電車に揺られて帰宅する途中、圭太はふと腕時計に目をやった。
時刻は、夜八時。イギリスでは、ちょうど午前十一時だ。
――行ったか……。
圭太はふっと溜め息を吐く。
確かに、子供達の意思は尊重してやりたいと思う。
だが、これで良かったのだろうか。
『私は捨てられたのよ……落ちこぼれだったから……っ!』
あの日、そう言って泣いた彼女。彼女が初めて見せた涙だった。
自分には、如何する事も出来なかった。
兎に角、彼女を大切にしようと心に誓った。良心を痛めながらも、彼女が辛い事を思い出すのなら、とサラを孤児院に預ける事に賛同した。
然し――結局、あの子は戻ってきた。
そして、周囲に「報復」をするようになった。本来ならば、自分こそが報復されるべきであろうに。
そしてこれから、一体何が待ち構えているのだろう。
自分には何の力も無いが、推測ぐらいは出来る。「魔法界」と言うもの自体、自分にとっては普通ではないが、彼女達はその中でも普通でない気がしてならない。
電車の窓の外に広がる闇は、圭太の不安を表すかのようだった。
No.7
マルフォイ家はなかなか有名な旧家のようで、何人かの生徒が挨拶に来た。どの子も魔法使いの旧家の者で、見るからにスリザリンっぽい人ばかりだった。
セオドール・ノットと名乗る男の子がコンパートメントを出て行き、ドラコがふと思い出したように言った。
「そう言えば、ダイアゴン横丁でもう一人いた男の子、彼は何て言うんだ?」
「ああ、彼? ハリーよ。ハリー・ポッター」
サラが事も無げに言うと、ドラコは目を丸くして硬直した。ビンセントとグレゴリーは、ドラコが気づいてないのをいい事にこそこそと早弁を試みる。
「……ハリー・ポッターだって!!?」
二人の弁当を取り上げてしまい直しながら、ドラコは繰り返した。
「ええ。彼も今年入学よ。何なら、今から捜しに行ってみる? 私も、あれ以来ハリーと会ってないのよね」
然し、それは叶わなかった。
コンパートメントの扉が勢い良く開き、またしても旧家の家の子が挨拶に来たのだ。
「ここにミスター・マルフォイがいるって聞いたんだけど……ああ、あなたね。私、パンジー・パーキンソン。きっと、同じ寮になるわ。よろしくね」
パンジーはそう言ってにっこりと笑った。ここまでパグそっくりな女の子を見るのは初めてだ。
サラの心の内を読んだかのように、パンジーはじろりとこちらを見た。
「あなたは? ……本当に、十一歳になってる?」
――失礼な子!!
確かにサラは背が小さいし、顔もヨーロッパの子と比べれば日本って童顔だろう。だが、初対面の相手にそんな事普通、聞くだろうか。
それでも、嫌悪感を隠してサラはにっこりと笑みを返す。
「なったわよ、約半年前に。サラ・シャノンって言うの。よろしくね」
「じゃあ、貴女が!? へぇ……」
パンジーはじろじろとサラを見下ろす。
今までのサラなら、不快感を露にして冷たくあしらっていた。
ドラコが立ち上がり、サラとパンジーの間に割って入った。
「パンジー・パーキソンか、よろしく。この奥にいる二人は僕の友達で、こっちがゴイル、こっちがクラッブだ」
パンジーも他の子達と同じく家の事についてドラコと長々と話し、コンパートメントを出て行った。
その後も旧家の子が何人も挨拶に来て、ようやく解放されたのは十二時になり、車内販売が来た頃だった。
「マルフォイ家って、随分と人気なのね」
甘ったるそうなお菓子だらけのワゴンで何を買おうか迷いながら、サラは冷やかすように言った。
「まあね。父上は、学校の理事をやってるから」
グレゴリーとビンセントは弁当をあっと言う間に平らげ、腕いっぱいのお菓子を買い込んでいる。ドラコも、二人ほどではなくとも沢山のお菓子を買い込んだ。
商品はお菓子ばかりだ。こんな事なら、鞄の中にある金貨をいくらかマグル界のお金に換金して、売店で何か買えば良かった。
百味ビーンズやその他見た事の無いような怪しいお菓子ばかりだったが、とりあえず無難なカボチャパイや蛙チョコレートを買った。形が蛙と言うだけである事を祈る。
然し、サラが袋を開けると、中から黒い物体がぴょーんと飛び出し、窓から外へ出て行った。
「な……っ!? これ、本物の蛙なの!?」
