ハーマイオニーは、大広間を出た所で二つのチョコレートケーキを差し出した。
ハリーが困惑顔でケーキを受け取る。
「簡単な眠り薬を仕込んでおいたわ。貴方達はクラッブとゴイルがこれを見つけるようにしておけば、それだけでいいの。あの二人がどんなに意地汚いかなんて知っての通りだから、絶対食べるに決まってる。
眠ったら、髪の毛を二、三本引っこ抜いて、それから二人を箒用の物置に隠すのよ」
二人は不安そうに、異論を唱える。
ハーマイオニーはそんな二人に断固とした態度で言い聞かせると、一人、先にマートルのトイレへと向かった。
朝、ハーマイオニーが目を覚ました時、既にサラの姿は部屋に無かった。
クリスマスプレゼントには全く手を付けていないようだったが、ベッドの横の棚にはカチューシャもネックレスも無かった。
ベッドの上には開いたままの冊子と、一通の封筒。上の面に書かれている贈り主の名は日本語だから、日本にいる家族からなのだろう。だが、封が切られていないから、これが理由で失踪した訳では無さそうだ。
若しかしたら、ポリジュース薬の所へ行ったのだろうか。
そう考えたハーマイオニーは、慌てて身支度をし、三階の女子トイレへ走った。サラが何かいじってしまったら、どうなる事か想像もつかない。
しかし、サラはいなかった。
では、図書館にでも行ったのだろうか? 近頃、サラは殆ど読書をする時間も無かった。例え本を読んでいても、事件や夢の事ばかり気になってまともに読んでいないようだった。他の生徒が校内にいない内に、本に没頭するつもりなのかもしれない。
ポリジュース薬を完成させ、ハーマイオニーはグリフィンドール寮へと戻った。ハリーとロンを叩き起こし、朝食をとりに三人で大広間へと降りていった。だが、サラは来ていなかった。随分待ってみたが、来なかった。
図書館へも行ったが、サラはいなかった。マダム・ピンスに尋ねても、今日は誰も来ていないと言う。
三人は手分けしてサラを探し回った。ハリーはハグリッドの所へ行き、ロンは兄弟に聞いて回った。ハーマイオニーはもう一度、寮の寝室へと戻った。
箒は部屋にあった。財布もある。するとやはり、校内にいるのだろうか。もう直ぐ昼食の時間になる。昼食には来るだろうか。
部屋を出ようとしたその時、ハーマイオニーはベッドの上にある本の白紙に、文字が書かれている事に気がついた。
本は、どうやら日記らしい。ページの角に、日付を書き込む欄がある。
たった一行書かれた文字は、間違い無くサラの物だった。
『ちょっと出かけてくるわ。
『日刊予言者新聞』にね、クィディッチの素敵な本が載ってたの! シーカーのお陰でやっと勝てるなんて、情けないったらないわ。来年こそは、チェイサー戦でも負けないんだから。
先生には、上手く誤魔化してちょうだい。箒を持っていったらばれる可能性があるので、徒歩で頑張ります。だから、何日か掛かっちゃうかも。
迷惑かけてごめんなさい。あとはよろしくね。 サラ・シャノン』
朝には、こんな文章、書かれていただろうか。
若しかしたら、ポリジュース薬を心配したばかりによく見ていなかったのかもしれない。お金を入れた袋を置いていったのも、先生に見られた場合ばれないようにだろうか。お金だけ、必要な分だけ持っていったのだろうか。
「まったく……勝手なんだから」
ハーマイオニーはそう呟きつつも、安堵の息を漏らした。
サラの失踪が、昨年の学期末を思い出させていた。また何かあったのかと思っていたのだ。
サラは、ポリジュース薬が完成した事も知らない。そろそろ完成するとは言ってあったが、例え完成しても、自分は潜入しないつもりになっていたのかもしれない。
