波が打ち寄せ、陽光が無機質な倉庫の群れを照らす。
 淡々とした白さの中に一つ、黒があった。大きな黒い塊はのそりと立ち上がり、疲れきった様子でのろのろと動く。
 それは、一匹の大きな黒犬だった。だが、その汚れようはあまりにも酷く、一目見ただけでは海のヘドロか何かと間違えてしまいかねない。
 それ――否、彼はずっと、この十二年間ずっと、大切な人々を失った事による絶望と自己嫌悪からの失望、そして裏切りへの憎しみに苛まれていた。
 信頼していたのに。信じていたのに。
 自分の所為だ。自分が、判断を誤ったから。真の友を疑い、裏切り者を信用してしまったから。彼の抱える問題など、関係ない。そう言っていたのは自分ではないか。
 失ったのは、大切な友。
 失ったのは、大切な――





No.68





「それは、サラが悪いわ」
 昨日の話を相談すると、ハーマイオニーは開口一番そう言った。
 窓の外は暗い。二人はサラの部屋にいた。
 皆、まだ明日の準備をしているらしい。向かいの部屋からはロンとパーシーのもめる声が聞こえてくるし、隣の部屋ではエリが何かを無くしたと騒いでいる。
 サラは僅かに顔を顰める。
「何? それじゃ、私はもうハリーやロンと一緒にいるなって事? ドラコの言う事だけを、大人しく聞いていろって?」
「そんな事を言ってるんじゃないわ」
 そう言ってハーマイオニーは、深く息を吐く。
「あのね、考えてもみて? もし逆の立場だったら、サラだって怒ったでしょう?
日本とイギリスとで、なかなか会う事の出来ない夏休み。手紙のやり取りがあったとは言え、直接会えるのはデートの約束をしたその日だけ。サラは凄く楽しみにしていて、早めにダイアゴン横丁へ着いてしまった。何処かで昼食をとろうと通りを歩いていたら、見つけたのはマルフォイとパンジー・パーキンソンがカフェで談笑する姿。
当然、マルフォイはサラと付き合っているのだから彼女へ特別な想いは無いわ。だけどそれでも、良い気はしないでしょう?」
 サラはただ黙って、窓の外へ視線を向ける。ぼんやりとした街頭の明かりが、窓の直ぐ傍に届いていた。
 ハーマイオニーは立ち上がり、窓へと歩み寄る。窓を拳で叩き、部屋の明かりに集まり外側にくっついている虫を散らすと、カーテンを閉めた。そのまま、その場に背をもたれる。
「明日、ホームへ行ったら一番にドラコを探して謝った方がいいわ。このままなんて、もちろん嫌でしょう?」
 サラはこくりと頷く。

 隣のエリの怒鳴り声は、いつの間にか止んでいた。だが荷物を漁るような音は引っ切り無しに続いているから、無くし物が見つかったという訳ではないらしい。ナミやアリスの気配が移動しているから、ただ怒鳴り散らす対象がいなくなったというだけだろう。
 一方、正面の部屋の喧騒は未だに続いている。ロンとパーシーの気配に、ハリーの物が加わっていた。ハリーは直ぐに、部屋を離れ階段の方へと向かって行った。
「ロン達の方も、紛失物かしら」
 サラの呟きに、ハーマイオニーは小首を傾げる。
「『も』って? エリが怒鳴っていたのも、無くし物って事? どうしてわかるの?」
「新学期前日にエリが騒いでるとしたら、無くし物に決まってるわ」
 ハーマイオニーは壁を離れ、部屋の戸口へと向かう。
「私、手伝いに行くわ。サラも行く?」
「まさか。それよりも、ロン達の方へ行くわ。
エリの方は、アリスやナミがいる限り、夜遅くまで騒ぐ事はないでしょうから」
「ロンの方も、そろそろおばさまがいらっしゃるでしょうけど」
「それもそうね」
 言いつつも、サラもハーマイオニーに続いて部屋を出る。
