アリスは、スネイプから貰った許可証を手に、図書室へと向かっていた。
角を曲がると、同じ寮の生徒達が待ち構えていた。アリスは眉を顰める。ずらりと立ち並ぶ同寮生達。こうも道を遮られては、先に進む事が出来ない。
「……何の用?」
アリスは冷ややかに問う。
女子生徒の一人が、一歩前へと出た。
「いい加減、恥ずかしくないのかしらと思ってね」
「何のお話?」
「魔法が使えないのだから、マグル界へ帰りなさいよ。ここは魔法学校よ。スクイブの通う学校じゃないの」
「ご忠告どうも」
アリスはポケットの中の小瓶を掴み、直ぐに開けられるよう指をコルク栓に添える。
だが、特に魔法で何か仕掛けてくるという訳ではなかった。
「警告はしたわよ」
そう言って、同寮生達は去って行った。アリスは廊下に立ち尽くし、その背を見送っていた。
一体、何を企んでいるつもりなのか。嫌な予感がしてならなかった。
No.84
スネイプは何も言わず、エリの話に聞き入っていた。
エリは立ち上がり、壁際へと歩み寄る。戸棚に置かれた研究材料に興味を示している振りをしながら、続きを話す。
「それから、身体を鍛え始めたんだ。喧嘩に勝つ為に、見くびられないように。元々背は高い方だったのもあってさ、体育も得意になった。そしたらさ、チームプレーでも外されるどころか取り合いされるんだよな。嬉しくなって、これが自分に合った道なんだって思った。もっと鍛えた。
それでもまだ、『化け物と双子』って言って八つ当たりはされたけど、もう逃げないで立ち向かって行ったんだ。俊哉と留美――まだ風当たり強いのに、二人は友達になってくれた。二学期には学級委員にも挑戦してみたりしてさ。あの頃は、毎日が戦いだったなぁ……。
俺がサラと仲悪いって知れると、味方は一気に増えた。体育得意な所為か、なんか女子に人気出ちゃったりしてさ。その頃には喧嘩三昧だった事もあって、口調乱暴になって来てたしな。先生にまで刃向かってたしよ。日本語じゃ一人称色々あるんだけど、友達に言われて男子の一人称使うようになったりとかさ。たった一年程度で、大分変わったんだぜ」
そう言って、エリは悪戯っぽく笑う。
スネイプは席を立ち、真っ直ぐにエリの背中を見つめていた。そして、ゆっくりと歩み寄る。
「ずっと、誰にも言えずに溜め込んでいたのか……」
「否、話した事あるよ」
エリの返答に、スネイプはホッとする。これを一人で抱えるのは、あまりにも辛い事だろうから。
だが、次の言葉を聞き息を呑んだ。
「――先学期、秘密の部屋に連れて行かれた時、リドルに」
トム・リドル――現在の、ヴォルデモート卿。
エリの声は、震えていた。
「日記に書き込めば、ジニーから力吸い取るのは中止するって言ったから。ジニー、今にも死にそうだったんだよ」
「だが、それではエリが――」
「いいよ。もう、終わった事だし。ジニーも助かったんだから」
「それは……誰かに相談したのか?」
エリは振り返る。……笑っていた。
「する訳無いだろー。万が一にも、ジニーの耳に入ったらいけないし。お前も、誰にも言うなよ?」
エリは笑いながら話す。それが、途方も無く寂しかった。無理な笑顔ほど、寂しいものは無い。
日本の彼氏と親友に裏切られた時。アリスが襲撃事件の被害者となった時。辛いだろうに、彼女は笑っていた。無理をさせている自分に、腹が立った。
スネイプは、そっとエリの背に腕を回した。
「え……な……!?」
「これなら、泣いたって見えまい。無理に涙を堪える必要は無い」
一瞬の間が空き、エリの肩が震えるのが分かった。どんなにガサツであろうとも、口が悪かろうとも、彼女は女の子なのだ。
泣きたい時に泣けなかった。家でも、学校でも、涙を見せる事は出来なかった。
家族を心配させる訳にはいかなかった。クラスメイト達に隙を見せる訳にはいかなかった。
大勢の仲間に囲まれているようで、実質、一人だったのだ。エリの方が、サラ以上に壁を作っていたかも知れない。
