眼下に広がる白い雲海。
眩いほどの白熱の太陽。
透き通るほど青く明るい空。
ハリーとロンが笑い合い、空中飛行を楽しむ中、サラは後部座席で俯き、黙り込んでいた。外の景色にも目をやらない。
やはり、諦めてはいなかった。まさか、ホームへの入り口を閉ざすなんて。
簡単に予測出来た筈だ。それなのにショックを受けたのは、油断していたからに他ならない。
信用なんて出来ない。
油断してはいけない。
いつ、何時でも、敵意に対応出来なくてはいけない。
でも、何が悪かったのだろう。
ドラコは、どうして――
No.38
暗い小道を歩き、ボートで湖を渡り、ホグワーツ城へと着いたアリス達は、大広間の隣の小部屋でマクゴナガルが戻ってくるのを待っていた。
ジニーは、アリスの隣に立ち、落ち着かない様子で自分の赤毛を弄んでいる。他の生徒達の顔にも、不安の色が伺える。
アリスも決して不安でない訳ではない。だがそれを表面には現さず、辺りの様子を伺っていた。
「ねぇ、アリスは何処の寮に入りたい?」
ジニーは不意にアリスの方を振り返り、尋ねた。ずっと黙り込んでいると、緊張で息が詰まってしまいそうだ。
アリスは「そうねぇ……」と考え込む。
「何処もいいと思うの――もちろん、スリザリンも。特に嫌な寮は無いわ。
でもやっぱり、グリフィンドールやハッフルパフはいいなって思う。グリフィンドールならサラがいるし、ハッフルパフならエリがいるし。その二つの寮は、二人から話を聞いてるもの
ジニーは?」
予想はついていたが、アリスは尋ね返した。
アリスの予想が外れる事は無かった。
「グリフィンドールに入りたいわ。あたしの家族、皆そこなのよ。あたしだけが別の寮に入る訳にもいかないし……もちろん、それだけじゃなくて、純粋に入りたいと思ってる訳だけど。だって、凄く楽しそうなんだもの。ハリーとサラもいるし……。
ねぇ、サラって、家ではどんな感じなの? 彼女を嫌ってるエリに聞く訳にはいかないし。アリスは、サラを嫌っていないんでしょ? 中立的な立場からの話も聞きたいなって思って」
「自分の姉を言うのもあれだけど、素敵なお姉ちゃんよ。結構照れ屋な部分があるけど。
ほら、去年の夏にエリが隠れ穴に迷い込んだじゃない? サラ、何だかんだ言ってエリの事、心配してたみたいよ。じゃなきゃ、帰ってきてもスルーに決まってるもの。エリは全く気づかなかったみたいだけど。
よく分からないのよね、あの二人。嫌い合ってる割には、お互いの事、こっちが羨ましくなるぐらい分かり合ってたりするし。似たもの同士だからかしら」
「似てる? エリとサラが?」
ジニーは「何処が?」とでも問いたげに繰り返す。
アリスはこくりと頷いた。
「似てるとこあるわよ、意外と。要領が悪い所とか、意地っ張りな所とか。やっぱり双子だからかしらね。貴女のお兄さん達には及ばなくても、双子って何処かしら共通した部分があるみたい」
「へぇ……」
「……ね、ジニーは恋をした事ってある? 好きな人とか、いる?」
突然のアリスの質問に、ジニーは耳まで真っ赤になった。
「な、なななな何で!?」
この様子だと、どうやらいるようだ。
だが、アリスはそれに気づかぬふりをする。
「あたし、小学校じゃ全くそういう事に縁が無かったのよね。エリは、今のあたしより一つ下の年で彼氏がいたってのに。
無理に誰かとつき合おうとは思わないけど……でもやっぱり、恋愛とかもしてみたいじゃない?」
ジニーは返事をしなかった。
