信じられないような話だった。ピーター・ペティグリューは死んだ。十二年前、シリウス・ブラックを追い詰めて殺されたのだ。誰もが知っている事実だった。ずっと、それが事実なのだと思っていた。
そのペティグリューが生きていた。そして彼は、アニメーガスだった。にわかに信じられるような話ではない。そもそも、今世紀に登録されたアニメーガスは七人しかいない。ハーマイオニーがそれを指摘した。
「でも、魔法省は、未登録のアニメーガスが三匹、ホグワーツを徘徊していた事を知らなかったのだ」
「その話を皆に聞かせるつもりなら、リーマス、さっさと済ませてくれ」
スキャバーズを睨みつけながら、ブラックが言った。
「私は十二年も待った。もうそう長くは待てない」
同じだ、とサラは思った。
仇が憎い。堪えている事など出来ない。不本意だが、ブラックは確かにサラと血の繋がった父親なのだ。
ルーピンがブラックを宥めている途中で、大きく軋む物音がした。ルーピンが階段の踊り場を見たが、誰もいなかった。気配を探るが、それでも分からない。誰もいないのか、気配を消しているのか――
「ここは呪われてるんだ!」
「そうではない。叫びの屋敷は、決して呪われてはいなかった……村人が嘗て聞いたという叫びや吼え声は、私の出した声だ。
話は全てそこから始まる――私が人狼になった事から。私が噛まれたりしなければ、こんな事は一切起こらなかっただろう……そして、私があんなにも向こう見ずでなかったなら……」
そう前置きして、ルーピンは話し出した。
ダンブルドアだけが、ルーピンの入学を許してくれた事。ルーピンが入学する為に、暴れ柳を置いた隠し通路が作られた事。昔は脱狼薬も無く、満月の夜はいつも叫びの屋敷へ来ていた事。
そして、シリウス・ブラック、ピーター・ペティグリュー、ジェームズ・ブラック、ナミ・モリイと親しくなった事――特にシリウス、ピーター、ジェームズの三人とは親しく、彼らはルーピンの為にアニメーガスになってくれた事。彼らは満月の晩、動物の姿でルーピンと一緒にいた。
危険だが、若い彼らはそれを繰り返した。そしてルーピンは、それをダンブルドアに告げられなかった。これはナミも同様だった。
「私はシリウスが学校に入り込むのに、ヴォルデモートから学んだ闇の魔術を使っているに違いないと思いたかったし、アニメーガスである事は、それとは何の関わりも無いと自分に言い聞かせた……だから、ある意味ではスネイプの言う事が正しかった訳だ」
「スネイプだって?」
ブラックが初めてスキャバーズから眼を離し、ルーピンを見上げた。
「スネイプが、何の関係がある?」
「シリウス、スネイプがここにいるんだ。あいつもここで教えているんだ」
そしてルーピンは、シリウスが彼に仕掛けた悪戯について語った。その時、ジェームズが止めたのだと。そして、その時にスネイプもルーピンが人狼である事を知ったのだと。この話は、ナミも初耳の様子だった。
「だから、スネイプは貴方が嫌いなんだ」
ハリーが言った。もう乱暴な口調ではなく、いつもの通り、大好きな先生に対する話し方だった。
「スネイプは、貴方もその悪ふざけに関わっていたと思った訳ですね?」
「その通り」
ルーピンの背後の壁の辺りから、冷たい声がした。
セブルス・スネイプは透明マントを脱ぎ捨て、杖をルーピンに向けて立っていた。
No.99
スネイプは、ルーピンやシリウス・ブラックの話など、全く聞くつもりが無いのが一目で分かった。ルーピンに薬を持って行った際、地図を見たらしい。暴れ柳の所に置きっ放しにしてしまった透明マントを使って、今まで隠れていたのだ。
「セブルス――」
ルーピンが何か言いかけたが、スネイプは構わず続けた。
「我輩は校長に繰り返し進言した。君が旧友のブラックを手引きして城に入れているとね。ルーピン、これがいい証拠だ。いけ図々しくもこの古巣を隠れ家に使うとは、流石の我輩も夢にも思いつきませんでしたよ――」
