「ポッター達を待伏せしよう」
大波乱のクィディッチ初戦を終えた翌日、いつもの暖炉の前のソファに踏ん反り返りながら、ドラコは言った。マダム・ポンフリーの手当てにより、ハリーとウィーズリーの双子の片方にタコ殴りにされた痕はもう残っていないが、その表情はムスッと不機嫌面だった。
「仕返しするのか? ポッターをボコボコにするんだな?」
クラッブが身を乗り出し、任せろと言うように指を鳴らす。ドラコは首を振った。
「違う。あいつらと同じリスクを背負ってやる必要なんかないからね。それからゴイル、そこ、間違ってるぞ。強化薬に使うのは、サラマンダーの尻尾じゃなくて血液だ。この前授業でやったばかりだろう」
「それじゃあ、どうするの? ドラコ」
彼の隣に座るパンジーが、小首を傾げて尋ねる。ドラコは口の端を上げて薄く笑った。
「現行犯で、アンブリッジ先生に突き出すんだ。フィルチでもいい。あいつらが何かを企んでいるのは、確実なんだ。何をしているかなんて、もう捕まえてから確認すればいい。足の指先でも境界に掛かっていれば、魔法省は喜んでポッターを退学にするだろうから」
「次の集会は確か、明日の夜よね?」
パンジーはアリスに確認するが、その質問ではアリスは答える事が出来ない。
「ええっと……」
「明日の夜は、予定が空いていないんだよな?」
気付いたドラコが、尋ね直す。アリスはうなずいた。
「……ええ」
「明日の夜、決行だ」
ドラコはきっぱりと言い放った。
「グリフィンドールの入口がある廊下と、城の何ヶ所かを手分けして見張る。ポッターやウィーズリーの連中がいるなら、どうせエリ・モリイも絡んでるだろう。できれば、ハッフルパフの入口も突き止めて見張るんだ」
「あ、俺はパス」
小さく手を挙げ、ザビニが言った。
「アンブリッジ教授はこちらの味方だ。僕達は罰則を受けないんだから、手伝ってくれたっていいじゃないか」
「見張るだけって言っても、見つかればあいつら、ただでは返してくれないだろ。嫌だよ、グリフィンドールの連中と決闘なんて。それに、明日はデートの約束が入ってる」
「ダフネ。あなたは協力してくれるわよね?」
パンジーが親友の手を取り、念を押す。ダフネも、あまり気乗りしない表情だった。
「あなたがどうしても、やるつもりなら……。でも、一人は嫌よ? 私とパンジー、二人一組でいいかしら?」
ダフネはドラコに確認する。ドラコはやや渋い顔をしていたが、うなずいた。
「ノット!」
近くの席で教科書を閉じ、そっと立ち去ろうとしていた友人に、ドラコは声を掛けた。
「ノットも協力してくれるよな?」
困惑しつつも、断れない性格の彼はうなずいた。
ドラコは満足げにうなずき返し、固く拳を握りしめていた。
「ハリー・ポッターも、明日が最後だ。目にものを見せてやる……!」
No.48
時計の針が七時を回り、サラは魔法薬学の教科書を閉じた。周りに積んだ本をテキパキと棚に戻し、図書館を出る。
今夜は、DAの練習がある日。ハリー達はいつも、一番早く来ているらしい。他にもたくさん人のいる談話室で彼らと話をする気にはなれなかった。ここから八階にある「必要の部屋」へ早めに着くなら、そろそろ行った方が良い。
急ぎ足で階段を上っていたサラは、踊り場を折り返した所で思わぬ人物に遭遇した。
相手もまた、サラとの遭遇は思いもよらなかったらしく、虚をつかれたように立ち尽くしていた。
先に動いたのは、サラだった。目を伏せ、無視するように、彼の横をすり抜けて行こうとする。しかし、彼は伸ばした手を壁につき、サラの行く手を阻んだ。
「……何処へ行くんだ?」
「何処へ? グリフィンドール寮は、この先にあるの。シリウス・ブラックが侵入した時の騒ぎであなたも知っているでしょう、ドラコ・マルフォイ」
行く手をふさぐドラコと目を合わそうとせず、サラは冷たく言った。
「そこを退いてくれるかしら?」
ドラコは動かなかった。黙り込んだまま、じっとサラを見つめていた。
サラは痺れを切らし、ドラコが腕を上げているのとは反対側へと回る。通り抜けたサラの背中に、声が掛かった。
