「罰則です!!」
クィレルは、怒りで顔を真っ赤にしていた。
予想以上に怒った様子のクィレルに、エリ達は怯えると言うより、ぽかんとした。
いつもの如く、フレッドとジョージとの悪戯だった。雪玉に魔法をかけ、クィレルのターバンの後ろで何度も跳ね返るようにしたのだ。
「それから、グリフィンドール二十点、ハッフルパフ十点減点!」
「一人十点!?」
三人は顔を見合わせた。スネイプと中身が入れ替わっているのだろうか?
「で、では、ば、罰則の内容は、ご、後日お知らせします」
先ほどまでの勢いは何処へやら、クィレルは再びどもり口調になって、そそくさと城へと戻っていった。
エリと双子は、ただ唖然とするばかりだった。
No.17
「俺はハリーの箒がなんであんな動きをしたんかは分からん。だが、スネイプは生徒を殺そうとしたりはせん。四人ともよく聞け。お前さん達は関係の無い事に首を突っ込んどる。危険だ。あの犬の事も、犬が守ってる物の事も忘れるんだ。あれは、ダンブルドア先生とニコラス・フラメルの――」
ハグリッドがそう口を滑らしてからというもの、サラ達は図書室に入り浸って「ニコラス・フラメル」を捜していた。
「近代魔法史」「魔法界における最近の進歩に関する研究」「現代の著名な魔法使い」……どんなに本を漁っても、フラメルの名前は見当たらない。
「私、この名前に見覚えがあるのよねぇ……ハリーもあるんでしょ? ハリーが見た事あるなら、図書館の本ぐらいよね……。それとも、マグルのニュースとかかしら。でもそうすると、私は日本だから関係無いし……」
「僕、こんな本読んだ事ないけどな」
机に大量に積みあがった本を眺めて、ハリーが不満げに言った。
ハーマイオニーが更に本を運んできてサラの隣に座る。
「ハリーが見た本以外にだって載ってるかもしれないでしょ? ハリーが今までに読んだ事がある本を全て覚えてるなら、話は早いんだけど」
「――これにも無いわ。こっちの山、確認し終わったわよね? 返してくるわ」
三人に一応確認し、正面に積み上げてある本の山を抱え上げた。山が崩れそうになり、慌てて机に置きなおして抱えなおす。よいしょ、とそれを持ち上げて、よろよろと本棚の方へ歩いていった。
机に近い本棚から順に返して行き、その本棚を回ってハリー達が見えない所まで来た時だった。抱えていた本の山の三分の二ほどが、ひょいと消えた。
ドラコだ。
「手伝うよ」
「ありがとう。その本は向こうの本棚よ。そこだけごっそりと抜いてあるから、直ぐに分かると思うわ」
サラはそれだけ言って、自分の手元に残った本を片付けに行こうとしたが、呼び止められた。ドラコは棚の向こうをちらちらと覗いき、ハリー達の様子を伺っている。
三人が資料に没頭しているのを確認すると、ドラコはサラに向き直った。
「冬休み、何か予定はあるかい?」
「別に無いわ」
そもそも、ホグワーツに残るつもりでいる。帰ってくるなと言われているし、こちらとしても出来る限りあんな所に帰りたくない。夏休みだって残りたいぐらいだ。
でも、それがドラコと如何関係あるのだろう? 意図が全く掴めない。
サラが内心首を傾げていると、ドラコはもう一度三人を確認し、言った。
「――クリスマスに、我が家でパーティーをするんだ。良かったら、サラも来ないか?」
一瞬、ドラコが何を言ったのか分からなかった。
もちろんサラは、今までパーティーなんてものに呼ばれた事は一度も無かった。誕生日会だろうと何だろうと、誰かの家にさえ呼ばれた事は一度も無い。ハグリッドが初めてだ。それでも、ハグリッドは校内なので、どうも家に呼ばれたという感じではなかった。
返事をせずに硬直したサラの様子を勘違いしたのか、ドラコは少し落ち込んだようだ。
