イースター休暇になったが、三年生は今までに無い程の宿題に追われていた。特にハーマイオニーは、占い学を辞めたとは言え、まだまだ沢山の授業をとっている。宿題の量も、他の生徒達の何倍もあった。バックビークの資料集めは、ロンが代わってくれていた。サラとハリーは、近づくクィディッチ最終戦に向け、毎日のように練習に明け暮れていた。今年こそスリザリンから優勝杯を奪い取ろうと、選手全員が躍起になっていた。
休暇中のある日、遅く起きて昼食をハリー達ととりに来たサラの所へ、アリスがやって来た。二年生は、三年生からの教科を選択する時期だ。
「占い学はやめておけ。それだけだな」
開口一番、ロンは言った。
三人は大きく頷く。ハーマイオニーが続いて言った。
「私は全教科をとっていたけど、占い学だけは止めたわ。あんな馬鹿馬鹿しい授業、受けるだけ無駄よ。同じ占いでも、数占いの方がずっと良いわ!」
斜め前の席で、パーバティとラベンダーがこちらを睨んだのが分かった。
ハリーが言った。
「魔法生物飼育学が、ハグリッドだよ。ハグリッドの事だから、僕らが驚くような魔法生物を連れてくる事もあるけど――でもその分、確かに彼が言う通り『面白い生き物』の事もあるよ。バックビークも、最初はびっくりしたけど、案外大人しかったしね」
「それに、サラマンダーも面白かったわ。寒い日だったから、暖がとれて丁度良かったし……。生徒の目線には、ハグリッドが一番近いんじゃないかしら」
サラも話す。サラにとっては、今の所危機感を感じるような生き物は扱われていなかった。今後も、まさかアラゴグを連れて来る訳にはいくまい。
スリザリンのテーブルへと帰ろうとしたアリスは、パーバティとラベンダーに捕まっていた。占い学がいかに高尚で魅力的であるか語る二人の話を、アリスはニコニコと聞いている。ロンが顔を顰めた。
「あいつら、アリスをトレローニー教に勧誘するつもりか?」
「アリスなら流されたりしないわよ」
サラは肩を竦め、残っていたミルクを一気に飲み干す。
「ハリー、そろそろ行ける?」
「ああ、うん。もう終わってるよ」
サラとハリーは席を立つ。ハーマイオニーが二人を振り仰いだ。
「今日も練習? ――頑張ってね」
短い言葉だが、その一言には熱が篭っていた。ドラコの一件以来、ハーマイオニーはクィディッチに珍しい程関心を寄せている。
その事があってと言う訳では無いが、サラはここ最近ドラコと会っていなかった。魔法薬学で二人組になる時は一緒に組んでいるが、以前のように昼休みを共に過ごすと言う事は無かった。先日のホグズミードも、一緒に行っていない。尤も、その日はバックビークの裁判で行けなかったのだが。
今は、バックビークの控訴に向けてとクィディッチの練習で忙しかった。バックビークは、ドラコが元凶だ。クィディッチは敵同士。スリザリン・チームは卑怯な手段をとる事が多いが、それでも練習だって欠かさない。この試合が優勝杯の行方を左右すると言う事もあって、どちらのチームも緊張感が高まって行くばかりだった。グリフィンドールとスリザリンの小競り合いは激化して行き、上級生の間では入院騒ぎが起こった程だった。選手達には護衛がつき、特にハリーは必ず大勢に囲まれて、教室移動さえ授業時間に間に合えない状況だった。
例えバックビークの事があろうとも、寮同士が敵対していようとも、ドラコへの気持ちは変わらない。けれども、この状況の中会っても、気まずいだけだろう。互いに、それを解っていた。
やがてイースター休暇は終わり、遂に土曜日――クィディッチ最終戦の日はやって来た。
No.96
クィディッチ最終戦の朝、元々青白いドラコの顔は普段にも増して青くなっていた。近くの席に座ったパンジーやブレーズが、しきりに励ましている。
「大丈夫よ。ドラコだって、この日の為に練習してきたんだもの。ポッターなんかに負ける筈無いわ」
「そうだよ。箒が何だろうと、使い手が乗りこなせなきゃ何の意味も無いんだ」
ザビニの言葉に、ドラコは更に落ち込んだ。二年生の時のグリフィンドール戦を思い出したのかも知れない。
アリスも口を挟んだ。
「いつも通りにすればいいのよ。だって、今までの三試合でドラコは全てスニッチを掴んでいるのよ。レイブンクロー戦なんて、ドラコのお陰で勝てたようなものだわ」