 ちょうど、ナミがエリやアリスと一緒の自室へと戻ってきた所だった。
 何度目にしても、どうにもサラは違和感が拭いきれない。ナミは、自分達と同じ十三歳の姿でそこにいる。ハーマイオニー達には、従姉妹として紹介した。
 昼間、ナミはサラ達と行動を共にしていた。ハリーの護衛の為にこの姿になったのだから当然なのだが、それでも自分が友達と一緒にいる所へ母親が混ざるのはやりにくい。不仲の親子となれば、尚更だ。思わず表情が強張ってしまう。
「こんばんは、ナミ。エリが随分と慌てているようだけど……何か探し物?」
 ハーマイオニーは、にこやかに話しかける。 
 ナミは苦笑しながら返事をする。サラの事は視界に入れない。
「ごめんね。五月蝿かった? やっと怒鳴るのはやめさせられたんだけど……。教科書が一冊、無くなったんだって。マグル学の。
それで、ジニーとウィーズリー夫人の部屋に入らせてもらって、探してきたところなの。エリってば、帰ってくるなり荷物抱えたままジニーの所行ってたから」
「見つかった?」
 ハーマイオニーの問いに、ナミは肩を竦める。
「全然。若しかしたら、何処かで落としたのかもしれない。もう一回部屋をあらってみて、見つからなかったら諦めるしかないかな。
マグル学のなら、私が昔使ってたのがあるからね。持ってきておいて良かったよ。今年は私、マグル学は取らないつもりだし――」
「え?」
「ん? どうしたの?」
「昔使ってた、って……? 今年は取らない、とか」
 ナミはぎくりと固まる。サラはハーマイオニーの背後で、唇の動きだけで「馬鹿……」と呟く。
 なかなか次の言葉を口に出来ずにいるナミに代わって、サラが口を挟んだ。
「彼女、今までも魔法魔術学校に通っていたの。ホグワーツ以外のね。当然、教科とか進度とかも違うわ。それで、今までマグル学を取っていたのよ」
「ああ、なるほどね。
それじゃあ、手伝いは不要なのかしら?」
「うん。ありがとう。騒々しくてゴメンね」
「そんな事。
ナミがいれば、エリの方は大丈夫そうね。ロン達も何だか騒がしいけど、ナミ、知ってる?」
 一瞬、ナミが微かに笑った気がした。
「うん。パーシーの首席バッジが無くなったんだって。スキャバーズの栄養ドリンクもだったけど、そっちはハリーが見つけてくれたみたい。私が覗いた時、ちょうどハリーが持ってきたの」
「バッジはまだ見つかってないの?」
「みたいだね。でも、心配要らないよ。
それより、もう遅いよ。明日は早いんだから、寝た寝たー」
 ナミは満面の笑みで、サラとハーマイオニーをそれぞれの部屋へと帰そうとする。
 その様子で、サラもハーマイオニーもピンと来た。サラは呆れ返って溜め息を吐く。ハーマイオニーは腰に手を当て仁王立ちになって、ナミを正面から見据えた。
「フレッドとジョージでしょう」
「え」
「夕食の時、彼ら何か企んでるみたいだったもの。二人が、パーシーのバッジを隠したのね? ナミは知ってるのに黙ってるつもり?」
 厳しい口調のハーマイオニーにも構わず、ナミはただニッコリと笑っている。
「ちょっとした悪戯じゃない」
「その所為で、こんな遅くにパーシーとロンは騒いでるのよ。迷惑極まりないわ。――私、二人の所に行ってくる」
 ハーマイオニーは肩を怒らせ、フレッドとジョージの部屋の方へと歩き去った。
 ナミは頭の後ろで腕を組んで言う。
「フレッドとジョージ、今いるのは階段の踊り場なんだけどな〜……。
――なあに、サラ? その何か言いたげな目は」
「……別に。呆れているだけよ。貴女より、ハーマイオニーの方がよっぽど大人よね」
