華恋の到着に気付き、テントの前でマッチに火をつけようと躍起になっていた人物が振り返った。恐らく、彼がウィーズリー氏だろう。
「やあ! 君が、カレン・ポッターだね! ダンブルドアから、話は聞いたよ。新聞にも載っていたしね」
新聞と言うのは、「日刊予言者新聞」だろう。その存在を思い出し、華恋は幾分か憂鬱になる。今年は、リータ・スキータとか言う面倒な女性がいるのだ。目立たないように気をつけなくてはいけない。……既に、目立ってしまっているようだが。
華恋はは簡単に自己紹介する。
ウィーズリー氏は、フレッド、ジョージ、ジニーを華恋に紹介すると言った。
「ハリーは私の息子のロンと、友達のハーマイオニーと一緒に、水を汲みに行っているよ。そろそろ帰ってきてもいいと思うのだが……ああ、帰ってきた。
遅かったなあ」
「いろんな人にあったんだ」
ロンと思われる赤毛の少年が、そう言って水を降ろした。
そして、彼は華恋に気づいた。
「君……もしかして……」
「カレン・ポッター。よろしくね」
未だ、この苗字を名乗る事に違和感を抱かざるを得ない。
ハリーはまだ小柄な少年だった。若しかすると、華恋の方が身長が高いかも知れない。
ハーマイオニーは、映画の子で抱いていたイメージと大して変わりなかった。とは言っても、華恋が見たのは三巻までな為、それよりも大人びているが。
「私、ハーマイオニー・グレンジャーよ。よろしくね。わからない事があったら、何でも聞いて」
「僕は、ロン・ウィーズリー。えっと、よろしく」
「僕が、ハリーだよ。えーっと……久しぶり、なのかな……? 僕は全然覚えてないんだ。ゴメン」
華恋だって、ハリーの事なんて覚えていない。当時一歳となれば、無理も無いだろう。
それからパーシーを始め様々な人が来た。
バーサ・ジョーキンズの話を華恋は口を挟む事も無く傍らで聞いていた。バグマンの予想は外れている。彼女は、ヴォルデモートに殺されたのだ。だが、根拠も無しにそんな事言う訳にはいかない。知ってるのに何も出来ず、歯痒さを感じる。
傍観者側に回っていると、ウィーズリー氏から財布を渡された。
「君達の金庫から取ってきたんだ。君もホグズミードとかあるから、必要だろう? それに、行商人も現れてきているしね」
「ありがとうございます」
財布を受け取り、ハリー達と店へ行く。
――クィディッチかぁ……。
様々な商品を見ながら、華恋は何処か冷めた気持ちだった。
正直、スポーツにそこまで興味は無い。本の内容で十分だ。
ハリーは万眼鏡を四つ買おうとしたが、断った。そもそも、ハリーに買ってもらっても、元を正せば同じ金庫。まともに見るつもりは無いから、必要も無い。
プログラムも、自分で購入する。人に買ってもらうのは、どうにも気が引ける。元の世界でも、お金の貸し借りやら、奢ったり奢られたりやら、そう言ったものは全て断ってきた。後で面倒な事になるのはご免だ。
No.3
華恋は特に話に口を挟む事もなく、全ては原作通りに進んでいる。ただ違うのは、ファッジがハリーだけでなく、華恋にも構ってきたという事ぐらいだ。華恋の中のファッジのイメージは、ヴォルデモートの復活を認めなかった、しかもハリーを落としいれようとした、悪い言葉で言ってしまうなら腰抜けである。口では何も言わないものの、華恋は冷たい目を彼に向けていた。
そこへ、マルフォイ一家が現れた。
彼らの人を馬鹿にしたような視線に、華恋は嫌悪感よりもまず呆れに似た物を覚える。特に、ハーマイオニーに対しての彼らの態度は酷い。他人事ながら、流石の華恋も腹立たしく思う。
それから暫くして、クィディッチ・ワールドカップが幕を開ける。バグマンの前置きの後、ブルガリア・ナショナルチームのマスコットの登場。確か、ヴィーラと言っただろうか。
華恋は踊りに興味も無く、女だ。だから、特に何とも思わない。周辺の男達が馬鹿馬鹿しい事をしているのを、華恋は冷ややかな眼差しで眺める。
だが、とうとうハリーまで立ち上がった時には、冷めた気持ちで見ているだけでは済まなかった。……他人の振りがしたい。