「もちろん違うさ。動くけどね。でも、それだけだ。――カードは、誰だい?」
「カード? ……ああ、これね。ダンブルドアだわ」
途端に、ドラコは嫌悪感を露にした
「父上は、ダンブルドアはホグワーツ史上最悪の校長だって言ってる」
サラは肩をすくめただけで何も答えず、再びカードに目をやった。
「あ……」
「ん? どうした?」
「別に。ただ、おばあちゃんの名前があったもんだから」
カードの裏に書かれた説明の一部に、祖母の名前があった。
それは、本にも書かれていた内容だった。祖母は学生時代、ダンブルドアと共に、グリンデルバルトを倒した、と。
お菓子を食べ終え、サラ達はまた誰かが来て捕まる前に、ハリー達を探しに行く事にした。
どのコンパートメントもその噂で持ちきりで、ハリーがいるコンパートメントは案外早く見つかった。
最後尾に近いコンパートメントの扉をドラコが開いた。
「ほんとかい? このコンパートメントにハリー・ポッターがいるって、汽車の中じゃその話でもちきりなんだけど。――それじゃ、君なのか?」
「そうだよ。――サラ!」
ビンセントとグレゴリーで隠れていたサラに気づいたらしい。
「久しぶりね、ハリー。この大きな二人は、ビンセント・クラッブと、グレゴリー・ゴイル。それから、そっちはドラコ・マルフォイよ」
途端に、奥にいた赤毛の子が笑いを誤魔化すかのように咳をした。
もちろん、気づかれない訳が無い。
「僕の名前が変だとでも言うのかい? 君が誰だか聞く必要も無いね。パパが言ってたよ。ウィーズリー家は皆赤毛で、そばかすで、育てきれないほど沢山子供がいるってね」
そして、ハリーに向かった。
「ポッター君。その内、家柄のいい魔法族とそうでないのとが分かってくるよ。間違ったのとは付き合わない事だね。その辺は僕が教えてあげよう」
然し、ハリーはドラコの握手に応じず、冷たく言い放った。
「間違ったのかどうかを見分けるのは自分でも出来ると思うよ。どうもご親切様」
いくら青白いとは言え、ドラコの頬にピンク色がさした。
「ポッター君。僕ならもう少し気をつけるがね。もう少し礼儀を心得ないと、君の両親と同じ道を辿る事になるぞ。君の両親も、何が自分の為になるのかを知らなかったようだ。ウィーズリー家やハグリッドみたいな下等な連中と一緒にいると、君も同類になるだろうよ」
ハリーとロンが立ち上がった。
二人が口を開く前に、サラは言った。
「子供が多いウィーズリー家って、若しかして、この夏にエリが迷い込んだ家?」
「そうだけど」
赤毛の子はドラコを睨み付けながら素っ気無く返す。
サラは何とかビンセントとグレゴリーの前に出て、三人の間に立ちながら続けた。
「私、まだ名乗ってなかったわよね。私の名前はサラ・シャノン。エリの双子の姉よ。よろしくね」
男の子は一瞬、驚いたようだった。
だがそれも一瞬の事。ドラコと私を見比べるようにしながら睨み続ける。
「どうせ君も、僕達を下等だとか言うんだろ」
「いつ、私がそんな事を言った?」
「サラ、今僕がポッターに言った言葉を聞いていなかったのか? ウィーズリー家やハグリッドのような下等な連中とはいるべきじゃないんだ。君も同類になる」
飛び掛ろうとしたロンの腕を私は掴んで止めた。
「放せよ!」
「へえ、僕達とやるつもりかい?」
「今直ぐ出て行かないならね」
「貴方達が喧嘩するつもりでも、私はさせるつもりないわよ。ドラコ、いくら自分の名前が笑われたからって、ちょっと言いすぎだわ」
「僕が悪いっていうのかい? 僕は事実を言っただけじゃないか」
ドラコがせせら笑う後ろで、グレゴリーが蛙チョコレートに手を伸ばした。そして、恐ろしい悲鳴を上げた。
グレゴリーの太い指の先に、鼠が歯を立てて食いついていた。
グレゴリーは手をぐるぐると振り回し、ようやく鼠を窓に叩きつける。
「サラ、戻ろう!」
足音が聞こえてきてドラコが言ったが、サラは動かなかった。
来ているのは二人。エリと誰かのようだ。
ドラコは少し迷ったようだが、サラを置いて三人でコンパートメントを出て行った。
三人が出て行って少しして、エリと共に、栗色のふさふさの髪の女の子がやってきた。
