たったの一日で方法が見つかる筈も無く、あっと言う間に一日は過ぎ去った。
 考え事をしながらでは行動も遅く、何処へ行くにもパンジーに捕まってしまった。一日中パンジーといたと言っても、過言では無いだろう。
 運命の時は刻一刻と近付く。
 ――頼む……原作どおり、セドリックとハリーだけであってくれ!!





No.8





 ハロウィン・パーティーは早く終わってしまった。
 昨日の夜、何かヒントは無いかと本を読み返した。ハリー視点になる原作には「何時もより長く感じられた」と書かれていた。知らないとは、幸せな事だ。
 ダンブルドアが、選ばれた者はどうするか説明し終えた。
 突如、ゴブレットの炎が真っ赤に燃え上がり、火花が飛び散った。その炎の先から、焦げた羊皮紙が一枚、ひらひらと舞い落ちて来る。ダンブルドアがその羊皮紙を捕まえた。
「ダームストラングの代表選手は」
 クラムか。
 ダンブルドアが読み上げる前に、華恋はその名を胸の内に思い浮かべる。
「ビクトール・クラム」
 其処彼処で歓声が上がった。拍手の嵐の中、クラムは隣の部屋へと消えて行った。
 また、ゴブレットが赤く燃え上がる。二枚目。
「ボーバトンの体表選手は……フラー・デラクール!」
 フラーが優雅に立ち上がった。
 華恋がフラーをまともに見たのは、これが初めてだ。祖母がヴィーラと言う事もあり、綺麗な女性だ。
 選手になれなかったボーバトンの生徒が泣き出してしまう。華恋はそちらに気を取られていたが、三枚目が出てきて再び前に目をやった。
「ホグワーツの代表選手は……セドリック・ディゴリー!」
 ハッフルパフ生が総立ちになった。
 ここでセドリックが選ばれた事を喜ぶなら、セドリックが死んでしまった時、きちんと事実を認めて欲しい。事実を認めないと言う事は、セドリックが事故と言う事実に比べるとたいそうか間抜けな死因だと思い込む事なのだから。
 セドリックが隣の部屋へ去ると、ダンブルドアはまた話し出した。
 しかし、その途中でまた、ゴブレットが赤く燃え上がった。華恋はただぼんやりと、それを眺めていた。ハリーの名前だと言う事は、本を読んで知っている。
 羊皮紙が現れた。ダンブルドアがそれを捕る。じっと名前を眺めている。
 華恋は顔を強張らせた。
 その長い沈黙の内に、またゴブレットが燃え出したのだ。
 仮病で医務室にでも行っとけば良かった。駄目だ、逆に怪しまれる。否、それなら、昨日から行っていたら良いのではないだろうか。どうして、そんな事に気づかなかったのだろう。
 華恋が現実逃避に走る間も、ダンブルドアは二枚の羊皮紙をじっと見つめていた。
 白い髭を蓄えた口が、ゆっくりと開かれる。
 クラウチJr.の字が汚いとかで、読めなかったりしないだろうか。
 ダンブルドアがいきなり字が読めなくならないだろうか。
 いっその事、日本語で書いてあったりしても良い。
 現実逃避にゴールは無い。けれど、呼ばれたら自分が入れたのではないと分かって貰わなくてはいけない。それだけは、冷静に備える。
「ハリー・ポッター、カレン・ポッター」
 途端に華恋は、表情を凍りつかせた。瞬きも出来る限りせずに、目を見開いている。
 生徒達からの拍手は無い。当然だ。
 マクゴナガルが、ダンブルドアに何か話している。
「ハリー・ポッター! カレン・ポッター!」
「ハリー! カレン! ここへ、来なさい!」
 華恋は固い動きで、周りを見回した。
 皆、唖然としている。どこの寮だろうとも、反応は同じのようだった。
 向こうのテーブルで、ハリーが席を立った。それを見て、華恋も席を立つ。そして、ノロノロと扉の方へ向かう。
 扉でちょうどハリーと一緒になって、二人で部屋に入った。