「セブルス、君は誤解している。君は、話を全部聞いていないんだ――説明させてくれ――シリウスは、ハリーを殺しに来たのではない――」
「スネイプ、違う! ルーピン先生は、手引きなんかしてない――してたとすれば、それは俺だ!」
エリが割って入った。スネイプとエリの視線がぶつかる。クリスマスのあの日以来、エリは初めて授業以外で彼と言葉を交わしていた。
「犬の姿だったんだ――それで、ここで飼ってた――下に行けば判る。俺が準備した餌受けがあるから」
「貴様は黙っていろ、モリイ。
今夜、また二人、アズカバン行きが出る」
スネイプは聞く耳など持たなかった。
「ダンブルドアがどう思うか、見ものですな……ダンブルドアは貴様が無害だと信じきっていた。分かるだろうね、ルーピン……飼いならされた人狼さん……」
「愚かな――学生時代の恨みで、無実の者をまたアズカバンに送り返すと言うのかね?」
バンと破裂するような音がして、スネイプの杖から細い紐が噴き出てきた。ルーピンはその紐に縛られ、床に倒れた。ブラックが怒り狂い、立ち上がる。スネイプはその眉間に真っ直ぐ杖を突きつけた。
「やれるものならやるがいい。我輩にきっかけさえくれれば、確実に仕留めてやる」
ブラックはぴたりと停止する。
沈黙の中、静かな声がした。
「リーマスの縄を解いて」
ナミが、スネイプに向けて拳銃を構えていた。しかし、スネイプは杖を動かしたかと思うと、一瞬にしてビービー弾を文字通り一刀両断にしてしまった。
「非常に残念だ、モリイ」
即座に杖をブラックの眉間に戻し、スネイプは言った。
「貴様も関わっていたとなれば、見逃す訳にはいかない――」
「スネイプ先生――あの――この人達の言い分を聞いてあげても、害は無いのでは、あ、ありませんか?」
「ミス・グレンジャー。君は停学処分を待つ身ですぞ。君も、ポッターも、シャノンも、ウィーズリーも、モリイも、許容されている境界線を越えた。しかも、お尋ね者の殺人鬼や人狼と一緒とは。君も一生に一度ぐらい、黙っていたまえ」
「でも、もし――もし、誤解だったら――」
「黙れ、この馬鹿娘! 解りもしない事に口を出すな!!」
ブラックの眉間に突きつけたままのスネイプの杖先から、火花がパチパチと飛んだ。
エリは困惑していた。スネイプは、あまりにも狂気染みていた。ただ学生時代に憎んでいた相手と言うだけで、ここまで取り乱すものだろうか――?
エリは、ちらりとサラを見た。祖母の死の原因として、ブラックを殺そうとしていたサラ。仇を前にしたサラも、同じように狂気染みていた……。
「来い、全員だ。
我輩が人狼を引きずって行こう。吸魂鬼がこいつにもキスしてくれるかも知れん――」
スネイプが指を鳴らし、ルーピンを縛っている縄目の端がスネイプの元へ飛んで来た。
続けて、スネイプはナミに杖を振る。床に置いた小瓶を拾い上げていたナミは、ルーピンと同じように縛られて床に倒れた。
「まだ逆らうか――貴様はこの場で巻き込まれただけかも知れぬと、甘く見てやったのだがな」
ハリーが動いた。部屋を横切り、扉の前に立ち塞がる。
「どけ、ポッター。貴様はもう十分規則を破っているんだ。我輩がここに来て貴様の命を救っていなかったら――」
「ルーピン先生やナミが僕を殺す機会は、この一年に何百回もあった筈だ。僕は先生と二人きりで、何度も守護霊の訓練を受けた。ナミは生徒として、同じ寮で生活していたんだ。ホグズミードの日は、二人でいる事が多かった――若し先生やナミがブラックの手先だったら、そういう時に僕を殺してしまわなかったのは何故なんだ?」
「人狼やスクイブがどんな考え方をするか、我輩に推し量れとでも言うのか?
どけ、ポッター」
「恥を知れ! 学生の時、からかわれたからと言うだけで、話も聞かないなんて――」
「黙れ! 我輩に向かって、そんな口の利き方は許さん!