「そう! そうよ、ドラコ。レイブンクロー戦ではあんなに大活躍だったじゃない。相手のシーカーは四年生だったけれど、それを負かしたのよ。ドラコには才能があるわ」
「ほら、ノットも何か言ってやれよ」
「えっ」
突然話を振られ、ノットは驚いたような声を上げる。
「えーっと……気にするなよ」
ドラコはショックを受け、俯いてしまった。
「何で、負け確定みたいな言葉なんだよ!?」
「ブレーズの言葉が更に突き刺さってるわよ」
「え、いや、そんなつもりじゃなくて、ポッターだろうとファイアボルトだろうとって意味で……」
「大丈夫よ、ドラコ! ポッター如き、そんなに気にする事ないじゃない! ね?」
ザビニ、アリス、ノット、パンジーは口々に話す。
ふと、ドラコの両脇からパンが差し出された。ドラコは驚いて顔を上げる。クラッブとゴイルが、自分のパンを一つドラコの皿に乗せていた。
「あげるよ、僕のパン」
「僕も。――頑張ってね」
これは、効果的だった。あのクラッブとゴイルが、自分の朝食を分け与えた。気の利く言葉さえなかなか言えない二人にとって、これは大変な気遣いだ。
「クラッブ……ゴイル……」
ドラコは顔を上げ、隣にいる二人を交互に見る。
と、その時、大広間の扉が開き、拍手と歓声が沸き起こった。グリフィンドールの生徒達は、総立ちになる。
グリフィンドール・チームの選手陣の登場だった。スリザリンの席から野次が飛ぶ。ドラコはいつものような嫌味を言う事も出来ず、蒼白な顔で黙り込んでいた。
グリフィンドール・チームへの歓迎っぷりは異常だった。レイブンクローやハッフルパフの生徒までもが、拍手をしている。ハッフルパフの席で、エリが立ち上がりフレッドとジョージと何か言葉を交わしているのが見えた。
サラは今までに無い程の歓迎に気圧されながらも、少し嬉しそうだった。緊張しているようにも思える。グリフィンドールの友人達と話していて、ドラコの方などちらとも見ようとしない。
ここ最近、サラとドラコは会っている様子が無かった。かと言って避けているようにも見えないから、喧嘩をしたと言う訳では無いらしい。つまり、別れてはいないと言う事だろうか。会っていないのに? 別れてしまっていれば、アリスも気兼ね無くドラコにアプローチ出来るのだが……。よく分からない現状では、下手な真似は出来ない。
敵のチームの登場で、スリザリンでも選手へと注目が集まった。自分達のチームのシーカーが緊張で真っ青になっている事に気付き、他のスリザリン生達も口々に励ます。
「頑張れよ、ドラコ!」
「大丈夫だよ。ポッターに一泡吹かせてやれ!」
「応援してるわよ!」
「あんまり緊張で固くなるなよ」
「頑張ってね!」
笑顔で励ましの言葉を掛けるが、その眼は笑っていない。
こんな状態で大丈夫なのか。去年のような失敗をしたら許さない。絶対に負けるな――そんな胸中の言葉が聞えて来るかのようだ。パンジーもそれを感じているらしく、必死にフォローし励ましていた。
リー・ジョーダンのアナウンスは、皆まで言わない内に歓声に掻き消された。グリフィンドール、スリザリン、両チームの登場だ。エリも、椅子の上で真紅の応援旗を振りながら歓声を上げる。観客席の四分の三は、真紅のバラ飾りを胸に付けていた。
エリ達はグリフィンドールから苦い勝利を得たが、その後の二試合で負けてしまった。ハッフルパフがクィディッチ優勝杯を手にする望みは潰えた。けれども、スリザリン寮からは奪い取って欲しい。そして今年、それが叶うかも知れないのだ。今まで、のっぴきならない理由で最終戦はグリフィンドール不利、又は行われなかった。今年はハリーがシーカーのまま。ブラックの騒動はあれども、試合中止もならなかった。この試合は、グリフィンドールに勝って欲しい。
全体の四分の一しかいないスリザリン応援の生徒達は、スリザリンのゴール・ポストの後ろにいた。全員、揃って緑のローブを着ている。たった一人、赤と緑の小さな旗を両手に持っている女の子がいた。アリス以外は皆、銀色の蛇の煌めく旗を振っていた。
そしてそれらの最前列に、スネイプの姿があった。皆と同じように緑のローブを着て、口元に笑みを漂わせている。エリはふいと視線を外した。スネイプがこちらを見たような気がしたが、確認する気にはなれなかった。
「さあ、グリフィンドールの登場です!
