教室に入り一番に耳にするのは、新しい「犠牲者」の話。
「ねえ、聞いた? 昨日の放課後さぁ……」
「貯水池に飛び込んだんでしょ?」
「あそこ、昨日水貯めてる所だったんだって。だから、流れで沈んじゃって、大変だったらしいよ……。一歩間違えれば、死んでたって聞いた……」
「それで、その子は? また、一週間?」
「そう、全治一週間。怖いよね……」
 アリスはぎゅっとランドセルの紐の部分を握る。
 そしてぱあっと明るい笑顔になり、クラスメイト達の輪に飛び込んだ。
「おはようっ。ねぇ、何の話?」
「おはよう、アリスちゃん。
また、一個上にいる化け物だよ。昨日も、『犠牲者』が出たんだって」
「ぎせいしゃ……」
「『報復』のターゲットにされた人が、そう呼ばれるの。昨日も、シャノンに食って掛かった子が、報復に遭ったらしいよ」
 アリスは、きょとんとした顔をする。
 ……本当は、分かっていた。噂がどう言う意味なのか。サラが、どう言われているのか。
「アリスちゃん、可哀想だよね。あんな化け物と一緒に暮らしてるなんて……。何かあったら、私達に連絡してね。うちのママも、アリスちゃんの事心配してるんだよ」
「うち、お兄ちゃん柔道部だから強いよ!」
 クラスメイト達は口々に、アリスを励ます。
 アリスはニコニコと笑っていた。
「ありがとう。でも、大丈夫だよ。サラ、そんな悪い奴じゃないもん」
「もーっ。だから、悪い奴なんだって! その噂の犯人、全部シャノンなんだって!」
「アリスちゃん、優しすぎるよ〜。化け物にまで優しくしないでいいんだよ〜。ほんと、心配になってくる」
「奴の事だから、アリスちゃんの優しいところに付け入ってきそうだもんね」
「ね、今日は雨だけど何処で遊ぶ? うちの家、今日はおじいちゃんとおばあちゃんが来てて……」
「じゃ、先月出来た児童センターは? あそこ、色んなおもちゃがあるんだって」
「えー? でも、遠くない?」
「私、お母さんに車出せるか聞いてみる。雨だからって、アリスちゃんをシャノンしかいない家に帰す訳にはいかないもんね。もう一人の姉も、信用できないし」
「エリだっけ? その人、化け物の肩持ってんでしょ?」
「訳分かんないよねー」
 アリスは、おどおどとした表情を取り繕い、皆の話を聞く。
 そうすると、クラスメイトの一人が気付くのだ。アリスの頭をくしゃりと撫で、皆を言い諭す。
「ほーら、エリはアリスの実の姉なんだからね。そんな悪く言ったら、アリスが可哀想じゃん」
「あ、そっか……。ごめんね」
「でも、あたし達は、絶対アリスを化け物から守るからね」
「皆、ありがとう」
 そう言って、アリスは微笑む。
 サラの噂は、信じたくなかった。エリの事を、悪く言われたくなかった。
 けれどもあからさまに反発すれば、それはクラスメイトの反感を買う事になる。暗い顔をすれば最後、アリスもエリ同様、クラスメイトからサラの事で虐められる事になるのだ。
 怖かった。サラの報復事件に対し、生徒達の結束力は固い。この敵意が一度に自分に向かう事になったら、どうなる事か。
 だからアリスは、笑っていた。
 偽の笑顔を貼り付けて、皆に愛想を振りまいて。そうしなければ、生き残れなかった。
 本心はひた隠し、ただにこにこと笑っている。そうしている限り、皆がアリスを攻撃する事は無い。アリスまでもが化け物と呼ばれる事は無い。寧ろ、こうして守ってくれさえする。
 本心を隠し笑うだけでこうも違うのならば、アリスに選択肢など無かった。アリスは、愛想の良い笑顔を崩す事は無かった。崩すのが、怖かった。





No.80





 目が覚めると、アリスは医務室のベッドの上に横たわっていた。薬の臭いが、つんと鼻を突く。
「起きた?」
