「魔法少女体験コースなんて、私、調子に乗り過ぎていたんだわ。今日で、終わりにしましょう」
魔女に殺されそうになったマミ。間一髪かりんが助けに入ったものの、少しでも遅ければマミの頭は魔女の腹の中へと消えていただろう。
結界が消滅し、無事を喜んだ後、マミは言い放った。
「そんな……」
突然突き放すような言葉に納得できず、さやかが食い下がった。
「あたし達なら、大丈夫です! 足手まといになったりなんてしません!」
「私が怖いの。また今日みたいな事になって、あなた達を守れなかったらと思うと。
――鹿目さん」
まどかは安堵と同時に怯えきった様子だった。涙を目いっぱいに浮かべて、青い顔をしていた。
「そういう事だから、さっきの話も無かった事にしてくれていいわ。生半可な気持ちじゃ駄目なのよ。そうするしかないぐらいの『願い』を持った子がやるものなんだわ……」
ぽろりと、まどかの瞳から雫が零れる。
マミが言うなら、反対は出来まい。かりんとて、今回の魔女はあわやと思ったのだ。まどかとさやかを気遣う体を装うのであれば、ここで異論を唱える事は出来まい。何より、守る自信を失くしたと言うマミに無理に責任を課す事はしたくない。
魔法少女も魔女も、他にもたくさんいる。彼女達に固執する事も無いのかも知れない。
『あきらめるのはまだ早いよ』
キュゥべえが、かりんの頭の中へと話しかけてきた。
『どうやらさやかは、叶えたい願いがあるみたいだからね。まだ、可能性はあるかも知れない』
『……誘導出来る?』
『わざわざそんな事しなくても、時間の問題だろうね。かりんは、まどかのフォローを頼むよ。すっかり怖気付いてしまったようだから』
――フォロー……ねぇ……。
放課後の魔女退治に連れて行く事は無くなったとは言え、学校は同じなのだ。昼休みに屋上にいる事をキュゥべえからテレパシーで聞いていれば、教室への帰りに偶然を装ってかち合うなど、容易い事。
「あ……」
「かりんさん……」
屋上への階段の方から歩いてきた二人は、かりんの姿を認めて立ち止まる。かりんはにこやかに、応対した。
「あら、こんにちは。お昼? この時間だと、教室に戻るところかな」
「はい。あの……さっきまで、キュゥべえと話していて……。あたし達……」
かりんは軽く手を挙げ、続きを遮る。
「いいよ。仕方ないもの。あんな危険な目に合わせちゃったらね。マミちゃんは自分一人の判断ミスみたいに言ってたけど、私だって賛成していた。ごめんね、怖い目に合わせちゃって」
「そんな事……!」
「あの……かりんさん達は、これからもあんな危険なのと戦い続けるんですか……?」
まどかの質問に、かりんは目をパチクリさせる。そして、微笑んだ。
――優しい子なんだな。
「まあね。私達は、魔法少女だから」
「それじゃ……」
「でも、大丈夫だよ。今回だって、助かったでしょう? もし、私やマミちゃん一人で挑んでいたなら、命を落とす事になっていたかも知れない。でも、私達は一人じゃないから。
私達が二人でいる限り、死にはしない。死なせはしない」
「一人じゃ、ない……」
まどかは小さく呟く。そして、意を決したように顔を上げた。
「あの、それじゃ、ほむらちゃんは……。あの子、そんなに悪い子じゃないと思うんです。昨日だって、きっと、ああなる事を分かっていて警告してくれたんだと思うんです。
マミさんとかりんさんが二人で助け合っているように、ほむらちゃんだって誰かと一緒の方が安全ですよね? 三人で協力する事って、出来ませんか?」
かりんは苦笑する。
「……きっと、彼女の方が受け入れないでしょうね」
暁美ほむら。彼女の敵意は、明らかだ。手を組めるとは、到底思えない。
まどかは俯いてしまう。
「かりんさん……怖く、ないんですか? あの……最初にも聞いた事ですけど、でも、昨日はあんな事があって……。
ごめんなさい。私、魔法少女になるって言ったのに……ずるいって解ってるけど、でも……弱虫で、ごめんなさい……!」