ポッター、ベル、ジョンソン、シャノン、ウィーズリー、ウィーズリー、そしてウッド。ホグワーツに何年に一度出るか出ないかの、ベスト・チームと広く認められています――」
リーの解説に、エリは持っている旗を大きく八の字に振る。
スリザリンの応援席からは、ブーイングが上がっていた。
「そして、こちらはスリザリン・チーム。率いるはキャプテンのフリント。メンバーを多少入れ替えたようで、腕よりでかさを狙ったものかと――」
スリザリン側は大ブーイングだ。
キャプテン同士が握手をし、フーチの合図で試合は開始した。
先攻はグリフィンドールだ。サラがゴールへと突っ切って行く。しかし、スリザリンの選手に奪われてしまった。ワリントンは猛烈な勢いで飛んで行く――
「ジョージ、ナイス!」
エリは叫ぶ。ジョージの打ったブラッジャーが、ワリントンを直撃したのだ。アーニーとジャスティンは、手を叩いて喜んでいた。
「行けっ、アンジェリーナ――」
リーの応援に重なって、エリとアーニーが叫ぶ。リーの解説にも、熱がこもっていた。
「モンタギュー選手を上手くかわしました――アンジェリーナ、ブラッジャーだ。かわせ! ――ゴール!十対〇、グリフィンドール先取点!」
「よっしゃあ!」
エリは旗を滅茶苦茶に振り回す。アーニーはガッツポーズをし、ジャスティンも小さな旗を振る。ハンナは歓声を上げ、スーザンに抱きついた。拍手していたスーザンは、びっくりしてよろめいた。グリフィンドール生達の席では、波が起こっていた。
歓声は、突然ブーイングへと変わった。腹を立てたフリントが、アンジェリーナに体当たりをかましたのだ。
フリントの後頭部にビーターの棍棒が飛ぶ。フレッドが投げつけた物だった。フリントは箒の柄に顔を打ちつけ、鼻血を出した。
フーチが即座に割って入った。スリザリンのビーターも、棍棒を振りかぶっているところだった。
「グリフィンドール、相手のチェイサーに不意打ちを食らわせたペナルティー! スリザリン、相手のチェイサーに故意にダメージを与えたペナルティー!」
「そりゃ、無いぜ。先生!」
フレッドが喚いたが、ファウルはファウルだ。
皆が固唾を飲んで見守る中、アンジェリーナが前に出てクァッフルを受け取った。エリは、旗の柄を握りしめる。
入った! そう判断し、エリはフライングで飛び上がった。
二番目に叫んだのは、リー・ジョーダンだった。
「やったー! キーパーを破りました! 二十対〇、グリフィンドールのリード!」
わあっと競技場が歓声に包まれる。グリフィンドール・チームの選手達も、それぞれに喜びを表していた。ハリーは遥か上空で一回転し、サラは戻って来たアンジェリーナとハイタッチをしていた。
続けて、スリザリン・チームのフリー・スローだ。フリントが前に出る。ウッドは中央のリングの前で構える。
リーの解説もそこそこに、エリは押し黙ってグリフィンドール側のゴールを見つめていた。
「実に素晴らしいのです! キーパーを破るのは難しいでしょう――間違い無く難しい――やった! 信じらんねえぜ! ゴールを守りました!」
「いいぞ!」
アーニーが叫んだ。グリフィンドール生達の間からは、ウッドコールが起こっている。
アンジェリーナがクァッフルを投げる。ケイティが受け取り、サラへパス。流れるようなパスだ。互いの場所も動きも、皆解っているのだ。それほどのチーム・ワークが、グリフィンドールにはある。
サラからのパスは、スリザリンに奪われた。しかし、直ぐにケイティが取り戻した。ケイティはクァッフルを抱え、矢のように飛んで行く。
突然、割れんばかりの怒号が競技場に溢れ返った。
スリザリンのチェイサー、モンタギューが、クァッフルではなくケイティの頭を掴んだのだ。ケイティは何とか箒から落ちずに済んだが、クァッフルは取り落としてしまった。
再びフーチのホイッスルが鳴り、ペナルティが取られる。ケイティは見事、フリー・スローを入れた。
「三十対〇! ざまぁ見ろ、汚い手を使いやがって。卑怯者――」
「ジョーダン、公平中立な解説が出来ないなら……!」
「先生、ありのまま言ってるだけです!」
リーとマクゴナガルの問答は、いつもの事だ。
エリは旗を振る手を止め、試合の上空を指差した。