そこでふと、華恋は思い出す。確か、この場にはバーティ・クラウチJr.もいる筈だ。これから「闇の印」を作り出す、その人が。彼も、他の男達と同じような事をしているのだろうか。
そう思うと、好奇心を押さえつける事は出来なかった。
華恋はウィンキーのいた所を振り返ったが、全く見えない。見えるのは、立ち上がっている周りの者達の壁ばかり。流石に、ここで態々見に行くのは、賢明とは言えないだろう。
華恋は背伸びをして見ようとするのを諦め、席に座った。
そして、眉を顰めたハーマイオニーと目が合う。
「一体何をしていたの? 私、貴女までおかしくなったのかと思ったわよ」
「え? こんな中で、ウィンキーはどうしてるかなーって思ってねぇ……」
正確には、その隣の人物だが。
華恋の言葉は、ハーマイオニーの何かにスイッチを入れたようだった。
「そうよね。あの子、高所恐怖症の上、こんな騒ぎで……可哀想だわ」
――こうしてハーマイオニーは、「反吐」の提案を考えてゆく……。
茶化したような事を考えていた華恋は、振り返ってぎょっとした。だが、華恋が何か言おうとするよりも、ハーマイオニーの方が早かった。
「ハリー、貴方一体何をしているの?」
華恋は完全に、他人の振りを決め込む。
ハリーは席から立ち上がったどころか、片足をボックス席の前の壁にかけていた。ロンも、飛び込み台から飛び込もうとしているかのような格好で固まっている。
華恋は軽蔑するかのように、二人を見た。
ハリーの方は気づいたようだ。ムッとしたような表情をしている。
ハリーは何か言おうと口を開きかけたが、レプラコーンの登場による歓声に遮られた。
華恋としては、こちらの方が断然好みだった。少なくとも、皆が楽しめる。
偽金貨とは知らず、皆椅子の下で探し回り、奪い合っている。こんなにも、偽金貨だと知らない者がいるのか。華恋は初めて、ハグリッドの知識量に驚いた。確かに、彼ならば先生に適任だ。
漸く、試合が始まった。
世界レベルのクィディッチを見ても、華恋の感想が変わる事は無かった。クィディッチも、するのは楽しそうかも知れない。けれど、見るのは別に面白くも何とも無い。サッカーやバスケなどと同じだ。仲間の応援ならば思いっきりするが、知らない人達のプレーを見ても、面白くも何とも無い。
テントへ帰り、皆が眠ったのを確認すると、華恋はそっとベッドを抜け出した。物音を立てぬように気をつけながら、服に着替える。
パジャマで外を走り回るのだけは避けたい。
服に着がえた後ベッドに寝転がっていると、いつの間にか眠ってしまったらしい。ハーマイオニーとジニーの声で、目が覚めた。
文字にすると簡単だが、原作よりずっと遅くなってしまったようだ。
「ごめん! 皆!!」
テントの外に出ると、目を凝らす必要も無く、死喰人と、おもちゃにされているマグルの一家が目に入った。
原作ではこんなに近くなかった。どんなに華恋が起きなかったかを物語っている。
「おまえたちは森へ入りなさい。バラバラになるんじゃないぞ。片がついたら迎えに行くから!」
そうは言われても、これ程真っ暗では自信が無い。案の定、ロンが転んでハーマイオニーが灯りをつけた時には、その場には華恋、ハリー、ロン、ハーマイオニーしかいなかった。
――否、もう一人。
艶やかなプラチナブロンドの少年が、近くの木に背を預けるようにして立っていた。
「君達、急いで逃げた方がいいんじゃないのかい? その子が見つかったら困るんじゃないのか?」
「それ、どういう意味?」
「グレンジャー、連中はマグルを狙ってる。空中で下着を見せびらかしたいかい? それだったら、ここにいればいい。連中はこっちへ向かっている。さんざん笑ってあげるよ」
「ハーマイオニーは魔女だ」
「勝手にそう思っていればいい。ポッター」
「ハーマイオニーが魔女じゃなかったら、どうして貴方よりも魔法が使えるんだろうね? 貴方、一度も彼女に魔法で勝った事がないでしょう? それでよく、そんな大口叩けるよねぇ」
ドラコが何か言う前に、華恋が口を挟んだ。挑戦的な瞳でドラコを睨みつける。
――どうよ? 言い返せないでしょう?
「それと、忠告してあげる。貴方の親、こんな所で馬鹿な事をしていて、貴方の親のご主人様はお怒りよ?