蛙の子は蛙だな、ポッター! 我輩は今お前のその首を助けてやったのだ。ひれ伏して感謝するが良い! こいつに殺されれば、自業自得だったろうに! お前の父親と同じような死に方をしたろうに。ブラックの事で親も子も自分が判断を誤ったと認めない高慢さよ――さあ、どくんだ。さもないと、どかせてやる。どくんだ、ポッター!」
「やめろ、スネイプ!」
「エクスペリアームス!!」
エリの叫び声に、四人の唱える声が重なった。スネイプは吹っ飛んで壁に激突し、ずるずると床に滑り落ちた。髪の下からは、血がたらたらと流れていた。エリは心配に思ったが、駆け寄る事は出来ずにいた。
ハリー、サラ、ロン、ハーマイオニーが杖を掲げていた。ブラックが、ぽつりと言った。
「こんな事、君達がしてはいけなかった。私に任せておくべきだった……」
ハリーは視線をそらす。ハーマイオニーは、自分のやった事にショックを受けていた。
「先生を攻撃してしまった……先生を攻撃して……」
「普段のうさを晴らす良い機会だったとでも思いましょう」
サラがあっさりと言った。それから杖を振り、ルーピンとナミの縄を解く。
サラがスネイプを嫌う言葉を吐いた事に、ブラックはやや嬉しそうな表情を見せた。
「お前とは気が合いそうだ――」
「ありがとう、サラ」
ルーピンは立ち上がり、紐が食い込んでいた腕を擦りながら言った。ナミは驚いたような表情でサラを見つめている。
「勘違いしないで。父親が凶悪犯でない可能性があるなら、聞いてみたい――それだけよ」
言って、ブラックを横目で見る。
「貴方達の事を信用する訳じゃないわ」
「それでは、証拠を見せる時が来たようだ」
ブラックはロンを振り返る。
「君――ピーターを渡してくれ。さあ」
「冗談はやめてくれ。スキャバーズなんかに手を下す為に、態々アズカバンを脱獄したって言うのかい? つまり……ねえ。ペティグリューがネズミに変身出来たとしても――ネズミなんて、何百万といるじゃないか――アズカバンに閉じ込められていたら、どのネズミが自分の探してるネズミかなんて、この人、どうやったら判るって言うんだい?」
この言葉に、ルーピンも同意する。どうやって、ペティグリューの居場所を見つけたのかと。
ブラックは日刊預言者新聞を取り出した。以前、エリが部屋の隅に置いてあるのを見た、あの新聞だった。ウィーズリー一家の写真が載っている。ブラックは、それをファッジから貰ったと話した。
ペティグリューがブラックを追い詰めたのではなく、ブラックが、ペティグリューを追い詰めた。そしてペティグリューは、マグル十二人と自分の指を吹き飛ばし、ネズミに姿を変えて逃げ出した――それが、ブラックの語る真実だった。
秘密の守人は、ブラックではなかった。目晦ましの為に、代えていたのだ。それを知っているのは、殺されてしまったハリーの両親、そしてシリウス・ブラックとペティグリュー自身だけだった――
「おばあちゃんにも話さなかったの?」
サラが眉を顰めた。ブラックは頷く。
「秘密の守人に関しては、我々に一任されていた。その頃、彼女とはなかなか会えなくてね。家にも帰って来ていなかった。狙われていて、何処かにある別宅で過ごしているようだった。あの夜、伝える筈だった――」
それから、話を続ける。
スキャバーズがウィーズリー家で飼われたのは、十二年。事件が起こってからの月日とぴったり合致する。そして、ネズミの寿命はそんなに長くない。
「ロン、そのネズミをよこしなさい」
ルーピンの声には、容赦ない響きがあった。
「こいつを渡したら、何をしようと言うんだ?」
「無理にでも正体を現させる。若し本当のネズミだったら、これで傷付く事は無い」
ロンは躊躇ったが、とうとうスキャバーズを差し出した。
スキャバーズはキーキーと喚き続けている。ルーピンとブラックは、共に杖を向ける。そして掛け声に合わせ、呪文を放った。
スキャバーズは一瞬、宙に浮き、そこで停止した。小さな姿が捩れ、ロンが叫び声を上げる。ネズミはぼとりと床に落ち、再び眼もくらむような閃光が走った。
閃光が収まると、奇妙な光景がそこにはあった。頭、手足と順々に伸びていき、次の瞬間、そこには一人の男が後ずさりしながら立っていた。クルックシャンクスが毛を逆立て、唸り声を上げる。
