学期最後の授業を終え、エリは大きく伸びをした。
「終わったーっ! これで休みだ、クリスマスだ!!」
 大声で叫び、席を立つ。教室を出ながら、ハンナ、スーザン、アーニー、ジャスティンをぐるりと見回した。
「な、外行こうぜ、外。雪合戦しよう。
 あと、クィディッチやりたいな。今日はちょっと時間少ないけどさ。明日にでも。フレッドとジョージとか、ハリーとか、他の寮の奴らも誘ってさ。リーも呼んで、いつもの寮対抗戦みたいに。クラム誘ったら来るかな!? クリスマスに、クィディッチで学校対抗試合とか面白そうじゃない!?」
 エリは目を輝かせ、うきうきと話す。しかし、ジャスティンが首を振った。
「ごめんなさい、エリ――僕達は、ちょっと」
「またかぁ?」
 ジャスティンは申し訳なさそうに笑って、アーニーを連れて人ごみの中に消えて行った。
 スーザンがおっとりと言った。
「そう言えば、セドリックも、ハリーも、クラムも、代表選手ってクィディッチの選手が多いわね。フラーはどうなのかしら……」
「さあ……。でも、面白そうよね。学校対抗クィディッチ」
「だろ?」
「でも、クリスマスは駄目よ。エリ」
 ハンナはぴしゃりと言った。エリはムッと膨れっ面になる。
「なんでだよ。だって今年、皆学校に残るんだろ? クラム達もホグワーツにいるみたいだし……」
「エリ、若しかして貴女、その理由解ってないの?」
「理由?」
 エリはきょとんとする。ハンナが溜息を吐いた。
「クリスマス・ダンスパーティーの話、聞いてなかったのね」
「ダンス? ジュリアナ?」
「誰よ、それ。三大魔法学校対抗試合の一環として、クリスマスの夜にダンスパーティーが開かれるの。学校を超えた交流の場って訳ね。四年生以上は参加自由よ。三年生以下も、上級生の招待があれば参加可能」
「ふーん」
「だから、クリスマスは皆かき集めてって言うのは難しいんじゃないかしら。パーティーは八時からだけど……学校の競技場や箒を借りるとなったら、フーチ先生にも話を通さなきゃいけないでしょう? 先生方は当然、準備で忙しいでしょうし。それに私達、直前まで汗掻いて遊ぶのはちょっと……」
「えっ? ハンナとスーザンも行くの!?」
 エリは素っ頓狂な声を上げる。スーザンも、ハンナの向こう側で頷いていた。
「殆ど皆行くわよ。アーニーとジャスティンが最近一緒にいないのも、女の子を誘おうとしているみたいだし……」
「えっ? え?」
「そんなに驚く事? なかなか声を掛けられていないって事は、別の学校の子なのかも知れないわね。ボーバトンって、可愛い女の子多かったし――」
「パーティーは、通常、男女のペアで参加するものなのよ」
 混乱するエリに、スーザンが優しく説明した。
「ペアがいなくても、参加は出来るけれどね。でも、ダンスって男女でするんだもの。ペアがいた方が楽しいと思うわ。三年生以下が招待で参加可能って言うのも、そう言う意味よ。四年生以上の生徒のペアとしてなら、参加出来るの」
「ああ、なるほど。それに驚いていたのね」
 スーザンの説明に、ハンナが納得したように相槌を打つ。
「若しかしなくても、二人はもう……?」
「相手なら、決まっているわよ」
 落雷のような衝撃がエリを襲った。ハンナとスーザンはペアが決まっている。アーニーとジャスティンも女の子に声を掛けようとしている。この分だと、独り身はエリだけだ。皆がパーティーに行く中、一人寮で留守番していても何も面白くない。
「でもエリ、パーティーの事も解っていなかったなら、相手よりもっと先に心配する物があるんじゃない?」
「え?」
「ドレスローブよ。まさか、持って来てなかったりしないでしょうね?」
「あ、それなら大丈夫。新学期のリストに載ってたから。そっか、あれ、このためだったんだぁ……」
