『手紙、受け取ったわ。
 ピーブズって人の事だけど、それ、本当にサラかしら? それだけでサラの仕業だ、って決め付けるのはどうかと思うわ。
 お母さんの事は、あたしも調べていたところよ。家中探したけど、やっぱり、お母さんの学生時代の写真ってどこにもないのよねぇ……。杖なら、通帳とかの引き出しに一緒に入ってたけど。
 エリとサラがダイアゴン横丁に行った日、あの後、お母さん、お墓参りに行ったのよね。あの家のそばに、おじいちゃんのお墓があるの。他にもあったみたいなんだけど、全部ヴォルデモートに襲われたときに無くなっちゃったんだって。
 その時に聞いたんだけどね。シャノンのおばあさんは孤児で、おじいちゃんの親戚も戦争で亡くなってるんだって。だから、おじいちゃんが亡くなって、お母さんの親戚はシャノンのおばあさんだけだったのよ。でも、お母さんは彼女を「あんな奴、母親じゃない」って……。何があったのかしら。お母さん、ホグワーツに入って、夏休みは家に帰らずに寮監の家に泊まったんですって。シャノンのおばあさん、母親としての役目を果たさなかったんだわ。だから、お母さんは彼女を嫌いなのかも……。
 エリも、何か情報が入ったら教えてちょうだい。あたしもふくろうがいたらいいんだけど……。お母さんにそれとなく言ってみるわ。でも、無理かしら、やっぱり。お母さん、ダイアゴン横丁とか行きたくなさそうだもの。杖だって、引き出しにしまいっぱなしなわけだし。
 シロをあたしの下においてくれると助かるんだけど。エリは他の人からふくろうを借りたりってできない?
 まあ、とにかく、お母さんの学生時代、何かあったことは確かだわ。シャノンのおばあさんとの間で。他にも何かあったのかもしれない。
 何かわかったら、お願いします。

アリスより』





No.13





 次の日、ハーマイオニーはサラの隣には座らず、少し離れた席に座った。昨日の巻き込まれた事で、まだ怒っているようだ。
 サラは軽く溜め息を吐き、サラダとシリアルを取る。
 このまま、ハーマイオニーとは気まずくなってしまうのだろうか。それとも、少しそっとしておけば機嫌を直してくれるだろうか。今まで友達なんていなかったものだから、こんな事になった事も無く、如何すれば良いのか全く分からない。
 情けなくて再び溜め息を吐く。
「如何したの?」
 振り返れば、ハリーとロンがそこにいた。二人共、昨夜の出来事で疲れ切った表情だ。
「おはよう。貴方達、随分と疲れた顔してるわよ。大丈夫?」
「上々だよ。確かに疲れてはいるけど、気分は最高だな」
 そう言ってニヤッと笑い、ロンはサラの隣に座った。
 ハリーもその横に座ると、サラの方へと身を乗り出した。
「ねぇ、サラ。僕達、あれからあの三頭犬が何を守ってるのかって話し合ったんだ。多分、七一三番金庫にあった物がホグワーツに移動されたんじゃないかと思うんだけど……サラは如何思う?」
「そうね。その可能性は高いわ。随分と小さな包みだったけど、なのにあんなに厳重に守られるなんて、一体何なのかしら」
「きっと、もの凄く大切か、もの凄く危険な物だな」
「その両方かも」
「何にせよ、情報が少なすぎて推測のしようがないわ」
 サラはちらりとハーマイオニーの方を伺い見る。
 ハーマイオニーは朝食を終え、席を立つところだった。大丈夫だ、こちらの様子は気にしていない。
 それでも、サラは声を潜めて二人にだけ聞こえるように言った。
「ねぇ……私達で、もう一度あの三頭犬の所に行ってみない?」
「何を言ってるんだ!!」
 ハリーが大声で叫んだ。周りの生徒が何事かとこちらを振り返り、ハリーは慌てて声を潜める。ロンは真っ青だ。
「サラ、まさか本気で言ってるんじゃないよね? 確かに後から思い返せば滅多に無い冒険が出来た。それは僕も思ってる。でも、もう一度行くだなんて! 君はあとちょっとで首を丸かじりされる所だったんだぞ!? よく、そんな事が言えるよ……」
「でも、可愛かったじゃない。大丈夫よ。昨日はちょーっと、驚いちゃっただけで……ね? だって、昨日、一度も撫でてないわ!」
「可愛い? あれが、可愛いだって!? サラ、昨日寝ぼけてたの……?」
「失礼ね! あんなに走り回って寝ぼけてた訳がないじゃない!」
「僕には理解出来ないよ……」
「同じく……」





