土曜の朝から、感じていた。
僅かに……でも、確かに。
――何かが、変わった。
金曜日、パンジーが華恋に嫌味を言わせようとし、私はそれを拒否したから。
No.18
月曜日の朝。
誰とも言葉を交わさないのは、いつもと同じ。でも、違う。華恋が朝食をとりにスリザリンのテーブルの端に着くと、他の寮と同じ具合でざわついていたのが、ピタリと押し黙った。
突き刺さるような視線。
ヒソヒソと良からぬ事を話す声。
これを苛めと言うのだろうか。意外としょぼいものだ。
呆れて溜め息を吐きそうになって、華恋はぐっと堪えた。呆れからの溜息を、落ち込んでいるからなんて思われたくない。前言撤回だ。視線は嫌だ。
バサバサと、沢山のふくろうが大広間に入ってきた。皆の視線が一瞬、ふくろうに集まる。それを機に、こちらを見るのは止めた
まあ、人の悪口だけで朝の時間を過ごすなんて、ネタが尽きる事だろう。
ふくろうの羽音に掻き消されて幽かだったが、悲鳴が聞こえた気がした。
何事だろう。
見れば、グリフィンドールの一箇所にふくろうが集中している。その中から、ハーマイオニーが走り抜け、大広間を出て行った。
――ああ、そっか……。
雑誌に載ったという事は、不特定多数の人があの記事を見たと言う事。大概の人は、記事を鵜呑みにするのだろう。現に、樋口の母親もそう言う人だった。尤も、視聴者や読者には他に情報を得る手段が無いのだから、華恋だって真実とか分からないのだが。
ハーマイオニーの方が、華恋よりも大変だろう。
スリザリンの女子生徒達は、ハーマイオニーの姿に笑っていた。華恋はただ、それを冷めた視線で眺めているだけだった。
呪文学の授業の次は、魔法生物飼育学。
華恋が行くと、まだそこにはグリフィンドール生ばかりだった。スリザリン生一人目の到着で、嫌な顔をするグリフィンドール生が数名。今朝、ハーマイオニーの事でスリザリンの大半は笑っていた。それもあるのだろう。
ハーマイオニーは、大丈夫だろうか。確か、そう酷くは無かった筈だ。一応、どうだったか聞いてみたい。けれど、スリザリン生の華恋が聞いたりしたら、からかうのかと思って嫌な顔されるのだろう。それに、ハーマイオニーとはハリーとの繋がりで、新学期の初めに勉強を教えてもらってただけだ。そこまで仲がいい訳ではない。スリザリンでなくても、変に思われるかも知れない。
次々と、生徒達が到着する。
何故か、今日はスリザリンの女子生徒は皆、一緒に行動している。今までは、いくつかのグループだったのに。華恋を一人にしていると言う事を、強調したいのだろうか。
ハーマイオニーは、授業が終わる頃に来た。
皆は、標的をハーマイオニーに変える。
忙しい奴らだ……。
イースター休暇の初日、図書館で宿題の参考書を探していると、本棚を曲がった所で声をかけられた。
「カレン! ここにいたのね」
ハーマイオニーは、嬉しそうに駆け寄ってくる。
今朝も、手紙が沢山来て大変そうだった。
「貴女に聞きたい事があって」
「うん、何?」
ハーマイオニーはなかなか話そうとしない。
少し考えるようにして、意を決したように華恋を見上げた。
「馬鹿みたいな考えだってのは分かってるの……でも、カレン、貴女って若しかして未来が分かるの?」
とうとう来たか。
――そりゃあね。
ハリーが気づいたのに、ハーマイオニーは分からないなんて事、無いだろう。あの時だって、怪しがっていたのだ。
「私は『占い学』が確かな物だとは思わないし、数占いでさえ、人の未来が分かる物ではないと思うわ。でも、貴女は、クィディッチ・ワールドカップの日……死喰人が襲ってくるって事、知ってた?」
「……」
「別に、答えたくなかったら、答えなくてもいいわ」
思いがけない言葉に、華恋は目を瞬く。
「でも貴女って、スキーターに記事を書かれてないでしょう? 若しかしたら、それと関係あるのかと思って。
如何して記事を書かれないの? 若しかして、その――気を悪くしないで欲しいんだけど――脅した?」
ハーマイオニーに気を遣った言われ方をして、気がついた。
如何してハリーは、華恋がスキーターを脅したのだと確信を持って言ったのだろう。さり気なく失礼だ。スリザリンだからか?
