東の空が白々と明ける頃。
エリは城の周りを一周してきた所で、校庭の方からサラが歩いてくるのに気がついた。
サラの方もエリに気がついた。だが特に言葉を交わす事もなく、素通りしようとする。
「おい」
サラはピタリと立ち止まる。
「……何?」
エリは、サラが歩いてきた方向を眺めた。遠くにクィディッチ競技場が見え、その向こうは森。森の手前にはハグリッドの小屋がある。――ただ、それだけ。
「こんな時間に、一体何処行ってたんだ?」
「散歩よ」
短く返し、サラは再び歩を進めた。エリはそれ以上、何も話しかけては来なかった。
――私が何をしたって言うの?
毎日考えるけれど、全く心当たりが無い。
何故、三人に避けられるのだろうか。サラが何か気に障る事をしてしまったなら、直接言ってくれればいいのに。
寮生活が息苦しかった。寝室さえも、ハーマイオニーと一緒だから気まずい。
息苦しくて、毎朝、森を散歩するようになっていた。森は静まり返っていて、何の危険も無いように思えた。
きっと、奥の方へ行かなければ大丈夫なのだろう。
No.22
どういう訳か、ハリー、ハーマイオニー、ロンの三人は、クィディッチ試合後から、クィレルをよく擁護するようになった。クィレルに励ますような笑顔を向けたり、クィレルをからかう生徒をたしなめたり。
それとも、クィレルに直接脅された事で、サラが気になってしまっているだけだろうか。
サラがいると、三人ともあまり話さなくなった。当然、サラはその場にい辛くなり、教室移動も一人の事が多くなった。
昼休みや、その日の授業を終えた後は一人ではなかった。
「サラ。これって、どう説明したらいいんだろう?」
「どれ?」
サラは机の反対側から、グレゴリーが取り掛かっている宿題を覗き込んだ。
三人と離れて最初の内は一人だったが、いつの間にかドラコやビンセント、クラッブといる事が多くなった。
場所は図書館。特にグレゴリーは殆ど授業についていっていないようで、彼の宿題を皆で手伝っていると時間は飛ぶように過ぎていった。
勉強と、クィディッチと。ただそれだけで毎日は終わった。
だが、サラにとっては良い事だった。勉強で頭を動かしていれば他の事なんて考えないし、クィディッチの練習で疲れていれば、考え込む余裕も無い。
暇があるとハリー達の様子が気になって、何だか無性に寂しかった。
今グレゴリーがやっているのは、魔法薬学の宿題だった。確かハーマイオニーが、役に立つ資料を持っていた筈だ。
この教科だけは、資料に頼らないと教える事が出来ない。
「ちょっと待ってて。心当たりの資料があるの」
サラは三人にそう言い残し、図書館を出た。
最近は一緒にいないとは言え、別に喧嘩していた頃のように口も利けない状況という訳ではない。若しかしたら、資料を口実に話が出来るかもしれない。
そんな考えもあった。
まずは談話室へ行ってみようと階段を上り、四階まで来た所で三人の気配を感じた。
その方向へと歩きながら、サラは首を傾げる。こっちは、三頭犬が守る扉のある所ではなかったか。
角を曲がればハリー、ハーマイオニー、ロンがいて、皆でそろって突き当たりの扉に耳を当てていた。
「何してるの?」
サラが声をかけると、三人は一斉に飛び上がった。
そしてサラを見てハリーとハーマイオニーが目配せし合う。……何だと言うのか。
ロンは構え、棘のある声で聞いてきた。
「一体、こんな所に何の用だ? この先は、三頭犬がいる廊下しかないぞ!」
「……何って……ハーマイオニーから、本を借りたくて――」
サラの声は段々と尻すぼみになって、消えていった。
どうしてロンがそんな威圧的な態度をとるのか分からず、三人の顔を見て話す事が出来なかった。
ハーマイオニーが、慌ててロンを引っ込ませた。
「そうだったの? ごめんなさい。えーと。何の本? 全部、寮に――」
「いい」
サラはハーマイオニーの言葉を遮った。
「――やっぱり、止めるわ。図書館で、グレゴリーの宿題を教えていたのよ。でも考えてみれば、彼らがグリフィンドール生の本を借りるとは思えないものね。
……じゃあ。私、皆を待たせてるから」