 アリスのベッドの横には、ナミが座っていた。
 自分達と同年齢ぐらいの姿になっているナミ。それを見て、アリスは夢を見ていたのだと気がつく。そして、どうして眠っていたのか。
「あたし……眠らされただけ?」
 アリスは眉を顰め、ナミに問うた。
 相手はスリザリンの生徒達。態々あそこまで呼び出して、眠らせるだけと言う事は無いだろう。
 ナミは言葉を詰まらせる。
「……それじゃ、ずっと眠っていたんだね」
 ゆっくりと、そう言った。そして続ける。
「貴女ね、門の方へ運ばれていたんだよ」
「え……?」
 門? アリスは首を傾げる。
 学校から、追い払おうとしたという事だろうか。だが、それが何になる? 目が覚めれば、帰る事が出来る。それとも、何処か迷子になるような遠くまで運ぼうとしたのだろうか。否、若しそうならば、森へ運んだ方が良い筈だ。
「門は、吸魂鬼が見張っているでしょう」
 さーっと血の気が引いていくのを感じた。
 吸魂鬼。では、アリスを捕らえた者達は、吸魂鬼がアリスに接吻をするよう仕向けたのか。
「たまたま、エリが自主練で競技場に行っていてね。アリスを庇ってくれた」
「エリが? エリは無事なの!?」
「うん。さっき寝たばかりだよ」
 そう言って、ナミは背後のカーテンを目で示す。
 アリスはホッと胸を撫で下ろした。
「幸い、スネイプ先生が間に合ってね。貴女達を助けてくれた」
「スネイプ先生が?」
「マルフォイが呼んだんだ。アリスの様子が変だって気付いて、ついて行ってたんだって。アリスが眠って門へ飛ばされる所まで、一部始終見ていたらしくてね」
「ドラコが……」
 アリスは呟く。
 きっと、ナミは真剣な表情になった。
「マルフォイも、犯人は見ていないと言っていた。脅して吐かせようとしたけど、本当らしい。
アリス。貴女、犯人に心当たりは無い?」
 ナミの問い方は、無いかと尋ねるより、あるだろうと確信しているようだった。
 アリスはナミをじっと見つめていたが、やがて目を逸らし首を振った。
「……無い」
「本当に? 嘘を吐かなくたって良い。脅されているなら、そう言いなさい。お母さんは、貴女の味方だから」
「無いわ。本当よ」
 アリスは、抑揚の無い声で答える。
「マルフォイは、アリスが約束があると言ってたと言った。誰と約束していたの?」
「お母さんには、関係無い」
「関係無いって事は無いでしょう。大丈夫。お母さん、そんな無鉄砲に行動したりしないから。アリスがばらしたって、直ぐにばれちゃうような事しないから」
「うるさいなぁ! 無いって言ってるじゃない!!」
 アリスはナミを睨み、怒鳴りつける。
「貴女に話して、それで貴女は何をしてくれるって言うの? 貴女に何が出来るって言うの!? ――スクイブの貴女に!!」
「……知ったんだね」
「ええ、知ったわ! 貴女はスクイブ!! だから私もスクイブなのよ!! サラやエリは、父親が魔法使いだから、貴女がスクイブでも何ら問題無かった!! だけど私は、スクイブとマグルの子だから! だから、貴女からしか魔法を受け継がなかった!! スクイブという中途半端な魔法しか!!」
 アリスはぎゅっと拳を握り締める。
 その目には、涙が溜まっていた。震える声で、責めるように問う。
「どうして……スクイブなの……?」
 彼女がスクイブでなければ。スクイブでなければ、自分も違ったかもしれないのに。
 何故、スクイブは存在するのだろう。魔法使いの遺伝子は強いのではなかったのか。なのに、何故。
 ナミの両親も、優秀な魔法使いと魔女だったと聞くのに。
「どうして……? どうしてよ……っ!!」
「アリス……」
「貴女がスクイブだから、私もスクイブなのよ! 魔法が使えないのよ!!