「別に、嫌なら無理にとは言わないよ。グリフィンドールでは、うちは評判が悪いのは分かっているし――」
「行くわ! ただ、自分がパーティーなんてものに呼ばれるとは思いもしなかったから、驚いちゃって……」
言ってから、気がついた。
サラはホグワーツに残るつもりでいる。外出は許されるのだろうか。楽しみがクリスマスだけで、他は日本の家というのならば参加は断りたい。
「――でも私、その……ホグワーツに残るつもりなの。ほら、エリ、分かるでしょう? 家族皆、口調は別として、あんな感じなのよ」
それだけで、ドラコは事情を察したみたいだった。そして少し考えて、驚くべき事を口にした。
「それじゃ、冬休みの間、うち泊まらないか? 空いてる部屋ならいくらでもあるから」
「え!? で、でも……いいの? そんな勝手に決めちゃって。ドラコがいいって言っても、ご両親がいるでしょう?」
「大丈夫さ。サラの事は手紙で何度か話しているし、父上や母上もサラに非常に興味を持っているみたいだから。もちろん、一応聞いてみるけど。――来るかい?」
「もちろん、お断り。代々スリザリン出身の家なんかにグリフィンドール生が行ったら、どんな目に遭うか分かったもんじゃないし。遠まわしで断ってるのに気づいてくれる?」
答えたのは、サラではなかった。
調べ終えた資料を持ったハリーがそこにいた。
「やあ、マルフォイ。こんな所でナンパかい? 感心しないなあ。ただでさえ悪いスリザリンの評判を、更に落とす事になるよ。自分で評判悪いって自覚してるなら、もう少し自粛するべきだと思うな」
ハリーはにっこりと微笑んでいる。
ドラコの青白い顔が、怒りで僅かに赤くなる。
「盗み聞きとは、グリフィンドールの方も堕ちたものだな!」
「別にヒソヒソと話していた訳でもないんだから、多少近付けば聞こえるよ。忘れてるみたいだけど、ここ、図書室なんだよ?」
更に笑みを濃くしたハリーに後ずさりしながらも言い返そうとするドラコを、サラは慌てて止めた。このままだと、マダム・ピンスに図書室を追い出されてしまう。まだニコラス・フラメルの事が分かっていないというのにそれは辛い。
「ハリー、私達次は薬草学だわ。温室まで行かなきゃ。早く本を片付けましょう。
じゃあね、ドラコ。その本、頼んだわよ。冬休み、楽しみにしてるわ」
サラがハリーの腕を引っ張っていく事でドラコをニヤニヤと見ていたハリーだが、サラの最後の一言でパッとしかめっ面になった。文句を言おうとするハリーを睨んで黙らせ、本を素早く片付ける。そしてロンとハーマイオニーも一緒に、図書室を出て行った。
温室へと向かいながら、ハリーはマルフォイの悪口や文句を言い始めた。その内容からロンも話が分かったらしく、「マルフォイ家には絶対に行くな」とハリーの後押しをする。
温室に着いても、二人は止まらない。このままだと授業中まで話し続けそうだと思ったのだろう、ハーマイオニーが釘を刺した。
「別に、サラが如何しようと自由じゃない。貴方達がどうこう言うような事じゃないわよ。態々パーティーに誘われたのよ? 私だったら行かないけれど――でも、サラはマルフォイと友達でしょう? 行きたいと思うのが普通じゃないかしら」
「でも、泊りがけだ! あの家にだぜ!?」
「仕方ないでしょう。日本の家に帰る訳にはいかないんだから」
サラが机に肘を突いて言うと、ロンは「え?」と振り返って固まった。
「……あ……そうか。養女なんだっけ……」
少ししんみりした空気にサラは慌てて、笑い飛ばした。
「それに、マルフォイ家ってホグワーツでは禁書扱いされてる本も沢山ありそうだと思わない? 私が読書好き、って事はドラコも知ってるし、若しかしたら彼の家でニコラス・フラメルを見つけられるかもしれないわよ」