ハリーが何か言おうとしたが、その前にサラはその場を立ち去った。
訳が分からなかった。
如何して。
あの反応は何なのか。
……あの反応が何かなど、分かっていた。あのような反応は、小学校の頃に何度も目にした。
あれは、サラを警戒している反応。サラが今にも、彼らを攻撃するんじゃないかと、怯える様子。
だが、何故今になって。
答えは簡単だ。ハーマイオニーが、サラの小学校での様子を二人に話してしまったのだ。
彼女なら信じられると思ったのに。信じてくれたのだと思ったのに。サラは、裏切りたくないから隠していたのに。
「親友になれる、って思ったのに……」
だが結局、違ったのだ。
あの時は、本当に信じてくれたのかもしれない。けれど、それをハリーとロンに話した。きっと、二人はサラを信用できないと思ったのだろう。ハーマイオニーに、そう言った。ハーマイオニーは、二人の意見に賛成したのだ。
サラは、ここでも独りなのだろうか。
ようやく、自分が「異端者」でない所を見つけたと思ったのに。やり直せると思ったのに。
「サラ?」
突然声を掛けられ、サラはビクッと震えた。
気がつけば、サラは寮とも図書館とも全く違う方向へ来ていた。傍の階段の上にドラコがいた。
「捜したよ。こんな所で、何をしてるんだい? ゴイルの奴、完全に諦めちゃってるよ。今クラッブが見てるんだけど、あいつじゃ意味無いだろうな――」
「来ないで!!」
こちらへ階段を降りてきていたドラコは、目を丸くしてその場に立ち止まった。
――どうせ、貴方も同じなんでしょう。
もう、そんな偽りの優しさなど真っ平御免だ。
それに、サラは他の人達よりも力があるのだ。強いのだ。誰かに頼ったりなど、絶対にしない。
依存なんてするものか。
「どうせ、嘘なんでしょう……?」
サラの声は、震えていた。
「え――?」
「一緒にいてくれるのなんて、ただグレゴリーに勉強を教える為だけなんでしょう!? 私の成績が良くなかったら、私なんてどうでもいいんでしょう!! 『サラがいないなんて、僕が嫌だ』? 偽善もいい加減にして頂戴。そんな上辺だけの言葉、喜ぶとでも思ってんの!? バッカみたい。どうせ、私が過去に何をしていたか知ったら直ぐ『さようなら』な癖に――」
動揺を隠したくて、サラは一気に叫ぶように言った。
ドラコは、その場で固まっている。
視界がぼんやりする。
「……もう、いい加減にしてよ……」
サラは踵を返し、廊下を駆けていった。
サラが向かった先は、ハグリッドの小屋だった。
ハグリッドは、サラを目にすると「ハリー達は一緒じゃないのか」と聞いたが、それ以上は何も聞いてこなかった。
「ロックケーキ、食べるか?」
「ありがとう。でも、もう直ぐ夕食だから」
ハグリッドは残念そうにしながら、紅茶のみを準備する。
「先週はおめでとう、サラ。いいプレーだったな」
「ありがとう。でも、結局一点も入れられなかったわ。スネイプの奴! 副審とか、いた方がいいんじゃないかしら。スネイプの時は絶対必要よ。ほんと、悔しい。ハリーのお陰で買ったようなものだわ。クィディッチは七人でプレーしてるのに」
少し、普段よりも口数が多いかもしれないと思った。
だけど、何か喋っていないと落ち込んでしまいそうだった。
それで、サラは続けた。ふと、クリスマスの事を思い出したのだ。
ポケットから、カードケースに入れておいたあの写真を取り出す。マグル式で現像された写真。学生時代のおばあちゃん、ハグリッド、マートル、眼鏡の女子上級生、東洋系の顔立ちの少年、黒髪で端正な顔立ちの男子生徒。
「これ――ハグリッドから貰ったアルバムに挟まってたみたいなんだけど」
サラがそう言って写真を見せると、ハグリッドはさーっと顔を青くした。サラの手から、引っ手繰るようにして写真を取る。
「す、すまん。他の写真が紛れ込んどったみたいだな。あー、うん。その、あれだ。この写真は、気にするな」
明らかに動揺している。
サラは、差し出された紅茶に手もつけず、身を乗り出した。
「ねぇ、その中で一番大きいのがハグリッドよね? ポニーテールの子がおばあちゃん? すると、他の人達は誰? マートルは分かるんだけど……」