「マジかよー……」
 とりあえず、現時点で分かっている情報を家系図にまとめ、エリは脱力した。
 最上段の真ん中に、祖母――シャノン。シャノンと健の娘が、ナミ。ナミと誰かの間に、エリとサラ。その後、ナミと圭太の間に、アリス。圭太の父親は、シャノンと再婚。サラは、シャノンの養女。
 まるで昼ドラか何かみたいな家系図が出来上がった。当然、時期はずれている訳だが。少なくとも、シャノンが再婚したのは、祖母となる直前だ。以前そう聞いた事がある。
 エリは、シャノン、健、それからエリ達の父親の欄をじっと見つめた。
 これだと、分かっていないのはエリ達の父親の家系だけではない。ナミ――更に遡れば、シャノンと健の家系も分かっていないのだ。
 あそこまで躍起になって隠す父親の存在も怪しいが、祖母はダンブルドアに匹敵する有名人だ。祖父だって、あの家の大きさからして只者ではない。
「あーっ、なんか面倒ぇーっ!」
 エリはだら〜っと机に突っ伏した。
「おはよう、エリ。早いんだね」
 突然背後から話しかけられ、エリは勢い良く飛び上がった。
 声をかけてきたのは女子の間で人気な上級生だった。エリは慌てて羊皮紙の切れ端を足元の鞄に突っ込む。
「お、おはよ……セドリックも如何したんだ? こんな早い時間に。――ああ、クィディッチの練習?」
 エリは、セドリックの手にある箒を見て言った。
 朝食まで、まだまだ時間がある。そろそろ陽が昇ってきたであろう時間だ。
「うん。明日はクィディッチの選抜だからね。エリは一体何をやってたんだい?」
 セドリックはエリの鞄から少しはみ出ている羊皮紙に目をやった。エリは足でそれを鞄の奥に押し込める。
「ちょっと、宿題のレポートを……」
 それでセドリックが納得していない事は分かった。しかしセドリックは何も聞かずに、談話室を出て行った。
 エリはふーっと溜め息を吐き、くしゃくしゃになった羊皮紙の切れ端を引っ張り出して眺めた。
 そう言えば、祖父は如何して殺されたのだろうか。ヴォルデモート自らが手にかけるなんて、一体、何故?
 それから、ダンブルドアは「入学」とは言わなかった。「編入」と言ったのだ。何故? ナミは一年生からホグワーツに通っていた訳ではないという事だ。
 何かが引っかかる。何かあったのだ。
 でも、一体何が――?





 週明けの魔法薬学の授業の後、エリはハンナ達を先に行かせた。態とゆっくり片づけをし、最後に残る。この授業の後は昼休みだ。次の授業に遅れる心配は無い。
 最後のレイブンクロー生が教室を出て行って、エリは荷物をまとめ、鍋の片づけをしているスネイプに向き直った。
「なあ、聞きたい事があるんだけど」
「何度言ったら分かる。貴様は敬語というものが話せんのか」
 スネイプは振り返りもせずに言う。
「……先生、質問してもよろしいでしょうか」
 エリが渋々と言い直すと、スネイプは目を丸くして振り返った。彼が表情を変える事は、貴重なのではないだろうか。
「――何だ」
「うちの母さんって、途中で転入してきたんですか? いつ?」
「五年生の時だ。質問はそれだけか」
「いや、まだ。母さん、如何して転入してきたんですか? 何かあった……?」
 スネイプは、ゆっくりとこちらに向き直った。
「彼女が転入してきたのは、恐らく父親が亡くなったからだろう。彼女は他に身寄りが無かった――シャノンは、彼女の存在を隠していた」
 母さんの存在を――?
「君達の祖父母は入籍していない。世間一般には、シャノンに娘がいるという事は知れていなかった。知っていたのはシャノンの一部の友人だけだ」
「スネ――先生も、その一人? ですか?」
「我輩は違う。別の事で、知る事になった。表向きには彼女に身寄りはいなかった。だから、ホグワーツへつれて来られた。ホグワーツほど安全な場所は他に無いからな」
「え? それって、母さんがヴォ――『例のあの人』に狙われてたって事か? なんで?」
「誰もそんな事は言ってない。念の為だろう。そこまでは我輩は知らない」
 本当に知らないのだろうか。
 知っていて隠している気がしてならない。スネイプと言い、ハグリッドと言い。
「じゃ――聞きたいのはそれだけなんで」
 軽く礼をし、エリは鞄を引っつかむと地下牢を後にした。