「……最近、ポッター達と一緒にいないようだけど」
ピタリと、サラは足を止める。
「どうしてなんだ? 何があったんだ? あんなに、仲が良かったのに――」
「私がハリーと一緒にいたらよく嫉妬していたあなたが、それを言うの? それとも、もう別れたから彼に私を引き取って欲しいとでも? ご心配なく。他の誰かと付き合ったりしなくても、私があなたに未練を感じるような事は――」
「そんな事は言っていない。どうして君が、僕に未練を覚えるんだ? 君が、僕をふったのに」
サラは口をつぐむ。
「ポッターだけじゃない。ウィーズリーやグレンジャーも、君と一緒にいる所を見ない。君はいつも、一人だ。日刊予言者新聞に昔の事を色々と書き立てられて……他の生徒からも腫物扱いで……パンジーとだけは、この前の喧嘩から元通りよく張り合ってるみたいだけど……」
「あなたには関係ないわ!」
叫び、サラは振り返る。青灰色の瞳が、サラを見詰めていた。
その瞳が純粋な心配の色だけを浮かべてサラを映しているのに気付き、サラは身動きが取れなくなってしまった。……分かっていたのかも知れない。これを恐れて、彼の視線を避けていたのかも知れない。
「サラ」
彼の声が、サラの名前を呼ぶ。
「僕は、君に謝罪したい。僕には、何が出来るだろう?」
サラは困惑してドラコを見つめ返す。どうして彼が、謝罪をするのか。自らの父親の罪だから、と言う事だろうか。
「……ルシウス・マルフォイを、私の前に差し出しなさい」
「それは、出来ない」
分かっていた。それが、彼の答えだ。そんな彼だから、惹かれていた。そんな彼だから、離別した。
「そう。それなら、あなたに出来る事はないわ。……私の事は、放っておいてちょうだい。もう、あなたとは何も関係ないのだから」
まるで、自分に言い聞かせているかのようだった。
沸き起こる動揺を心の内に押し殺し、サラは踵を返す。そして、彼から逃げるように階段を上って行った。一段、一段。その足は次第に速くなり、最後には一段飛ばしで階段を駆け上がっていた。
脇目も振らず八階へと駆け上るサラは、一つ上の踊り場で慌てて物陰に隠れた人影に気が付かなかった。
ドラコとの遭遇で足止めを食らったせいか、「必要の部屋」に着いた時にはすでに他のメンバーもほとんど揃っていた。これでは、ハリー達と込み入った話をする訳にもいかない。
サラが今しがた入って来た扉が再び、今度は勢いよく開き、ハッフルパフ・チームの二人がクィディッチのユニフォームを着たまま駆け込んで来た。
「悪い、遅くなった! セーフ? セーフ?」
壁に掛かった時計を確認しながら、エリが叫ぶ。
「ハッフルパフの練習が今日、急に入ったんだ。クァッフルが見えなくなるギリギリまで練習していたから……」
頭からずぶ濡れになったザカリアス・スミスは、やや愚痴るような口調だった。
「だって、やっと競技場を取れたんだから、めいっぱい練習したいじゃん。グリフィンドールは、今日、予約入れなかったんだね」
「取ろうとしたら、アンブリッジの手が回ってたんだ。チームメンバーが八割以上揃っていないと、競技場は使えないって。それで今日は、先にメンバー集めを優先してた」
ピリピリとしたアンジェリーナの言葉に、サラは居心地悪く身を縮める。ハリー、フレッド、ジョージも、申し訳なさそうな顔をしていた。
「僕はもっと早くに、そろそろ向かった方がいいんじゃないかって言ったんだけど。エリが、隠し通路を使えば直ぐだからまだ練習出来るって」
「実際、間に合っただろー」
「こんなびしょ濡れのままじゃなくて、いったん寮に戻って着替えたかったのに」
「それなら、寮に戻って来なくて正解だったよ」
ザカリアスの不満に答えたのは、アーニー・マクミランだった。
「厨房で爆発事故があったみたいで。壁が吹っ飛んで、廊下までシチューやら皿の破片やらが散らばっていて、大惨事だったんだ。幸い、怪我人はいなかったみたいだけど。寮の前まで水浸しで大混乱。大渋滞になっていたから、僕達、早めに出て図書館で時間を潰していたんだ」