一瞬、ハグリッドの目が泳いだ。
「あー――お前さんのばあさんの、友達だ。それから、アルバムにも載ってたろうけど、日本人の少年がいただろう? あれが、彼女の夫――お前さんの、おじいさんだよ」
「へぇ……」
サラは写真の少年を思い浮かべた。あまりじっくりとは眺めなかったが、すると、ナミは父親似のようだ。髪は母親の色を受け継いでいるが。
「ねぇ、ハグリッド。若しかして、クリスマスに他にも送ってきた?」
「他に?」
「……違うならいいの」
サラは、ポケットからあの鍵を取り出し、机の下で眺めた。
やはり、これはハグリッドからではないようだ。
でも、そうすると誰からなのだろうか。それに、何処の鍵なのだろう。
今この場でハグリッドに何か知らないか聞く事も出来るが、何となくそれは嫌だった。この鍵を、あまり多くの人には知られたくなかった。
暫くクィディッチの事や授業の事を話して過ごした。
ハグリッドの小屋へ来る時既に暮れかけていた日も、完全に沈んだ。窓の向こうは闇に包まれたが、サラは延々と話し続けた。
だが、まだ三十分も経たない内に話題は尽きてしまった。予想通り、ハグリッドは窓の外に目をやって言った。
「もう遅い。サラ、城に帰らんと」
「……」
サラは動かなかった。
ハグリッドは心配そうにサラを覗き込む。
「如何したんだ? 何かあったんか?」
「……別に」
帰りたくない。
結局、ここでもサラは独り。
過去を全て取っ払ってやり直すなんて事は出来ないのだ。やり直すならば、小学校での事を誰にも話してはいけなかった。
トントン、と小屋の扉を叩く音がした。
魔力の気配は、マクゴナガル先生のもの。サラが夕食に現れないから、探しに来たのかもしれない。
ファングが扉に飛びついて吠え立てる。ハグリッドは机を離れ、扉へと歩いていった。
「下がれ、ファング。下がれ」
ファングを押さえつけるのに苦労しながら、ハグリッドは扉を開けた。
そこに立っていたのは、マクゴナガル。
「ハグリッド。シャノンが来ていませんか」
「ええ、サラなら来てますよ。そこに――」
小屋の中を振り返り、ハグリッドの言葉は途切れた。
サラは、もうそこにいなかった。
ハグリッドの小屋の裏口から出たサラは、そのまま森の中を歩いていた。
どうしよう。ホグワーツ城に戻れない。
ハーマイオニー達は、サラを警戒している。寂しさ。悲しさ。それから、これは――罪悪感。
ドラコに嫌われてしまっただろうか。当然だろう。こんな子、誰だってうんざりだろう。
――別に、嫌われたから何だって言うのよ。
嫌われたって構わない。小学校ので慣れてる筈だ。
そう、大丈夫。サラは慣れているから。他の人よりも力があって、強いのだから。
「下等な奴らが何と言おうと、私が気にするような事じゃないわ……」
言って、サラは嘲笑を浮かべようとした。
だが、言った言葉は棒読みだった。顔の筋肉は凍りついたように動かなかった。
雫が頬を伝う。
サラは、その場にしゃがみ込んだ。もう、如何すれば良いのか分からない。如何してこんなにも悲しいのか、理由が全く分からない。
サラはそんなにも、彼らに依存してしまっていたのだろうか。そんなつもり、無かったのに。そんな事は認めない。
サラは暫く、その場に座り込んでいた。
涙が乾いても、サラはそのままぼんやりと座ったままだった。
暫くそうしていると、ガサガサと草木を掻き分けてやって来る音が聞こえてきた。だんだんとこちらへ近付いてくる。サラは涙に濡れた顔をぐいと拭き、杖を取り出し構えた。
やってきたのは、スネイプだった。
スネイプはサラを目にするなり、意地悪く笑った。その笑みを見て、サラは気がついた。
クィディッチ試合後に森へ入っても何も無かったのは、クィレルに呼び出されたからに過ぎない。
でも、今は。
サラは、自分の意思で森へ入った。「禁じられた森」に。校則で禁止されている。
「ほぅ。城では教師達が探し回っているというのに、シャノンはこんな所でそれを嘲笑っていたとは。どうやら英雄・シャノンは、何故この森が立ち入り禁止なのか分かっていないらしい。それとも、どんな魔法生物が現れようと大丈夫だという過剰な自信の為かな?」