ぽろぽろと泣き出すまどかをあやすように、かりんはそっと頭を撫でた。
「ずるくなんか無いよ。自分を責めないで。まどかちゃんには、その対価に見合うだけの『願い』が無かった。それだけの事なんだから。契約するしないは、まどかちゃんの自由。
それにね、まどかちゃんは自分で思ってるほど弱虫なんかじゃないと思うな」
まどかはきょとんと、かりんを見上げる。
「私もね、キュゥべえと契約する前は同じだったから。マミちゃんの背中を見つめてばかりで、戦う勇気なんて微塵も無くて。自分が同じように魔法少女としての使命を背負うなんて、到底無理だと思ってた」
「かりんさんが……?」
さやかが、目を丸くして問い返す。
「そう言えば、かりんさんの願いって……?」
「私も、言ってみればまどかちゃんが契約しようとしていた理由と同じかな。マミちゃんに憧れたの。彼女の傍に立てるようになりたかった。魔法少女じゃない私は、一緒にいられない局面もあったから」
静かな廊下に、ベルの音が響き渡る。
「……おっと、予鈴。そろそろ教室戻らないとね」
「あ……はい」
まどかとさやかは、いそいそと教室へと戻って行く。
かりんも三年の教室へと向かい、そして階段を降りた所で足を止めた。廊下の向こうから歩いて来るのは、暁美ほむら。その向こうでは、マミが立ち尽くしている。
かりんは、近づいて来る彼女をキッと睨み据える。
「暁美さん。あなた、マミちゃんに一体何を……」
『今日の放課後。先日の廃ビルに一人で来て』
静かにテレパシーで語りかけ、ほむらは涼しい顔でかりんの横を過ぎ去って行く。
かりんは、立ち去る背中をじっと見つめ続けていた。
放課後になるなり、マミは担任に手伝いを頼まれてしまった。マミの両親は亡くなっていて、家にはマミしかいない。それを気遣ってなのか、担任はマミに学校での用を作らせる事がしばしばあった。用事があると言えば開放してもらえるし、かりんが転校して来てからはぐっと減ったらしい。それでも、何か手が必要な時には以前の癖でマミに頼んでしまうのだろう。
「ごめんね、かりん。そんなに遅くはならないと思うから、先に行っといてもらえるかしら」
「うん、大丈夫。それじゃ、繁華街の方に行ってるね」
校門を出て繁華街の方に向かいかけて、かりんはぴたりと足を止めた。
ほむらは、何を企んでいるのか分からない。一人で来いと言う呼び出しにマミを同行させる気は毛頭無く、魔女退治もあるのだから無視するつもりでいた。
しかし、マミは今いない。不安要素は排除しておかねばならない。
彼女の出方を伺うくらいなら……。
かりんは、携帯電話を取り出しマミへのメールを打った。少し寄る所が出来たので、マミと同じかそれより遅くなるかもしれない。どこへ行くかは書かずに、送信する。
「あっ、かりんさん」
振り返ると、まどかが校門から出て来たところだった。
「これから、魔女退治ですか? マミさんは?」
かりんはにっこりと笑う。
――ナイスタイミング。
「マミちゃん、先生に手伝い頼まれちゃって。あの子、担任からの信頼が厚いから」
「へぇ……さすがマミさんですね」
「まどかちゃんは? さやかちゃんは、今日は一緒じゃないの?」
「あ、はい……。さやかちゃんは、病院に……」
「怪我か何かしたの?」
「あっ、違うんです! お見舞いです! 幼馴染の子が入院していて、それで……」
即座に、閃いた。さやかが言っていた、誰かの代わりの願い。恐らく、その入院している幼馴染の事なのだろう。まどかが「上条君」と呼んでいたか。昨日、病院で一人グリーフシードの所に残ったのも、彼の身の危険を感じての事だったのかも知れない。
――なるほど。キュゥべえの言うとおり、彼女は手出し不要みたいね……。
「かりんさん、マミさんがいないって事は、一人で魔女退治に行くんですか……?」
「うん? 大丈夫だよ。マミちゃんも、そんなに遅くなる訳じゃないから。魔女が出やすい時間まで、まだもうちょっとあるしね。私も、その前に寄る所あるし」