「そう! 私達、それで犯人を捜していたのよ。どうも、鍋に膨れ薬が混入させられていたみたいなのよね。誰だか知らないけど、悪戯のつもりならとんでもないわ! 屋敷僕妖精達も、震え上がっちゃって……」
「おいおい、ここで『反吐』の勧誘なんて始めないでくれよ」
「まさか、俺達を疑ってるんじゃないだろうな?」
「あいにく、俺達はもっと生産性のある仕事で忙しい。厨房も、この前のキャンディを作った時が最後だ。そろそろ食料調達に行かないと、歓迎好きな友人達が寂しがってるんじゃないかと思っていたぐらいだよ」
「あたし達以外にも、厨房の入り方ぐらい知ってるやついるんじゃねぇの? ヘルガ・ハッフルパフは料理好きで、だから厨房の近くだって事はハッフルパフ生なら皆知ってる事だし」
「ハッフルパフが料理を得意としていた事は、『ホグワーツの歴史』に書いてある事だわ。何も、ハッフルパフ生だけの知識じゃないわよ」
「ハッフルパフなら、本を読んでないあたしでもって事だよ」
「――ごめんなさい、遅くなっちゃった!」
最後に「必要の部屋」へ入って来たのは、アリスだった。
「大丈夫? ――良かった、皆、揃ってるわね」
「アリスが最後よ。何かあったの?」
ホッと息を吐くアリスに、ジニーが怪訝気に問う。アリスは、困り果てた表情で言った。
「ドラコ達がホグズミードの日にホッグズ・ヘッド方面に向かっていた生徒達を怪しんで、見張りを立てる事にしたの。ハリー、あなたが何か不穏な動きをしているって、彼らは勘付いているわ。それで、グリフィンドールとハッフルパフの談話室への入口と、校内の何箇所かを監視する事になって……。事前に伝えられたら良かったのだけど、急な事だったから」
サラは息をのむ。それでは、あそこにドラコがいたのは偶然ではなかったのだ。彼は、サラ達の動きを探っていた。――結局彼は、サラをアンブリッジの所へ引き立てる事はしなかったが。
『僕は、君に謝罪したい』
彼は、サラに罪悪感からの引け目を感じていると言う事だろうか。だから、サラをアンブリッジに引き渡さなかった。
――どうして? ルシウス・マルフォイが、自分の父親だから?
彼自身には、罪がない。それは、サラも解っている。彼を手にかければ、ルシウス・マルフォイはどう思うか。そう言って脅したし、彼に手を掛けられなかった事を悔しく思った。しかしそれらは、両親の愛を一身に受け育った彼への嫉妬と八つ当たりだ。祖母の仇は、ルシウス・マルフォイその人のみ。
それでも、ドラコは彼を守ろうとする。彼と家族は、切っても切り離せない。
「――サラ?」
間近で呼びかけられ、サラはハッと我に返る。ネビルが、サラの顔を覗き込んでいた。
「皆、練習を始めてるよ。今日は、『盾の呪文』の続きだって。もう『盾の呪文』が出来てる組は、武装解除と合わせて実践訓練だってさ」
ネビルが誇らしげに言った。彼の成長は、目覚ましいものだった。盾の呪文については、サラとハーマイオニーの次にネビルが出来るようになって見せたのだ。
「大丈夫? 何か、考え込んでいたみたいだけど」
「大丈夫……気にしないで。そう言えばネビルは、誰にも見つかったりしなかった?」
「うん。僕、温室からここに来たんだ。ミンビュラス・ミンブルトニア成長に合わせて肥料や土をスプラウト先生に分けてもらってるんだけど、その代わりに温室の植物の世話を手伝っていて……いつもは夕飯前なんだけど、今日は四年生の子の質問を受けていて忙しかったらしくて。ジニーも、ルーナと一緒に大広間でゆっくりしてたって。凄い偶然だよね。グリフィンドールとハッフルパフは、皆、今日は寮にいなかったんだよ。マルフォイ達は、誰も出て来ない寮の前で待ちぼうけさ」
「……そうね」
サラは、ドラコと会った事は言わなかった。
何故だか、言えなかった。
その日の会合も、門限間際の時刻になって終了した。「盾の呪文」の修得で自信がついたのか、「武装解除」の方についてもネビルはメキメキと上達していた。二つの呪文を次々と繰り出し、練習の中でネビルは二度もサラを「武装解除」して見せた。
