イースター休暇になっても、サラは三人とは離れたままだった。
ドラコ達と一緒にいるとパンジーが何かと邪魔をしてきたが、クリスマス休暇の時のように意地悪をしてくるような事だけはなかった。パンジーは、ドラコの前でだけは猫をかぶる。
彼らといると、ハリー達に警戒されている事も大して気にせずに済んだ。
エリの方も、父親に関する情報は全く集まらなかった。アリスも同様のようだった。
ウィーズリーの双子と共に悪戯をしたり、地下牢へ通いつめたり、ハンナ達と勉強をしたりと、忙しい日々を送っていた。
あれ以来、サラは森へは入っていなかった。近付いてもいなかった。
そして、約二ヶ月ぶりにハグリッドの小屋へと来ると、ハグリッドはいずれ大きくなるであろう問題を大切に抱えていた。
No.23
「ハグリッド、これって……まさか――本物の?」
「あー、まあ。ちぃっと賭けで勝ってな。昨日の晩に――」
ハグリッドの小屋は全ての窓とカーテンが閉められ、暖炉がごうごうと燃えていた。
その火の中にある卵。
「じゃあ、やっぱりドラゴンなのね!? 凄い……!
でも、ドラゴンって取引禁止品目Aクラスでしょ? どうするの? 見つかったらやばいわよ」
「それはまぁ、そうだが……」
その時、小屋の戸が叩かれた。……ハリー達だ。
サラは気まずい思いで、ハグリッドが淹れてくれたお茶に口をつける。
ハグリッドは「誰だ?」と確かめると、ドアを開け、三人を招きいれた。
三人は、サラが小屋にいるのを見るとびっくりして飛び上がった。ロンが攻撃的に叫んだ。
「如何してサラがここにいるんだ!?」
「ハグリッドに会いに来たからよ。別に、ロンには関係ないでしょう」
ロンは反抗して何か言おうとしたが、ハーマイオニーに止められた。
ハーマイオニーがひそひそと耳打ちする。所々、「サラは知っている」だの「情報を」だのと聞こえてきた。
ハグリッドは三人にお茶を出しながら、サラ達を心配そうに見る。
「何だ? お前さん達、喧嘩でもしちょるんか?」
「別にそんな事ないわよ。ねぇ?」
サラが笑顔を向ければ、三人も作り笑いを浮かべてぎこちなく頷いた。
ハーマイオニーが後押しをする。
「ただ、サラがここにいる事に驚いただけよ。特に待ち合わせていた訳でもないのに、って」
ハグリッドはまだ心配そうにしつつ、さっきサラにやったようにイタチのサンドイッチを薦めた。三人はもちろん、丁重に断った。
ハグリッドも席に着く。そして、ハリーに尋ねた。
「それで、お前さん、何か聞きたいんだったな?」
「うん。フラッフィー以外に『賢者の石』を守っているのは何か、ハグリッドに教えてもらえたらなと思って」
まさかこれが、「サラは知っている情報」なのだろうか。サラに分かっている事は、スネイプとクィレルも関わっているという事だけだ。
当然、ハグリッドはしかめっ面をした。
「もちろんそんな事はできん。まず第一、俺が知らん。第二に、お前さん達はもう知り過ぎておる。だから俺が知ってたとしても言わん。石がここにあるのにはそれなりの訳があるんだ。グリンゴッツから盗まれそうになってなあ――もう既にそれにも気づいておるだろうが。大体フラッフィーの事も、一体如何してお前さん達に知られてしまったのか分からんなぁ」
「ねえ、ハグリッド。私達に言いたくないだけでしょう。でも、絶対知ってるのよね。だって、ここで起きてる事で貴方の知らない事なんか無いんですもの」
三人が罰が悪そうにするのを狙ったハグリッドだが、逆にハーマイオニーに煽てられている。
見るからに機嫌を良くしたハグリッドに、ハーマイオニーは更に追い討ちをかけた。
「私達、石が盗まれないように、誰が、どうやって守りを固めたのかなぁって考えてるだけなのよ。ダンブルドアが信頼して助けを借りるのは誰かしらね。ハグリッド以外に」
ハグリッドは、完全に言いくるめられてしまった。
……これ程にも言いくるめられやすい人が、石に関わっていて大丈夫なのだろうか。
ハグリッドは、卵を手放すつもりは全く無いようだった。サラもドラゴンは見てみたいし、育ててみたいという気持ちも分かる。