「ハリーが!」
周りのハッフルパフ生達も上を見上げる。ハリーは、スリザリンのゴールポストへ向かって疾走していた。マルフォイが慌てて後を追う。
ブラッジャーがハリーを襲うが、ハリーはものともせず避けていく。
「ポッター選手、スニッチを見つけたのか――!?」
リーの解説に熱が篭る。
そしてまた、罵声へと変わった。
「おい! スリザリンの奴らめ、また――」
スリザリンのビーター二人は棍棒を振り上げていた。彼らの視線の先はブラッジャーではない、ハリーだ。二人は挟み撃ちでハリー目掛けて飛んで行く――
ガツンと嫌な音がした。
衝突したのは、スリザリンのビーター二人だった。ハリーは寸でのところで上昇し、二人がふらふらと戻って行くのを満足気に眺めていた。
それからスリザリン・チームのフリントが得点してしまい、スコアは三十対十となった。リーが散々悪態を吐いた為、マクゴナガルはマイクを引っ手繰ろうとした。リーは平謝りで何とかマイクを死守する。
グリフィンドールが先制点を入れた事で、スリザリンのファウルはいつも異常に酷いものとなっていた。クァッフルを奪う為には、手段を選ばない。
クァッフルは、ケイティからサラへ。アンジェリーナは先にゴール傍へと回り込む。ケイティとサラは両サイドに並んで飛ぶ。サラがケイティの方を見た。
しかし、サラはケイティへもアンジェリーナへもパス出来なかった。スリザリンのビーター、ボールが棍棒でサラの顔を殴りつけたのだ。サラは吹っ飛び、何とか足で箒にぶら下がる。サラが箒によじ登っている間に、ジョージがボールの横っ面に肘鉄を食らわせていた。
「あの野郎!!」
エリはボールに罵声を飛ばす。立て続けのファウルに、スリザリン生以外の誰もが腹を立てていた。
フーチは両チームからペナルティーと取り、ウッドが二度目のファイン・プレーを披露した。四十対十、グリフィンドールのリードだ。
アンジェリーナが声を掛けながらクァッフルを投げ、試合が再開する。サラは突進して来たフリントを避け、手首のスナップを利かせてパスを出す。アンジェリーナが疾走しながら受け取り、そのまま直進。ゴール前でブラッジャーに襲われたが、既にクァッフルはアンジェリーナの手には無かった。途中で、下を飛ぶケイティにパスしていたのだ。アンジェリーナに気を取られていたキーパーは、防ぎ損ねる。スコアは、五十対十。
得点の仕返しをし兼ねないと、フレッドとジョージは棍棒を振り上げケイティの周りを飛び回る。二人がそちらへ付いている隙に、ボールはブラッジャーをウッドの方へと狙い撃ちした。二つ連続でウッドの腹に命中し、ウッドは宙返りし何とか箒にしがみ付いた。
「クァッフルがゴール区域に入っていないのにキーパーを襲うとは何事ですか!」
フーチはカンカンだった。
「ペナルティー・シュート! グリフィンドール!」
アンジェリーナが得点し、六十対十となる。
試合はスリザリンから始まる。ワリントンがクァッフルを抱えてゴールへ飛んで行く――フレッドの打ったブラッジャーが、それを妨げた。取り落としたクァッフルは、サラがキャッチする。
エリは身を乗り出した。
「行けーっ! サラー!!」
箒にぴったりと身を寄せ、ブラッジャーをかわす。待ち構えるスリザリン・チームには、ジョージがブラッジャーをお見舞いして蹴散らした。ゴール前、ノーマーク。フェイントはサラの十八番だ。
「シャノン選手、ゴール! 七十対十、グリフィンドールのリードです!」
「よっしゃああああ!!」
エリは座席の上で飛び跳ね、大きな旗を振り回す。
普段は嫌味な奴だとか、報復は許せないだとか、そんな事はどうでも良かった。
点差は六十点。ここでハリーがスニッチを掴めば、グリフィンドールの優勝だ。エリは期待を込めた目で、ハリーを見上げる。
まるで皆の想いが通じたかのようだった。リーが興奮して叫ぶ。
「スニッチだー! スニッチです! ポッター選手、スパートをかける――もう少しだ――」
しかし、あと一メートルと言う所で突然ハリーの箒が停止した。
見れば、マルフォイがファイアボルトの尾を握り締め、引っ張っている。スニッチは、あっと言う間に姿を消してしまった。
「ペナルティー! グリフィンドールにペナルティー・シュート!