スリザリン生達が、まだ廊下で見張っているかも知れない。アリスの報告を受けて、フレッド、ジョージ、エリの三人が隠し通路を案内してそれぞれの寮へと送り届ける事になった。
「と言っても、この人数はちょっと多いな……。ハッフルパフとレイブンクローは、何とか行けるかな。グリフィンドールは、二回に分けて……。エリ、ハッフルパフは任せていいか?」
「オッケー」
「じゃあ、レイブンクローは俺が行くよ。ジョージはグリフィンドール第一陣を送ったら、ここに戻って来て残りを連れて行く。グリフィンドールがここから一番近いからな」
「僕達なら、大丈夫だよ。三人とも、そのまま自分の寮に帰って大丈夫」
ハリーが言った。
「――ほら、えーと、三年生の時に教えてくれたじゃないか」
ハリーは誤魔化すように付け加えた。フレッドとジョージは、ピンと来たようだ。
「分かった。じゃあ、先に行くよ」
「え? 何? ハリーも、隠し通路詳しいの?」
「まあ、そんなところだな」
ダンブルドア軍団のメンバーは、グリフィンドール行き、ハッフルパフ行き、レイブンクロー行きに分かれて、部屋を出て行く。アリスは、ハッフルパフ生達と一緒に出て行った。地下に談話室の入口があるスリザリンは、途中までハッフルパフと一緒だ。「必要の部屋」の位置さえ特定されなければ、アリス自身はスリザリン生なのだから見つかっても捕まる事はない。
サラは部屋の隅に佇み、ネビルやジニー達が部屋を出て行くのを見送っていた。
皆が出て行き、静かになった部屋に残されたのは、ハリー、ロン、ハーマイオニー、そしてサラの四人。三人はサラが残った事に気付いているはずだが、何も言わなかった。サラもどう切り出して良いか分からず、部屋の片隅に棒立ちになったままだった。誰も何も言わず、重苦しい沈黙だけが部屋の中に満ちる。
不意に、三人を取り囲むようにいくつもの花火が現われた。それらは一斉に点火し、次々に激しい音を立てながら床中で弾ける。
「いったい何なの!? ――エバネスコ!」
ハーマイオニーが杖を振ると、花火は全て消え去り、爆発音も治まった。
「ごめん――たぶん、僕だ――あんまりにも静かだから、何か音が欲しいなって思ったら――」
ロンがしどろもどろに謝る。
「だったら、何か喋ればいいじゃない! 花火じゃなくて――」
思わずクスリと笑いが漏れた。ハリー、ロン、ハーマイオニーの目がサラへと向けられる。
サラは少し戸惑いつつも、三人に微笑いかけた。
「……相変わらずね」
ハリーは視線をそらし、ロンも気まずげに目を泳がせる。ハーマイオニーは、そんな二人とサラとを不安げに見比べていた。
サラは一歩、足を踏み出す。三人の方へ。掛け替えのない、大切な親友たちの方へ。
「話が、したいの」
「僕達と話す気はないって言ったのは、そっちじゃないか」
ロンの言葉に、サラはその場に停止する。ドラコよりも鮮やかな、青い瞳がサラを見詰めていた。
言わなければならない。ちゃんと、言葉にしなければ。どんなに魔法が出来たって、そこまで魔法は手伝ってはくれない。
「……違うわ。そんなつもりじゃなかった。私、私……言わなくても、分かってくれると思っていたの。私は、純血主義じゃないって。例えその血を継いでいたとしても、スリザリンやヴォルデモートを支持するつもりなんてないって。だって、どうして私が純血主義になるって言うの? ハーマイオニーは――私の親友は、マグル生まれなのに」
「サラ!」
ハーマイオニーが感極まって叫んだ。そして、サラへと駆け寄り、抱き着く。急な事にサラは受け止めきれず、そのまま床に倒れこんだ。
「ハ、ハーマイオニー? あの、えっと……」
何とか上体を起こすものの、抱き返して良いものやら分からず、サラの手は戸惑うように中途半端に挙がった状態になっていた。
「私、もちろん、サラを信じていたわ。でも、でも、怖かった……あなたが分からなかった……だって、あなた、いっつも私達の事を避けるんだもの!」
「……言ってくれなきゃ、分からないよ」
