無理だ! 卵はもう諦めるしか――」
ハリーの言葉に、何故か浮かんだのは、ドラコの顔。
卵は、パアンッと破裂するような音を立てて割れた。そして、また風が起こった。
炎の渦に包まれたが、熱くは無かった。ハリーと二人、巻き上げられて行く。
二人は、噴水の前に座り込んでいた。空は青く透き通り、太陽は高く昇っている。
「帰ってきた……何だったんだ、あれは……」
「……」
まるで夢のようだった。けれど、もうこの場に卵は無い。
華恋は、手の平に残っている卵の欠片を見つめていた。日の光を浴び、さらさらと溶けるようにして消えて行く。
あれは、何だったのだろう。
分かってしまうと、もう取り返しのつかない事になってしまいそうで怖かった。
2010/01/06