サラは、ドラコがスリザリンの継承者ではないという事に自信があるようだった。ならば、彼に嘘を吐く必要も無いと考えたのかもしれない。
ハーマイオニーはもう一度軽く息を吐くと、部屋を出て行った。ハリーとロンに、サラの所在を伝えなくては。
No.50
サラはリドルの手を払い、目の前の男子生徒を睨み付けた。
「……貴方が何を言ってるのか、分からないわ」
「言ってる通りだよ。君を帰しはしない。君は、これからもこの日記の中で生き続けるんだ」
「馬鹿言わないで! 私は帰るわ。私には友達がいるの。大切な人がいるの。ずっとここにいる訳にはいかないのよ」
リドルは口の端を上げて笑った。
「無駄だよ。戻れば、君は何れ一人になる」
「どうしてそう言えるのよ?」
「君のおばあさんを知っているからさ」
また、祖母の話。クィレルの後頭部にいたヴォルデモートも、同じように祖母を話の引き合いに出した。
一体、祖母の学生時代に何があったのだろう。
「おばあちゃんが……どう関係あるって言うの?」
「僕は、君のおばあさんの血筋を知っているからね。
力のある者は、弱い者とは相容れないんだ。君のおばあさんは、それを認めなかった。そして結局、彼女は一人になった」
サラはただ、無言で相手を睨み据える。
リドルは冷たい笑みを浮かべ、話を続けた。
「事の発端は、奴が転入してきた事だ。彼がいなければ、彼女は永遠に僕の隣にいて、友人を失う事も無く幸せでいられた。
奴が転入してきた年、秘密の部屋が開かれた。そして、彼女の友人が二人、犠牲になったんだ」
「秘密の部屋?」
サラは口を挟んだ。
「それじゃ、秘密の部屋が開かれたのは、貴方達の学生時代って事? 祖母もいた、五十年前……?」
「そうさ。
僕が、部屋を開いたのだから」
笑顔で事も無げに、リドルはさらりと言いのけた。
サラは言葉を失った。五十年前、祖母の学生時代に、部屋は開かれた。
その時、部屋を開いたのは、目の前にいる男子生徒だった。
「僕も君達と一緒でね。パーセルマウスなんだ。
ホグワーツは全寮制だ。彼女より年上だった友人は、卒業すると疎遠になった。僕は、君のおばあさんの最も近くにいた――だけど、彼女は拒否したんだ」
「そりゃあ、こんな監禁紛いの事をするような人、一緒にいたくないでしょうよ。
貴方、勘違いしてたって事? 貴方が部屋を開いたって言ったわよね。おばあちゃんの友達を手にかけたって。なのに、おばあちゃんが自分を受け入れるとでも――」
突然、見えない手で喉を締め付けられ、サラの言葉は途切れた。
締め付けが終わり、サラは膝をついて、ごほごほとむせ返る。
「君も得意なんだよね? 杖を使わずに、相手の首を絞める事」
「私、日本で仕返しをしていたとしか言ってないわ。なのに、なんで、そんな事――」
「話をする時には、当時の事を思い出すだろう?」
リドルの笑みに、サラは背筋が凍るようだった。
リドルは、サラの心を読んだのだ。本で読んだ事がある。開心術だ。彼は優しい言葉を掛け、穏やかな笑みを浮かべながら、サラの心をずっと読んでいたのだ。
「彼女は分かっていなかったんだ。結局、彼女は家族さえも失う事になった。一人でいる事を、自ら選ばざるをえなくなったんだ」
祖母の家族――つまり、あの山奥の家を持つ祖父と、ナミだ。
それを思い出し、サラはぞっとした。ナミが祖母の娘である事は、隠されている。サラは祖母に瓜二つだと言う。当然、祖母を知っている者には隠しとおせない。だから、祖母とサラの血の繋がりは隠されていなかった。
サラと祖母は血が繋がっている。ナミが祖母の娘である事は隠さねばならない。
だから、ナミがサラの実母である事は隠されていた。