どうして魔法使いの男と別れたりなんかしたのよ!? ずっと、その男と一緒にいれば良かったのよ! そうすれば、エリとサラが妙な事になんてならずに済んだ! そうすれば、私は生まれたりしなかった!! マグルとスクイブの子になるぐらいなら、生まれたくなかった!! 生まれて来なきゃ良かった! なんで私を生んだりしたのよ!!」
「馬鹿言ってんじゃないよ!!」
 ナミは座ったままだった。
 座ったまま、じっとアリスを見つめていた。
「『生まれて来なきゃ良かった』なんて、冗談でもそんな事言うもんじゃないよ。例え今辛くっても、それだけじゃないでしょう。貴女は生まれてきて、どれだけの幸せに恵まれてきたと思ってんの。生きたいのに死んでしまった人も、世の中にはいるんだよ」
「だから何? 生きたいのに死ぬ人がいるから、生きれる人が生きたくないって言うのは、罪だって言うの!? 関係無いじゃない! 私が生きた所で、その人達が長生き出来る訳じゃないでしょ!?」
「変な理屈捏ねてるんじゃないよ。そういう意味じゃないって、分かんないの?
生きてるってのはね、それだけで幸せな事なんだよ。辛い事ばかりじゃ無いでしょう。心からの笑顔になれる事だって、あるでしょう。その幸せは、生まれてきたからこその物なんだよ。そりゃあ、生まれて来なければ、辛い事なんて何も無いかもしれない。けどね、幸せだって何も無いんだよ。そんなの、詰まらないでしょう」
「……詰まる詰まらないの問題なの」
「そりゃあ、人生楽しんだもの勝ちでしょ」
 そう言って、ナミは笑う。そして、微笑んだ。
「私は、アリスが生まれてきて嬉しかったよ。だから、そんな寂しい事言わないでよ」
「……」
 アリスは無言で寝転がる。そして、ナミに背を向けた。
 反抗心ではなかった。罰が悪かったのだ。

 ふと、医務室の扉が開いた。
 アリスは寝返りを打ち、そちらを見る。入ってきたのは、ハッフルパフのセドリック・ディゴリーだった。
 ナミが席を立つ。
「貴女、若しかして『セドリック』? ハッフルパフ・チームのキャプテンの」
「ああ、うん」
「エリから話は聞いているよ。どうも、エリがいつもお世話になって……」
「え、あ、はぁ……」
「『従姉の』ナミよ」
 アリスは口を挟む。ナミは自分が子供の姿になっている事を、どうやら忘れていたようだ。
 セドリックは、「ああ」と納得する。
「今年、転入して来た子だね。僕も、エリから話を聞いているよ」
「エリの見舞いに?」
「うん。それと、連絡があって……。容態も確認しないと、と思って……ほら、今週末、クィディッチの初戦があるだろう?」
「でもそれって、グリフィンドールとうちの寮でしょ?」
 アリスが口を挟む。
 しかし、セドリックは首を振った。
「いや。グリフィンドール対ハッフルパフだ。スリザリンのシーカーの腕が、まだ治らないらしくてね。困っているようだから、うちが代わった」
「なんだってぇ!?」
 叫び声と共に、隣のベッドのカーテンが勢い良く開いた。
 エリはベッドの上に立ち、セドリックを見下ろす形で問う。
「本当か!? 俺達、今週末になったのか!?」
「うん。今までスリザリンの予定だったから、競技場もそっち優先で、僕らあまり練習出来ていないだろう。だから、今日緊急招集って事になったんだ。どうだい? 今週末は間に合いそうかな。無理なら――」
「今週末どころか、その緊急招集だって出るに決まってるじゃねぇか!」
 そう言ってエリは、ベッドを飛び降り靴を履く。
「エリ。駄目だよ、まだマダム・ポンフリーの許可が出てないんだから」
「本人が大丈夫つってるんだから、大丈夫だって。んじゃ、マダムによろしくぅ! 捕まる前に行くぞ、セドリック!!」
「えっ。本当に大丈夫なのかい? 無理はしない方が――」
「大丈夫だっての!」