「へぇ。この程度の事でも許しがたいと思うくらい、正義感が強くなったの? 少し前とは別人だね」
「親の吐く台詞じゃないわよね」
「私は貴女を子だなんて思っていない。
……サラは、私に母親である事を求めてるの? そんな事を言ってた人がいたけど」
 暫し、沈黙が廊下に流れた。
 聞こえるのは、ロンとパーシーの言い争う声。そして、パブの前の通りを走るマグルの車の音。
 サラは口の端を上げ、小馬鹿にしたように笑う。
「馬鹿じゃないの? 私も、貴女を親だなんて思った覚えはないわ。誰が言ったのか知らないけれど、その人、フィクションの世界に毒されすぎじゃない?」
 そう言って鼻で笑うと、自分の部屋へと戻っていった。
 廊下には、残されたナミがぽつねんと立ち尽くす。ナミは、自嘲の笑みを浮かべる。
 分かっていた答えだ。これ程にも互いにいがみ合っていて、今更ナミに親を求める筈もない。
 なんとも馬鹿馬鹿しい話だ。逃げたくて自ら切り離したというのに、逃げる対象であった場所へと、今、自ら向かおうとしている。
 若しかしたら、せめてもの罪滅ぼしなのかもしれない、とナミは思った。シャノンと同じ事はしたくないから。決して。





 翌朝、一行は魔法省の車でキングズ・クロス駅へと向かった。もちろん、この待遇はハリーの護衛の為である。深緑色をした旧型の車はどちらも魔法がかかっていて、どれ程狭い道でも、そこがまるで車道であるかのように平然と走った。
 駅に到着したのは十時四十分。昨年とは比べ物にならないほどの余裕があった。
 魔法省の遣いである運転手とはここで別れ、駅の構内を歩く間、ウィーズリー氏はハリーの横に、ウィーズリー夫人はサラの横に、ピッタリと張り付いていた。ナミも、ハリーの真後ろを陣取り、ハーマイオニー達に勘付かれぬ程度に、辺りを油断無い視線で隈なく見渡す。
 二人ずつ九と四分の三番線ホームに入る。パーシーとサラは、ホームへ入るなり真っ直ぐに恋人の所へと去っていった。ウィーズリー氏がサラを呼び止めようとしたが、ナミがそれを制した。
「……必要ありません。私と、サラ達三姉妹は知っています。シリウス・ブラックと、サラやハリーの事でしょう?」
「あ……ああ……。それじゃ、ハリーは……?」
「ハリーは分かりません。でも、少なくとも私達の口からはまだ話していません」
 ウィーズリー氏は口を真一文字に結び、ハリーや夫人の方にちらりと視線を送る。
「そうか……ああ、うん。ありがとう、ナミ……」
 ナミに話しかけつつも、ウィーズリー氏の視線はちらちらとハリーに向けられていて、顔や声には緊張が滲み出ていた。恐らく、どのようにしてハリーに話そうか、考えを巡らしているところなのだろう。
 空席だらけの車両を見つけると、コンパートメントへ荷物を運び込む。いくつもの大きなトランクを積み込んでいる最中、アリスはコソコソとナミに声をかけた。
「ね、お母さん」
「皆に聞こえるよ」
「大丈夫。それぞれに話してるし、これぐらいの声じゃ誰も聞いちゃいないわ。
ねぇ。昨日の夜、お母さん、廊下でジニーと何か話してたわよね? 何の話をしてたの?」
「何。あんた、起きてたの」
「ええ、まぁ……」
 ナミは床に置いたリアのケージを、荷物棚へと乗せる。
「廊下に出たら、たまたまジニーもいてね。大した話はしてないよ。
ほら、そこ三人。遊んでないで、さっさと荷物運び込んで」
 エリ、フレッド、ジョージの三人が輪になって何やらやっている。 
 エリが、既に二つに結んである髪に更に青いパステルカラーの髪ゴムを付けていた。どうやら、悪戯グッズか何からしい。髪ゴムを付けた途端、そちら側の髪の束が見えなくなった。