「……俺、泣いてないからな」
「分かっておる」
薄暗く冷たい教室の筈だが、エリにはとても暖かく感じられた。
月曜日になり、ハリーは医務室から帰って来た。
吸魂鬼で気絶したり、箒が大破損したりと散々な週末だったが、ハリーは少なくとも表面上はいつも通りだった。その事に、サラ達は一安心する。
ただ、ドラコはしつこい程にハリーをからかい続けた。偽の怪我が治ったのを良い事に、身振り手振りまで付けて、ハリーが落下する時の様子を真似た。
「いい加減にして頂戴。馬鹿みたい」
魔法薬学の授業中、サラは見兼ねてぴしゃりと言った。
ドラコは一瞬傷付くような顔をしたが、サラは無視して作業に戻る。それからは、大人しくしているようだった。
だがそれも、サラが見ている内の話。そもそも、授業は魔法薬学だ。調合が大の苦手であるサラには、ずっとドラコを見張っているような余裕は無かった。サラがぬめぬめと滑るワニの心臓に四苦八苦している隙に、ドラコはハリーに向かって吸魂鬼の真似をしてみせる。ロンはついに怒りが頂点に達し、ワニの心臓を投げつけた。見事、ドラコの顔にクリーンヒットする。
「何をしている、ウィーズリー!」
スネイプの叱責が飛ぶ。サラは顔を上げ、何があったのかを理解すると眉を顰めてロンを見た。
ロンはドラコがやっていた事を話そうとしたが、その前にスネイプの声が教室に響き渡った。
「グリフィンドール、五十点減点!」
異常とも言える減点数に腹が立ったが、サラは何も言わず口を真一文字に結ぶだけだった。
「闇の魔術に対する防衛術」の教室へ向かう間、ロンはずっとドラコやスネイプへの悪口を言い続けていた。
サラは肩を竦め、冷ややかに言い放つ。
「でも、ワニの心臓を投げたのはロンが悪いわ。あの時ドラコ、何も言ってなかったじゃない。どうせやるなら、言われて直ぐ、見つからないようにやりなさいよ」
「何も言ってないだって? そりゃあ、『言って』はいなかったさ。サラは、あいつが何をしていたか気付いてないんだ!」
「何をしていたって言うの? 私、隣にいたのよ。ドラコが何かやって気付かないほど、間抜けじゃないわよ」
「それじゃ、サラは間抜けだったって事だな。君、自分の苦手な物も自覚した方が良いよ。確かにサラは目敏いけど、魔法薬の調合中はそんな余裕無いみたいだからな」
「何よ、その言い方」
ハーマイオニーが呆れたように口を挟んだ。
「いい加減にしなさい。私達が喧嘩してどうするのよ。――何よ、ハリー。何か言いたそうだけど」
「いや、何も」
ハリーは肩を竦める。
ロンは口を尖らせて言った。
「『闇の魔術に対する防衛術』を教えてるのがスネイプなら、僕、病欠するからね」
教室の前で、ロンは立ち止まる。
「ハーマイオニー、教室に誰がいるのか、チェックしてくれないか」
ハーマイオニーはドアを開け、教室の中を覗き込む。そして、大丈夫だと告げた。
サラも胸を撫で下ろし、教室へと入って行く。
ルーピンの病気は、事実だったようだ。寧ろ、どう見てもまだ具合が悪そうで、復帰は嬉しいものの大丈夫なのかと心配になってくる。たいそう疲れている様子だったが、それでも彼は生徒達に微笑みかけた。
その笑顔に、生徒達は安堵する。同時に、スネイプへの怒りや不満を口々に言った。
「理不尽だ! 代理だったのに、どうして宿題を出すんですか?」
「僕達、狼人間について何にも知らないのに――」
「羊皮紙二巻なんて!」
矢継ぎ早に繰り出される文句にたじろぐ事も無く、やや顔を顰めてルーピンは生徒達に尋ねた。
「君達、スネイプ先生に、まだそこは習っていないって言わなかったのかい?」
「言いました。でもスネイプ先生は、僕達がとっても遅れてるって仰って――」
「耳を貸さないんです」
「羊皮紙二巻なんです!」
誰か、羊皮紙二巻をどうしても強調したい者がいるらしい。
スネイプには不満だが、宿題は形だけでも終わらせた。サラはハーマイオニーと同じく、特に抗議もせずに大人しくしていた。
