トラバース、レストレンジ夫妻、その弟のラバスタン、マルシベール、ドロホフ、それにバーテミウス・クラウチ・ジュニア……。
 アリスは、手帳に書き連ねた名前をじっと見つめる。リサ・シャノンは、闇祓いだった。当然、彼女に逮捕された者はたくさんいる。学生時代にも、ダンブルドアとグリンデルバルドの戦いで一躍していたらしい。しかしこの際、その件については置いておいて良いだろう。
 ドラコを操った、リドルの日記。ドラコを操るため、あらかじめ日記に力を与えていた人物がいる。ルシウス・マルフォイを脅し、シャノンの殺害を画策した人物がいる。
 リドルの日記の存在、そしてそれがどう言う物かを知っているとなると、その人物はヴォルドモートに近しい人物――死喰人であると考えて良いだろう。シャノンによって捕らえられた死喰人達。

「日記については、相当前から父上が持っていたらしい」
 イースター休暇の後、ホグワーツへと帰って来たドラコはアリスに話した。
「『例のあの人』に任されてから、ずっと手放した事はなかったそうだ。一時的に誰かに貸したりしたような事も……」
 早朝の談話室に、あまり人はいなかった。もっとも、スリザリン寮でドラコの父親が死喰人だと聞いたからと言って、ダンブルドアや魔法省に告げ口するような者はいないだろうが。
「それで、いつからあったのかは分かった? その時期によって、既にアズカバンに入っていた人は除外出来るから、絞り込めるかも……」
「それが……」
 ドラコは言い淀む。困惑顔で、ドラコは続けた。
「僕が生まれるよりも前なんだ。日記にあらかじめ力を与えていたとしても、何も知らない誰かが書き込む事を想定するなんて、偶然に任せるのと変わりないんだ」

 リサ・シャノンに恨みを持つ死喰人達。彼らがリドルの日記がどう言うものか知っていたとして、本当にこの中に日記にあらかじめ力を与えていた者がいるのだろうか?





No.65





「ああ……もう駄目……もう駄目だわ……」
 水曜日の朝になっても、サラは大広間で打ちひしがれていた。
「もう良いだろ、終わった事はさ。それより今は、目の前のご飯だ。ほら、ベーコンが冷めちゃうよ」
「それに、今日は天文学よ。一昨日の試験を嘆く暇があったら、しっかり次に備えなきゃ……」
 月曜日の試験の後にはサラを慰めていたロンとハーマイオニーも、二日も続くとややウンザリしている様子だった。
「サラだって、スネイプがいなくていつもよりは上手く出来たんだろう?」
 ハリーが気遣うように尋ねる。
 魔法薬学のふくろう試験。普段の授業よりもずっと手際良く調合出来たのは確かだ。少なくとも、スネイプの授業なら時間内に完成させる事すら危うかっただろう。しかし、普段よりも良いからと言って完璧だと言う訳ではない。
「Oを取らなきゃ、いもりの授業は受けられないのよ! 闇祓いになるには、魔法薬学のいもりを取らなきゃいけないの。ハリーだって分かっているでしょう? せいぜいE、もしかしたらAかも……」
「一度言ってみたい台詞だな」
 ロンがぼやくように言った。