エリは、サラを見るなり顔を顰めた。
栗色の髪の女の子の方は、既にローブに着がえている。
「一体何やってたの?」
「さっきの三人じゃねぇの。あの一番前走ってた奴、マジで嫌な奴なんだぜ」
エリが口を挟んだ。
グレゴリーが暴れた事によって、床いっぱいに菓子が散らばっていた。サラが手を放したロンは、鼠の尻尾を掴んでぶら下げている。
「こいつ、ノックアウトされちゃったみたい」
ロンはそう言いながら、もう一度よく鼠を見た。
「違う……驚いたなあ……また眠っちゃってるよ。――ハリーとエリ、マルフォイに会った事あるの?」
ハリーはロンと一緒に鼠を見ながら、エリは入ってきて蛙チョコの袋を開けながら、ダイアゴン横丁での事を話した。
特にエリが悪口を挟んでなかなか進まないので、途中途中サラも口を挟んだ。サラは、エリと一緒に来た女の子をちらちらと見る。何だか、彼女が除け者になってしまっている。
「僕、あの家族の事を聞いた事がある」
ロンは暗い顔をした。
「『例のあの人』が消えた時、真っ先にこっち側に戻ってきた家族の一つなんだ。魔法をかけられてたって言ったんだって。パパは信じないって言ってた。マルフォイの父親なら、闇の陣営に味方するのに特別な口実はいらなかったろうって」
「はっ。やっぱりな」
「親と子供は関係ないじゃない」
「そうだな。母さんや父さんはサラみたいに『報復』なんか当然、しなかっただろうしな」
「あら……。何の事を言ってるの?」
女の子が咳払いをした。
エリに対してのようだったが、反応したのはロンの方だった。
「何かご用?」
「エリの制服を取りに来たのよ。別に、貴方達に会いに来た訳じゃないわ。でも、二人も急いだ方がいいわよ。ローブを着て。私、前の方に行って運転手に聞いてきたんだけど、もう間も無く着くって。三人とも、喧嘩してたんじゃないでしょうね? まだ着いてもいない内から問題になるわよ!」
「スキャバーズが喧嘩してたんだ。僕達はしようにも、サラに止められたさ。――宜しければ、着がえるから出てってくれないかな?」
「ええ、そのつもりよ――エリ、早くして」
それから、女の子はサラに目を向けた。
「貴女も私のコンパートメントに来る? ここじゃ着がえられないでしょう?」
「ええ。ありがとう。でも私、ここのコンパートメントじゃないの。制服を取りに行かなきゃ」
エリは制服を手提げ鞄に移し終えた。
「お待たせっ。そんじゃ、ハリー、ロン、また戻ってくるから!」
出て行きざま、女の子はコンパートメントの中を振り返った。
「ついでだけど、貴方の鼻、泥が付いてるわよ。気づいてた?」
一両目へと向かいながら、女の子は自己紹介した。
「私、ハーマイオニー・グレンジャーよ。あの人達の喧嘩を止めたのって、貴女の事? 良かったわ。皆、あまりに子供っぽい振る舞いをするんだもの……。貴女、名前は?」
「サラ・シャノンよ。因みに、そこでしかめっ面をしているエリの双子の姉よ」
「本当に? エリ、貴女一言もそんな事言わなかったじゃない! 私、もちろん、貴女の事は全部知ってるわ。『近代魔法史』『黒魔術の栄枯盛衰』『二十世紀の魔法大事件』なんかに載ってるわ。貴女の養母も、有名よね。今言った本の他にも、『ホグワーツを卒業した偉人達』や『真実の予言』なんかにも出てるわ」
「ええ、まぁ……でも、本に何を書かれていたって、私、何も覚えてないわ」
「まあ、そうかもしれないわね。貴女、二歳になる前だったんでしょう? 貴女はどの寮に入るか分かってる? 私はグリフィンドールに入りたいわ。色んな人に聞いたけど、絶対一番いいんですって。エリの友達三人も、グリフィンドールだったわよね?」
突然話を振られてびっくりしながら、エリは頷いた。
「ああ。フレッドとジョージとリーだろ? フレッドとジョージの家族は、皆グリフィンドールなんだってよ。ロンもあの家の子だぜ。だから多分、グリフィンドールなんじゃないかな……フレッドとジョージはハッフルパフの可能性が高い、っつってたけど。俺もグリフィンドール入りたいかな。そこなら、少なくとも四人知ってる奴がいるし。でも、スリザリンじゃなければ他でもいいと思うけど。――サラは絶対、スリザリンだろうな」