サラは杖を握り締めたまま、スネイプを睨み返した。睨んでも、暗さで分からないだろうが。
例えクィレルから賢者の石を守っているとは言え、サラとハリーを憎んでいる事には変わりない。この機会に、多少の呪いはかけようとしても不思議じゃない。
サラが黙っていると、スネイプは更にネチネチと話し続ける。
「――我輩も悪かったのかもしれんな? あのクィレルめと対峙した時、貴様をそれなりに優秀だと認めてしまったから……。もちろん、それは魔力のみであって貴様が優等生であるという訳ではないが。
だが、それだけでも貴様が付け上がるのには充分だっただろう。何せ、奴の子だ」
「『奴』?」
サラは間髪入れず聞き返した。
「貴様の父親だ。そいつも、貴様と同じ傲慢で人の事を全く考えぬ奴だった。どうしようもない問題児だ。先生や仲間に取り入るのだけは上手かったがな」
「……私の実父を知ってるの? 如何して」
「貴様の両親とは同期だ。――左様、ナミが貴様の実母だという事も知っている」
「我が子を捨てた、母親失格の女でしょう」
「子供が知ったような口を利くな!!」
サラが冷たく吐き捨てれば、スネイプは突然怒鳴り散らした。
「貴様のような餓鬼に何が分かる? 何から何まで父親に似た奴だ。親よりも、自分の考えの方が正しいと思い込んでいる。自分は最低な家庭に生まれた、悲劇のヒーロー。そして大人は悪者。何処までも傲慢で嫌な奴だ。一度でも、親の気持ちを考えた事があるのか」
「……貴方こそ知ったような口を利かないで頂戴!!
貴方こそ、何が分かるって言うの!? 大人なら偉い訳? 家族に恵まれて育ったような平和ボケした人間に、そこまで言われる筋合いは無いわ!
黙りなさい。貴方は、私の親でも何でもないんだから!!」
言い過ぎたと気づいた時には遅かった。
表情が見えなくても、スネイプの怒りがひしひしと伝わってくる。
「左様」
スネイプは、猫なで声で言った。
「教師に対する暴言で、グリフィンドールは二十点減点。更に、森に入った事で後日処罰を行う」
サラはもう、何も言わなかった。
スネイプに連れられてホグワーツ城へ戻り、サラは玄関ホールでマクゴナガルに引き渡され、寮へと送られた。
マクゴナガルは本当に心配していたようで、何だか申し訳なく感じた。
殆どの生徒は、サラがいなくなっていた事を知らない様子だった。けれどもハリー達は気づいていたらしく、サラが寮に入ると何か話したそうにじっとこちらを見ていた。それでも結局話しかけて来る事はなく、サラは真っ直ぐ女子寮へと談話室を横切り、寝室へ戻ると着替えもせずにベッドに倒れこんだ。
ハグリッドからのプレゼントに紛れ込んでいた写真よりも。送り主が未だに不明な何処かの鍵よりも。少しだけ分かった父親の事だけが、今のサラは気にかかっていた。
サラの実父は、まだ生きているのだろうか。
若しかしたら、父親は、祖母のようにサラを愛してくれるかも知れない。
そう、思っていた。
翌朝。サラは緊張した面持ちで大広間へと向かった。
ハリー達との距離は、結局変わらない。昨夜も、ハーマイオニーが寝室に戻ってきた時、サラは寝たふりをした。
ドラコ達は、如何だろう。――ドラコは。
如何してこんなに気になるのかは分からない。
だが多分、ハリー達と同じだろう。ただ、ドラコの場合は当り散らしてしまったから気になるだけで。きっとそうだ。
ビンセントやグレゴリーよりもドラコが気になるのは、当り散らした相手がドラコだけだから。ドラコが二人に話したか如何かによって、変わってくるだろうから。……ハーマイオニーと同じように。
早い時間から、サラはグリフィンドールのテーブルの端の席で、ゆっくりと朝食を取っていた。スリザリンのテーブルを見張って、ドラコ達を待つ為だ。
暫くすると、ドラコ達が大広間に入ってきた。ビンセントとグレゴリーは間に一つ席を開けてテーブルに着いたが、ドラコは席に着かなかった。
こちらへやって来る。
何故? 如何してドラコだけなのだろう。二人には言わなかったのだろうか。それでも、こちらへ来るのは如何して?