ぼそりとロンが呟く。サラは、彼へと視線を移した。ロンは、怒っているようにも見えた。
「どうして、シャノンが『例のあの人』のいとこだったって事を、僕達に隠そうとしたんだ? 何か騙そうとでもしていたのか?」
「違う!」
サラは叫ぶ。ハーマイオニーはサラを解放し、サラとロンを交互に見る。
「怖かったの……」
声が震える。目頭が熱くなる。今すぐ、ここから逃げ出したい。喉が焼け付くように痛み、続く言葉が、出て来ない。
温かな体温が、震えるサラの手を包み込んだ。ハーマイオニーが、サラの手を握っていた。サラは、その手を握り返す。勇気が、指先から流れ込んでくるかのようだった。
「……怖かったの。ヴォルデモートは私に言ったわ。私は、あなた達とは相容れない、異質な存在だって……私とヴォルデモートは同じだって……。私も薄々、気付いていたわ。私が怒った時、あなた達はいつも私に怯えていた。あなた達の言う事が理解出来ない事があるし、私の言う事にあなた達が困惑している事がある。あなた達三人だけじゃないわ。エリも、他の人達も……この前だってそれで、チョウ・チャンと口論になったわ。
それで、私が本当にスリザリンの継承者だったなんて知ったら、あなた達は離れて行くんじゃないかって……怖かったの。怖くて、言い出せなかった。必要がないなら、そのまま何もなかった事にしたかった」
「馬鹿ね、サラ。そんな事で、私達が離れる訳ないじゃない」
「本当、馬鹿だよ。大馬鹿だ」
ロンは、ゆっくりとサラへと歩み寄る。それからサラに、手を差し出した。
「ハグリッドの事があったのに、それでも僕らをそんな奴だと思っていたなんて。でも、サラの事を勘違いしていた僕らも馬鹿だった。僕達、皆、大馬鹿だった」
「僕『達』?」
ハーマイオニーが問い返す。ロンは肩をすくめた。
「いいよ、分かった。君は、サラを信じていた。僕とハリーとサラだけが、大馬鹿だった」
「えっ?」
名前を出され、ハリーが声を上げる。ロンは口を尖らせた。
「何だよ、ハリーまで文句言うのか? 分かったよ、僕とサラが馬鹿でした! ほら、サラ、馬鹿同士、また仲良くやろうぜ」
サラは笑みを漏らす。そして、ロンの手を取った。
「ええ、よろしく」
ロンの手を借りて立ち上がり、それから彼の向こうにいるハリーへと視線を移す。
「ハリー……」
「僕もロンと同じ意見だよ。サラがヴォルデモートと血が繋がっているからって、それだけで友達を辞める気なんてないさ」
ハリーは軽く肩をすくめる。
「さあ、帰ろう。あまり遅いと、皆が心配する」
ハリーの透明マントにロン、サラの透明マントにハーマイオニーが入り、四人は「必要の部屋」を後にした。ハリーが、自分たちは隠し通路の案内がなくても大丈夫だと言っていたのは、もちろんマントがあるからだ。フレッドとジョージには「忍びの地図」の事だと誤魔化し、実際に地図の方も活用したが。
透明マントの下、ハーマイオニーはぴったりとサラに寄り添っていた。
「ねえ、ハーマイオニー……くっつき過ぎじゃない?」
「だって、嬉しいんだもの! あなたとまた、仲直り出来て。また前みたいに話せるようになって。会話はするようにはなっていたけど、ほら、やっぱり少しぎこちなかったじゃない?」
「まあ……」
「ねえ、サラ。もしまた何か迷う事があったら、私達に話してちょうだい。一人で抱え込んだりしないで。どんな事があっても、私達はあなたを見放したりしない。大切な親友だもの」
「……うん。もう、怖がったりしない。あなた達を信じるわ。そして私も、何があってもハーマイオニーを必ず守る。親友だもの」
「やり過ぎない程度にね?」
少し茶化すように、ハーマイオニーは言う。サラの脳裏を、去年ハーマイオニーの悪口を言っていたレイブンクロー生やふくろう便が過った。
「……善処します」
サラとハーマイオニーは顔を見合わせる。そして、クスクスと笑い合った。
ヴォルデモートの復活以降、最高の夜だとサラは思った。
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2016/11/13