金曜日の朝、華恋は早起きに成功した。目覚ましも無いのに、である。
 ホグズミードに目覚ましとか時計も売っていると良いのだが……。

 眠い目を擦りながらふくろう小屋で待つ事、どれくらいだろうか。やはり、時計が欲しい。
 兎に角、ハリーが来た。原作読んで、確認して置いたのだ。
「おはよ、ハリー」
「カレン!」
 ハリーは、「どうしてここに?」とでも言いた気な表情だった。
 華恋はハリーに聞かれる前に、言った
「ハリーはどうしたの? 手紙出しにきたの?」
「そうなんだ! シリウスが」
 そこで自分の声の大きさに気づき、声を低くする
「僕、シリウスに手紙出しただろう? その返事が、昨日の夜来たんだ。それで……こっちに来るって!!」
「で、『僕は大丈夫です。心配しないで下さい』みたいな内容の手紙を出すのね?」
「え、なんで……」
「それくらい簡単にわかるよ」
 本読んで知らなくても、分かるだろう。
 華恋は続けて言った。
「でも、無駄だと思うけど」
「どういう意味だよ?」
「シリウスはもう、こっちへ向かってるし、予定を変更はしないだろうって事」
「カレンは、心配じゃないの……?」
「だって、去年あの厳重な警戒の中で捕まらなかったんだし」
「うん。それはまあ、そうだけど……あれ?」
「ん? どうしたの?」
「いや……」
 ハリーは言いよどむ。心成しか、探るような目で見ているように感じる。ダンブルドアの視線を思い出し、嫌な気分になる。

 華恋は本当に、馬鹿だった。
 ハリーは勘が鋭い。本当に。




No.6





「今日は、『服従の呪文』をおまえ達一人一人にかけ、呪文の力を試し、おまえ達がそれに抵抗できるかどうかを試す」
 とうとうこの授業が来た。
 パンジーが抗議をするが、何を言っても無駄な事だ。スリザリンの騒ぐ人の多さに驚く。グリフィンドールの方が大人しい。ただ急な事態に驚いて、ハーマイオニー以外言葉も出なかったのかもしれないが。
 ――さあ、やってやろうじゃないの。

「カレン、貴女よくそんな落ち着いていられるわね……あぁ、こんな事を親が聞いたら、何て言うかしら……」
「でも、ま。必要じゃないの? これからの事にはさ」
「貴女まで、あの先生の考え方に賛成って訳じゃないでしょうね? 誰かが子供である私達に『服従の呪文』をかけに学校へ乗り込むとでも言うの?」
 まるで来年のアンブリッジのような言い方に、華恋は思わず笑いそうになる。
「別に、そこまで思っちゃいないけど。でも、ヴォルデモートは死んだ訳じゃないんだし。貴女はどうか知らないけど、私は闇の陣営に就くなんてゴメンだし。操られて人を殺すなんて、嫌だもの」
「その名前を言わないで!!」
「パーキンソン」
「ほら、呼ばれたよ。頑張ってね」
 華恋はこの次だ。
 ――私、対抗できるかな……。
 パンジーは、側転を連続でぐるぐると回っている。
「ポッター」
 ……来た。
 未だかつて、ここまで緊張した事があっただろうか。
 華恋は進まぬ足を、机を片付けて作られたスペースへ無理矢理運んだ。偽教師は杖を上げ、華恋に向け、唱えた。
「インペリオ! 服従せよ!」
 急に、先程まで考え込んでいたのが馬鹿馬鹿しく思えてきた。
 何も悩む必要など無い。ただこの心地よい気分に身を任せてしまえば良い。態々逆らう理由など、何処にも無い。
 机に飛び乗れ……。
 ――ああ……ハリーと同じか……。
 華恋は膝を曲げ、跳躍の準備をする。
 机に飛び乗れ……。
 何も考える必要は無い。操られているから何だと言うのだ。
 別に殺しぐらい、どうでも良いではないか。
 机に飛び乗れ……。
 ――人殺しぐらい?
 嫌だ。
 駄目だ。
 あの夢が、まざまざと思い出される。
 ――嫌だ……!
 机に飛び乗れ……。
 ここで机に飛び乗ると言う事は、操られるのを許すと言う事。ヴォルデモートが戻ってきた時、殺しをする可能性があるという事。
 早く飛び乗るんだ!
「嫌ぁっ!!」
 華恋は大声で叫んでいた。体中から冷や汗が噴き出ている。
 夢は覚めた後、大抵は忘れてしまう。確かに憶えてはいたが、ここまで鮮明になんて覚えていなかったのに。
 どうして、今になって。
 震えが止まらない。
 偽ムーディは、それに気づかない。
「よーし、それでいい! よくやったぞ!
おまえ達、見たか? ポッターが戦った! そして、打ち負かした……たった一度でだ!
流石だ、ポッター。奴等は、おまえを支配するのにはてこずるだろう」
 ――ハリーもね……。
 華恋は、何とか震えを抑えて立ち上がりながら思った。