今この時、こんな馬鹿な事をしている暇があったら、何故自分に手を貸しに来ないんだ!! ……ってね」
ドラコの返答も待たず、華恋は彼に背を向けた。そして、ハリー達に声を掛ける。
「さ、行こう。他の皆を探さなきゃ」
「お前、カレン・ポッターか?」
ドラコの問いかけに、華恋は答えなかった。皆を急かし、小道に戻る。
これで、スリザリンに入ったりでもしたら不味いなとは思ったが、それでも見下す態度だけは許せなかったのだ。
小道にはもう、皆の姿は無かった。
ハリーは杖を落としてしまったらしい。それとも、奪われたのだったろうか。兎にも角にも、原作通りだ。
ウィンキーが華恋達の横を通り過ぎていく。確か、クラウチJr.も一緒だったか。
「……貴方が『まとも』でいられるのも、今年の内よ」
すれ違いざまに、華恋は呟いた。
何故、こんな目を付けられるような馬鹿な事をしたのだろう。すぐさま、そう思った。
恐らく華恋は、面倒臭いと思いつつも、この「非現実」な世界を楽しんでいるのだろう……。
暫く行くと、またヴィーラに出くわした。
今度はハリーは正気を保っている事に、華恋はホッと胸を撫で下ろす。だがロンは、またしても魔力にかかっている。
華恋とハリーとで、力ずくで引っ張って行くしかなかった。
「モースモードル!」
暗い森の中、不気味とも思えるような呪文を唱える声が響いた。
上空に現れる、「闇の印」。骸骨があり、舌のように口から出てくる蛇。それは、おぞましく気持ちの悪い物だった。
周囲の森から、悲鳴が上がる。さっきまでの騒ぎの比ではない。その喧しさに、華恋は耳栓をする。
ハリーは、クラウチがいるであろう辺りを凝視している。
そこで、華恋は思い出した。確かこの後、面倒な場面があった筈だ。
気づいた時には遅く、二十人の魔法使いが華恋達四人を包囲していた。その杖先は、華恋達に向けられている。
華恋は咄嗟に伏せた。
ハリーは叫んで、ロンとハーマイオニーを掴んで地面に引き降ろした
「ステューピファイ!」
六人の声が重なる。
華恋は知っていたから退けられたが、ハリーは素晴らしい反射神経だ。流石はシーカーと言うべきか。危機的状況にも関わらず、華恋は暢気にそんな事を考えていた。
赤い光が跳ね返りあって闇の中に消えた時、ウィーズリー氏がやってきた。
最終的には身の潔白が明らかになる事を、華恋は知っている。特に口を挟む必要も無いと思い、華恋は流れに身を任せる事にした。
ウィンキーが罪を擦り付けられ、解雇されたが、確かこれが悪い方向にいく事は無い。少なくとも、六巻まででは。ウィンキー自身には悪いだろうが、そんな事華恋の知った事ではない。
テントに戻ると皆の無事を確認し、ハリーの為の「闇の印」及び「死喰人」講座が行われた。
華恋にも説明しているようだったが、華恋は適当に聞き流していた。本を読んで知っている事ばかりだ。
明日は、早朝にここを出発するとの事。それを聞き、華恋は気を落とす。
今は、闇の印やクラウチJr.の事よりも、明日起きられるかが心配だった。
「隠れ穴」へ着くと、ウィーズリー夫人らしき女性が突進してきた。
彼女が双子を離すと、華恋は簡単に自己紹介をする。それから新聞記事の話をしていた時、ハリーが唐突に言った。
「ウィーズリーおばさん、ヘドウィグが僕宛の手紙を持ってきませんでしたか?」
「いいえ、来ませんよ。郵便は全然来ていませんよ」
答えて、ウィーズリー夫人は訝しげにする。確か傷が痛んで、シリウスに手紙を出したのだったか。
ハリーと、華恋と、ロンと、ハーマイオニーとで、ロンの部屋へと行った。
部屋へ着き、ハリーが「傷が痛んだ」と言うと、ハーマイオニーは直ぐに意見を述べ始めた。ロンはと言うと、言葉も出ない状況。
暫く三人が原作と全く同じ会話をしているのを黙って聞いていると、不意にハーマイオニーが聞いてきた。
「カレンは? 貴女も同じ傷痕があるのよね。ずっと黙ってるけど、どうだったの?」
「何も。だって私の傷、こんなに消えかかってるんだよ」
華恋は前髪を上げて見せる。
華恋の傷痕は、よく見ない限り全くわからない。
「呪いを跳ね返したのはハリーだけで、私は守られただけみたいだね」
近くにいたから巻き込まれただけではないだろうか。二人狙うと言うのも、意図が分からない。そもそも二人狙うのならば、ネビルだって狙われていた筈だ。
暫く沈黙があって、ハーマイオニーが聞いた。
「ハリー、どうしてヘドウィグが来たかって聞いたの? 手紙を待ってるの?」
「傷痕の事、シリウスに知らせたのさ。返事を待ってるんだ」
「そりゃ、いいや! シリウスなら、どうしたらいいかきっと知ってると思うよ!」
一体、その根拠は何処から来るのだろう。
この手紙がきっかけで、シリウスはホグズミードまで来てしまう。あのシリウスは、中身も犬化していると言えなくも無い。
「でも、シリウスが何処にいるか、私達知らないでしょ……アフリカか何処かにいるんじゃないかしら? そんな長旅、ヘドウィグが二、三日でこなせる訳ないわ」
「ウン、わかってる」
そして、心配そうな顔。まさか、この後更に心配しなくてはいけなくなるとは思わないだろう。
「さあ、ハリー。果樹園でクィディッチして遊ぼうよ。
カレンもどうだい? マグルの家で育ったって事は、クィディッチはやった事ないだろ?