 玄関ホールは、大勢の人で賑わっていた。開け放された入り口から、大広間の中が垣間見える。ツリーが飾られ、壁や天井に装飾が施された大広間。
 エリ達は人ごみの中を横切り、地下への扉へと向かう。
「まさか、この中でパーティーの事に気付いてないとは思わなかったわ。フレッドやジョージとは、何も話さなかったの?」
「言ってたよ。フレッドはアンジェリーナと行くんだって。でも、恋人持ちの一部の生徒が参加するようなもんだと思ってたから……」
「ジョージは? 誰かと行くって言ってた?」
「いや、何も」
「それなら、声かけてみたら? 若しかしたら、一緒に行ってくれるかも知れないじゃない」
「んー……」
 エリは曖昧に返答する。話題が出たときにエリを誘わなかったと言う事は、ジョージもまた既に相手が決まっていたか、誰か誘おうとしている子がいたと言う事ではないだろうか。少なくとも、エリは彼の眼中に無い。
 それよりも――





No.17





『パーティーまであと一週間。早くパートナー見つけないと、誰もいなくなっちゃうわよ』
 そう脅され、ハンナとスーザンと分かれたエリは、地下へと来ていた。ハッフルパフ寮があるのとは、反対側の扉から降りた地下。あるのは、魔法薬学の教室。そしてその先に、研究室。
「……」
 そっと取っ手に手を伸ばし、扉を開ける。
 いつもと同じ席に座っている大きな背中。机上にいつもの紙束は無い。一枚の長いリストと、手元の羊皮紙のみ。羊皮紙にはびっしりとメモが書き込まれているのが遠目にも見て取れた。
 エリは真っ直ぐに、壁沿いの棚に向かう。魔法薬の材料に紛れて並んだお茶の葉やティーポット。そそくさと紅茶を淹れ、眉間を押さえるセブルスの前に置いた。
「……ノックぐらいせんか」
「ああ、悪い悪い」
 不機嫌そうなセブルスにエリはへらっと笑って、自分の紅茶に口をつける。
「そろそろ休めば?」
 眼が疲れたかのような動作をしていたのを思い出し、エリは言った。
「もう授業終わったんだろ? 最後の授業までに宿題でも出してたの?」
 最後の授業でテストは行ったが、実技だった。その場で採点は済んでいる筈だ。
 それとも、他の学年では筆記試験でも行ったのだろうか。
「誤る生徒の多かった部分をまとめている」
「ひょえ〜……ほんと、お前って真面目だな」
「貴様らが授業を真面目に受けて、誤り無く慎重に薬を作ってくれれば、こんな事をする必要は無いのだがな」
「あっ、あたし、あれでも真面目にやったんだよ! 薬が複雑過ぎるんだって! 混ぜても混ぜても、なっかなか透き通らないしさ」
「とうとう己の知能の低さを認めたか」
 セブルスは小馬鹿にしたように嘲笑って、エリの注いだ紅茶を啜った。
 いつも以上の不機嫌だ。それほどにも、全体平均が低かったのだろうか。それとも、ハリーやサラをいじめようとして逃れられたか。セブルスの不機嫌要素と言えば、だいたいこの二つのどちらかだった。
 今回は、前者だったらしい。
「まったく、誰も彼もクリスマス・パーティーなんぞに現を抜かしおって……結果がこの有り様だ。所詮生徒は準備など無いのだから、告知も学期が終わってからにすれば良いものを」
「それじゃ、もう皆帰る準備しちゃってんじゃねーの?」
 エリの尤もな指摘に、セブルスはフンと不機嫌に鼻を鳴らす。
 エリは再びカップに口を付けつつ、視線だけ上げてセブルスを伺い見る。セブルスの方からパーティーの話が出るとは、思ってもみなかった。これは、話を自然に持っていきやすい。
「……セブルスは、パーティーどうすんの?」
「幾ら忌々しいからと行って、来賓を呼ぶ場を壊したりはせんから安心したまえ」