「えっ」
「……っと、いけない。人を待たせてるんだ。じゃあね、まどかちゃん。気をつけて帰るんだよー」
手を振り駆け出したかりんの鞄から、蓋との間に挟まっていただけの携帯電話がぽとりと落ちた。かりんはそのまま、去って行ってしまう。
「かりんさん! あの、携帯電話が……!」
まどかの声にも気付かぬ振りをして、かりんはほむらの待つ廃ビルへと向かった。まどかがかりんを見失わないよう、一定の距離を保ちながら。
まどかとさやかを連れて、初めて魔女退治に挑んだのがこの場所だった。ここにいた魔女はマミとかりんの手によって倒され、冷え冷えとしたビル内部に結界への入口はもう無い。代わりに、一人の魔法少女が佇んでいた。
「……お待たせ、暁美ほむらさん」
ほむらは片足を軸にして、くいっと振り返る。長い黒髪が、きれいに横になびいた。
「来ないかと思ったわ」
「私も最初はそのつもりだったけど、少し時間が出来たからね。だったら、あなたの話だけでも聞いておこうと思って」
コツコツと足音を響かせ、ほむらは歩み寄る。その手が、左手の円盤の中へと伸びた。
カチャリと、銃口が額に突きつけられる。かりんは小首を傾げ、微笑んだ。
「あら、こわい。突然ね」
「心当たりはあるはずよ」
ほむらは油断無い瞳でかりんを見据える。
「あなたの企みは知っているわ……そのために、鹿目まどかを契約させようとしている事も。由井かりん。あなたがしている事は、インキュベーターと同じ」
「キュゥべえに選ばれたなら、魔法少女の道を選ぶ権利がある。私たちはただ、可愛い後輩が突然実戦に放り込まれないように順序立てて魔法少女の務めを教えただけだよ? それも今はもう、やっていない。昨日の魔女との戦いで、それがどんなに危険な事だったか、私もマミちゃんもよーく思い知ったからね」
「あくまでも白を切り通すつもりなのね……」
ほむらは苦々しげに呟く。かりんはにこにこと笑顔を保ったまま、言った。
「ねえ。この拳銃をどけてくれない?」
「二度と鹿目まどかを魔法少女に誘導したりしないと約束する?」
「約束出来ないと言ったら?」
ほむらは、グイッと銃口をかりんの額に押し付ける。
「この状況で、分からないかしら。もちろん、ただの脅しじゃない。そのために、わざわざあなたをここへ呼び出したんだもの」
引き金に指をかけ、ほむらは厳しい声で言う。
「まどかを契約させないと、約束しなさい」
「……い・や」
言って、かりんは微笑む。
銃声が響き渡り、血飛沫が上がった。かりんの身体が、ゆっくりと倒れる。
コツ、と物音がしてほむらは振り返った。そして、表情を強張らせる。
「ほむら……ちゃん……?」
震える声で驚愕するまどかが、そこにいた。
「ほむらちゃん……何やってるの……!? かりんさんの事、撃ったの……!?」
かりんは、ぴくりと身体を動かした。苦しそうに、頭をもたげる。
まどかはビルの入口に立ち尽くし、涙を瞳いっぱいに浮かべてかりんとほむらを見つめていた。
「かりんさん……!」
「まどかちゃん……逃げて……!」
ほむらはじろりとかりんを見下ろす。敵意などと言った柔らかなものではなかった。これは、殺意だ。
かりんの所業を知っていると言うならば、もっともな感情である。かりんはキュゥべえと手を組み、まどか達を魔法少女へと誘導している。いずれは彼女達を、魔女へと育てるために。キュゥべえは、その時に生じるエネルギーとやらを回収するために。かりんは、グリーフシードを手に入れ、マミ、そして自分自身の魔女化を防ぐために。
彼女がそれを、どうして知ったのかは不思議であるが。
ほむらは、かりんの上へと屈み込む。彼女の視線の先を辿って、かりんの表情は凍てついた。
ほむらは真っ直ぐに、かりんの指を見つめていた。指輪の形でそこにある、ソウルジェムを。――そこまで、彼女は知っているのか。
ほむらが拳銃を構える。