サラは、羊皮紙二巻分のレポートに目を落とす。これを書く為に見た、月齢樹の表。一月に一度ぐらいのペースで体調を崩すリーマス・ルーピン。若しかすると――
隣に座るハーマイオニーを見ると、丁度同じ事を考えているのか、困惑したような表情でじっとルーピンを見つめていた。サラの視線に気付き、振り返る。
「ねえ、サラ。貴女も宿題、終わらせているでしょう?」
「ええ、まあ」
「それじゃ――気付いたわよね?」
生徒達の喧騒に紛れて、ハーマイオニーはひそひそと話す。サラは、無言で頷いた。
「ねえ、サラはどう思う? ダンブルドアが雇ったんだもの。大丈夫だろうとは思うけど……」
「同意。でもそもそもの話からして、あくまでも可能性の域を出ないけれどね。でも若しそうなら、見てみたいわ……」
「……え?」
「だって、要は動物でしょう? 可愛いじゃない」
ハーマイオニーは何も言わずに、顔を前に戻す。
ルーピンはにっこりと皆に笑いかけていた。そして、ハーマイオニーには残念な告知をした。
「よろしい。私からスネイプ先生にお話ししておこう。レポートは書かなくてよろしい」
「そんなぁ」
残念そうな声を上げたのは、ハーマイオニー一人だった。
サラは肩を竦める。
「ま、いいじゃない。予習が出来たとでも思っておけば。先生が休む事への疑問も、解決した訳だし」
「それは、まあそうだけど……」
頷きつつも、ハーマイオニーは納得していない様子だった。
ルーピンの授業は面白い。前回がスネイプだった事もあり、尚更楽しく感じられた。
「これは、旅人を迷わせて沼地に誘う」
ヒンキーバンクの説明を、生徒達はノートに書き取る。
「手にカンテラをぶら下げているのが分かるね? 目の前をピョンピョンと跳ぶ――人がそれについて行く――すると――」
ヒンキーバンクが壁にぶつかり、ルーピンの話を遮った。
授業が終了し、サラはロン、ハーマイオニーと共に教室を出て行った。ハリーはルーピンに呼び止められたのだ。
「やっぱり、『闇魔術に対する防衛術』はルーピンじゃないとな」
動く階段を飛び移りながら、ロンが言った。
サラとハーマイオニーは、大きく頷く。
「本当。闇の魔術に対する防衛術って先生が毎年変わってるけど、ルーピン先生は来年もずっと教えて欲しいわ。スネイプなんて、言語道断!」
「羊皮紙二巻なんてありえないよな」
「あら。それは私達、一応終わらせたわよ。ねえ、ハーマイオニー?」
サラは振り返ったが、そこにハーマイオニーはいなかった。サラもロンも目を瞬き、足を止める。
ロンが眉を顰めた。
「またか?」
サラは再び前を振り返る。階段の下から、ハーマイオニーは上がって来ていた。
「いたわ」
サラの言葉にロンは振り返る。階段の上と下とを、交互に見ていた。
ハーマイオニーは息を切らして階段を駆け上がって来た。
「ついさっきまで、後ろにいたのに――」
「そうだったかしら?」
ハーマイオニーは肩を竦める。
「そうだよ。これで何回目だ? 九月から、突然消えたり現れたり――ねえ、何をしてるのか少しは教えてくれる気ないかな」
「何もしてないわよ。授業を受けたり、宿題したり、サラ達の練習を見学したり――何も変わり無いわ」
ロンは訴えかけるような目でサラを見る。
けれども、サラがロンに口添えする事は無かった。
「そんなに無理に聞かなくても、必要ならその内教えてくれるわよ」
味方を得られず、ロンはふくれっ面で黙り込む。
玄関ホールまで降りて来ると、何十枚、何百枚と言う羊皮紙の切れ端が、生徒の混雑の上を舞っていた。紙には何か書いてあるらしい。それを拾って読む生徒達で、普段から込み合っている玄関ホールは、尚更人がごった返していた。
「何かしら」
ハーマイオニーが、足元に落ちてきた羊皮紙の切れ端を拾い上げる。サラとロンは、それを横から覗き込んだ。
『アリス・モリイはスクイブ』