それから一週間後に、マクゴナガルがクリスマスに寮に残る生徒のリストを作った。ハリーはもちろん、ロン達ウィーズリー兄弟もリストに名前を書き込んでいた。両親がチャーリーに会いにルーマニアへ行ってしまうらしい。
ドラコはクィディッチの試合以来、面白くなくてハリーを嘲るのに必死だったが、クィディッチネタでは誰も笑うどころか相手にさえしなかった。皆、暴れ狂うニンバスに最後までしがみ付き、その上スニッチを掴んだハリーに感心してた。ドラコは再び、ハリーにまともな家族がいない事を嘲った。
「お可哀想に」
今学期最後の魔法薬の授業の時だった。
魔法薬の授業は、ドラコの独壇場だった。スネイプはもちろん、注意などしない。いい加減一々睨んで止めるのも馬鹿馬鹿しくなってきて、ハリーも完全無視を決め込んでいた。
「帰る先の家族もいなくて、かといって家に呼んでくれるようなまともな友達もいなくて、クリスマスなのにホグワーツに居残る子がいるんだね」
笑うのはビンセントとグレゴリーだけ。同じスリザリン生でさえ、もう飽きてきたようだ。
……ドラコは飽きないのだろうか。
魔法薬のクラスを終えて地下牢を出る。階段を上がると、大きな樅の木が塞いでいた。――ハグリッドが樅の木を担いでいるのだ。
「やあ、ハグリッド。手伝おうか?」
四人の中で最も背の高いロンが、木の枝の向こうに頭を突き出して尋ねた。
「いんや、大丈夫だ。ありがとうよ、ロン」
「すみませんが、そこ、退いてもらえませんか」
気取った声は、もちろんドラコのもの。注意されなくていい気になっているけれど、白い目で見る人の方が多い事に気づいた方が良い。
サラの心中は、もちろんドラコどころか誰にも聞こえる筈は無い。
「ウィーズリー、お小遣い稼ぎですかね? 君もホグワーツを出たら森の番人になりたいんだろう――ハグリッドの小屋だって、君達の家に比べたら宮殿みたいなんだろうねぇ」
ドラコに飛び掛ろうとしたロンの腕を、サラが掴む。まさにその瞬間、スネイプが階段を上がって来た。
「ウィーズリー!」
サラはパッと手を離し、ロンは振り上げていた手を引っ込めた。
ハグリッドが大きな顔を木の間から突き出してきた。
「スネイプ先生、喧嘩を売られたんですよ。マルフォイがロンの家族を侮辱したんでね」
「そうだとしても、喧嘩はホグワーツの校則違反だろう、ハグリッド。
ウィーズリー、グリフィンドールは五点減点。これだけで済んでありがたいと思いたまえ。さあ諸君、行きなさい」
ドラコ、ビンセント、グレゴリーはニヤニヤと笑いながら木の横を通り過ぎていった。もちろん、大きくぶつかって樅の葉をそこら中に散らす事は忘れない。
スネイプも、そのまま階段を上がっていった。
「覚えてろ」
スネイプが見えなくなってから――ドラコはまだ視界にいた――ロンが歯軋りをした。
「いつか、やっつけてやる……」
「マルフォイもスネイプも大嫌いだ」
「さあさあ、元気出せ。もう直ぐクリスマスだ。ほれ、一緒においで。大広間が凄いから」
大広間はクリスマスの飾りつけの最中だった。
クリスマスツリーは、今ハグリッドが運んできた物も含めて十二もある。小さなつららがきらきらと光っているツリー、何百という蝋燭で輝いているツリー、どのツリーも様々だ。壁には、柊や宿木が綱のように編まれて飾られている。
クリスマスをホグワーツで過ごす事を選択したハリーとロンを、少し羨ましくも感じた。ドラコの家も、こんな風に盛大に飾り付けられているのだろうか。
ハグリッドは運んできた樅の木を、マクゴナガルの指示で広間の角に置き、サラ達に尋ねた。
「お休みまであと何日だ?」
「あと一日よ」
ハーマイオニーが答えた。今度はサラが、「昼食まであと何時間?」と問う。