サラはリドルに話してしまった。ナミはサラの実母だと。自分は、実の母親に捨てられ、今も嫌われているのだと。
リドルは秘密の部屋を開いた。スリザリンの継承者なのだ。そんな者に話して良かったとは、到底思えない。
「彼女の傍を離れたあいつも、ヴォルデモートの手によって消え去った。娘がいると聞いていたが――やっぱり、君を育てているナミが、彼女の娘だったんだね?」
「ち、違うわ。ナミは養母よ。実母じゃないわ」
「いまさらだよ。君がさっき言ったんじゃないか。自分は、実の母親に嫌われているんだって」
「違う! 私は、その……えっと、同情を引こうとして……」
「すると、エリ・モリイやアリス・モリイも、彼女と血の繋がりがある孫なんだね」
「違うわ! おばあちゃんは、圭太の継母よ。繋がりはそれだけだわ。私がおばあちゃんの孫って事は否定しないわ。顔が似ているのに別人なんて言っても、信じないでしょうし。
私だけよ。おばあちゃんとの繋がりがあるのは、私だけだわ。お母さんも、エリもアリスも、何も関係無い!」
「君、母親に辛く当たられたんだろう? エリ・モリイとは仲が悪いとも聞いてる。なのに、どうして彼女達まで庇うんだい?」
サラは言葉を失った。
言われてみれば、その通りだ。何故、自分はあんな奴らまで庇っているのだろう。
アリスだって、謝ったとは言え、それまでの行いが消える訳ではない。
ナミは、サラがどんな目に遭おうとも、サラを守ろうとはしなかった。寧ろ、サラを厄介者扱いしていた。
エリは、とことんサラを嫌った。昨年もだったが、何かあればサラを疑う。
アリスは、サラに関わらまいとした。自分の保身だけを考え、ナミや圭太やエリに反論する事はなかった。
「私は何も、お母さんとお父さんを憎んでなんかいないのよ……エリを嫌ってなんかない……アリスを怨んでなんかない……。
ただ、笑って欲しかった……! 私にも、笑顔を向けて欲しかったの……!! 絶望はしたわ! でも、まだ望みを捨てきれないのよ!! 皆で笑いたい。ただ、それだけなのに……っ」
みぞの鏡に映ったモノ。
サラを取り囲むナミ、圭太、エリ、アリス、祖母、見知らぬ男性――笑顔で手を振る面々。
「なのに……どうして、叶わないの……?」
サラは、ようやく認めた。サラが最も強く望むのは、家族だった。温かい家庭。ナミや圭太に愛されたかった。エリと仲の良い双子でありたかった。
しかし、それは絶対にありえない事なのだ。だから、サラは否定した。無いものねだりなど、空しいだけだから。実の母親なのにサラを捨てたナミを、憎もうとした。何かとサラを疑うエリを、嫌おうとした。
だが、出来なかったのだ。鏡には笑顔の彼女達が映った。嫌な鏡だった。現実を突きつけられた。
「みぞの鏡か……馬鹿馬鹿しい物だ」
また、開心術を使ったのだろう。リドルは、忌々しげに言った。
サラはダンブルドアの言葉を思い出し、ハッとする。
嫌な思い付きだった。認めたくない。こんな奴と同じだなんて。
しかし、サラの口は言葉を紡ぎ出していた。
「ダンブルドアが言っていたわ……私と同じように、鏡に映ったものを『認めない』と言った人がいたって……。まさか……リドル……?」
「君のおばあさんは、そんな事まであのマグル贔屓に話していたのかい?」
口元だけ笑みを浮かべて、リドルは言った。
「昔の話だよ。今はもう、そんな生ぬるいものは求めていない」
「嘘よ……そんな……」
「言っただろう? 君と僕は似ているって」
座り込むサラへとリドルは歩み寄り、傍らに立ってサラを見下ろした。
「だから、君にだって部屋は開けた筈なんだ。君が動いてくれれば、僕も楽だったのに」
サラはパッと立ち上がり、リドルとの間に距離を置いた。
「私がパーセルマウスだから?