「いや、そうじゃなくって。あー――パーティーの日、セブルスは予定あるのかなって――」
「エリは、パーティーがどのようにして行われると思っている」
「へ?」
「主催はホグワーツだ。当然、我輩達教員も動くに決まっておろう」
「えーと……じゃあ……あー……いや、何でも無いや……」
 エリはがっくりと肩を落とす。
 生徒と一緒に行くなんて、セブルスが頷いてくれるか否か以前に、不可能だろう。生徒と一緒になって踊っている時間など無い。
 例え教師にパーティー運営の仕事が無くとも、セブルスがエリと一緒に行ってくれる可能性はゼロに等しかった。生徒とパートナーを組んでくれる教師なんて、いるものだろうか。彼も学生ならば、ごり押しと言う手もあるのだが。教師と生徒と言う立場では、世間の目を引き合いに出されると弱い。
「エリは、パートナーはもう見つかったのか?」
「えっ……」
「ウィーズリーの双子か? マクミランとも、親しいようだったな」
「フレッド達は他の子と行くよ。つーか、なんでアーニー?」
 普段一緒にいる男子生徒ならば、ジャスティンも該当するだろうに。
「クリスマス、彼とデートしていた事があったろう」
 セブルスの言葉に、エリは首を捻る。アーニーと二人でいた事なんて、あっただろうか。そもそも、何故セブルスがそれを知りえるのか。
「ダイアゴン横丁に薬草を買いに行ったときに見かけた」
「ダイアゴン横丁……? あ、あーっ! あの時か!」
 確か、二年生のクリスマスだったか。そんな事があった気がする。
「ちっげーよ、あれは。本当は、ジャスティンもアーニーと来るはずだったんだけど、来られなくなってさ。ハンナとスーザンも二人一緒に来ていて、遅刻。それで、あたしとアーニーで先に行ってたんだ」
「そう……なのか?」
「うん。だいたい、その頃はまだあたし、俊哉と付き合ってたって。別れてからのクリスマスって、去年だけだし。去年は、あたしら三人共ホグワーツに残ったからな」
「そう言えば、そうだったな……」
 セブルスは納得したように頷き、再び作業に戻る。
 エリは黙って、セブルスの横顔を見つめていた。早く、パートナーを見つけなければ。『誰もいなくなっちゃうわよ』――ハンナの脅しが脳裏を過ぎるが、今直ぐこの部屋を出て行ってしまうのは何だか惜しい。もう少し、ここに座っていたかった。
 ――パートナー……パートナーかぁ……。
 やはり、ジョージに尋ねてみるべきだろうか。彼も、あの時点では決まっていない様子だった。ならば、誘おうとした子が既に相手決定済みという可能性もある。ジョージの他には、リー、ロン、ハリー、アーニー、ジャスティン、セドリック――
 アーニー。彼の名前が出て、エリはもやっとした蟠りを覚える。彼自身に対してではない。たった今、彼との仲をセブルスに疑われたばかりなのだ。彼だけではない。誰と行くにしても、やはり仲を疑われるのは嫌だった。
 そもそも、今から声をかけても、皆相手が決まってしまっているのではないだろうか?
 もやもやと考えていると、扉を叩く音が聞こえた。セブルスは顔を上げず、ぶっきらぼうに答える。
「入れ」
「失礼します」
 礼儀正しく言って入ってきたのは、アリスだった。
「すみません、エリ来てい――エリ!」
 言いかけて、アリスはエリに目を留めた。そして、手招きする。
「ん? どうした?」
「先生、ちょっとエリお借りします」
「構わん。彼女が勝手に来ているだけだ」
 アリスは苦笑する。
 エリはアリスについて、廊下へと出た。教室から少し離れて、アリスは辺りに誰もいない事を確認する。
 エリは首を傾げる。父親が判明してからと言うもの、アリスとこそこそ調べて報告するような事も無かった。何か、新情報でも入ったのだろうか。でも、何について?