「三十分もあるわね。図書館に行かなくちゃ」
「ああ、そういう事か」
「意地汚く昼食を待ち焦がれているとでも思ったの? ――行くわよ、ロン」
フリットウィックが杖からふわふわした金色の泡を出して、ツリーを飾っているのに見とれていたロンに声をかける。
ハグリッドはサラ達と一緒に大広間を出てきた。
「図書館? お休み前なのに? お前さん達、ちぃっと勉強しすぎじゃないか?」
「勉強じゃないよ。ハグリッドがニコラス・フラメルって言ってからずっと、どんな人物かを調べているんだ」
「なんだって!?」
明るく言ったハリーの言葉に、ハグリッドは目を丸くした。
「まあ、聞け――俺が言っただろうが――ほっとけ。あの犬が何を守っているかなんて、お前さん達には関係ねぇ」
「私達、ニコラス・フラメルが誰なのかを知りたいだけなのよ」
「ハグリッドが教えてくれる? そしたらこんな苦労はしないんだけど。僕達、もう何百冊も本を調べたけど、何処にも出ていなかった――何かヒントをくれないかなあ。僕、どっかでこの名前を見た覚えがあるんだ。サラも見た覚えがあるって言ってる。若しかしたら、ハグリッドにダイアゴン横丁へ連れて行ってもらったときかも知れない」
「俺は何も言わんぞ」
「それじゃ、私達で捜すしかないわね」
そしてやはり、この時間もニコラス・フラメルを発見する事は出来なかった。
棚の上には色々とグロテスクなモノが置かれた、日当たりの悪いどころか地下の教室で、エリは牛乳を飲んでいた。……ここは「紅茶を飲んでいた」とでも言いたいところだが、飲めないのだから仕方が無い。せめて麦茶があれば良いのだが。
あの三頭犬に噛まれたスネイプの傷が治ってからも、エリは地下牢教室に通いつめていた。取り合えず、フィルチからの緊急避難所には最適だ。フィルチも、まさかスネイプが生徒を擁護するとは思わないらしい。
冬休みの前日、スネイプはふとエリに聞いた。
「――そう言えば、エリはクリスマス休暇は如何するのかね?」
エリは、コップに伸ばした手をピタリと止める。
「え!? 何!? クリスマスのお誘い!!?」
「天と地が逆になってもそれは無いから安心したまえ」
「あー、うん、ごめんなー。俺、家に帰るんだ。だって、アリスに帰るって約束しちまったし」
「話を聞かんか」
「あと、友達とか彼氏にも――」
「彼氏がいるのか!?」
スネイプは、エリの言葉を遮って聞き返した。
そこまで驚かなくても、という気もする。失礼だ。
「一応ね。マグルにふくろう送る訳にいかないから、入学して以来連絡が途絶えてるけどさ。
――そう言えば、お前は? 結婚ってしてないの? あと、彼女とか。スネイプだけじゃなくって、ホグワーツの先生ってそういうの不明だよな。勝手に皆独身だろうと思い込んでたけど。皆、城に住み込みで働いてるしさ。でも、スプラウトとか子供いそうだよな。マクゴナガルなんて、孫がいてもおかしくないし。どうなんだ?」
「そんな事、聞いて如何する」
「いたら、仕返しに何倍も驚き返す」
エリが間髪入れずそう返せば、「幼稚だな」と鼻で笑われただけだった。
「未婚だ。付き合っている女性もいない。そんなもの必要無い」
「うわー、予想通り。じゃあさ、学生時代は? いくら何でも、思春期に誰も好きな人がいないなんて事は無かっただろ?」
そう問いただすと、スネイプは黙り込んだ。レポートの採点に熱中しているふりをしている。
エリはニヤリと笑った。
「へ〜ぇ? 答えないなら、母さんにでも聞いてみよっかなー。同期だったんだろ?
あ、若しかして、母さんがスネイプの好きな人だったりして!」
冗談のつもりでそう言うと、スネイプが調合していた魔法薬の材料がゴロゴロと音を立てて落ちた。
……え!?