まずい。瞬間移動を発動させるには変身が必要だが、そうすればソウルジェムの的を大きくしてしまう。
いくら痛みが軽減されているとは言え、頭を打ち抜かれているこの身体で変身している彼女よりも速く動く事なんて出来ない。ただ、右手で左中指を覆い隠すぐらいしか、かりんには出来る事がない。
「やめて!!」
まどかの叫び声に、ピタリとほむらは動きを止めた。その顔に一瞬、動揺の色が表れる。
まどかはかりんの所まで駆け寄り、拳銃との間にその身を割り込ませた。
「まどかちゃん……!」
「やめて、ほむらちゃん! かりんさん、死んじゃうよ……! どうしてこんな事……!」
ほむらは無言のまま、じっとまどかを見つめる。僅かに下唇を噛み、背を向け去って行った。
まどかはかりんの傍らに膝をつく。
「かりんさん! かりんさん、しっかりしてください!!」
かりんは硬く目を瞑っていた。
意識を失ってなどいない。意識的に痛みも遮断している。しかしここは、重症を装っておいた方が効果的だ。それに、頭を撃たれてもなおけろりとしていれば、彼女は魔法少女の構造に不審を抱いてしまうかも知れない。
「かりんさん……かりんさん……!」
涙声でまどかは叫ぶ。そして、ハッと気付いたように息を呑んだ。
「そうだ、かりんさんの携帯……すみません! お借りします!
えっと、マミさん……マミさん……あった! お願い、出て……! ……あっ、もしもし、まどかです。大変なんです! かりんさんが――」
まどかの連絡によってマミが駆けつけ、かりんの銃痕は跡形も無く完治した。
「ありがとう、マミちゃん。まどかちゃんも。あなたがいなかったら私、今頃あの子に殺されていたかも知れない」
「ほむらちゃん、どうしてあんな事……」
「……やっぱり、彼女なのね」
マミの言葉に、かりんは頷く。
「私、彼女に呼び出されて……一人で来いって。まさか、いきなり撃って来るなんて思わなかったものだから……」
がばっとマミはかりんに抱きついた。柔らかな髪が頬に触れ、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「マ、マミちゃん?」
「バカ……っ! 心配したんだから……!! かりんがいなくなったら、私……私……っ」
「うん……ごめんね、マミちゃん……」
そっとあやすように、マミの背中を撫でる。この街に、魔法少女はかりんとマミとほむらだけ。ほむらとはご覧の有様。かりんが死んでしまったら、マミは独りぼっちになってしまう。
――それだけは、させない。
もう、マミに寂しい思いはさせやしない。辛い思いはさせやしない。
マミはかりんの腕の中から身を起こし、指先で涙を拭う。それから少し、笑った。
「鹿目さんには恥ずかしいところ見せちゃったわね。先輩ぶってなきゃ駄目なのに……」
「そんな事無いです。私だって、かりんさんが死んじゃうんじゃないかって、本当に怖くて……」
「うん、ありがとう」
かりんは微笑う。
生死を心配してくれたまどかを、かりんは契約させようとしている。魔女にしようとしている。
彼女に否など何も無い。心優しい素直な女の子だ。それを、かりんは騙している。
マミにしても同じ。本気で大切な親友だと思ってくれている彼女に、かりんは嘘を吐き続けている。絶望的な真実を覆い隠している。かりん自身がやっている事も、マミが知ったら気を悪くするだろう。かりんに幻滅するかも知れない。
良心の呵責を微塵も感じない訳ではない。けれども、後悔はしていないし、迷うつもりもない。
これはマミのため。マミに笑顔でいてもらうため。それは、確かな事なのだから。
そしてそれが、かりんの「願い」なのだから。
マミとまどかが落ち着いたところで、三人は廃ビルを後にした。既に日は傾き、夕焼けが街を赤く染めていた。
夕闇に沈み始める住宅街を、三人は並んで歩く。
「家まで送るわ。遅くなってしまったし、また彼女が今度は鹿目さんを襲ってこないとも限らないし」
「ありがとございます……」