何か言おうと口を開いては、思いとどまるように口を閉じる。話そうとしては躊躇う、落ち着きの無いその様子に、アリスは首を傾げる。
「なあに? どうしたの?」
「……その……もし、『もしも』だけど。
もし、誰かを好きになったとするわよ。それで相手が年上の場合、あたし達みたいな子供って、相手にしてくれるかしら……」
ジニーが恋をしている相手は、年上なのだろうか。
「年齢差や、その人との親しさによって変わってくるんじゃないかしら。二、三年程度なら充分に可能性有だと思うわよ」
「……本当?」
「ええ。うちの両親は仕事で同期って事がきっかけだからタメだけど、友達の所は多少の年齢のずれぐらい普通にあったわ。中には、七つぐらい違う所もあったわね」
ジニーの表情が僅かに明るくなったのが分かった。
やはり、相手は年上らしい。一体、誰だろうか。
「サラ達を探して列車を回っただけでも、カッコイイ男子って結構いたわよね。もちろん、顔だけじゃなくて雰囲気もって事だけど。
最後の方に会った、エリの先輩のセドリックとか。あと、スリザリンの――名前は聞かなかったけど、寡黙な感じでクールな人がいたじゃない?」
話しながら、アリスはジニーの表情を伺う。
やはり、ジニーが知っていると言えばグリフィンドール生だろうか。
「三年生のコーマック・マクラーゲンって人も、あの話が本当なら尊敬するわ。ただ、自分で言っちゃう所が痛いけど。
フレッドやジョージと一緒にいたリー・ジョーダンも、面白くていいわよね。
ネビルも、頼りないけれど結構可愛いわ。
ハリーはどんな人なのかしら。サラからもエリからも話を聞くけれど、まだちゃんと話した事が無いのよね……」
煽りは成功した。
ハリーの名前を出した所で、ジニーは明らかに動揺を見せた。
「でも、その――良くないわ。そんな移り気なんて……」
「あたしは別に、ただこんなカッコイイ人達がいたわよね、って言ってるだけよ?
大丈夫。心配しなくても、一目惚れなんて誰にもしなかったもの。内面を知らない限り、恋愛対象にはならないわ」
アリスは微笑んで言う。
そこへ、マクゴナガルが戻ってきたのだった。
「……ねぇ、君、アリス・モリイって言うんだよね? モリイって……サラ・シャノンを預かっている家の子?」
教師達の席の前に、生徒の方を向くようにしてズラリと椅子が並んでいる。一年生は全員、そこに腰掛けていた。
ちょうど組分け帽子の歌が終わり、組分けが始まった時だった。アリスの隣に座った、小さな少年がアリスに尋ねた。サラと良い勝負なのではないかと思う身長だ。
アリスは頷く。
「ええ、そうよ。サラはあたしの姉だわ」
男の子は目を輝かせた。
「僕、コリン・クリービーって言うんだ。ねぇ、お願いできないかな――僕、サラやハリーと話してみたいんだ……」
「ええ。機会があれば――」
「本当? 約束だよ?」
「クリービー・コリン!」
名前を呼ばれ、コリンはアリスに「絶対だよ!」と念を押しながら前へと進み出た。
アリスは帽子を被るコリンに目をやり、そして大広間全体を見渡す。
大勢の生徒が、帽子を被る新入生に注目している。帽子がグリフィンドールの名を叫んだ。途端に、グリフィンドールの席に拍手が沸き起こる。
ふと、アリスは窓から覗く頭が三つある事に気がついた――ハリー、ロン、サラの三人だ。それでは、間に合ったのだろうか。でも、何処にいたのだろう? 何故、あんな所にいるのだろう?