ドラコは、椅子に座っているサラの横までやって来た。
サラは、動かしていなかったスプーンをテーブルに置き、ドラコを見上げる。
「今日の放課後も、図書室のいつもの席で」
「え……」
「それから、無事で良かった」
そう言うと、ドラコはパッと背を向けてスタスタとスリザリンのテーブルの方へと歩いて行く。
サラは席を立った。
「待って!」
ドラコは、ピタリと立ち止まる。背は向けたまま。
「あの……怒ってないの……? 昨日、私、あんな事言って……勝手に被害妄想膨らませて、酷い事言って……」
ドラコは振り返った。
「怒ってなんかないさ。でも、ショックだった。サラは僕を信用してないんだって」
「ごめんなさい。その……」
「でも、それなら、信用してもらえるようになればいいんだって気がついたんだ。僕は、サラを大切に思ってる。それは本当だからさ」
そう言い微笑むと、ドラコはスリザリンのテーブルへと歩いていった。
サラはドラコの背中を見つめたまま、その場に立ち尽くしていた。
……その笑顔は、反則だ。
「うわっ、ヤベッ!!」
場所はホグズミード、三本の箒。
エリは、ジョージによって机の下に押し込まれた。
「おい、痛ぇな。何すんだよ」
「しーっ。マクゴナガルだ」
フレッドが、声を潜めて言った。エリは慌てて、壁際へと張り付く。
エリは、フレッドとジョージと共にホグズミードへ来ていた。クリスマス休暇前は帰宅準備をする為に断ったから、まだ二回目だ。また一回目みたいに途中でこそこそと帰る事になるのは御免だ。
因みに、一回目がそう言う調子だったものだから、ハッフルパフの仲間は誰もついて来なかった。
「マクゴナガルの奴、誰か捜してるみたいだな」
「まさか、俺!?」
ジョージの言葉に、エリは更に小さくなろうと頑張る。
だが、マクゴナガルが捜しているのはエリではなかった。その直ぐ後、ハグリッドが「三本の箒」に入ってきた。
二人は連れ立って、パブを出て行った。
エリは警戒しながら、顔を机の下から出す。
「何か、妙な組み合わせだな。如何する? 二人共」
フレッドとジョージは全く同じタイミングで顔を見合わせ、全く同じタイミングで口を開いた。
「そりゃあ、当然――」
マクゴナガルとハグリッドの後をつけ、やって来たのは村はずれの空き地だった。周辺は畑と林で、あとはぽつんと小さな家があるだけ。
空き地には、四角い石碑が立っていた。――墓だ。それも、日本風の。
マクゴナガルとハグリッドは花を活け、順番に手を合わせる。
「何だろう、あれ? 何をしてるんだ?」
フレッドが首を傾げた。エリは、あれは日本風の墓だと説明する。
だけど、この二人で一体誰の墓参りだろうか。
二人が何か話しているが、はっきりとは聞き取れない。
マクゴナガルが墓の前にしゃがみ込んだ。そして、何か話しかける。少し話すと、マクゴナガルは立ち上がった。
「マズイ! こっちに来るぞ」
「隠れろ!!」
「こっちだ!」
エリは二人の腕を引き、傍に建った家の、門の中へ引っ張り込んだ。
塀の反対側にへばりつき、息を殺す。二人の声は段々と近付いてくる。
「――彼女も、来られれば良いのに……」
「き、来ても、辛いだけだと思いますだ。あ、あいつは、彼女と同じではねぇんですから」
泣きじゃくるハグリッドの肩を、マクゴナガルは慰めるように叩いた。
「確かに悲しいですよ、ハグリッド。でも、墓参りに来るたびに泣くのはやめなさい。それでは、彼女も心配で安らかに眠れませんよ」
「す、すまねぇ……。でも、やっぱりまだ我慢できねぇ……」
ハグリッドはすすり泣きながら、マクゴナガルも俯きながら、二人は家の前を通り過ぎていった。
二人が見えなくなると、エリ達は家の庭を飛び出し、墓へと駆け寄った。
そこに刻まれているのは、祖母シャノンの名前だった。
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2007/03/10