 アリスの口をついて出たのは、新情報でも何でも無かった。エリは耳を疑う。
「――は?」
「だから、パーティーに私と行って欲しいの。男装をして」
「え、いや――だって――」
「スネイプ先生と行ける事になったの?」
 エリは絶句する。
 エクスクラメーションマークとクエスチョンマークがエリの脳内を激しく飛び交っていた。何故。何故、その質問が出てくる!?
「その様子じゃ、無理だったんでしょう? これから、手当たり次第男の子に声をかけてパートナーを探す気? いいのかしら、スネイプ先生に誤解されちゃっても」
「え――いや、な、なんでスネイプ?」
「だって、エリが好きなのってスネイプ先生でしょう?」
「す、すすすすすすすす!?」
「日本語なり英語なり、人間の言語を話してちょうだい。
安心して。私以外、気付いていないみたいだから。お母さんは別として。――ハーマイオニーやジニーも、もう少し一緒にいる時間が多ければ気付くかも知れないけど」
「んじゃ、サラや父さんは?」
「お父さんは先生と面識が無いじゃない。サラは大丈夫よ。自他問わず、そう言う事に疎いから。――それに、そんな場合じゃなさそうだし」
「え?」
「何でも無いわ。それで? どうする? 誤解覚悟で、適当な相手見繕って行くか。ばれたらいつもの冗談って事にして、私のパートナーとして行くか」
「うー……」
 アリスの問いは、エリに選択の余儀を与えていなかった。
 セブルスを好き――なのだろうか。判らない。でも、誤解は嫌だ。自分でもそう考えていた後だけに、アリスの言葉が重く響く。
「それとも、一人で行く? もう、四年生以上は殆どの生徒がペアになっちゃってるわよ。セドリック、フレッド、ジョージ、リー――ハリーとロン、アーニーとジャスティンは今日、目当ての子に声を掛けるみたいね。尤も、ハリーはこれまでにも何人もの子が声を掛けているから、目当ての子にふられても直ぐ埋まっちゃうでしょうね」
「お前、そんな情報何処から掴んで……」
「どうする?」
「うぅ……」
 選択の余儀は、無かった。

 ハッフルパフ寮に戻ると、待ち構えていたハンナとスーザンが飛びついてきた。
「パートナー、見つかった?」
「んー……まあ……」
 ハンナとスーザンは手を取り合い、嬉しそうに声を上げる。
「それじゃあ、エリ、クリスマス当日は悪戯するにしても、クィディッチをするにしても、六時までね。七時からは絶対に準備出来るようにしなきゃ」
「パーティーでは、髪を下ろすでしょう? お化粧貸してあげるわ。
 楽しみだったのよね。ほら、エリ、老け薬使った事あったじゃない? あれは数年後だけど、お化粧すれば大人っぽくなるもの。綺麗になると思うの」
「あー……ごめん。準備、アリスが何か手配してくれてるみたいで……」
 エリは頬をぽりぽり掻きながら言う。ハンナとスーザンはやや不満気だが、アリスの名前に納得したようだった。
「アリスなら、心配無いわね。きっとばっちりメイクしてくれるわよ。良かったじゃない!」
「ドレスローブを買うのも、一緒に行ってるんでしょう? それなら、ドレスにも合ったお化粧持ってるでしょうしね」
「……」
 後から考え直してみると、誤解なんて然程心配するものでもなかったような気がして来た。何せ、もう一週間前だ。他に一緒に行く人がいなかったから。普段から仲が良いから。何だって、理由は考えられる。ハンナやスーザンの話を聞く限り、別に恋人同士だけの行事と言う訳でもないようなのだから。友達同士で行ったって、何ら問題無いのだ。――エリの友達に、空きがあればの話だが。
 そこへ、アーニーとジャスティンが談話室へと入ってきた。ジャスティンの頬はやや紅潮している。