三人は何やら興奮して囁き合っている。あのサラでさえ、嬉しそうな表情だ。
しかし、突然サラの表情が凍りついた。ハリーとロンをを何やら急かしているが、二人はきょとんとするばかりだ。
サラが焦っている理由は、間も無く分かった。窓の向こうに、もう一人の人物が現れた。恐らく、教師だろう。ハリーとロンも凍りつき、三人は蒼白な顔で、彼に続いて窓の枠から消えた。
「モリイ・アリス!」
名前を呼ばれ、席を立った。前へ出て、帽子の置いてある席へと向かう。
「アリスー!」
エリは大きく手を振りながら、アリスの名を呼ぶ。
アリスは振り返り、笑みをこぼして小さく手を振った。緊張の為か、いつもの笑顔よりも少し硬い。
アリスは椅子に座った。何百という目が、アリスを注目している。
注目を浴び、一気に不安と恐怖が押し寄せてきた。
サラも、エリも、特別だ。優秀の度合いが、並大抵ではない。姉二人に比べれば、自分は明らかに凡人なのだ。
この大広間にいる人々全員が、サラやエリのように特別な気がしてきた。自分は場違いな気がしてしまう。
そうだ。ダンブルドアは言っていた。エリが、自分が魔女だという話を疑った時だ。――エリも、何か奇妙な事が周りで起こらなかったか、と。
アリスはそんな事、全く身に覚えが無かった。サラの周囲の現象があまりに突飛過ぎたからではないかと必死に記憶を思い起こすが、それでも思い出せない。
どうしよう。アリスは、魔女ではないのではないだろうか。手紙が来たのは、何かの手違いだったのかもしれない。何処の寮にも入れず、家へ帰される事になるかもしれない――
不安を無理矢理追い払うように、アリスはグッと帽子を深く被った。
途端に、帽子の内側で声がした。
「ほぅ……今年も、ナミの子がいるのだね」
アリスはおずおずと尋ねる。
「あたし……ちゃんと、何処かの寮へ入れますか?」
「当然じゃ。何も心配すべき事は無い」
「それじゃあ、希望を聞いてくれますか!?」
帽子が次の言葉を言う前に、アリスは意気込んで尋ねた。
「ふむ……どういう希望かね?」
「――グリフィンドールと、ハッフルパフ。この二つの寮以外にして下さい」
アリスは、落ち着き払って言った。
もう嫌なのだ。二人と比べられるのは。
比べて馬鹿にされる訳ではない。それでもやはり、二人がいれば、アリスがどんなに頑張って優秀な成績を取ろうとも、霞んでしまう。アリスが一番になる事は無い。
二人の傍にいる限り、アリスはいつまでも二人のオマケのままなのだ。
「なるほど……。
では、君はスリザリンになるが、良いかね? 確かに私も、君はグリフィンドールよりもそちらの方が適していると思う」
スリザリン。グリフィンドールと敵対する寮。グリフィンドールだけでなく、スリザリンは他の寮から孤立している。
スリザリン生以外からのイメージは、マイナスからのスタートとなる。
帽子は黙って、アリスの返事を待っている。アリスは、意を決し、答えた。
「……ええ。構わないわ」
「それでは、決定しよう。
君は――
――スリザリン!」
「嘘だろ!?」
フレッドとジョージは、声を合わせて叫んだ。リー・ジョーダンは振り返り、ハッフルパフの席にいるエリを探す。ハーマイオニーは息を呑む。ジニーは思わず身を乗り出した。
「ちょっと、如何いう事!? だって、そんな――あの子がスリザリンなんて――」
ハンナは、唖然としているエリの肩を激しく揺らす。スーザンは、目を真ん丸に見開いてエリの妹を見つめている。アーニーとジャスティンは互いに顔を見合わせ、そしてスリザリンの席へ向かうアリスをまじまじと見る。
ドラコは衝撃を受けたような顔でアリスを目で追っていた。
アリスは誰に目をくれる事も無くスリザリンの席へと向かい、空いている席に腰掛けた。
ハリー、ロン、サラの三人は、スネイプの研究室で俯き押し黙っていた。
ウィーズリー氏のフォード・アングリアは、最後の最後で力尽きた。城への激突を逃れたものの、代わりに暴れ狂う柳の気へ激突。ボコボコに殴られながら、三人は必死の逃走を試みた。何とか命は助かったが、三人とも傷や痣だらけ、ロンの杖は折れ、車は森へと去って行った。