「一応狙いは私みたいだけど、あの子思った以上に凶悪みたいだから、しばらくは一人で行動しない方がいいかもね。同じクラスなんでしょう? 気をつけて。何かあったら、直ぐ私達に言ってね。魔法少女にならなくったって、あなた達は見滝原中の大切な後輩なんだから」
「はい。……あっ」
不意に、まどかが声を上げた。視線の先を辿れば、一人の女の子。鞄も何も持たず、ふらふらとだがしかし一直線に何処かへと向かっている。
「お友達?」
「はい。あの子、お稽古事とかあるはずなんです。どうしたんだろう……」
「なんだか、様子がおかしいわね……」
かりんとマミは目配せする。
魔法少女の勘、経験則と言うものだろうか。魔女に操られているのかも知れない。
「仁美ちゃーん!」
「あっ。まどかちゃん、待って!」
まどかは彼女に駆け寄って行ってしまった。魔女に操られているのだとすれば、一般人が不用意に近付くのは危険だ。
魔女に操られた者の中には、自殺をする者もいれば他者を傷つける者もいる。もし、彼女が後者のタイプの魔女に操られていたら。
まどかの後に続いて駆け寄り、マミとかりんは仁美の首筋にある印に目を留めた。
「魔女の口付けだわ……鹿目さん、駄目!」
しかし、遅かった。仁美はまどかの手を取り、ぐいぐいと引っ張って行く。
二人の距離が近過ぎる。もしここで魔女がマミとかりんの気配に気付いて、手当たり次第暴れたりでもしたら。
それにどうも、操られているのは仁美一人ではないようだった。続々と、同じようにふらふらとした足取りの人々が現れる。彼らが集団となって向かったのは、人里離れた所にある一件の倉庫だった。
倉庫の中に着き、仁美はようやくまどかの手を離した。
「鹿目さん!」
「まどかちゃん、大丈夫!?」
「マミさん! かりんさん!」
まどかはホッと安堵の息を吐く。
集まった人々は、集団自殺を図ろうとしていた。かりんがまどかの手を引く。
「彼らは私達に任せて。まどかちゃんは、安全な所へ」
「あらぁ〜? まどかさん、何処へ行きますの?」
仁美が気付き、まどかの手を取っていた。魔女に操られた人々が、三人を取り囲む。
即座にマミが、辺りに光の結界を築く。仁美は弾かれるようにして、まどかから手を離した。
「かりん、鹿目さんをお願い!」
「OK!」
かりんは変身し、まどかを抱える。倉庫の外へと瞬間移動すると、まどかを放した。
「私は直ぐに戻らなきゃ。まどかちゃんは、マミちゃんが足止めしている内に早くここから逃げて」
言って、かりんは倉庫の中へと戻って行った。
暴徒と化した人々は、マミのリボンに縛られ動きを封じられていた。蜘蛛の巣のように張り巡らされたリボンが、彼らを絡め取っている。
「へぇ……さすが、マミちゃん」
「感心してないで行くわよ。結界は、この奥みたい」
奥の扉を押し開く。戸口の直ぐ前に、白く光る結界の入口が待ち構えていた。マミとかりんは互いに目配せすると、結界へと踏み込んで行った。
ふよふよと漂ってくる人型の使い魔を、かりんは大鎌で軽く薙ぎ払う。マミもマスケット銃を手に、使い魔を撃ち倒す。
奥へと進もうとする二人に、呼び止める声がかかった。
「ちょぉーっと待ったぁー!」
聞き慣れたその声に、かりんとマミは振り返る。
腰に手をあて佇むのは、左右で長さの違うショートカットの女の子。青を基調としたトップとミニスカート、背中には白いマントがはためき、その手には剣が携えられていた。
「美樹さん……!?」
マミの声には、驚きと悲壮感が入り混じっていた。
さやかは契約したのだ。入院している、幼馴染のために。
「どうして……。魔法少女がどんなものかは、その目で見たはずじゃない!」
「はい。でも……それでも、叶えたい願いがあって。これ以上、あいつの辛そうな姿なんて見ていられなくて……。
大丈夫です、ちゃんとやりますから! これからよろしくお願いしますね、先輩」
おどけるように言って、さやかは明るく笑った。
2012/10/05