「へー、何それ? 面白いね」
「ナミまで。早く運び込んで、三人とも。別れの挨拶をしに戻る時間が無くなるわよ」
「俺達はいいんだよ、ハーマイオニー。ここに荷物置いとくよ。どうせ直ぐ、リーを探しに行く予定だから」
「あいつ、いつも早く来てるからな。多分、いつもの車両だぜ」
 荷物を運び終えると、九人は再び汽車の外へと出た。
 ウィーズリー夫人は子供達を順番に抱きしめ、キスをした。当然、その中にはナミも含まれる事になる。今更母親が恋しくなる歳でもない。それでも、子供時代に全く縁の無かった母親の抱擁は、とても温い物だと思った。
 ウィーズリー夫人が自分の子供達にサンドイッチを渡している間に、ウィーズリー氏はハリーを柱の陰へと呼んでいた。例の話をするのだろう。
 ナミは、自分の手の平をじっと見つめる。二十年も前の姿の手は、本来の物より幾分か小さく丸みもある。
 勢いでハリーを守りに行くと言ってしまったが、実際、ナミごときに何が出来るだろうか。何か出来るだろうか。
 否、何かせねばならないのだ。
 自分は、サラには何もする事が出来ない。いざ、あの子を目の前にすると、やはりどうにもシャノンと重なってしまう。
 結局、報われる事は無かった。あの時から、ナミは鎖に縛られたままなのだ。





 一つのコンパートメントの前で、サラは右往左往していた。
 大鍋やエフィーの籠を抱えトランクを引きずりながら車両を前へと進んでいる途中、ドラコ達を見かけた。サラはドラコに気づき、ドラコの薄青い眼もサラを捕らえた。ドラコの視線を追ったビンセントも気づき、空気を読まずにサラに声をかけたから、それは間違いない。
 しかしドラコはそっぽを向き、声を掛けてくる事も無く一つのコンパートメントへと入っていってしまった。サラはそのコンパートメントの前まで来たものの、中に入る決心がつかず、ずっとその場で立ち竦んでいるのだ。
 ずっと黙ってこの場にいても、まるでストーカーだ。入ろうか。ノックをして、返事が返って来るだろうか。扉を開けて、それで、何を言えば良いのだろう。デートの時の事を謝るにしても、どう謝れば良いのだろう。
 迷っていると、横から声がかかった。キツイ口調の、高い声。
「そこで何をしてるの? 邪魔だわ。入らないなら、退いてちょうだい」
 パンジー・パーキンソンがそこにいた。
 今来た所なのだろう。サラと同じように大きな荷物を抱えている。
 サラが何も言い返してこない事に眉を顰めながらも、パンジーは無理矢理サラを押しのけ、コンパートメントの扉を開ける。
「おはよう、ドラコ。久しぶりね。夏休み中、会えなくて寂しかったわ」
「ああ、おはよう。パン――」
 パンジーの隣にいるサラを見て、ドラコの言葉は途切れた。気まずい沈黙が流れる。
 ビンセントは先程ので分かったようだ。お菓子を食べる手を止め、ドラコとサラとを恐々と見比べている。グレゴリーがむしゃむしゃとお菓子を食らう音が、やけに大きく響く。
 一先ず、パンジーは中へ入る事にした。いつものようにトランクを下に、その他の荷は荷物棚に乗せ、ドラコの隣に座る。
「えーと。ねぇ、ほら、ドラコ。夏休みはどうだった?
今年はホグズミードへ行けるわよね。一緒に行かない? 二人で行くのにピッタリの、素敵な喫茶店があるんですって」
「……駄目よ」
 サラはその場に立ち竦んだまま、小さく呟く。パンジーの冷たい視線が、サラに向けられる。
「あら。貴女は、てっきりポッター達と行くのかと思ったわ。だって、仲良しでしょう?」
「私が好きなのは、ドラコよ……!