だが、現実問題としてそれは無理がある。あの家は木で出来ているし、入手手段も違法だ。ばれたら、どうなる事か……。
それから、三人はどうも何か誤解をしているらしい。サラが石について、三人よりも知っていると。
まさか馬鹿馬鹿しい考えだとは思うが、小学校の事があるから、サラが「賢者の石」を狙っているとでも考えているのだろうか。
過去を消す事は出来ない。それを、痛いほど感じていた。
「報復」なんてしていたから、「悪者」だと思われる。ここまで来ても、警戒される。
でも、それならサラは如何すれば良かったのだろう。
悪い事をすれば、罰が当たるのぐらい当然ではないか。結局、誰も死んではいないのだから何ともないではないか。
サラを排除しようとしたクラスメイト達の方が悪いのだ。
祖母が命を賭して守ってくれた、この命。それをむざむざと捨てる事などしない。攻撃されるだけなど、そんな情けない事は絶対に嫌だ。
角を曲がった所で、サラは誰かにぶつかって尻餅をついた。
「ごめん。大丈夫かい?」
ドラコが手を差し出す前に、サラは立ち上がった。
どうやら、ドラコはサラを探していたらしい。
「大丈夫よ。テスト勉強? 待って。今、勉強道具取ってくるから。いつもの席でいいのかしら」
「ああ」
サラは、グリフィンドール寮へと駆けて行った。
……そうだ。サラには、ドラコ、ビンセント、グレゴリーがいるではないか。
今まで一人だったのだから、ここへ来て友達がいるという事だけでもありがたい事だ。皆と友達になるなんて、高望みをするのは馬鹿げている。
けれど……三人は、小学校でのサラを知らない。
それでも、友達と言えるだろうか。過去を知っても、傍にいてくれるだろうか。
数日が経ち、金曜日の朝、とうとうエフィーがハグリッドからの手紙を持ってきた。
たった一言の手紙。
「いよいよ孵るぞ」
喜べば良いのか、悲しめば良いのか。
見つかれば大変な事になるのは分かっているが、見てみたい、育てるのを手伝いたいという気持ちも少なからずある。
サラは、大きく溜め息を吐いた。
「どうしたんだ?」
顔を上げれば、ドラコがサラの後ろに立っていた。
サラは慌てて手紙を鞄に突っ込む。
「お、おはよう。ドラコこそ如何したの? 態々グリフィンドールの席まで来るなんて」
「別に、特に用がある訳じゃないんだけど……本当に如何したんだ? 最近、何かおかしいぞ。サラ、確か魔力の気配とか分かるんだよな? それなのに、この間も角を曲がった所でぶつかったし、今だって――」
「ああっ! 私、スプラウト先生に呼ばれてるんだったわ! 早めに行かなきゃ!!」
ドラコの言葉を遮り、サラは鞄を引っつかむと席を立って大広間を逃げ出すように出て行った。
薬草学の授業が終わると、サラは直ぐにハグリッドの小屋へと向かった。
既に、ハリー、ハーマイオニー、ロンの三人は来ていた。三人は目配せをし合ったが、特に何も言わなかった。
卵はテーブルの上に置かれていた。深い亀裂がいくつも入っていて、中で何かが動いているのが分かる。
サラはハグリッドの隣の席に座り、四人と同じように卵を覗き込んだ。
突然、黒板を引っ掻くような音がして、サラは思わず耳を塞いだ。そうしながらも、身を乗り出す。
卵は某昔話の果物のようにパックリと割れ、ドラゴンの赤ちゃんがテーブルに投げ出されるように出てきた。
華奢で真っ黒な胴体。それを包み隠せそうなほど巨大な、でもやはり骨っぽい翼。まだ小さく、瘤のようでしかない角。橙色の大きな目。
赤ちゃんドラゴンはくしゅんとくしゃみをした。火花がパチパチと飛び散る。
「可愛い〜っ!」
サラは思わず声を上げる。ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人が一斉にこちらを見たが、その表情にまでは気がつかなかった。
ハグリッドは嬉しそうに頬を緩ませた。
「な? 素晴らしく美しいだろう?」
そう言って、手を差し出してドラゴンの頭を撫でようとした。
すると、ドラゴンはまだ赤ん坊ながらも尖った牙を見せ、ハグリッドの指に噛み付いた。