こんな手口は見た事が無い!!」
フーチは金切り声を上げていた。リーの罵声も酷くなっていたが、マクゴナガルの制止は入らなかった。彼女もまた、マルフォイに向かって拳を振り上げ、帽子が落ちる程の勢いで怒り狂っていた。
サラのフリー・スローは、怒りで手元が狂い外れてしまった。グリフィンドール・チームは怒りで集中力を失い、一方、スリザリン・チームはマルフォイのファウルで活気付いていた。
「あんにゃろ、こんな汚い手で有利になって嬉しいのかよ……!」
エリはギリギリと歯軋りする。
「こうなったら、何としてもグリフィンドールが勝ってくれないとな」
「本当ですよ――あっ。あーあ……」
ジャスティンは溜息を吐く。
スリザリン・チームのモンタギューが得点したところだった。リーの解説も、テンションが低くなる。
グリフィンドール側から始まった攻撃は、ケイティのパス・ミスでスリザリン側へと変わる。しかし、アンジェリーナが直ぐにクァッフルを奪い返した。リーはマイクを握り締め叫ぶ。
「行け、アンジェリーナ。行けーっ!」
「あっ、あの人達、また――」
スーザンがアンジェリーナの行く手を指差す。スリザリンの選手が、キーパーも含めて全員でアンジェリーナを追っていた。追いついて、立ちはだかるだけではない事は確かだ。
「卑怯な奴ら! 何て事を――」
ハンナの非難する声は、スリザリン選手達の悲鳴に遮られた。
ハリーが、ファイアボルトに身をかがめスリザリン・チーム目掛けて突進して行ったのだ。スリザリン・チームは散り散りになり、アンジェリーナはノーマークになった。キーパーさえいない状態だ。
「アンジェリーナ、ゴール! アンジェリーナ、決めました! グリフィンドールのリード、八十対二十!」
ハンナとスーザンが悲鳴を上げた。
ハリーがエリ達のいるスタンドまで突っ込んで来そうになったのだ。しかし、そんなへまはしない。直前で急停止し、旋回してフィールドの中心へと戻って行った。見事な急旋回に、エリはヒューと口笛を吹く。
中心へ向かいかけていたハリーは、再び急降下を始めた。その先を見て、エリは息を呑む。既にマルフォイがいたのだ。芝生の一、二メートル程上空。そこに煌めく金色は、スニッチではないか。
「行けえええ! ハリー! 行けーっ!!」
エリは旗を振り回し、声を枯らして叫ぶ。周りも叫ぶばかりで、自分の声が聞こえない程だ。
ブラッジャーがハリーの横をかすって行く――マルフォイに並んだ――どちらも引き下がらない――二人共手を伸ばす、ハリーは両手を箒から放した――
「やった!」
ハリーが叫んだ。彼が高く突き上げる手には、金色のスニッチがしっかりと握られている。爆発のような歓声の中、ハリーは観客席の上を飛び回り、全ての応援客にスニッチを見せてくれた。
グリフィンドール・チームの者達がハリーの所へと集まって行く。
エリは旗を投げ出して、観客席への柵を飛び越えた。降下して来る選手達の方へ、我先にと駆け寄る。四方八方から、観衆が押し寄せていた。
エリはハリーを抱き締め、それからサラを担ぎ上げた。
「エリ……!?」
サラは驚いた声を上げる。サラの眼の上には、青痣が出来てしまっていた。他の選手達も、皆それぞれに肩車されていた。
肩車されている選手達に、皆触れようとする。サラはバランスを崩しかけ、エリの頭にしがみ付いた。
「貴女、ちょっと高すぎるわよ」
「うるせーよ」
いつものような押収だが、サラもエリも笑っていた。今は、どんな言葉も嫌味には聞こえなかった。
ハグリッドはハリーとサラに一言言って、バックビークに知らせに小屋へと駆けて行った。パーシーでさえも跳ね回っている。マクゴナガルは号泣し、エリが振っていたよりも更に大きな応援旗で目を拭っていた。人ごみを掻き分け、ロンとハーマイオニーがこちらへ向かって来ていた。サラはエリの頭から片手を離し、手を振った。
スタンドでは、ダンブルドアが大きなクィディッチ優勝杯を持って待っている。
漸く辿り着き、選手七人はスタンド上に降ろされる。ウッドは、受け取った優勝杯をハリーに手渡した。ハリーがそれを高々と掲げる。
エリは手を叩き、皆と共に叫んでいた。
「おめでとう――グリフィンドール、クィディッチ優勝おめでとう!」
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The Blood
第1部
希望求めし少女たちは
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2010/03/25