 ホグワーツへ来て、あっと言う間に三週間が経とうとしていた。
 グリフィンドールのテーブルを見れば、今日もサラはハリーやロンと一緒にいる。ここ一週間、ハーマイオニーは三人から離れた所で、一人で食事を取っていた。食事だけでなく、移動教室も恐らく一人なのだろう。
 今日の第二回飛行訓練についてスーザンと話していたハンナが、突然エリを振り返った。
「エリ、またグリフィンドールの席見てる。いつも見てるわよね? 毎日の日課って言うか」
「え!? 俺、そんなに見てる?」
 スーザンも向こうから身を乗り出した。
「そう、そう。エリってサラの話になったりすると、凄〜く嫌そうにするじゃない? でも、その割には気にしてるみたいよね」
「な……っ! そんな事――」
 然しその時、ふくろう便が群れを成して大広間に飛んできて、エリの言葉は遮られた。
 十二羽の大コノハズクが六羽ずつに分かれて、二つの細長い包みを運んできている。それが皆の気を引いた。エリも例外ではなく、その大きな包みの行く先を目で追った。
 コノハズクの軍団は、大広間の反対側のテーブルまで飛んで行った。グリフィンドールのテーブルだ。
 ふくろうは、ハリーとサラの下に、それぞれ包みを落として行った。
「何だあ? あれ……」
「あの形って……まさかとは思うけど……箒……?」
 スーザンが眉を顰めた。エリはその言葉に、腰を浮かして遠い位置にあるその包みを良く見ようとする。
 一年生は箒を持つ事を禁じられている。それなのに、何故。そもそも、どうやって購入したのだろう。ナミは当然、サラの為にダイアゴン横丁に行って規則違反の物を送るなんて事はしないだろう。ハリーの方は、確か親戚のマグルの家に住んでいると聞いた。通販だろうか。
「何言ってるのよ。ただ形が似てる、ってだけでしょう。仮にあれが箒だったとして、先生方もいるような所で送られる筈が無いじゃない。あの二人、そんな人達じゃないと思うわよ」
 エリは席に着いて再びトーストにかじりついたが、それでもその包みから目が離せなかった。