「ほんと、流石だわ。カレン! 貴女だけよ、あの魔法に操られなかったのは……」
 それは、華恋があの夢を見たからに過ぎない。この先の事を知っているからに過ぎない。操られると言う事がどういう事かがわかっていて、絶対に嫌だと思ったから。ただ、それだけの事だ。
 やはり、ハリーには勝てない。
「主人公って、強いよね……」
「え? どういう意味?」
「特に意味は無いよ」





 ホグワーツの宿題の量は、本当に大量だった。何と言っても、来年はO・W・Lの年だ。今からこれくらいやって置かなくては、間に合わないらしい。せっかく受験戦争から脱したと思ったのに、何も変わりない。
 読書をする暇も、校内を探検する暇も無い。
 ハーマイオニーに教えてもらうのは、主に三年生の復習。けれど、それが土台になってたりもする為、宿題も並行して教えてもらえた。ハーマイオニーは、教師に向いていそうだ。
 ――あ……でも、「トリオの内2人は死ぬ」って作者が言ったってニュースがあったな……。
 正確には、「主要人物の内1人は死を免れ、2人は死んでしまう」だから、トリオとは限らない。けれど殆どの人は、トリオと解釈している。
 まだ大して仲良くはなっていないが、やはり皆が死んでしまうのは嫌だ。
 だが、感傷に浸る暇も、大して無く。ハグリッドまで生徒の仕事を増やしてくれる。交代で餌やりをしろとの事。今回ばかりは、ドラコに賛成だ。ボイコットも検討したくなる。
 ハグリッドはドラコをまたケナガイタチにすると脅すが、果たして、クラウチと同じ事がハグリッドに出来るのだろうか。ハグリッドの脅しに喜ぶハリー達を横目で見ながら、華恋は授業の選択を誤ったかもしれないと思った。





 授業が終わって城へ帰ると、玄関ホールの掲示板の周りで大勢の生徒が右往左往していた。女子だけならば人垣の間から何が原因か見えるのだが、男子も、それも年上の人たちもいるから全く見えない。
 ふと華恋は、人垣から飛び出ているロンの赤毛を発見した。彼は、背伸びして掲示板を見ている。
 華恋は人垣を掻き分け、三人の所へ行った。
「ねぇ、掲示板に何て書いてあるの?」
「やぁ、カレン。久しぶりだね」
「三大魔法学校対抗試合。ボーバトンとダームストラングの代表団が十月三十日、午後六時に到着する。授業は三十分早く終了し――」
「いいぞ! 金曜日の最後の授業は、『魔法薬学』だ。スネイプは、僕達全員に毒を飲ませたりする時間がない!」
 その言葉に、華恋も心の中で両手を挙げて万歳する。
 「誰かに」と言っていたが、華恋かハリー、さもなくばネビルだと言う事は明らかだ。
 ロンが続きを読む。
「全校生徒は鞄と教科書を寮に置き、『歓迎会』の前に城の前に集合し、お客様を出迎える事」
「たった一週間後だ!」
 ハッフルパフの子が群れから出てきながら言った。
 そして華恋を見て、顔を顰める。失礼な奴だ。
「はじめまして、かな? カレン・ポッターっていうの」
 知っているだろうが、心象もあるので愛想笑いを浮かべて名乗っておく。
「あぁ、ウン。僕は、アーニー・マクミラン……」
 そして、三人だけに話しかける。
「セドリックの奴、知ってるかな? 僕、知らせてやろう……」
 その名前に、華恋は反応を示した。
 セドリック・ディゴリー。今年、死んでしまう人物……。
「……一週間後、か」
 華恋はぽつりと呟く。そして、心の中で続けた。
 ――クラウチJr.が、動き出すのは。


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2009/12/03