……やはり、育てるのは無理だと感じた。だが、ハグリッドは違うようだ。
「こりゃ凄い、ちゃんとママちゃんが分かるんじゃ!」
「ハグリッド。ノルウェー・リッジバッグ種って、どれくらいの速さで大きくなるの?」
ハーマイオニーが心配そうに聞いた。
でも、その通りだ。そのタイム・リミットが来る前に、何とか手を打たなければ。
ダンブルドアに話して、フラッフィーと同じように石の守りに使う事は出来ないだろうか。ただ、入手ルートを問われたらダンブルドアまでまずい事になってしまうが……。やはり、野生に返すしかないのだろうか。でも、それなら何処へ? 適当な所で放置してしまったら、それこそ大問題になってしまう。
ハグリッドはハーマイオニーの質問に答えようと口を開いたが、さーっと顔色を青くし、弾かれたように立ち上がった。窓際に駆け寄り、外を眺める。
「如何したの?」
「カーテンの隙間から誰か見ておった……子供だ……学校の方へ駆けて行く」
サラは急いで窓際へ駆け寄った。見覚えのあるプラチナブロンドが、城へと駆けて行く所だった。
間違いない。ドラコだ。
その日の放課後から、ドラコがハグリッドの事を持ち出す気配があれば、サラは話を遮り、逸らした。
そうでなくても、暇さえあればハグリッドの小屋へと行った。ハリー達も一緒に行動するようになった。
「外に放せば? 自由にしてあげれば?」
「駄目よ! それならもっと遠くへ運ばなきゃ。こんな所で放したら、大問題になるわ」
「それに、そんな事したら死んじまう。こんなにちっちゃいんだから」
ハグリッドのドラゴンへの執着は、病的だった。
この一週間で、ドラゴンは三倍にも成長していた。如何考えても小さいとは言えない。そりゃあ、ドラゴンにしては小さいかもしれないが……。
ハグリッドはドラゴンの世話に忙しく、本来するべき家畜の世話も禄にしていなかった。ブランデーの空き瓶や鶏の羽がそこら中に散らかっている。
「この子をノーバートと呼ぶ事にしたんだ」
ハグリッドは、潤んだ目でドラゴンを見つめる。
「もう俺がはっきり分かるらしい。見ててごらん。
ノーバートや、ノーバート! ママちゃんは何処?」
サラは溜め息を吐く。
「私、鶏小屋の掃除でもしてくるわ……」
サラは部屋の隅へと行き、箒やちりとりを持つ。
ハリーが、ハグリッドを現実に引き戻そうと大声で話していた。
「ハグリッド、二週間もしたら、ノーバートはこの家ぐらいに大きくなるんだよ。マルフォイがいつダンブルドアに言いつけるか分からないよ」
「そ、そりゃ……俺もずっと飼っておけんぐらいの事は分かっとる。だけんどほっぽり出すなんて事は出来ん。如何しても出来ん」
サラはもう一度溜め息を吐き、小屋を出ようと扉を開けた。
その時、ハリーが突然叫んだ。
「チャーリー!」
サラは「は?」と室内を振り返る。
どうやらロンに話しかけたらしい。ロンも眉を顰めている。
「君も狂っちゃったのかい。僕はロンだよ。分かるかい?」
「違うよ――チャーリーだ、君のお兄さんのチャーリー。ルーマニアでドラゴンの研究をしてる――チャーリーにノーバートを預ければいい。面倒を見て、自然に帰してくれるよ」
「名案! ハグリッド、どうだい?」
ハグリッドはとうとう、ノーバートを手放す事に同意した。
「ああ、もう。何やってんのよ……!」
サラは大きく溜め息を吐いた。最近、溜め息ばかり吐いている気がする。
ノーバートは、今週の土曜日にチャーリーが来て預ける事になった。
然しロンがノーバートに噛まれ、医務室行きとなってしまったのだ。それだけでは無かった。
チャーリーからの手紙を挟んである本を、ドラコが持っていってしまったというのだ。
ロンは言い返そうとしたが、マダム・ポンフリーがやってきて「ロンは眠れなくてはいけないから」とサラ達三人を病室から追い出してしまった。
「今更計画は変えられないよ」
ハリーは緊張した面持ちでそう言った。
「チャーリーにまたふくろう便を送る暇は無いし、ノーバートを何とかする最後のチャンスだし。危険でもやってみなくちゃ。それにこっちには透明マントがあるって事、マルフォイはまだ知らないし」