 一時間目が始まる前に、サラとハリーに送られた箒を三人だけで見ようと、急いで大広間を出た。
 然し玄関ホールの途中まで来ると、ビンセントとグレゴリーが寮に上がる階段の前に立ちふさがっていた。ドラコはハリーの包みをひったくり、中身を確かめるように触った。
「箒だ」
 ドラコは包みを投げ返した。表情には、妬ましさと苦々しさが入り混じっている。
「今度こそおしまいだな、ポッター。一年生は箒を持っちゃいけないんだ。――まさか、サラまで規則を破るとはね。だから言っただろう。友達は選ぶべきだと」
「私の記憶に狂いが無ければ、『親を脅してでも持ち込もう』って貴方も言ってた気がするんだけど?」
 ……と言う言葉は、胸の内に仕舞っておく。
 ロンがサラ達の代わりに言い返した。
「ただの箒なんかじゃないぞ。何てったって、ニンバス2000だぜ。君、。家に何を持ってるって言ってた? コメット260かい?」
 それから、サラとハリーに向かってニヤッと笑いかけた。
「コメットって見かけは派手だけど、ニンバスとは格が違うんだよ」
 箒で派手な見た目って、どんな物なのだろう。
「君に何がわかる、ウィーズリー」
 本当にコメットのようだ。
「柄の半分も買えないくせに。君と兄貴達とで小枝を一本ずつ溜めなきゃならないくせに」
 あまりの言いようにサラも口を開いて応戦しようとしたが、止めた。
 直後、ドラコの肘の辺りにフリットウィックが現れた。
「君達、言い争いじゃないだろうね?」
「先生! ポッターの所に箒が送られてきたんですよ」
「いやー、いやー、そうらしいね」
 フリットウィックはサラ達に笑いかけた。
「マクゴナガル先生が特別処置について話してくれたよ」
 ウッドは極秘にしたいと言っていたのに……。双子は口止めしても、流石にマクゴナガルには言わなかったらしい。
 フリットウィックはその様な事は露知らず、サラ達の持った包みに目をやる。
「ところで、箒は何型かね?」
「僕もサラも、ニンバス2000です。――実は、マルフォイのお陰で買って頂きました」
 ハリーはにっこりと笑顔で言った。
 ドラコは怒りと当惑をむき出しにした顔をした。
 よくも、ここまでお互いを挑発するもんだ。いい加減、仲介するのも馬鹿らしくなってきた。

 大理石の階段の上まで上ってくると、ハリーは大笑いした。
「だって本当だもの。若しマルフォイがネビルの『思い出し玉』を掠めて行かなかったら、僕はチームには入れなかったし――」
「それじゃ、校則を破ってご褒美を貰ったと思ってるのね」
 背後から、怒った声がした。ハーマイオニーだ。サラ達が持っている包みを、けしからんと言わんばかりに睨み付け、階段を一段一段踏みしめて上ってくる。
 その様子には構わず、サラは思わずにっこりと笑った。
「ハーマイオニー! 久しぶりよね。もう、口を利いてくれないのかと思ってたから――」
「そうだよ。僕達とは口を利かないんじゃなかったの?」
「うん、うん。今更変えないでよ。僕達に取っちゃありがたいんだから」
「ちょっと! 私、別にそんなつもりで――」
 咄嗟に口を挟んだが、遅かった。ハーマイオニーは、ツンとそっぽを向いて行ってしまった。
 如何してこうも、皆仲が悪いのだろう……。





 七時近く、夕暮れの薄明かりの中、サラとハリーは城を出てクィディッチ競技場へ急いだ。スタジアムの中へ入るのは初めてだ。横を通るだけなら、森へ向かう時に何度も通っているが……。
 ウッドが来るまで、サラ達は箒で飛び回った。ゴールポストを出たり入ったり、グラウンドの端から端まで競走してみたり。ニンバス2000は、授業で使った箒よりもずっと飛びやすく、ちょっと触れるだけで意のままに飛んだ。
「おーい。ポッター、シャノン、降りて来い!」
 ウッドは、大きな木製の箱を小脇に抱えてやってきた。
 サラ達がウッドの両脇にピタリと着地すると、ウッドは「おみごと」と目を輝かせた。
「マクゴナガル先生の言ってた意味が分かった……君達はまさに生まれつきの才能がある。今夜はルールを教えよう。それから週三回のチーム練習に参加だ」
 ウッドはルールを説明しながら、実際のボールを見せてくれた。サラの役割は、如何やらバスケットボールとさして変わらないらしい。違うのはゴールが三つある事、ブラッジャーに気をつける事、それから人数ぐらいだ。
 説明を終えると、パスの練習をした。それから、ゴールの練習。ハリーの方は、スニッチの代わりにゴルフボールを使った。バスケを知らないのにゴルフボールは持っているなんて、一体如何やって手に入れたのだろうか。
 サラ達の成果に、ウッドは大喜びだった。
「あのクィディッチ・カップに今年こそは俺達の寮の名前が入るぞ」
 城に向かって疲れた足取りで歩きながら、ウッドは嬉しそうに言った。


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2007/01/10