頭の禿げた、エリよりも背丈の低い男だった。ルーピンが朗らかに声をかけた。
「やあ、ピーター。暫くだったね」
「シ、シリウス……リ、リーマス……ナミ……。友よ……懐かしの友よ……」
ペティグリューが言った所で啜り声が聞こえ、エリはナミが泣いている事に初めて気がついた。
ブラックが杖を上げたが、ルーピンがそれを制した。ルーピンの問い詰めるような口調に、ペティグリューは怯えたように答える。ペティグリューは必死になって、ブラックが自分を恨んで追って来たのだと主張していた。
けれども、彼の話は破綻していた。ハーマイオニーがブラックに対する疑問を上げるも、さらさらとブラックは答える。ブラック――シリウス・ブラックの方が、話に辻褄が通っていた。
彼は、脱獄してからの事を語った。どのようにして逃げ延びたか。エリと出会った事、ハリーやサラ、エリの試合を見に来た事――
「信じてくれ」
かすれた声で、彼は言う。
「信じてくれ、ハリー。そして、サラ、エリ。私は決してジェームズやリリーを裏切った事は無い。裏切るくらいなら、私が死ぬ方がましだ。それに当然、娘を売るなんて、とんでもない話だ。そんな事は、決してしない――」
「俺の親父なら、当然そうだろうな」
言って、エリは二カッと笑って見せた。ハリーは言葉が出ず、ゆっくりと頷いた。
視線がサラに集中する。サラは真一文字に口を結び、シリウスを見つめていた。
「私……私……ごめんなさい」
サラはシリウスに頭を下げた。
「ごめんなさい。私、貴方を殺そうとしてしまった――違ったのに――」
「駄目だ!」
ペティグリューは膝を着く。そのまま、這い蹲るようにしてシリウスの前へと言った。
「シリウス――私だ……ピーターだ……君の友達の……まさか君は……」
シリウスが蹴飛ばそうと足をふったので、ペティグリューは後ずさった。
「私のローブは十分に汚れてしまった。この上お前の手で汚されたくはない」
「リーマス! 君は信じないだろうね……計画を変更したなら、シリウスは君に話した筈だろう?」
「ピーター、私がスパイだと思ったら話さなかっただろうな。
シリウス、多分それで私に話してくれなかったのだろう?」
「すまない、リーマス」
「気にするな。我が友、パッドフット。その代わり、私が君をスパイだと思い違いした事を許してくれるかい?」
「もちろんだとも」
シリウスとルーピンは袖を捲り上げる。
「一緒にこいつを殺るか?」
「ああ、そうしよう」
「やめてくれ……やめて……。
ナミ……君は、こんな話信じないだろう? ずっと一緒だったじゃないか……ずっと……私達は似た者同士だった……一番気の合う友達だった……」
ナミは泣いていて、話にならなかった。ただ、首を振り、ペティグリューが近付くと後ずさった。
ペティグリューはちらりとシリウスとルーピンを見て、怯えたようにロンの傍に寄った。
「ロン……私は良い友達……良いペットだったろう? 私を殺させないでくれ、ロン。お願いだ……君は私の味方だろう?」
しかし、ロンは不快そうにペティグリューを睨んだ。
「自分のベッドにお前を寝かせてたなんて!」
「優しい子だ……情け深いご主人様……。殺させないでくれ……私は君のネズミだった……良いペットだった……」
「人間の時よりネズミの方が様になるなんて言うのは、ピーター、あまり自慢にはならない」
シリウスが厳しく言った。
ロンは痛みで顔を青くしながらも、折れた脚をペティグリューの手の届かない所へと移動した。
ペティグリューとエリの目が合った。ペティグリューは、エリの方へとにじり寄ってくる。
「エリ……君は人一倍、正義感が強い……こんな事、許せないだろう……殺すなんて、駄目だ……」
「お前は俺の親父に罪を着せてたんだぞ? 解ってんのか!?」
エリは激しい口調で言い捨てる。
ペティグリューは向きを変え、ハーマイオニーのローブの裾を掴んだ。
「優しいお嬢さん……賢いお嬢さん……貴女は――貴女なら、そんな事をさせないでしょう……助けて……」
サラが、ペティグリューの手を払う。ハーマイオニーはローブを引っ張り、怯えきった顔で壁際まで下がった。
ペティグリューはサラを見上げる。
「サラ……サラ、君は――」
サラは鼻で笑った。
「溺れる者は藁をも掴むって? 私が貴女に情けをかけるとでも?