「不思議なのよね。如何してあの女は、人の個人的な話を盗み聞きできるのか。だって、本当におかしいわ。あの女は校内に入る事を禁止されているのよ! それなのに!!」
要するに、何か違法な手段を使っているだろうから、復讐したいと言う事か。
ハーマイオニーの気持ちは解る。ハリーの記事は、プライドは傷つけられるとは言え、読者から攻撃される事は無かった。でも、ハーマイオニーのは趣向が違う。
「ねぇ、カレン。何でもいいの。何か知ってない? 少なくとも、如何して貴女は記事を書かれないのか、知りたいのよ」
「虫」
「そんな筈無いわ! 本当の事を教えて頂戴! 貴女も『ホグワーツの歴史』を読んでないの!?」
「その虫じゃなくって。『ホグワーツの歴史』は読んでないけど、ホグワーツで普通の電子機器が使えないって事は知ってるよ」
「その虫じゃない? 如何いう事? まさか、本物の虫をふくろうみたいに使ってるとでも?」
おしい!
もう、この際、言ってしまおう。そうしたら来年、ハリーへの迫害も減るだろう。
「ちょっと違う。ハリーに聞いたんだけど、三年生の時にも同じ様な事があったんじゃなかった?どのように侵入したのか分からない。誰もその姿を見てない。あの女は――」
「カレン!!」
遮ったのは、パンジーの声だった。
パンジーは傍までやってきて、華恋の手を引く。
「スネイプ先生が呼んでるわ。来て……」
頼むような言い方をしながらも、有無を言わさず引っ張っていく。
お陰で、大切な所を伝えられなかった。
地下まで下りてきて、ようやくパンジーは華恋の手を放した。
こんな強引に引っ張らなくても良いだろうに。
「スネイプ先生って? ここに来たって事は、職員室じゃないんだよね。教室?」
これでも怒りを抑えた声を出せる華恋は、我ながら凄いと思う。
「嘘よ」
「は?」
「嘘よ。スネイプが呼んでるなんて。だって貴女、あんな人目につく所で『穢れた血』のグレンジャーと話したりなんかして! 同じ寮の子に見られたら、どう思われるか分かってるの? 貴女も同類って事にされるのよ」
『あいつと一緒にいるとさ、華恋も同類だと思われちゃうよ』
嫌だ。
この世界に来ても、同じなのか。
自分がその人を嫌いだからって、華恋にまでその考えを押し付けないで欲しい。
「別に……彼女とは表面上でのつきあいだから。だって、勉強を教えてもらったっていう恩がある訳だし」
「そうよね。当たり前よ。でも、貴女はそれに縛られる必要はないと思うわ。彼女は『穢れた血』なのよ? 恩を返して彼女を庇う必要は無いのよ。そんな価値無いわ」
華恋は眉を顰める。
――貴女は、私を嫌いなんじゃなかった訳? 貴女もあの仲間に加わってるよね?
自分が嫌いな人と話していたら、その人とは裂きたい。
なんて自分勝手なのか。
「じゃ、図書室に戻りましょう。私、荷物置いてきちゃったの」
「いい。戻ってハーマイオニーに会ったら何か微妙だし」
「そうね。じゃあ」
そう言って、パンジーは戻っていく。
パンジーの姿が見えなくなってから、ガンと壁を蹴った。石の壁は硬く、足に鈍い痛みが残っただけだった。
五月の最後の週の夜、華恋達選手は集められた。
華恋がバグマンを見つけて行くと、クラムとフラーが既にいた。そう言えばこの人達、授業は如何しているのだろう。何処かの教室でも借りているのだろうか。
クラムが無愛想なのは、元々だ。
フラーは、華恋に笑いかけた。
他校の二人にとって、華恋がスリザリンである事は何の関係も無い。それにフラーは、第二の課題で華恋もハリーと一緒に湖から彼女の妹を助け出したから、尚更の事。最初の時からフラーは、華恋に対してはハリーに対してほどの嫌悪感を持っていないようだった。次に会った時にはもうハリーと同等だったから、最初の時には華恋がハリーと双子だとは分からなかったらしい。似てないのだから、無理も無い。
少しして、ハリーとディゴリーもやってきた。二人とも、クィディッチ競技場の様子に不服気味だ。
第三の課題は迷路。ハグリッドが生き物を置くと言うところに、危険を感じる。何しろ彼は、攻撃のつもりが無くて、アクロマンチュラだ。課題用となったら、どうなるのやら……今から考えるのは、やめておこう。
――偽ムーディ、しっかり守ってよ!