「……」
「……」
居心地の悪い沈黙が訪れる。
スネイプは何でもなかったように材料をかき集め、再び鍋を掻き回し始める。
「……マジで……? まさか今は……あ、うん。関係ないよな。必要の無い詮索だよな。じゃっ!」
恐る恐る問いかけたが、スネイプの無言のオーラに堪えられなくなり、エリは自己完結してそそくさとその場を退却した。
午後の授業が終了すると、エリはハンナ、スーザン、アーニー、ジャスティンと五人で固まって話し込んでいた。クリスマスの日、一緒にダイアゴン横丁へ行こうという事になっているのだ。朝の九時に漏れ鍋で、という事で大体話はまとまった。
「でも、エリは大丈夫かい? 日本とは時差があるだろう?」
「大丈夫! 昼寝でもしておけば、眠くはならないだろうしさ。一度、皆を日本に招待したいなあ……。突然って訳にいかないから、今年は無理だけど。来年の冬休みとかさ、聞いてみるよ」
エリが何の気なしに呟くと、ハンナが首を傾げた。
「冬休み――クリスマス休暇? 如何して?」
「だって、夏休みだとサラがいるじゃんか。冬だったら、サラは学校に残るしさ」
「あら。クリスマス休暇に学校に残る生徒に、サラは含まれてないわよ」
ハンナの言葉に、俺は一瞬、固まった。
学校に残らない……? それでは、家に帰ってくると言うのか。
「マジで!? でも、サラの方も家へは帰りたくないって言って……」
「ええ。家には帰らないみたい。若しかして、知らなかったの? サラ、マルフォイの家に招待されたらしいわよ。二人がそれについて話している所を聞いた子がいるわ」
「へぇ……」
エリはニヤニヤ笑いそうになるのを必死で堪える。
敵対している寮同士の癖に仲が良いとは思ってたが、まさかとは思わなかった。
「じゃあ、ハーマイオニーは両親に聞いてみて。サラは出来れば、マルフォイの家で資料を探してみて。マルフォイの家の人には絶対に聞いちゃ駄目だよ」
ホグワーツ特急に乗る日の朝。玄関ホールでエリはサラを発見した。普段なら絶対自分から近付いて行く事など無いが、この日は違った。
「言わなれなくても分かってるわよ。スネイプの耳に入る危険は冒さない方が――」
サラは不意に口を噤んで、人混みの中をそちらへ向かっているエリの方を見た。
然し、ハリー達はそんなサラの様子にも気づかず、話を続ける。
「貴方達も、図書館で引き続きニコラス・フラメルを捜してね」
「あー、うん。そうするよ」
「僕達が何処でこの名前を見たのか思い出せれば、本当に簡単なんだけど……」
そこまで言って、ハリーはハッとこちらを振り返った。
エリはもう四人の傍まで来ていて、彼らがエリに気づかない筈が無かった。四人は、少し慌てた様子で目配せする。
「何の用? ニヤニヤしながら近付いてきて……気持ち悪いわよ」
サラが、冷静を装って尋ねた。
エリはニヤリと笑う。
「いやぁ……聞いたぜ。サラ、学校に残らないんだってなあ。マルフォイの家に行くんだって?」
「それが?」
サラはエリが言おうとしている事を理解していないのか、それとも開き直っているのか、いつもと同じく冷たく返す。
「まさか、サラとマルフォイがそんな仲だったなんてな。知らなかったなぁ……」
「バッカじゃないの?」
ピシッと固まったエリに、ロンがぷっと笑った。それから、慌てて咳をして誤魔化す。
「ドラコは別に、友達以上の何でもないわよ。ドラコの家のクリスマスパーティーに呼ばれたけど、日本に帰りたくないって言ったら招待してくれたの。ただそれだけよ。そんな色恋沙汰に現を抜かしている暇があったら、少しは勉強したら? しょうも無い悪戯で寮の点数をじりじりと減らしているんだから、授業で少しは稼ぎなさいよ。貴女がグリフィンドールじゃなくてこっちは良かったけど、ハッフルパフには迷惑よね」
エリは言い返そうと口を開いたが、言葉が出てこなかった。何から言い換えそうか、悔しいが言葉が思いつかない。
エリ達の仲が悪いのは既に三人も承知しているから、全く関与しない。
「相変わらず、ムカつく奴!」
結局言葉が浮かばず、エリはそう言うとサラに背を向け、肩を怒らせてハンナ達を探しに行った。
怒りが静まると、今度は疑問が浮かんできた。
四人は、何をあんなに慌てていたのだろう。
四人が捜そうと言っていた人物――ニコラス・フラメルとは、誰だろうか。
Back
Next
「
The Blood
第1部
希望求めし少女たちは
」
目次へ
2007/02/02