「今、ボーバトンの女の子に申し込んで来たんです」
 照れくさそうに笑いながら、ジャスティンは言った。
「それで、何て?」
 エリが聞き返した。ジャスティンは片手を挙げ、親指と人差し指で丸を作る。
「やったじゃねーか!」
 エリはバンとジャスティンの肩を叩く。
「んで、アーニーは?」
 アーニーは肩を竦めた。
「僕は、ジャスティンに付き添っていただけだよ。エリこそ、どうなんだい? 決まっていないようなら、余り者同士、一緒に行こうよ」
 エリはぽかんと口を開ける。
 傍の長椅子にあったクッションをおもむろに掴むと、アーニー目掛けて投げつけた。
「おっせーよ、馬鹿!」





 学期最後の晩、夕食の席にハリーとロンは現れなかった。
「本当に、良かったの? サラ」
 グリフィンドール寮へと戻りながら、ハーマイオニーが尋ねる。つい今し方、サラはダームストラングの生徒からダンスパーティーに誘われ、断ったところだった。一昨日の昼休みには、ボーバトンの生徒の誘いも断っている。
「良いのよ。だって私、パーティーには参加するつもり無いもの。彼らには申し訳無いけど――」
「貴女が本当にそう思っているなら、強制はしないわ。でも、せっかくのクリスマスなのに。私はハリーはもちろん参加するし、ロンも行くと思うわよ。サラだって、ドレスローブは買ったんでしょう?」
『綺麗だろうなあ……』
 脳裏に蘇る台詞。パーティーがあるのだと知り、当然一緒に行くつもりだった。サラも、彼も。
「行かないわ」
 サラは抑揚の無い声で言う。ハーマイオニーはそれ以上、何も言わなかった。
 グリフィンドールの談話室に戻ると、ハリーとロンが大笑いしているところだった。ジニーは当惑した表情だ。
「二人とも、どうして夕食に来なかったの?」
 ハーマイオニーがハリーとロンに尋ねた。
 ハリーもロンも笑い続けるだけだ。ジニーが、代わりに答えた。
「何故って――ねえ、やめてよ、二人とも。笑うのは――何故って、二人ともダンスパーティーに誘った女の子に、断られたばかりだからよ!」
 二人の笑いがピタリと止まった。
「大いにありがとよ。ジニー」
 ロンがムスッとして言う。
 ハーマイオニーは、皮肉たっぷりに言った。
「可愛い子は皆予約済みって訳? ロン? エロイーズ・ミジョンが、今はちょっと可愛く見えてきたでしょ? ま、きっと、何処かには、お二人を受け入れてくれる誰かさんがいるでしょうよ」
 ロンは、白々しいほど大げさにハーマイオニーを凝視していた。
「ハーマイオニー、ネビルの言う通りだ――君は、れっきとした女の子だ……」
「まあ、よくお気づきになりましたこと」
「そうだ――ハーマイオニー、サラ、君達が僕達二人と来ればいい!」
「お生憎様」
「前にも言ったけど、私はパーティー自体参加する気は無いわよ」
「ねえ、そう言わずに。僕達、パートナーが必要なんだ。他の子は全部いるのに、僕達だけ誰もいなかったら、ほんとにまぬけに見えるじゃないか……」
「私、一緒には行けないわ」
 ハーマイオニーの頬が紅くなる。サラは、苛立ちが募るのを感じた。
「だって、もう、他の人と行く事になってるの」
「そんな筈無いよ!」
 ロンは失礼なほど素早くキッパリと言った。
「そんな事、ネビルを追い払うために言ったんだよ!」
「あら、そうかしら? あなたは、三年もかかってやっとお気づきになられたようですけどね、ロン。だからと言って、他の誰も私が女の子だと気付かなかった訳じゃないわ!」
 ロンはまだ、嘘だと思っているらしい。ニヤリと笑って、なだめるように言った。