でも、如何いう事? 私が開けば貴方が楽だった、って……今回も、貴方が部屋を開いたって言うの?」
リドルは微笑み、頷いた。
「実行犯は、別にいるけどね。他に部屋を開けるほどの者がいる筈無いだろう?」
旋律が走った。
五十年前も、今年も、リドルはこうして見つかる事無く、マグル出身やスクイブの猫に手を掛けている。そして、ダンブルドアでさえ被害者達を直ぐ元に戻す事は出来ない。
サラはネックレスを握り締めた。
「……帰らせて」
「出来ない相談だね」
「私は、帰るわ」
リドルを睨み据えるサラを、リドルは鼻で笑った。
「どうするって言うんだい? 杖も置いてきただろう?」
「杖無しでも、私は魔法を使えるもの」
サラはリドルをキッと睨んだ。そして首を絞めようとしたが、サラの魔法は弾き返された。
「どうしたんだい? どうやるのかな?」
「ステューピファイ!」
今度は呪文を唱えた。
しかし、やはりリドルはいとも簡単にサラの魔法を払ってしまう。
「今度は、僕からかな。本当は、こんな荒い真似はしたくなかったんだけどね」
リドルがそう言った途端、背中に激痛が走った。刃物で切り裂かれたかのような痛みだった。
次に襲ったのは、激しい動悸。心臓を握り潰されているかのように苦しい。
「君は逃げ出す事なんて出来ないよ。君はこちら側へ来るべきなんだ。
どうして拒絶するんだい? 君が一人になった時、一番傍にいたのは僕じゃないか! 君なら理解してくれると思ったのに。奴はいなくなったのに、娘は自分を憎んでいるのに、どうしてそれでもそちら側にいようとするんだ!?」
「私はサラ・シャノンよ!!」
叫んだ途端、痛みも苦しみもピタリと止んだ。
サラはふらふらと立ち上がり、リドルを正面から見据える。
「私は、おばあちゃんじゃないわ。貴方が言ったんでしょう。おばあちゃんは死んだの。もう、帰ってくる事は無い」
再び、首が絞められた。サラは膝をつき、息苦しさに喘ぐ。
リドルは微笑みを取り戻していた。
「何を言ってるんだい? 君は、こんなにも彼女にそっくりじゃないか。戻ってきたんだろう? 君は、サラ・シャノンの中で生きているんだろう? だから、こんなに似ているんだろう?」
リドルが何を言っているのか分からない。リドルが励まして言ったあの言葉は、そんな意味で言っていたのか。馬鹿馬鹿しい。そんな事はある筈無いという事ぐらい、リドルも分かっているだろうに。
段々と視界がハッキリしなくなってきた。リドルの顔も見えなくなる。このまま、自分は絞め殺されてしまうのだろうか。
不意に、呼吸が楽になった。
リドルは、数メートル先に吹っ飛ばされていた。素早く立ち上がり、サラの背後を見て目を丸くする。
サラはリドルの視線の先を振り返り、顔を輝かせた。
「おばあちゃん!」
そこにあるのは、僅かに年上のサラの姿だった。金髪にラベンダー色の瞳。祖母に違いない。
学生時代の姿の祖母は、杖を持っていた。
リドルは複雑な表情をしていた。忌々しげにも見えれば、何処か喜んでいるようにも見える。
「そうか……繋ぎとめる役割を持たせたから……」
「サラ。行くよ」
祖母はサラの手を引き、駆け出した。
当然リドルが気づかぬ筈も無く、攻撃を仕掛けようとする。
祖母はリドルに向かって杖を振り下ろした。祖母の駆ける足は早く、サラはどうなったのか背後を振り返る事も出来なかった。ただ、隣で祖母が快活な声でリドルに向かって言い捨てていた。
「私の日記は、トムよりも恵まれた環境に保管されているもんでね!」
どれだけ走っただろうか。何の前触れも無く、祖母は立ち止まった。
辺りはやはり真っ白だったが、受ける印象はリドルの所とは違った。虚無感は無い。何かの始まりを表すかのような、希望ある空間だった。
サラは膝に手を置き、肩で息をする。祖母はサラの顔を覗きこみ、申し訳無さそうに言った。
「すまない。疲れたか?」
「いえ……大丈夫、です」
答えながら、サラは目の前の少女をまじまじと見つめた。
帰ってこない。そう言ったばかりだったのに。彼女は本当に、祖母なのだろうか。
彼女は、笑顔を見せた。リドルほど優しげではないが、アリスのような人懐っこい笑顔だった。
「私もトムと同じ、記憶だ。噂では聞いている。私に孫がいるって。君か?」
「それじゃ……やっぱり、おばあちゃんなの……?」
「君の名前が、サラ・シャノンならな」
表情に似合わず、ぶっきらぼうな口調。それは祖母と同じだった。
また会う日が来るとは思わなかった。
「おばあちゃん……私――」
「それじゃあ、帰すよ」
サラは一瞬、祖母が何と言ったのか分からなかった。
帰す? 会ったばかりなのに?