たった一言、紙にはそう書かれていた。
「アリスって……アリスの事!?」
ロンは驚きに声を上げ、サラを見る。サラは目を見開き、まじまじとその一文を見つめていた。そして、くしゃりと握り潰す。
あり得ない。そう、言おうとした。けれど直ぐ、ナミの事を思い出したのだ。ナミは魔法が使えない。本人は子供化した影響によるものだろうと言っていたが、怪しいところだ。魔法を使えない事に、彼女は何の驚きも焦りも無いようだったのだから。そしてナミが魔法を使えないのならば、魔法力をナミからしか受け継いでいないアリスは、どうなる。アリスもナミと同じく魔法が使えなくても、何ら不思議では無い。しかし……。
「……あり得ないわ」
ぽつりとサラは呟く。
誰がこんな事を。また、去年の生徒達だろうか。まだ懲りていなかったのか。
羊皮紙の切れ端は全て落ち、宙を舞う物はなくなっていた。天井の辺りまで浮かせて、落としたのだろう。既に犯人は、人ごみの中に紛れ込んでしまっている。
不意に、サラは階段の上を仰ぎ見た。アリスが降りて来る所だった。
目が合い、アリスは軽く手を振る。そして、目を瞬いた。玄関ホールの床に疎らに散る、羊皮紙の切れ端。それは、階段の下段の方にまで達している。紙を読んだ者達が、アリスに気づきちらちらと視線を向けていた。
きょとんとした様子で、アリスは足元の紙に手を伸ばす。
「駄目っ、アリス――」
サラの制止は遅かった。紙に書かれた文を見たアリスの目が、みるみると見開かれて行く。
そして背を向けると、駆け去ってしまった。
「アリス!」
サラは咄嗟に後を追おうと駆け出す。
「退いて! 退いて頂戴――」
人ごみを掻き分け階段の下まで辿り着いた時には、既にアリスの姿は無かった。
戸口を挟んで、セブルスとナミは対峙していた。ナミは笑顔で片手を挙げる。
無言で扉が閉じられる。ナミは慌ててそれを押さえた。
「ちょっ、対応酷くない!?
大丈夫だって! この間みたいな事はしないから! 別に、今日はそんな理由も無いでしょ?」
「……何の用だ」
セブルスは渋々、ナミを迎え入れる。
「毎回聞くねー……。『貴方に会いたくて』って事で」
「帰れ」
心底うんざりした調子だった。
呆れた様子で、勝手に紅茶を準備するナミを眺める。
「……放課後は、いつもルーピンの所に行っているのではなかったのか」
「別に、いつもって訳じゃないけどね。リーマスから聞いたの?」
「先日、また薬を届けに行った時にな。……少しは控えたらどうだ?」
セブルスの言葉に、ナミは軽く顔を顰める。
「何子供みたいな事言ってんの。セブルスがそうであるように、リーマスだって私の友人だよ。そんな事、貴方に言われる筋合い無い」
「そう言う意味では無い」
ナミはきょとんとした顔をする。
セブルスは呆れたように溜息を吐いていた。
「リーマスには、魔法使えるようになるよう教えて貰ってるのもあるからね。でも今は彼も体調悪いみたいだし、今日はハリーに話あるみたいで呼び止めてたから」
話しながら、宿題のレポートが重なっているセブルスの机に紅茶を置く。自分も紅茶を持ち、机の正面にある椅子に腰掛けた。
セブルスは淹れられた紅茶に口をつけ、採点の続きに取り掛かる。
暫く何の会話も無く、カップと受け皿の触れ合う音や採点する羽ペンの音だけが室内に満ちていた。
「ねえ」
空になったカップを皿に置き、ナミはセブルスを振り返った。
「結局さ、セブルスは何処まで知ってるの?」
セブルスは答えない。
「別に、隠してる事を聞き出そうとしてる訳じゃなくてさ。私、シャノンの事気にしてたけど、その理由は知ってるの?」
「貴様の母親だと言う事か」
「知ってんだ。じゃあ、サラが私の娘って事も? サラはシャノンの孫だって公になってるから」
「知っている。父親も、検討はついている。噂にもなっているしな」
「え? 噂って――」