今回ばかりは、敵を頼りにしたい。
説明が終わり、華恋は真っ先に迷路を出た。
別に急いでいる訳では無いが、どうも華恋の歩く速さは平均より速いようだ。
出口の前まで来て、華恋の足は止まった。そこに立つのは、偽ムーディ。彼は、射るような視線を華恋に向けていた。
「来い、ポッター」
辿り着いたのは、禁じられた森を少し入った所だった。
ハグリッドの小屋や、ボーバトンの馬車がまだ木の間からちらちらと見える辺りだ。
「……何の用ですか」
ヒントの筈が無い。
第三の課題では、ハリーにヒントを与えなかった。ただ、外からハリーの行く先の物を除外するだけ。
偽ムーディは、明らかにいつもと様子が違う。探るような目で、華恋を見る。
「君は、ハリー・ポッターと双子だが、スリザリンに入ったな?」
「ご覧の通りです。まあ、グリフィンドールでは無いだろうと思っていましたけど」
「何故?」
「……ハリー達のように勇敢でもなければ、正義感が人一倍強いと言う訳でもないからです」
「スリザリンだと分かっていたのか?」
「いえ。どちらかと言うと、レイブンクローとかかと思っていました。あの頃にはもう勉強も怠り気味でしたけどね。でも、誠実でも努力家でもありませんから、ハッフルパフではないだろうと」
「……『闇の帝王』を、如何思う」
瞬時に、全身が緊張で強張る。
彼は、「闇の帝王」と言った。それは、死喰人だけの呼び方。
――やはり。
やはり、華恋がスリザリンだからか。
「――彼は、勘違いをしています」
「勘違い? 如何いう事だ? 今、私が聞いているのは、闇の帝王についてだ。一体、あの方を如何思う。素晴らしいと思うか? それとも他の輩と同じく、敵視するのか?
お前は立派なスリザリン生なのか、それともポッターはポッターでしかないのか。私が聞いているのはその事だ」
もう既に、「偽ムーディ」ではない。それは姿だけ。
表に出るは本性。
クラウチ……。
体が竦む。これは、本の世界だった。それが今は、現実として目の前に立ちはだかる。でも、震えてはいない。
この場を如何するか。
奴は繰り返す。
「お前は『スリザリン生』か、それとも『ポッター』なのか」
「私は……マグルの樋口華恋です!」
思わず、口をついて出たのはそんな言葉だった。
自分が「マグル」だなんて。死喰人にとって、これほど不快な事はないだろうに。
それでもやはり、華恋には、この世界にいたという記憶がないのだから。ハリーは夢で時々緑の閃光を見ると言うが、華恋は何も見ないのだから。
「マグルでは無かったけど……でも、私は樋口華恋だ。他の誰でも無かった。『スリザリン生』だって、『ポッター』だって、後から付いた物だ。私には関係無い」
「後から付いたにせよ、今のお前が『スリザリン生』である事も『ポッター』である事も、変わらない」
「分かってる。ヴォルデモートを、如何思うか、だっけ? ――彼は、間違っている」
「所詮、ポッターか――」
「でも、彼には軌道修正する事が出来た筈なんだ。それは、悲しい勘違いなのだから」
ダンブルドアは、如何して。
如何して、警戒するだけだったのだろう。如何して、救ってやらなかったのだろう。
ロンが言っていた事だから、確かではないけど。それでもやはり、ダンブルドアはグリフィンドールか。グリフィンドールとスリザリンは敵対している。だから、スリザリンと「悪者」をイコールで結ぶのか。
血筋が何だ。
家系が何だ。
そんな物、関係ない。子供は親と一緒だなんて、間違っている。だって、シリウスは如何なる? その子が親の言葉を鵜呑みにせず、自ら考えれば、親とは違った意見を持つ。華恋なんかよりもずっと長く生きているのに、それを知らないのか。
「勘違い? 一体、さっきから何を言っている。何が勘違いなんだ?」
「貴方に話しても何の意味も無い。それに、長くなるから面倒だし。それに、ヴォルデモートは自分の事を貴方に探られる事を望まないと思うけど?」
華恋の言葉に、彼はぐっと言葉に詰まる。
少し向こうの方で、ガサガサと音がした。
華恋は咄嗟に杖を取り出す。しかし、偽ムーディは警戒する様子が無い。寧ろ、焦っているかのような――
「何も、心配はいらない」
如何いう事か。
そして、思い当たった。
こいつの、父親。今日だったか、彼が我が子によって殺されてしまうのは。
話し声が聞こえる。話し声と言うよりも、呼び止める声。クラムだ。ハリーがクラムに、ここで待っていてくれと言っている所だろう。
ここで、偽ムーディを引きとめられれば。そして、ダンブルドアが先に来れば。
しかし、偽ムーディもゆっくりなんてしていない。表情に焦りを浮かべつつ、口を開いた。
「――カレン・ポッター。取引をしないか」
その言い方に、華恋は僅かに眉を顰める。
――取引、だって?