貴方が裏切った所為で、おばあちゃんは殺される事になったのよ……でも、真犯人が私の父親でないなら――父親が裏切った訳ではないなら、判断はハリーやナミ達に任せるべきなのかもね……。まあ、私に殺される事をお望みなら、話は別だけど」
ペティグリューは震えながら、サラから離れ、そしてハリーへと向きを変えた。
「ハリー……ハリー……君はお父さんに生き写しだ……そっくりだ……」
「ハリーに話しかけるとは、どう言う神経だ!?」
シリウスが大声を出した。
「ハリに顔向けが出来るか? この子の前でジェームズの事を話すなんて、どの面提げて出来るんだ!?」
「ハリー。ハリー、ジェームズなら私が殺される事を望まなかっただろう……ジェームズなら解ってくれたよ、ハリー……ジェームズなら、私に情けを掛けてくれただろう……」
シリウスとルーピンはペティグリューの肩を掴み、引き倒した。ペティグリューは身を起こして座り込み、恐怖で痙攣しながら二人を見つめていた。
シリウスが問い詰めると、ペティグリューは泣き出した。胸糞の悪くなるような光景だった。言い訳は、シリウスの怒りを煽るだけだった。
「君には解ってないんだ! シリウス、私が殺されかねなかったんだ!」
「それなら、死ねば良かったんだ! 友を裏切るくらいなら、死ぬべきだった。我々も君の為にそうしただろう」
「お前は気付くべきだったな」
ルーピンは静かに言った。
「ヴォルデモートがお前を殺さなければ、我々が殺すと。ピーター、さらばだ」
これで良いのだろうか。庇う気は無い。でも、殺してしまうのは――
「やめて!」
ハリーが叫んだ。ペティグリューの前に立ち塞がり、杖との間に入る。
「殺しては駄目だ。殺しちゃいけない」
「ハリー」
サラとシリウスの声が重なった。二人は顔を見合わせ、サラが言った。
「そいつに生かす価値なんて無いわ……そいつは、貴方のご両親を裏切ったのよ?」
「この薄汚い腰抜け野郎は、目の前でお前が殺されたとしても、平然としていただろう。聞いただろう。小汚い自分の命の方が、君の家族全員の命より大事だったんだ」
「解ってる。こいつを城まで連れて行こう。僕達の手で吸魂鬼に引き渡すんだ。こいつはアズカバンに行けばいい……殺す事だけはやめて」
「ハリー!」
ペティグリューは感動したように叫び、座ったままハリーの脚に抱きついた。
「君は――ありがとう――こんな私に――ありがとう――」
「放せ」
ハリーはペティグリューの手を払い、吐き棄てるように言った。
「お前の為に止めたんじゃない。僕の父さんは、親友が――お前みたいなものの為に、人殺しになるのを望まないと思っただけだ」
エリは、黙ってハリーを見つめていた。
シリウスとルーピンが互いに顔を見合わせる――そして彼らは、二人同時に杖を下ろした。
「ハリー、君だけが決める権利がある」
シリウスが言った。
「しかし、考えてくれ……こいつのやった事を……」
それでも、ハリーの意見は変わらなかった。
ペティグリューは縛り上げられ、城へと連れて行かれる事になった。若しネズミになって逃げ出そうとしたら、その時は確実に殺すと言う条件付きで。
ロンの脚は包帯で固定され、スネイプは浮き上がらせられる。縛られたペティグリューには、監視の為にルーピンとロンが繋がった。奇妙な一団となって、エリ達は叫びの屋敷を後にした。
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希望求めし少女たちは
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2010/04/01