 そう言い、エリはセドリックの手を引っ張って医務室を飛び出して行った。
 入れ替わりに、マダム・ポンフリーの部屋に続いている扉が開く。
「何ですか。さっきから騒々しい。ここは病人がい――」
 マダム・ポンフリーの小言は、アリスの隣のベッドを見て途切れる。
「……今、出て行きました。治ったと言って」
 恐る恐る、アリスは言った。
 マダム・ポンフリーは、明らかに怒っている様子だった。
「何が大丈夫なもんですか! ついさっきまで、あんなに錯乱していた子が! まったく、あの双子は抜け出すばかり!! もう!」
 アリスもナミも、苦笑するしかなかった。





「はい! パス!!」
 投げられたボールをキャッチし、エリはゴールへと飛ぶ。投げたクァッフルは、あっさりとシュートされる。
 しかしエリは、不服な顔をして浮かんでいた。
「おい、てめぇ!」
 エリはキーパーに向かって叫ぶ。
「ぼさっとしてんじゃねぇよ! 試合中もそんなんじゃ、負けちまうぞ!!」
 そして、同じチームメイト達を振り返る。今、エリ達は三対三の試合形式で練習をしていた。シーカーはチェイサーに加わり、ビーターも二チームに分かれている。
「お前らもだ! ボールを持ってる奴がゴールに飛んで行ったら、止めるのが当たり前だろ! 何で誰もディフェンスしねぇんだよ!! ブラッジャーも来ねぇし……本番前だからって、遠慮してんじゃねぇぞ! ここでブラッジャーに当たるような選手なら、本番だって当たるんだよ! 何のために練習してんだか、意味分かんねぇ!!」
 何度繰り返しても、同じだった。何度、同じ事を怒鳴っている事か。
 エリは、同チームになっていたチェンバースをも睨みつける。
「お前もだ!! 試合でこんなにあっさり、ハーフラインからここまで一人で運べる訳ねぇだろ! 手ぇ空いてる奴は、ゴール前とかでボール呼べよ!
いいか!? 相手はグリフィンドールだ! ウッドは今年で最後なだけあって、猛烈に気合が入っている。他の選手達だって、それについて行ってる。シーカーに頼りきるな!! 何の為に、チェイサーやキーパーやビーターがいると思ってんだ!」
「ひゅ〜、熱いこった」
 チームメイトの一人が、小さな声で横にいる友人に話しかけた。
 しかしその声は、はっきりとエリの耳に入った。
「ふざけてんじゃねぇよ!! お前、危機感って物がねぇのか? 俺達は、練習が遅れているんだ。だのにやる気まで無くて、どうすんだよ!」
「……」
 剣呑な空気が一同の間に流れる。
 セドリックが、手を叩いて割って入った。
「それじゃ、もう一回やろう。ほら、皆位置について。今度は、僕達のチームからだ」
 皆、ハーフラインに並ぶように浮かぶ。エリは、ディフェンスに直ぐ入れるよう中央へ向かって斜めに浮かぶ。
 セドリックの合図で、クァッフルが動く。エリは選手とゴールまでの間に飛び込み、箒を足だけで挟んで大きく手を広げた。パスが回され、それに飛びつく。キャッチしたクァッフルを、チェンバースのやや下に向かって投げた。
 しかし、チェンバースはそれを取り落とす。旋回すれば容易にキャッチ出来る位置。チェンバースは、腕を伸ばしただけだった。
 エリの堪忍袋の緒が切れた。
「なんでそれが取れねぇんだよ!!」
「エリが強く投げるからよ。パスの速さじゃないわ」
「馬鹿か!? ゆっくり投げたら敵に取られるだろ」
「だからって、こんな足元に速いボールを投げて、取れる訳無いじゃない」
「旋回すりゃあ、取れるだろ!」
「そんな直ぐに出来ないわ」
「……は?」
「そりゃあ、ただ飛ぶだけの中でなら出来るわよ。でも、旋回しながらキャッチして、更に敵にも取られないようになんて、そんなの難しすぎるわよ」
 またしても、今度は相手チームがあっさりとゴールを決めていた。先程文句を言った生徒が、嫌味ったらしく言う。