サラは、ぴたりと立ち止まった。
二人は怪訝そうに振り返る。
「私、ドラコに頼んでみるわ。ハグリッドの事、土曜日の事、誰にも言わないでって……行ってくる!」
サラは二人に背を向け、駆け出した。
ドラコは何処にいるだろう。
まず、図書館へ行ってみよう。宿題をしている可能性が最も高い。
そこにいなかったら、何処だろう。
湖の辺り? 中庭? スリザリンの談話室だったら、会う事が出来ない……。
図書館に到着する前に、サラは向こうから歩いてくるドラコに出会った。
二人は、お互いに駆け寄った。
「……話があるの」
「調度良かった。僕も、サラに話があるんだ。――これの事で」
ドラコは、ポケットから折り畳まれた紙を取り出し、広げて見せた。
それは、チャーリーからの手紙だった。サラは慌てて手紙を両手で隠し、辺りをきょろきょろと見回す。
大丈夫だ。周りに人はいない。
サラは、再びドラコに向き直った。
「私の話も、それよ。お願いしたくて。その事……誰にも言わないで。お願い」
サラは深々と頭を下げた。
そして只管に祈る。誰にも言わないで。ばれたら、ハグリッドは首切りでは済まないかもしれない。ノーバートは、処分されてしまうかもしれない。
「……分かった。この事は黙っておく事にするよ」
予想外に、ドラコはあっさりと答えた。
サラは驚いて顔を上げる。
「でも、条件がある。……土曜日の夜、サラは同行しないでくれ」
「……え?」
訳が分からず、きょとんとしてドラコを見上げる。
「出来れば、もうこれ以上この事には関わるな。それが条件だ」
「どうして――」
「サラは、あまりにも抱え込みすぎてる」
ドラコは傍の壁に寄りかかる。
「だって、ポッターやグレンジャーと何があったのかは知らないけど――でも、何かあったんだろう? それだけでも随分応えてる様子だったのに、その上、ドラゴン騒動だなんて。
どうして僕に相談してくれないんだ? ……サラは、独りで抱え込み過ぎだ。もっと、人を頼っていいんだ」
ドラコは顔を上げ、こちらを向いた。
サラは目を伏せる。
嫌だ。やめて。
そんな事、言わないで。
頼ってしまいそうになる。期待してしまいそうになる。
弱くなんて、なりたくないのに。
「――条件は、呑むわ。
でも、私は大丈夫よ。ハリー達なんて気にしてないもの。気にして無いのに、相談のしようがないわよ」
土曜日の夜。
ハリーは、どん底に突き落とされたような思いで寮へと帰ってきた。
ハーマイオニーだけでなく、ネビルも一緒だった。マルフォイがネビルにも今日の事を話していたのだ。そして、三人は五十点も減点されてしまった。一人につき、五十点だ。
談話室へと帰ってくれば、暖炉の傍の椅子に腰掛け、サラが眠っていた。待っている内に眠ってしまったのだろうが、ハリーは腹が立った。
いい気なもんだ。マルフォイに出された条件だか何だか知らないが、サラは何も関わらず、今日もこうしてここでぐっすりと寝ていて――
叩き起こしてやろうと、サラの方へと歩み寄った。
肩を叩こうとした時、サラが寝言を呟いた。
「……おばあ……ちゃん……」
それだけなら、気にしなかった。
サラの目から、一筋の涙が流れていた。
サラへの八つ当たりのような怒りも、サラを警戒していた事も、全て吹き飛んだ。
サラは、ハリーと違って母親がいる。だけど、嫌われている。
唯一サラを大切にしてくれていた祖母は、殺されてしまったのだ。それはまだ、六年前の事。
ハリーの両親が殺されたのは、ハリーが一歳の時。両親の記憶も無いが、両親が殺された時の記憶も殆ど無い。
だが、サラの祖母が殺されたのは、サラが六歳の時だ。その上、サラはその現場を目撃している。それが、どんなに辛い事か。
「ハリー。サラ、起きた?」
沈んだ声のハーマイオニーが聞いてきた。一緒に戻ろうと考えているのだろう。
ハリーは首を振った。
「ううん。――仕方ないから、そっとしておこう」
ハリーは自分の上着をそっとサラにかけると、その場を後にした。