「あら、どうして?」
ハーマイオニーに気づかれぬように、サラは笑顔をエリに向ける。エリはぎくりとする。
サラは続けた。
「私は嫌だわ。スリザリンなんて。だって、まだ捕まっていない死喰人がいるのでしょう? 闇の陣営についたのは純血主義――つまり、魔法界の旧家が多いって事よね? 旧家って事は、跡継ぎの為に子供がいる所が多いでしょう? 私の祖母は死喰人に殺されたのよ。犯人はまだ捕まってないらしいし。他の死喰人の子供は、親と子供は関係ない、って割り切れるけど、犯人は駄目ね。私、如何しても許せない。スリザリンに入って出来た友人が、実は犯人の子でしたなんて事になったら最悪だわ」
「そうね……。それに、『例のあの人』もスリザリン出身らしいわ。ねぇ、エリ。如何してサラはスリザリンだ何て言うの? さっきも、サラをしかめっ面で見ていたし。あなた達姉妹って仲が悪いの?」
「まぁ、良くは無いわね。エリが態度を変えない限り」
「お前みたいな奴、嫌わない方がどうかしてるよ。皆、お前のマグル界での事を知らねぇからなぁ?」
「さっきも言ったけど、それ、一体何の事かしら?」
「……」
満面の笑みで言えば、結局エリは黙るしかない。
エリが一緒に入学なのは、少々厄介だ。マグルの小学校で何があったかエリが皆に話してしまったら、せっかくダンブルドアが黙ってくれていても意味が無い。
「ああ、ここだわ」
ドラコ達のいるコンパートメントの前まで来て、サラは立ち止まった。
サラは扉をノックし、中に呼びかける。
「入ってもいい? 制服を取りに来たの」
扉が開いた。
ドラコを見てエリが下品な手まねをする。サラはそれを睨んでやめさせると、挑発されて飛び掛ろうとしていたドラコをコンパートメントに引き込んで扉を閉めた。
ドラコも、扉を開けて外へ出てまでエリを殴ろうとはしなかった。いや、寧ろそんな事をすればドラコの方が返り討ちに遭うのだろうが。
サラが荷物から制服を出している間、ドラコもビンセントもグレゴリーも無言だった。三人ともサラの様子を伺っているようだ。
「……何?」
制服を取り出し、サラは出来る限り冷たくならぬように気をつけた。
三人は顔を見合わせ、口を開いたのはドラコだった。
「えーっと……サラ、怒ってる?」
「え? ――ああ、そういう事。怒ってて、それで他のコンパートメントに移動すると思ったのね? そうね、あれは酷かったと思うけど。でも、それでコンパートメントを移動する訳じゃないわ。他の女の子の所のコンパートメントに行って着がえるだけよ。また戻ってくるしね」
三人はホッと息を吐いた。それから、ビンセントが首をかしげた。
「それじゃ、如何してあの場に残ったんだ?」
「あの場であなた達について行くって事は、ドラコの考え方と私も一緒です、って示すって事でしょう。私、ハグリッドやあの男の子を『下等な連中』だなんて思わないもの。
ああ、それと、ドラコ。そう言う訳だから、私が誰と仲良くしようと、口を出さないでほしいわ。だって私、あなた達と縁を切るなんて嫌だもの」
「ああ……分かった」
コンパートメントの外からエリの急かす声がした。
「おい、サラ! 早くしろよ!!」
「じゃあ、またね」
サラは軽く手を振り、コンパートメントを出た。
ハーマイオニーのコンパートメントへ行き、エリとサラが新品の黒く長いローブに着がえ終えた時、車内に響き渡るアナウンスが聞こえた。
「あと五分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校に届けますので、車内に置いて行って下さい」
荷物を置いていくのならば、特に急がずともホームでハリー達に合流すればいいだろう。
エリはそう思ったが、サラは慌てて戻って行った。
「だって私、また戻るって約束したもの!」
そう言ってサラがコンパートメントを出て行き、ハーマイオニーはエリを振り返った。
「エリは急がないの?」
「別に俺は特に約束してねぇし。ハーマイオニー、一緒に行こうぜ。いいか?」
「ええ」
ハーマイオニーは一人のコンパートメントだった。
リー達のコンパートメントで会って、蛙を探してやったネビルも、他のコンパートメントのようだ。