「大丈夫だ。そこに君の名前は無い。シャノンらは、ポッター達と暮らしていた事があったろう。その時、奴も一緒だった。その事実から、父親では無いかと言われているだけだ」
「あいつも、一緒だったんだ……」
ナミは少し眉根を寄せる。呟いた声には、静かな怒りがあった。
「知らなかったのか」
「それ、噂になってるの?」
「誰もが知っている訳ではないがな。魔法省の上層部やホグワーツの教員などは、大体が知っている。サラ・シャノンの方は、親がそう言った人物である生徒とも親しい。その線から話が漏れる可能性はあるな」
「あっ、マルフォイとか……」
「当然、噂を知っているだろう。だが、彼もシャノンの耳には入れたくないだろう」
「……だと良いけど。
それじゃ、私がシャノンの娘だって分かったのは、その噂から? あれ? でもそれだけじゃ、私とは繋がらないか――」
噂の内容だけでは、サラと父親、シャノンの関係が繋がるだけだ。シャノンの娘、サラの母親の欄は空白のままである。父親と学生時代に親しかったと言うだけでは、決め手に欠ける。セブルスがそれだけで確信を持つとは思えない。それに、セブルスは学生時代から何かを知っているような素振りだった。
「メモを、拾った」
セブルスは採点の手を止めず、話す。
ナミはまじまじと彼を見つめた。しかし、彼の話は簡潔過ぎる程に簡潔だった。
「そこに書かれた内容から、君がシャノンの娘である事に行き着いた。噂が真実である事は、彼女から聞いて知っていた」
そう言って、口を閉ざす。
「何のメモ?」
「魔法薬の調合法だ」
「何の?」
「安定剤のような物だ。詳細は覚えていない。メモ自体も、とうの昔に廃棄した」
答えられない、と言う事だろう。セブルスが、魔法薬の調合法を忘れる筈が無い。
その時、部屋の扉が勢い良く開いた。
「アリス来てるか!?」
エリは室内を見回し、ナミがいる事に驚いた表情をする。
セブルスは席を立ち、採点したレポートの束を裏返してエリの方へと歩いて行った。
「来とらんが……何かあったのか?」
「これ」
エリは羊皮紙の切れ端をセブルスに突きつける。ナミも立ち上がり、後ろからそれを覗き込んだ。
書かれている一文に、ナミは息を呑む。
「玄関ホールに散らばってたらしいんだ。俺が通った時にはもう、サラが片付けた後だった。ハンナ達が、クィディッチ競技場まで知らせに来てくれて……」
「アリスは?」
「分からない。ロンの話じゃ、ショック受けて駆け出して――ここに来てないかと思ったんだけど。
こんな事になるぐらいなら、吸魂鬼の件、無理矢理にでもアリスから聞き出すんだった……! これでスリザリンの連中だって事は確定したしよ」
「スリザリン? どうして? 確かにあまり上手く行って無いみたいだけど――」
「あいつが魔法使えないの知ってるのなんて、俺や教員とスリザリン生だけだ。サラさえ、知ってたかどうか。母さんは知ってたんだな」
「知らない? そんな馬鹿な」
エリは眉を顰める。ナミは何故、驚く。
「あの子、隠してたの? よく隠せたねえ……。
私の時は、皆知ってたよね? セブルス」
「え、セ――」
「貴様は、アリスよりずっと図太いからな」
「そんな言い方無いでしょうに。でもまあ、アリスは気にしてたみたいだからなあ……。これはちょっとキツイかも知れないねぇ」
ナミは戸口を出て、セブルスを振り返った。
「私も捜してみるよ。じゃ、セブルス。紅茶ありがと。その紙、調べといて。犯人分かるかも知れないし。
行こっか、エリ。あんたも捜してるんでしょ?」
「え、あ、うん。じゃあ、手分けした方が早いだろうから――また後でな!」
そう言って、エリは再び駆け出す。
やけに親しげだった二人の様子が、頭を掠める。この妙な気持ちは何だろう。
――そんな事より、アリスだアリス!
エリはパンと両手で自分の頬を叩き、廊下を駆け抜けて行った。
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2009/12/18