「オーケー、オーケー、僕達、君が女の子だと認める。もちろん、サラもだ。これでいいだろ? さあ、僕達と行くかい?」
「だから、言ったでしょ! 他の人と行くんです! サラを無理矢理誘うのも、やめなさいよ」
 ハーマイオニーは踵を返し、女子寮へと去って行った。
「あいつ、嘘吐いてる」
「嘘なんて吐いてないわよ」
 きっぱりと言うロンに、サラが返した。ロンは驚いた表情でサラを振り返る。
「じゃ、誰と?」
「言わないわ」
 即座に答えたのは、ジニーだった。
「あたし達、関係ないもの」
 言って、サラに視線を送る。その目は、「言うな」とサラに釘を刺していた。
 サラは口を真一文字に結ぶ。
 ロンだって、知っていればこんなにハーマイオニーを蔑ろにはしなかった筈だ。ハーマイオニーがクラムに誘われたと知っていれば。
 当のロンは、誰か相手を捕まえなければ。その事しか、頭に無い。
「よーし、こんな事やってられないぜ。ジニー、お前がハリーと行けばいい。それで、サラ――」
「あたし、駄目なの」
 ジニーも、先程のハーマイオニーと同じように紅くなった。
「あたし――あたし、ネビルと行くの。ハーマイオニーに断られた時、あたしを誘ったの。あたし……そうね……誘いを受けないと、ダンスパーティーに行けないと思ったの。まだ四年生になっていないし。
 ……あたし、夕食を食べに行くわ」
 ジニーは心底落胆した様子で言うと、談話室を出て行った。
 サラは身構える。目当ての女の子にはふられた。ハーマイオニーは駄目。ジニーも駄目。そうなると、次に標的になるのは誰なのか目に見えていた。
 ロンがサラに目を向ける。
「行かないわよ」
「そんな事言わずに――せっかくのクリスマスだ。『行かない』って事は、相手はいないんだろう?」
「ええ、誘われても断ったの。『行かない』って言って断ったのよ。それなのに貴方達と行くなんて、その人達にだって申し訳無いじゃない!」
 サラは断固たる態度で言う。ここで折れる訳にはいかない。
 クリスマスは、せっかくの機会なのだ。
「サラ」
「行かないわ」
「サラ、頼むよ」
 ハリーまでもが畳み掛けるように言う。
「僕、最初に踊らなくちゃいけないんだ。その間だけでいいからさ――」
「他の代表選手は皆相手がいるのにハリーだけ相手がいなくて恥掻いても、サラは構わないって言うのか?」
「私――何も、そんな事――」
 サラは困惑してしまう。
 確かに、ロンは兎も角ハリーは相手無しと言う訳にはいかない。そして、パーティーまで後一週間しかない今、空いている女の子はそうそう見つからないだろう。
 けれど、行かないと決めた。行きたくない――
「パーティーで、マルフォイが他の女の子と一緒にいるのを見るのが嫌だって言うのは解るよ。でもさ――」
「――何ですって?」
 ロンの言葉に、サラの顔から表情が無くなる。目は冷たくロンを見据えていた。
「だから、マルフォイと別れた訳だろ? 理由が理由だから、まだ未練があっても仕方ないだろうし――」
「行くわ」
「え?」
 ハリーが目をパチクリさせる。
 サラはきっぱりと言った。
「行くって言ったのよ、ダンスパーティーに。ハリーと踊れば良いんでしょう? 余計な心配どうも。未練なんて、微塵も無いわ」
 肖像画の裏の穴を潜って、パーバティとラベンダーが入ってくる。サラは立ち上がり、女子寮へと立ち去った。
 ハリーとロンは顔を見合わせて小さくガッツポーズをし、ハリーは直ぐに席を立ってパーバティらを捕まえに行った。


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2010/12/27