「どうしまーしたか? わたーしたちに、広間に戻りなさーいという事でーすか?」
 ここは原作通りらしい。これからどうなるのだろう。言いようの無い不安が、じわじわと込み上げてくる。
 ハリーと違い、身長が高い事に感謝だ。高いとは言っても男子達よりは低い。けれども、ハリーぐらいに小さかったら、周りが自分より大きい事も不安要素になっていただろう。
 ルード・バグマンが入って来た。彼は華恋とハリーの腕を掴み、皆の前に引き出した。
 注目され、華恋は身を竦める。
 バグマンは、二人を四、五人目の選手だと紹介した。けれど、当然本人は望んでいない。選手達も、同じのようだった。
「でも、何かーの間違いに違いありませーん。選手はさーんにんですし、このいとは、若すぎまーす」
 フラーはハリーを指していった。華恋もハリーと同年齢なのだが……。年上に見られて嬉しいのは、何歳までなのだろう。
 扉が開き、ダンブルドア、クラウチ、カルカロフ、マダム・マクシーム、マクゴナガル、セブルスが入ってきた。
 大広間はこれまでに無い程、騒々しくなっている。扉が閉じ、その喧騒も隔絶される。
 ハリーは「小さい」と言われた事に、腹を立てている様子だった。ふと、某錬金術漫画の主人公を思い出す。
 この辺で、華恋も反抗しといた方が良いだろう。事実、選手になる事を望んでいない。しかし、カルカロフやマダム・マクシームのダンブルドアへの集中攻撃が凄すぎて、なかなか入り込める余地が無い。漸く口を挟めたのは、ダンブルドアが話を振ってきた時だった。
「ハリー、カレン、君達は『炎のゴブレット』に名前を入れたのかね?」
「いいえ」
 ハリーと華恋は、口を揃えて答える。
 ダンブルドアは更に尋ねた。
「上級生に頼んで、『炎のゴブレット』に自分の名前を入れたのかね?」
「いいえ!!」
 そして、華恋は続けて言う。
「そもそも、私は選手になる事を望みません。私はまだホグワーツに来たばかりですし、力量が足りないのは自分でもわかっています。
私は三大魔法学校対抗試合に出場したくありません」
「では、だーれが入れたといーうのですか?」
 マダム・マクシームは、あからさまに疑るような口調だった。
「わかりません」
「この子達が『年齢線』を越える事は出来なかった筈です」
 口を挟んだのは、マクゴナガルだった。
 「達」と言われた事に、華恋は感動していた。マクゴナガルは、スリザリンである私の事も庇ってくれるのだ。
 しかし、ダンブルドアへの集中攻撃はまだまだ続く。
 そこへ、この事件の犯人が登場した。華恋は困った様子を取り繕っているつもりだったが、どうにも彼を睨んでしまう。
 ――ああ、そうだね、あんたには都合がいいよね……。
 ハリーが何も反抗しない事を指摘される。驚きのあまりか、ハリーは一言も何も言っていなかったのだ。
 その指摘に、フラーは怪訝な表情をする。美人は得だ。眉を顰めても、綺麗な事に変わりは無い。
「なんで文句言いまーすか? このいと達、戦うチャンスありまーす。私達、皆、何週間も、何週間も、選ばれたーいと願っていました! 学校の名誉かけて! 賞金の一千ガリオンかけて――皆死ぬおどおしいチャンスでーす!」
「私は違います!」
 咄嗟に華恋は反抗する。
 ……確かに、クラウチJr.のこの作戦は酷い。この人達が、どんなに選手になりたいと願ってきた事か。彼は、それを踏みにじるような真似をしたのだ。
「先ほども言いましたが、私は選手として戦う事を望みません。
学校の名誉なんて、はっきり言ってしまえば、私は学校の為にそこまでしたいとは思いません。ホグワーツの生徒になって、まだ二ヶ月なんですよ? たったのそれだけで学校へ愛着が沸く筈ないでしょう?
賞金だって――私はそんなにお金が欲しいとは思いません。そこまで欲しい物はありません。それにこれはハリーにも言えますが、私達、普通に生活するのになら困らない程度のお金は持っています」
 華恋の言葉に、一同は黙り込んだ。
 華恋は少し驚く。若しかしたら、納得してくれたのかも知れない。
「それに」
 クラウチJr.が口を開いた。
 華恋は軽く彼を睨む。折角皆が黙ったのに、覆すような事をしなくても良いだろうに。
 結局、華恋もハリーも試合に参加する事になった。
 嫌だ嫌だと駄々を捏ね続けるのも、大人気無い。
 第一の課題は、十一月二十四日。華恋はむすっとした顔でその説明を聞いていた。
 ――いいよ、どうせ出ねぇよ。





 華恋はハリー、セドリックと共に部屋を出た。大広間はもう誰もいない。
 寮に帰りたくない。今夜、大広間に泊まれないだろうか。そんな無茶な事さえ考える。
 セドリックは、ハリーに微笑みかけた。
「それじゃ、僕達、またお互いに戦う訳だ!」
「そうだね」
 ハリーの返答は暗い。
「じゃ……教えてくれよ。一体、どうやって、名前を入れたんだい?」
「入れてない。僕、入れてないんだ。僕、本当の事を言ってたんだよ」
「私もです。さっきも言いましたよね? 私には入れる理由がありません」
「……」
 セドリックは、ハリーの事を疑わしげに見ている。
「それじゃ……またね」
「おやすみ、ハリー」
 ハリーは階段を上っていき、華恋とセドリックは右側のドアを通って階段を降りて行った。
 冷たい石の廊下を歩きながら、セドリックが話す。
「君は……確かに、君の言うとおり、入れる理由が無いよね」
「信じてくれるの!?」
「だってハリーは兎も角、君の言う事は道理が通っている。たった二ヶ月で学校の為に戦おうなんて思う筈ないし、お金もそんなに欲しがるタイプではなさそうだからね」
「ハリーだって、自分で入れてないと思うけど……」
「如何してそんな事わかる? 彼は学校の為に戦いたいと思うかもしれないし、今まで毎年目立ってきた。今年だって――」
「今まで目立ってきたのはハリーが望んだ事じゃないでしょ。命が脅かされるような事を、誰が決まりを破ってまで望むって言うの?」
 セドリックの言葉を遮り、華恋は言い放った。
 一年生の時も、二年生の時も、一歩間違えれば死んでいたのだ。三年生の時だって、決して良い思いをしていたとは言えない。
「じゃあ、スリザリンの寮、ここなので。おやすみなさい」
「あ、そうなんだ。じゃあ、おやすみ」
 そう言うと、セドリックは引き返して行った。
 その背中を見送り、ふと気づく。
 ――なんで引き返すの?
 送ってくれたと言う事だろうか。方向は違ったのに。
 どうりでモテる訳だ。
 華恋は合言葉を言い、談話室へ入った。途端に、歓声の渦に包まれる。華恋は顔を顰めた。お祭り騒ぎなんてグリフィンドールだからこそではないかと期待していたのだが、やはりスリザリンも変わらないらしい。
 寝室へ逃げようとしたけけれど直ぐ捕まってしまい、面倒臭い質問を交わし続ける羽目になってしまうのだった。


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2009/12/10