退学は免れた。いるだけで三人の寿命を縮めるスネイプも、ダンブルドアに連れられて出て行った。だが、マクゴナガルの怒りは変わらず、ひしひしと三人を責め立てる。
「ウィーズリー、貴方は医務室に行った方が良いでしょう。血が出ています」
「大した事ありません」
ロンは慌てて、瞼の切り傷を袖で拭った。
「先生、僕の妹が組分けさせる所をみたいと思っていたのですが――」
「組分けの儀式は終わりました。貴方の妹はグリフィンドールです」
「あぁ、良かった」
「グリフィンドールと言えば――」
「先生、僕達が車に乗った時は、まだ新学期は始まっていなかったのですから、ですから――あの、グリフィンドールは、減点されない筈ですよね。違いますか?」
ハリーが、マクゴナガルの言葉を遮って尋ねた。そして、心配そうに顔色を伺う。
マクゴナガルは射るような視線をハリーに向けたが、それまで程厳しい表情ではなかった。
「グリフィンドールの減点は致しません」
三人は、ほーっと息を吐いた。
また去年のような事になるのではないかと恐れていたのだ。
「ただし、三人とも罰則を受ける事になります」
これだけで済むならば、想像していたよりもましだった。ダンブルドアからの手紙については、夏に返った時にネチネチと嫌味を言われるかもしれない。だが、それぐらいいつもと変わらぬ事だ。
マクゴナガルは杖を振り、スネイプの机に料理を出した。サンドイッチの大皿、三つのゴブレット、冷たいカボチャジュースのボトルだ。
「ここでお食べなさい。終わったら、真っ直ぐに寮へお帰りなさい。私も、歓迎会の方に戻らなければなりません」
マクゴナガルが扉を閉めて行ってしまうと、ロンは低く長い口笛を吹いた。それから、サンドイッチをいくつか掴み取る。
「もう駄目かと思ったよ」
「僕もだよ」
「だけど、僕達って信じられないぐらいついてないぜ」
ロンは、口に食べ物が入ったままモゴモゴと言った。
「フレッドとジョージなんか、あの車を五回も六回も飛ばしてるのに、あの二人は一度だってマグルには見られてないんだ」
ロンは一気に飲み込み、次のサンドイッチにかぶりついた。
「私、アリスが何処の寮に入ったか聞きそびれたわ」
サラは、カボチャジュースのおかわりをゴブレットになみなみと注ぎながら言った。
「ハーマイオニーが教えてくれるさ。でもきっと、グリフィンドールじゃないかな――じゃなけりゃ、レイブンクローだ。君とエリの話に聞く限りだとね。
だけど、どうして柵を通り抜けられなかったんだろう?」
ハリーは肩を竦め、分からないと示した。
続いて、ロンはサラに目を向ける。
「……分からないわ」
恐らく、ドビーの仕業だろう。ドラコは諦めていなかったのだ。
「だけど、これからは僕達、慎重に行動しなくちゃ。――サラ、そのカボチャジュース取って」
サラは手元にあったボトルを、ハリーの方へと渡す。
ハリーは、ジュースをゴブレットに注ぎながら呟いた。
「歓迎会に行きたかったなぁ……」
「私は嫌よ。遅れて行くなんて、注目を浴びるだけじゃない」
「うん。マクゴナガル先生は、僕達が目立ってはいけないと考えたんだ。車を飛ばせて到着したのがカッコイイなんて、皆がそう思ったらいけない、って」
ロンも、神妙な様子で賛同した。
空になっても後から後から現れるサンドイッチを食べたいだけ食べ、三人はトボトボとグリフィンドール塔へ向かった。歓迎会は終わったらしく、城は静まり返っている。ホグワーツへ帰ってきた。だが、サラはあまり愉快な気分ではなかった。
しんとした廊下をいくつも通り、三人は寮への入り口が隠されている廊下へ辿り着いた。
「太った婦人の肖像画」の前まで三人が行くと、婦人は合い言葉を尋ねた。言おうにも、三人とも口ごもってしまう。三人はまだ、グリフィンドールの監督生に会っていない。当然、新しい合言葉も知らない。