「なんだよ。何だかんだ言って、エリだってディフェンスまともにやってな――」
「っざけんな!!」
 怒鳴り声に、彼の言葉は掻き消される。
 エリはぎろりとゴール付近を飛ぶチームメイト達を振り返った。
「……おい。腕立て毎日やってる奴、手を挙げろ」
 きょとんとした顔で、セドリックが手を挙げた。
 ……他に手は、挙がらない。
「ふざけんじゃねぇよ!! 腕立てやってりゃ、旋回なんて簡単に出来るようになるんだよ! 腹筋やりゃあ、キャッチ出来るボールの範囲が広がるんだよ! 俺が出した自主練メニュー、なんでセドリックしかやってねぇんだよ!? お前ら、本当にクィディッチやる気あんのかよ!?」
「んな事言ったって、勉強だってあるし……」
「そんなの、俺やセドリックだって同じだ!!」
「でも貴女、勉強と両立出来てないでしょう」
 チェンバースが、辛辣に言い放つ。
「ちゃんと両立しているセドリックが言うなら、まだ分かるわ。でも貴女は、勉強を犠牲にしてクィディッチに打ち込んでいるじゃない。私達にも、勉強を犠牲にしろって言うの? 今年、OWLやNEWTの試験を控えている選手もいるのに? そんなの、勝手だわ」
 エリは、怒りがふつふつと込み上げるのを感じていた。拳を握り締め、そして箒の絵を持つと、急旋回する。
「もう、やってらんねー! 帰る!!」
 そう言い捨てて、エリは地面へと急降下する。グラウンドに降り立ち、肩を怒らせて競技場を出て行った。
 競技場を出て間も無い内に、セドリックが後から追ってきた。
「エリ! 待ってくれ、エリ!! 戻ろう。それで、皆に謝るんだ」
「何で俺が謝らなきゃなんねーんだよ! 悪いのは、選手って自覚の無ぇあいつらだろ!! やってられっかよ!」
「エリ!!」
 セドリックがエリの腕を掴む。エリは、それを強く振り払った。
「だって、あいつら全然やる気ねーじゃんかよ! こんなんで勝てる訳無いだろ!!」
「皆だって、やる気が無い訳じゃないよ。エリの求める物が大き過ぎるんだ。チェンバースの言う事も、尤もだよ。あの練習メニュー全てをこなすのは、元々慣れていない限り難しい。それに、皆も勉強がある。クィディッチだけで生活している訳じゃないんだから」
「クィディッチ選手になった時点で、それが幾らか犠牲になるってのは、承知の上だろ」
「皆が皆、そういう訳じゃない。クィディッチの為に勉強を犠牲に、なんて言い分はおかしいよ」
「それじゃセドリックは、ハッフルパフが負けても良いってのかよ!?」
「そんな事言ってない。けれど、勝ちだけを求めるのも、違う気がするんだ」
「ふざけんな! キャプテンのお前がそんなんだから、皆やる気がねぇんだ! 今度の試合で勝たなくて、どうすんだよ!? それじゃ、何の為にクィディッチやってんだよ!?」
 エリは、今にも掴みかからんばかりの勢いだ。
 セドリックは、冷静な視線でエリを見つめていた。
「それじゃあ、僕も君に聞きたい……。エリは、どうしてそんなに勝つ事ばかりに執着するんだい? それも、相手がグリフィンドールだと分かった途端だ。エリこそ、何の為にクィディッチをやっているんだい?」
「勝つ為に決まってんだろ」
「サラに、かい?」
 セドリックの口調は厳しかった。
「私情で勝ちたいと言うのを悪いとは、言わない。けれどそれを皆にも押し付けるのは、おかしいよ。私情を挟んで勝たなきゃいけないと豪語する奴に、皆が賛同する訳が無い」
「俺は……別に……っ」
 エリはくるりと背を向ける。そして、駆け出した。
「あっ。エリ! エリ!!」
 セドリックの呼び止める声が聞こえていたが、エリがそれに応える事は無かった。


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2009/12/05