「我々の仲間になれ。ポッター。お前はスリザリン生だ。ダンブルドアがお前を快く思っていない事ぐらい、気づいているだろう?」
「ああ、そうだね」
「ここにいても、君には居場所が無い。スリザリンに入った時点でな。――力を合わせようじゃないか」
居場所が無い?
今更何言っているのか、この人は。そんな事、本人が気づいていないとでも思っているのか。
結局ここにも、華恋の居場所は無い。
気づいていても、華恋はこの場に留まっているのに。他に行く宛ても無いから。
「仲間になると言うのなら、君の望む物を与えられる。あの方なら、きっと与えてくださる」
「いらない」
自分でも予想外に、即答だった。
「私は何も望まない――例え望むものがあっても、それは個人が与えられるような物じゃない」
望むもの――華恋は、何を望む?
夢の実現。理解者。
どちらも、ヴォルデモートが与えられるようなものじゃない。
「――愚か者が」
――しまった。
赤い閃光が、華恋を襲った。
目が覚めると、目の前に髭を蓄えた老人の顔。――ダンブルドアだ。
ダンブルドアは鋭い視線を華恋に投げかける。その背後には、偽ムーディ、ハリー、クラム。ハリーとクラムは驚きで目を見開いている。
「一体――?」
「カレン。ここで、何をしておるのじゃ?」
「え?」
「バーティ・クラウチが先ほど、そこに現れた。ハリーがわしを呼びに行っている間に、クラムがクラウチに襲われた。クラウチは再び姿を消してしまった。そして――君が、その現場近くに倒れておる」
「本人に聞くまでもないと思うぞ、ダンブルドア。彼女はスリザリン生だ。スリザリンからは多くの死喰人が排出されている」
そういう事か。
瞬時に理解した。華恋は、嵌められたのだ。
ウィンキーと同じ状況にある。
「しかしの、アラスター。彼女は生徒じゃ。では……引き続き、クラウチを探しに行っておくれ」
「その子が『生き残った女の子』であり、『スリザリン生』であるという事を忘れるでないぞ」
偽ムーディはそう捨て台詞を残し、森の中へと入っていった。
――こいつ……!
奴には、そこまでの意図は無いだろう。でもダンブルドアは、ヴォルデモートがトム・リドルだという事を知っている。スリザリンに組分けされた時、ダンブルドアの中では華恋とリドルがかぶっている事だろうと感じた。
それが一体、如何いう事なのか。
考えてもみなかった。
ダンブルドアは、リドルを救わなかったのだ。警戒した。監視した。スリザリンの末裔であり、スリザリン生だから。
そして華恋は、ヴォルデモートに力の一部を移されたスリザリン生。
「ここで何をしておったのか、話してくれるかの?」
華恋の話を、ダンブルドアは信じるだろうか。
ムーディが、あのムーディが、本物ではないという話を。
でも、口を噤んだって華恋に良い事は無い。
「私――死喰人に、取引を持ちかけられました。スリザリン生だから、仲間になれ、と」
「死喰人?」
「アラスター・ムーディです!」
その場の誰もが驚いているのが分かった。
「ムーディです! 奴は偽者です! 本当は、バーティ・クラウチの息子なのです!」
――嗚呼。
これは、華恋は知らない筈の事だった。
今から、この瞬間から、未来が変わってしまう。何処で誰が死ぬのか分からない。
でも。
それでも、黙っている訳にはいかない。
「奴は偽者です。彼は、アズカバンを逃げ出しました。死んでなんかいません。母親と入れ替わったのです。そして――そして、今度は、マッド‐アイ・ムーディと入れ替わっています。先生なら、私が本当の事を話していると分かるでしょう? 開心術を使えるのでしょう? 何なら、真実薬を飲んだって構いません」
「カレン。わしは――君の心を開く事が出来ない」
「……え?」
「君は、今、閉心術を使っておる」
「そんな筈……!」
「それが無意識か、それとも意図的なのか、わしには判断出来ぬ」
嘘だ。
――嘘でしょう?