汽車は徐々に速度を落とし、とうとう完全に停車した。
ハーマイオニーとはぐれないように人混みを掻き分け、流されながら進み、小さなプラットホームに出た。
冷たい空気に思わず身震いする。昨日の夜は暑さと格闘してたってのに、随分な違いだ。
暫くそこで他の生徒と右往左往していると、遠くからランプが近づいてきた。それと一緒に、声も聞こえる。
「イッチ年生! イッチ年生はこっち! ハリー、元気か?」
如何やら、ハリーとロンはハグリッドの近くにいるようだ。
「さあ、ついて来いよ――あとイッチ年生はいないかな? 足元に気をつけろ。いいか! イッチ年生、ついて来い!」
エリ達は険しくて狭い小道を、ハグリッドに続いて降りていった。右も左も真っ暗だ。はぐれたりすれば、何も見えない中に取り残される事になる。
――それにしても……。
エリはぐるりと、同学年の子達を見回した。
皆、数センチはエリより低い。頭一つ分とまではいかないが、エリは一年生たちの中で少し飛び出ていた。エリと同じぐらいの身長なのは、前方にいるロンと、その少し後ろにいる男の子ぐらいだ。
「エリ、きょろきょろしてたら置いていかれるわよ」
ハーマイオニーが振り返り、言った。エリは歩くペースが少し落ちていたようで、いつの間にか皆と少し間が空いていた。
少し駆けてハーマイオニーの横に並んだ時、ハグリッドが振り返った。
「皆、ホグワーツが間も無く見えるぞ。――この角を曲がったらだ」
ハグリッドが角を曲がって見えなくなり、灯りがなくなって皆、急いで角を曲がる。前方から歓声が聞こえる。
最後尾のエリとハーマイオニーも曲がって、皆と同じように歓声を上げた。
狭い道は急に開けて、そこには黒い湖が広がっていた。向こう岸には高い山がそびえ、その頂に壮大な城が見える。大小様々な塔が立ち並び、城の窓は星空に溶け込むぐらいにきらきらと輝いていた。
「四人ずつボートに乗って!」
ハグリッドは岸辺に繋がれた小船を指差した。
エリはハリーとロンを見つけ、ハーマイオニーを連れて二人の後に続いて乗り込んだ。
ロンがハーマイオニーを見て少し顔を顰めたのは無視しておく。
「皆乗ったか?」
ハグリッドはネビルとボートに乗っている。二人なのに、きつそうだ。
「よーし、では、進めえ!」
ボートは一斉に動き出した。鏡のような湖面を滑るように進んでいく。
何だか、眠くなってきた。日本だと、今何時頃なのだろうか。
ぼーっとしていた為、エリはハグリッドの声を聞き逃した。
「あ゛わわわわわわっっ!!」
顔面に大量な蔦が直撃し、エリは思わず奇妙な叫び声を上げた。
「エリ!」
蔦のカーテンを過ぎ去り、ハリーとロンは慌てて立ち上がった。
ハーマイオニーが絆創膏を差し出した。
「引っ掻き傷が出来ちゃってるわよ。まったく。あなた達、立たないで。ボートがひっくり返っちゃう」
ハーマイオニーに言われ、ハリーとロンはそろそろと座った。ボートは二人が立った事によって、ぐらぐらと大きく揺れていた。
ボートはトンネルをくぐり、地下の船着場に到着した。
「引っ掻き傷って、どの辺だ?」
「頬の辺りよ。……痛みとかで分からないの?」
「うわっ。エリ、血が出てるよ!」
灯りに照らされて、ロンの顔が青ざめているのが分かった。
ハーマイオニーがエリに渡した絆創膏を取り上げ、貼ってくれた。
全員が下船し、ハグリッドはボートを調べていたが不意に声を上げた。
「ホイ、お前さん! これ、お前のヒキガエルかい?」
「トレバー!」
ネビルは大喜びで手を差し出した。また逃げ出していたらしい。
エリ達はハグリッドのランプの後に従い、ごつごつした岩の路を登り、湿った滑らかな草むらの城影の中に辿り着いた。そして石段を登り、巨大な樫の扉の前に集まった。
「みんな、いるか? お前さん、ちゃんとヒキガエル持っとるな?」
ハグリッドは大きな握りこぶしを振り上げ、城の扉を三回叩いた。
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希望求めし少女たちは
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2007/01/05