ハリーは、ただの友達でしかないわ。ドラコとのデート、本当に楽しみにしてたのよ……」
 言いながら、顔が火照ってくるのが自分でも分かった。
 こんな事を正面切って、それも他の人もいる前で言うなんて、恥ずかしい事この上ない。だが、それでも一度勢いがつけば止まらなかった。
「楽しみで楽しみで、待ちきれなくて、それに絶対に遅刻とかもしたくないから、それで前の晩にイギリスへ来たの。だから、『漏れ鍋』に泊まってたの。
本当は、朝早い内にこっそり抜け出そうとしたわ。でも、見つかっちゃって……それで、午前中に街を案内してくれるっていうから、それで……。
断るべきだったわ。ドラコが知れば不愉快に思うって事、少し考えれば分かった筈だもの。ごめんなさい……。
正直に言うと、私、恋人と友達とどちらの方が大切かなんて、天秤に掛ける事は出来ないわ。どちらも大切なの。
でも、好きなのはドラコよ。それは絶対。ハリーでもロンでもないの。こんな事で別れるなんて、絶対に嫌よ……!」
 今にも顔から火を噴きそうだ。あまりに頬が熱くて、頭がくらくらしてくる。
 ドラコも、パンジーも、ビンセントも、グレゴリーでさえ食べる手を止めて、皆唖然としていた。
 無性に恥ずかしくなり、サラはくるりと背を向けると駆け出した。だが、それも数歩も行かぬ内に汽車が動き出し、荷物に正面衝突してひっくり返った。
 手をつき身体を起こすと、目の前に手が差し伸べられていた。顔の色と同じく、不健康なまでに白い手。
「悪かったよ、僕も。あんなに怒る事は無かった」
 ドラコは、頬をやや紅潮させていた。サラはそれを見て、先程までの自分の言葉を改めて思い出し俯く。
 ドラコを真っ直ぐ見る事が出来なかった。
 顔を上げる事が出来なかった。
「ありがとう……」
 なんとか、消え入りそうな声でそれだけ呟き、ドラコの手を取る。
 立ち上がり振り返ると、パンジーが荷物を纏めてコンパートメントを出て行く所だった。予期せぬ行動に、サラは目をパチクリさせる。
「パンジー……? どうしたの?」
「邪魔者は退散するわ。でも、諦めた訳じゃないから」
 サラ達の方を見ようともしない。横の髪に隠れて、表情を見て取る事も出来ない。
 パンジーは、そそくさとその場を立ち去った。彼女に一体何があったのか分からず、サラもドラコもただ呆然としていた。
 ビンセントとグレゴリーは、再びお菓子を食べるのに夢中になっていた。

 汽車が北へ行くにつれて、空は段々と雲が厚くなっていく。
 昼前に、いつものふくよかな魔女がカートを押してきた。欲しいだけお菓子を買い、昼食を取り終えると、ドラコが席を立った。
「そろそろ、他所の車両を覗きに行こうか。クラッブ、ゴイル、当然来るだろ? サラは? 来るかい?」
 何が他の車両なものか。どうせ、主な目的はハリー達だろう。
「私はここで待ってるわ。早く戻ってきてね」
 仲良しではないのは諦めはついても、あまり喧嘩はして欲しくない。そういった意味だったのだが、他人が見ればそれは、あまり長く離れてはいたくないという恋人らしい甘えに見えた。先程の件があれば、尚更だ。
 ドラコはドギマギしながらも頷く。
「あ、ああ、うん。それじゃ、行ってくるよ」
 ドラコ達三人がコンパートメントを出て行った。
 今の内にと、サラは荷物から着替えを出す。ハリー達がいるのは、少なくとも汽車の半ばよりも後ろだ。二両目のここからだと、往復で十分以上は確実にかかる事だろう。
 着替え終わり、予習でもしていようと変身術の教科書を開いた時だった。汽車が速度を落とし始めたのは。


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2008/04/01