だが、特に問題は無かった。背後から、ハーマイオニーが駆けて来る。
「やっと見つけた! 一体、何処に行ってたの!? 馬鹿馬鹿しい噂が流れて――誰かが言ってたけど、貴方達が空飛ぶ車で墜落して、退校処分になったって」
「ウン、退校処分にはならなかった」
「まさか、本当に空を飛んでここに来たの!?」
ハーマイオニーは今にも説教を始めそうな剣幕だ。
「お説教はやめろよ」
ロンは苛々した調子で言った。
「新しい合言葉、教えてくれよ」
「『ミミダレミツスイ』よ。でも、話を逸らさないで――」
ハーマイオニーの言葉は遮られた。
肖像画が開くのを、割れんばかりの拍手が待っていたのだ。
グリフィンドール生は全員起きているらしい。談話室は人でいっぱいで、テーブルや椅子の上に立ち上がって三人の到着を待っている者もいた。
肖像画の穴の方へと腕が何本も伸びてきて、ハリー、ロン、サラを部屋の中へ引っ張り込んだ。ハーマイオニーは取り残され、自分で穴をよじ登って後に続いた。
歓迎会に出席しなくても、注目を浴びる事は避けられなかったようだ。話した事の無い上級生まで、三人を褒め称えてくる。
「おい、なんで俺達を呼び戻してくれなかったんだよ?」
フレッドとジョージが人混みを掻き分けて来て、口を揃えて言った。ロンは決まり悪そうに笑いながらも、顔を紅潮させている。
ハリーが、サラとロンの脇腹を小突いた。何事かと尋ねる間も無く、直ぐに分かった。ハリーが示した先を見れば、パーシーがこちらへ近付いてきている。
「ベッドへ行かなくちゃ――ちょっと疲れた」
ロンはそう言い、ハリー、サラと共に部屋の奥へ向かった。
「……健闘を祈るよ」
男子寮と女子寮へ別れる間際、ロンはサラに言った。
ハーマイオニーは当然、サラの方へ来ようとしている。
「おやすみ」
ハリーがハーマイオニーに呼びかけた。
説教し足りない分は全て、これからサラの方へと来る。
部屋に戻り、真っ先に後に続いてきたのは、当然の如くハーマイオニーだった。
「サラも付いていながら、何をしてるの!? 貴女、何をしたか分かってる? どんなに心配したか――」
「仕方ないじゃない。ホームへ入れなくなってしまったんだもの」
「でも、他に方法はあるでしょう! 学校へ手紙を出すとか、誰かが戻ってくるのを待って後から行くとか」
「それより、歓迎会はどうだった?」
「話を逸らさないで。そんな馬鹿馬鹿しい事をするだなんて。貴女達、若しかしたら退校処分になったかもしれないのよ――」
「アリスは何処の寮に入ったの? グリフィンドールにはいないみたいだったけど」
サラの問いに、ハーマイオニーはピタリと口を閉ざした。
目を泳がせ、困惑したような表情だ。
「……何処だったの?」
「――スリザリンよ」
「そんな、まさか!!」
サラはショックを受け、ハーマイオニーに今にも掴みかかりそうな勢いで迫り来る。
「冗談でしょう? だって……スリザリンは、死喰人をたくさん排出した寮だって――」
「ええ。歴代の闇の魔法使いは、殆どがスリザリン出身だわ」
サラは自分の髪をぐしゃりと掴み、すとんとベッドに腰掛けた。
「嘘よ……だって、そんな……アリスが……?」
「何も、スリザリンだからって必ずしも死喰人になる訳じゃないわ」
祖母は死喰人に殺された。サラはその現場にいた。詳しく思い起こすことは出来ずとも、憎しみは変わらない。
親しくなかったとは言え、サラの祖母はアリスの祖母でもあるのに。
だが、サラも帽子にスリザリンを薦められたのだ。帽子はサラをスリザリンに入れたがっていた。サラほどスリザリン向きの生徒は、今までに一人しかいなかった――そんな風にも言った。
何故、自分達はスリザリンなのだろう。
「ごめん……私、もう寝るわ」
サラはふらふらと立ち上がり、カーテンを閉め靴を脱ぐと着替えもせずに布団を被った。
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2007/07/01