如何して。
閉心術は、心を静める必要があるのではないのか。今の華恋が、如何して閉心術なんて使える?
「先生は――私を、疑っているのですか?」
沈黙が流れる。
ダンブルドアが答える前に、ハグリッド、ファング、カルカロフがやってきた。
「一体これは!?」
カルカロフが叫ぶ。
「これは何事だ?」
「ヴぉく、襲われました! クラウチ氏とか何とか言う名前の――」
「クラウチが君を襲った? クラウチが襲った? 対抗試合の審査員が?」
「イゴール」
「裏切りだ!!
罠だ! 君と魔法省とで、私をここに誘き寄せる為に、口実を仕組んだな、ダンブルドア! 初めから平等な試合ではないのだ! 最初は、年齢制限以下なのに、ポッター二人を試合に潜り込ませた! 今度は魔法省の君の仲間の一人が、私の代表選手を動けなくしようとした!
何もかも裏取引と腐敗の臭いがするぞ、ダンブルドア。魔法使いの国際連携を深めるの、旧交を温めるの、昔の対立を水に流すのと、口先ばかりだ――お前なんか、こうしてやる!!」
カルカロフはダンブルドアの足元に唾を吐いた
ハグリッドはカルカロフの胸倉を掴み、宙吊りにする。
「謝れ!!」
「ハグリッド、やめるのじゃ!」
ダンブルドアに言われ、ハグリッドは手を離した。
カルカロフは押し付けられていた木に沿って、ズルズルと落ちる。
「ご苦労じゃが、ハグリッド、ハリーとカレンを城まで送ってやってくれ」
ハグリッドはカルカロフを睨む。
「俺は、ここにいた方がいいんではないでしょうか、校長先生様……」
「二人を学校に連れて行くのじゃ、ハグリッド。まっすぐにそれぞれの寮へと連れて行くのじゃ。
そして、ハリー、カレン――動くでないぞ。何かしたくとも――ふくろう便を送りたくとも――明日の朝まで待つのじゃ。分かったな?」
最後の部分は、ハリーに向けて言った。
「ファングを残していきますだ。校長先生様」
ハグリッドはカルカロフを睨み付けながら言った。
「ファング、『待て』だ。ハリー、カレン、行こう」
ハグリッドの方へ駆け寄る。
立ち去り様に、カルカロフ、そしてダンブルドアを見た。
「先生ほどの方なら、疑われる気持ちも分かると思うのですがね」
「あいつ、よくも」
ハグリッドの怒りは、まだ収まらない。
「ダンブルドアを責めるなんて、よくも。そんな事をダンブルドアがしたみてえに。ダンブルドアがお前さんを、初めからこの試合に出したかったみてえに。
心配なさってるんだ! ここんとこ、ずっとだ。ダンブルドアがこんなに心配なさるのを今までに見た事がねえ。それに、お前もお前だ!」
ハグリッドは、ハリーだけに向かって話している。
「クラムみてえな野郎と、ほっつき歩いて、何しとったんだ? 奴はダームストラングだぞ、ハリー! あそこでお前さんに呪いをかける事も出来ただろうが。え? ムーディから何を習っちょった? ほいほい進んで、奴におびき出されるたあ――」
「クラムはそんな人じゃない! 僕に呪いをかけようとなんかしなかった。ただ、ハーマイオニーの事を話したかっただけなんだ」
「ハーマイオニーとも少し話をせにゃならんな」
「それに、クラムがダームストラングだから何だって言うんだ? カレンは、スリザリンだ!」
突然自分の名前が出て、華恋は顔を顰める。これ以上ごたごたに巻き込まれるのは、勘弁して欲しい。
ハグリッドは言葉に詰まった。
「あー……そうだな……カレンは、スリザリン生だ……本人の前でそれを言うのは如何かと思うぞ、ハリー」
「ハグリッド――まさか、カレンの事、他のスリザリン生と同じだと思ってるの!?」
だから、本人の前で言うのはやめて欲しい。
別に、予想はしていたが……。
「じゃあ、おやすみ。スリザリンの寮への入り口、そこだから」
――どいつも、こいつも。
華恋が、スリザリンだから。
華恋が、ポッターだから。
2010/02/07