日曜日の朝。玄関ホールの大きな砂時計の所に、人だかりが出来ていた。
エリとハンナは顔を見合わせる。
「何だろう?」
「さあ……」
二人は、人垣の一番後ろへと歩いていった。
エリは背伸びをして前を見る。目を疑った。
「如何したの? 何があるの、エリ?」
「何だ、あれ……グリフィンドールの点数が、一晩の内にかなり変わってる。最下位になってるぜ」
「何ですって!?」
エリは唖然としていた。一体、何をしたらこんなに点数が減ると言うのか。
ハンナは、ぴょこぴょこと跳ねて前を見ようと頑張っていた。
大広間に入る前に、噂は伝わってきた。
「ハリー・ポッターが、あの有名なハリー・ポッターが、クィディッチの試合で二回も続けてヒーローになったハリーが、寮の点をこんなに減らしてしまったらしい。
何人かの馬鹿な一年生と一緒に」……と。
その日から、ハリー達は皆の嫌われ者になった。
今日も、薬草学の授業で温室に入ってきたハリー達は、出来る限り目立たぬようにしようと小さくなっていた。
それでもやっぱり、皆そちらへ視線が行く。
エリの隣で、アーニーがぶつぶつと文句を言った。
「まったく。せっかく、スリザリンから寮杯が奪われると思ったのに。台無しだよ」
ジャスティンも、アーニーの言葉に頷く。
「本当ですよ。調子に乗ってたんじゃないか、皆に賞賛されて」
「おい、二人共――」
止めようとしたその時、グリフィンドールの生徒が、二人のように声を低くする事さえせず、おおっぴらに言った。
「あーあー。一気に百五十点も減るなんて、本当に前代未聞だよな」
「有名なら何をしたって構わないとでも思ってるんじゃないか? どんだけ自分勝手なんだか!」
寧ろ、声を低くしている方が少数派だった。皆、態とハリー達に聞かせるように悪口を言っていた。
エリの中で、何かが切れた。
「いい加減にしろ!!」
どん、と拳で机を叩き、椅子を蹴って立ち上がった。
「調子こいてんのはどっちだ、あ゛あ? 自分勝手なのはどっちだ!!
他力本願もいい加減にしろよ。それじゃ、あんたらは何をしたってんだよ? グリフィンドールの点数は、あんたらだけで稼いだ点数なのか? 減点されたのは、ハリー達だけなのか?
それに、なんでハッフルパフまで文句言ってんだよ。スリザリンを蹴落としたいんなら、自分達が勝ちゃあいい事だろーが。
スリザリンを蹴落とす役割を、グリフィンドールに、ハリー達に押し付けやがって……。なんでハリー達が責められなきゃいけねぇんだよ!? 自分がやりゃあいいだろ!!」
対角線上の席に一人で座っているサラと目が合った。
サラは無表情で、じっとこちらを見ていた。
皆、皆そうだ。全て他人に押し付けて。思い通りにいかなければ、特定の人に責任転嫁して総叩き。
うんざりする。
授業中、エリは誰とも口を利かなかった。
授業のベルが鳴っても、エリはのろのろと片付けをしていた。アーニーとジャスティンは、気まずそうにそそくさと立ち去った。
ハンナが、気遣うように声を掛けてくる。
「……あの、エリ? 早く行かなきゃ……次は、魔法薬学よ……」
「ごめん、先行ってて」
ハンナとスーザンは目配せし合い、頷いた。
「それじゃあ、先に行くわね」
二人が出て行って少ししてから、エリは温室を出た。
そこには、ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人がいた。
ハリーが、照れくさそうに前に出た。
「えっと……さっきは、ありがとう」
「私も。ありがとう、嬉しかったわ」
エリはニヤリと笑った。
「お前らも馬鹿だよな。真夜中に抜け出したんだって? 変な言い訳なんかしなけりゃいいのに。
つーかさ、見つからないようにやれって。ちゃんと逃走経路準備してからさ」
三人は、ぽかんとして顔を見合わせた。
「……そういう問題かい?」
「そういう問題」
三人の表情が、少し緩んだように見えた。
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2007/03/17