「友達も心配しているだろう。また、いつか会えるさ」
「そんな! 私……せっかく、おばあちゃんと会えたのに……」
祖母は、困ったように笑う。
「サラ、鍵は持ってるか?」
サラは、ポケットから銀製の小さな鍵を取り出した。昨年のクリスマスプレゼントにあった、贈り主不明の鍵。
「良かった。彼女はちゃんと約束を守ったようだな」
「これ……何処の鍵なの?」
「サラは今、二年生だったかな」
サラは、こくりと頷いた。
「それじゃ、来年分かる。若しかしたら、もう少しかかるかもしれないけれど。でも、必ず見つけられる筈だ」
「そんなんじゃ、分からないわ!」
「友達が、心配しているよ」
突然、祖母の姿がぐにゃりと歪んだ。
色と陰がぐるぐると渦を巻く。サラは何処かへと落下して行く。
そして、気がつくと自分のベッドの上にいた。
隣のベッドはもう空だった。クリスマスプレゼントは朝のまま、ベッドの足元に置かれている。窓の外は暗く、あれからもう何時間も経っている事を表していた。
サラはベッドを飛び降り、部屋のあちこちを探し回った。ベッドの陰、カーテンの後ろ。しかし、何処にも祖母の姿は無かった。
サラは肩を落とし、自分のベッドの所へと戻っていった。
ベッドの上には、まだリドルの日記が開かれたまま置かれていた。サラは、恐る恐る覗き込んだ。
何か、文字が浮かんでいる。
ハリーとロンは、二人でグリフィンドール寮へと帰ってきた。ハーマイオニーは猫の姿になってしまい、医務室へ連れて行った後だった。
「マルフォイじゃなかったなんて。これであいつの床下の事も分かってなかったら、何の為にクラッブのエキスなんか飲んだのか分からないよ」
「以前開かれたのが五十年前だって分かった。それから、以前は死者が出たって事も」
「それが何になる? スリザリンの継承者だぜ。部屋の話からしても、死者なんて想像の範疇だろ?
まったく、サラも勝手だよな。当日になって、本を買いに行くなんて。そんなの、通販でもすればいいじゃないか。まあ、サラにとってはいい結果だったろうよ。これからは、何の心配も無くマルフォイといちゃつけるんだから――」
マルフォイは犯人じゃなかった。振り出しに戻ってしまったのだ。
ロンの苛々の矛先は、ドタキャンしたサラへと向いていた。
「だけど、サラが合ってたんだ。サラはずっと、マルフォイじゃないって言ってた」
「好きだからだろ?」
「うーん……僕さ、違うかもしれないと思うんだ。
ほら、サラって、ミセス・ノリスやコリン・クリービーの事を夢で見ただろ? 予知夢じゃないか、って話があったじゃないか。そしたら、マルフォイじゃないって事もそういう力で分かっていてもおかしくないんじゃないか、って」
「まさか」
その時、女子寮から飛び出してきた者がいた。彼女は弾丸のように駆けてきて、二人に飛びついた。
サラだった。
サラはハリーとロンの腕に掴まって、泣きじゃくり震えていた。
「サラ!? どうしたんだい?」
「本を買いに行ってたんじゃなかったの?」
サラは答えなかった。
何を聞かれようと、答える訳にはいかなかった。
『ハリー・ポッター、ロン・ウィーズリー、ハーマイオニー・グレンジャー。
彼らは君と仲良しなんだってね?
それから、ドラコ・マルフォイを好きなんだって? 君がずっと握り締めていたネックレスも、彼からの贈り物かい?
部屋を開いた実行犯は別にいると言っただろう? その人を使えば、君を監視している事が出来るんだよ』
暗がりの中、日記の文字は吸い込まれるようにして消えていった。
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2007/09/23