ビルとチャーリーとフレッドとジョージを誘って……あ。一人足りないな。ハーマイオニー、やるかい?」
「ロン、ハリーは今、クィディッチをする気分じゃないわ。心配だし、疲れてるし……皆も眠らなくちゃ……。私はやらないわよ」
「ううん、僕、クィディッチしたい。待ってて、ファイアボルトを取ってくる」
ハーマイオニーはブツブツ言いながら、出て行った。ハリーも箒を取りに行く。
ロンは、少し困った風に私を見た。
「どうしよう。奇数になっちゃうや」
「ジニーは?」
「ジニーだって? まさか! あいつにはまだ早いよ」
ジニーが選手になるとは、夢にも思ってないのだろう。
華恋は片手を挙げて立ち上がった。
「じゃあ、私はパス。まだ箒に乗った事さえないし。それに眠いから、少し寝てる」
それから一週間の間、魔法省は随分と大変だったらしい。その辺りの事は、パーシーに二言三言聞けば、勝手に長々と話してくれた。
フレッドとジョージは、何やら色々と会議している。来年のいつ頃かは忘れたが、アンブリッジへの復習が楽しみだ。こそこそしている二人を見かける度、華恋は心の中でエールを送っておいた。
華恋はハーマイオニーやジニーと同室だった。ハーマイオニーは、屋敷僕妖精の権利を守る同盟への計画を毎日のように話す。とりあえず笑顔作って話は聞くが、そんな物に興味は無い。何としても、引き込まれないようにしよう。そう、心に誓いながら相槌を打っていた。
日曜日になった。今日も、魔法省は大変だったとの事。リータ・スキータも会話に出てきた。
華恋は、一年生からの魔法の勉強をジニーに教えてもらっている。年下に教わると言うのは少々嫌だが、仕方がない。ハーマイオニーと言う手もあったが、彼女は計画と予習とで手一杯の様子だった。
クラウチとウィンキーの話になってくると、ハーマイオニーがクラウチに対して憤慨した。パーシーとハーマイオニーの熱い議論が始まる。
「皆、もう部屋に上がって、ちゃんと荷造りしたかどうか確かめなさい!」
「じゃ、ここまででいいや。ありがと、ジニー」
「どうもいたしまして。カレン、貴女凄いわよ。もう二年生までのレベルは完璧だと思うわ」
「先生がいいからだよ」
そういうと、ジニーは少し頬を染めた。
あとは、三年生の部分が残っている。今度は、ハーマイオニーにでも教わろうか。四年生の内容と平行に勉強になってしまうのは、やや不安がある。魔法の勉強は面白く、社会や理科などよりは楽だ。けれど、それでも不安が消える訳ではない。特に、魔法史は不安が大きかった。歴史のつまらなさはマグルの物と大して変わらないのだ。けれど、クリスマス前までには習得しなくてはいけない。いつまでも図書室で華恋がハーマイオニーといては、クラムが声かける機会が無くなってしまう。
ジニーの部屋で華恋とハーマイオニーが荷造りの最終確認をしていると、ジニーがウィーズリー夫人が買ってきてくれた買い物包みを持ってきてくれた。
「ありがとう。三人分もなんて、重かったでしょう?」
「大丈夫よ、これくらい」
ジニーは、本当に平気な顔をしていた。意外と力持ちなようだ。
包みの中は、ドレスローブだった。華恋のは黒で、制服とさして変わりない。ロンの物がどうなのか気になるところだ。映画も見ていない華恋には、文章でのイメージしかない。それを思うと、クリスマスが凄く楽しみになって来る。
そこで華恋は、固まった。
――……ちょっと待てよ。
「忘れてたー!」
口にこそ出さないが、心の中で華恋は叫んだ。
……パーティーに参加するには、パートナーが必要だ。
面倒臭い。第一に、誰かとパートナー組むなんて絶対に嫌だ。そもそも、組めるかどうかも問題だ。
態々ドレスローブを買ってくれたウィーズリー夫人には悪いが、ここはサボるしかなさそうだ。
ロンの女装は見たかったが、仕方が無い。ハーマイオニーとジニーが新学期の話を楽しげにしている傍ら、華恋はそっと溜息を吐いた。
2009/11/23