別に、いつも一人でいた訳ではない。寧ろ、如何いう訳かいつも皆の中心にいた。
 でも、特別親しい友人はいなかった。
 だって、あまりにも年が離れすぎている。それに、卒業したら忘れられてしまうのだから。
 だから、親友なんて作らなかった。いらないと思っていた。

 一人の少年に出会うまでは。





No.1





「待ちやがれ――――――っ!! この悪餓鬼め!!」
 今日も、事務員の怒鳴り声がホグワーツに響き渡る。
 また、アルバス・ダンブルドアが何か仕掛けたのだろう。彼は、アルバスの悪戯のターゲットになっている。

「アルバス、今度は何をしたのかしら」
「さあ……」
「見に行ってみる?」
 同室の二人は、キャアキャアと廊下の向こうの様子を伺う。
「ねぇ、マリア。貴女も行く?」
「私はパス。夕食前に宿題を片付けちゃいたいから」
 二人は連れ立って、廊下の角を曲がっていった。

 マリアは反対の角を曲がった。
 そして何故か、正反対の方向から逃げてきていた筈のアルバス・ダンブルドアと衝突した。
「わっと。ごめんね! 大丈夫?」
「ええ、平気よ。気にしないで……」
 マリア散らばった図書室の本を集める。アルバスも手を貸してくれた。
「ダンブルドア――っ! 逃がさんぞー!!」
 廊下の向こうから、事務員が鬼の形相で駆けてくる。
 廊下に他の生徒がいるのもお構いなしで、生徒達は慌てて廊下の端に飛びのく。
「げげっ。こっち!」
「へっ?」
 如何いう訳か、アルバスはマリアの手を取って逃げ出した。
 隠し通路に飛び込む際に自然と手を離してくれたが、ここで立ち止まれば仲間として捕まる事だろう。マリアは、彼と一緒に逃げるしかなかった。





 さっきまでいた所とは城のほぼ正反対の所まで来て、ようやく二人は立ち止まった。
 汗を拭い、肩で息をする。こんなに体を動かしたのは、久しぶりだ。
「もう、撒いたかな……」
「ええ、多分ね……」
 まったく、何故自分まで走らなくてはいけないのだろう。

 文句を言おうとアルバスを振り返ったその時、怒鳴り声が響いた。
「見つけたぞ! 小僧共っ!!」
「うわっ。しつこいなあ、もう!」
 アルバスは立ち上がり、駆け出す。マリアも、一緒に逃げざるを得ない。
「待って! こっちの方がいいわ。この際、学校から出ちゃいましょう!」
 マリアはアルバスを呼びとめ、先に立って走り出した。マリアだって創設者の一人だ。抜け道に関しては、入学して一ヶ月のアルバスよりも熟知している。





「ディセンディウム!」
 マリアが杖で石像を叩きながら唱えると、像のコブが割れ、細い割れ目が現れた。
 二人は一列になって、その割れ目へと入っていった。





「凄いや、マリア! この道、あの人は知らないんだよね?」
「多分ね……」
「上出来だよ! ねぇ、ここって何処まで続いてるの?」
「ホグズミードの、ハニーデュークスの物置部屋」
「わぁ〜。それじゃ、お金持ってきとけば良かったなぁ……。
『ディセンディウム』って唱えればいいの? そしたら、ここに来れるの?」
「石像を杖で叩きながらね」
 アルバスは「凄い、凄い」とはしゃいでいる。
 マリアは特に親しくする様子も見せず、ただ単調に聞かれた事に答えているだけだった。

 それなのに何故か、その日から懐かれるようになったのだ。


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2007/05/07