 火曜日に行われた「魔法生物飼育学」の試験は、何ら問題なかった。ナールもボウトラックルも火蟹もユニコーンも、完璧に対処出来た自信がある。サラの手際を褒める試験官に、「先生のおかげです」とハグリッドの教師としての能力をそれとなくアピールする余裕すらあった。
 水曜日の午前中は、天文学の筆記試験だった。こちらも古代ローマ語同様、暗記力が物を言う科目だ。魔法薬学による気落ちの影響も特になく、そこそこの点が取れたであろう自身があった。
 天文学の実技試験は、夜に行われる。そのため午後は別科目の試験が割り当てられ、サラの場合は「占い学」の実技試験だった。
「水晶玉に視えたものを教えておくれ」
 試験官に告げられ、サラは心の中でガッツポーズをした。他の科目ばかりだったらどうなる事かと思ったが、水晶玉なら得意中の得意だ。ここで点数を稼ぐ事が出来る。
 机には白い布が掛けられ、その上に水晶玉が置かれていた。水晶玉の前に置かれた椅子に、サラは腰かける。
 心を鎮め、水晶玉に問いたい事柄に意識を集中する事……日記の中の祖母から聞いたアドバイス。サラは目を閉じ、ゆっくりと深呼吸すると、水晶玉を覗き込んだ。
 水晶玉の中で、白い靄が渦巻く。靄はみるみると晴れていき、一つの教室を映し出した。窓がなく、机と共に大鍋が並ぶその光景は、サラもよく知っていた。地下にある、魔法薬学の教室だ。
「魔法薬学の教室が見えます……えっ、あっ……嘘、私、ふくろう試験に通ったんだわ! これまでと違う教科書を持って、授業を受けています!」
 ハリー、ロン、サラの三人は、古びた教科書を使っていた。どうやら中古の教科書を借りたらしい。サラの教科書は特に汚れが酷く、前の持ち主の落書きが大量に書き込まれているのが遠目にも分かった。ふくろう試験の結果がまだ届かずとも、魔法薬学は新しい教科書を買っておこうとサラは心に誓った。
 闇祓いになるために必要な科目。魔法薬学の試験に合格できたならば、闇祓いになる事はできるのだろうか? そこまで遠い未来を水晶玉に視た事はないが、もしかしたら今なら出来るかも知れない。
 サラは水晶玉に意識を集中させる。魔法薬学の教室の景色は揺れ、広いエントランスホールが映し出された。中央に構える噴水、壁沿いに並ぶ幾つもの大きな暖炉――魔法省だ。
 サラはドキドキと胸を高鳴らせ、水晶玉を一心不乱に見つめる。廊下を走るように通り抜ける。まるで真っすぐに何処かを目指しているようだった。エレベーターに乗る。何もない階で降りる。正面には、黒い扉――
 サラは不意に気付いた。――これは、ハリーが繰り返し見ていた夢と同じ場所だ。
 あの扉は魔法省の神秘部の物だと、ハリーは言っていた。その向こうに何があるのか、今、明かされようとしている……。
 扉が開いた。サラはその中へと駆け込む。そして、景色が渦巻いた。
 サラは暗い部屋に立っていた。扉から入って直ぐの部屋なのか、それとも別の場所なのか、全く見当が付かなかった。背後には一枚のベールが掛かった台座があり、そして、冷たい銀色の仮面を被った者達がサラ、ハリー、ネビルの三人を取り囲んでいた。
「クルーシオ!」
 仮面を失った魔女が叫ぶ。その顔には見覚えがあった。新聞で見た顔だ。アズカバンから脱獄した、十二人の死喰人。その一人、ベラトリックス・レストレンジ。
 ネビルが苦痛に倒れ、もがき苦しむ。ベラトリックスは嗜虐的な笑みを浮かべ、ネビルを見下ろしていた。
「――やめて!!」
 自分の叫ぶ声で、サラは我に返った。サラは魔法省の暗い一室ではなく、占い学の教室にいた。年老いた教授が、興味深そうにサラを見つめていた。目の前の試験官だけでなく、離れた場所で試験を行っている他の教授や生徒達も、何事かとサラの方を振り返っていた。
「何を見たのかね?」
 サラの試験官が問う。こう言った事には慣れっこの様子だった。
 サラは言い淀んだ。サラとハリーとネビルが死喰人と対峙していた――なぜ、そんな状況になったのかは分からない。しかし、今のサラの立場では、そんな事は言わない方が良いだろうと思った。もしこの試験官が「日刊予言者新聞」を鵜呑みにしているタイプならば、サラがまた目立とうとしていると思われかねない。
 それに、途中で映像が途切れたが、恐らく最後の場所も魔法省だ。本来、サラ達はあの場にいるべきではないのだと言う気がしていた。
「えーっと……あの……正しいかは分からないのですけど……」
 自分が見たものに間違いはないと確信していたが、敢えて不安そうに言いおいて、サラは続けた。
「死喰人を見ました……脱獄中の死喰人です。死喰人が『磔の呪文』を掛けていて……」
 サラと同時に呼ばれて隣の席で試験を受けていたネビルが、ガタンと椅子の音を立てるのが聞こえた。
「……それで、私、思わず叫んだんです」
「ふむ……」
 試験官は手元の羊皮紙に何かを書き連ねながら、品定めするような目でサラを見つめた。
「どんな風に見えたかね? 人だけだったのか……なぜ、脱獄中の死喰人だと分かったのか……」
「最初は、部屋を上から見るような感じでした。いつもそうなんです。さっきの、魔法薬学の教室も……それから段々と、自分がその中に入り込んだような感じになって……。途切れ途切れだったので、定かではありませんが……場所は、魔法省だと思います。死喰人は、仮面を外していました。顔を見たんです。新聞に載っていた顔でした……」
「魔法省に死喰人が?」
「……馬鹿な事を言っているのは分かります。でも、視えた事をそのまま話すようにと仰ったので」
「ああ、その通りだ。ふむ、なるほど……他に何か見えるかね? ――あ、いや、もう次に移らないとまずいな。茶の葉占いだ」
 試験官は惜しそうに言って、水晶玉を下げた。
 「茶の葉占い」は相変わらずの出来だった。どう目を凝らしても、ただの出涸らしにしか見えない。何とか記憶にある教科書の内容と照らし合わせてみたが、抽象的過ぎて何を予言しているのかサラ自身にも分からない始末だった。
 その次の「手相術」は教科書に沿った回答を行えたが、水晶玉のような「視える」と言う感覚は無く、果たしてこんな物で良いのか不安でしかない。水晶玉の時には興味津々だった試験官も、非常に微妙な表情をしていた。
「今が試験中なのが残念だ」
 全ての試験を終え、席を立とうとしたサラに彼は言った。
「試験と言う時間制限のある場でなければ、君の水晶玉での予言はもう少し聞いてみたかったのだがね」

 北塔の教室を出るなり、サラは一目散に、先に試験を終えたハリーとロンの後を追った。今し方、水晶玉で見た内容を一刻も早く報告しなければならない。魔法省に現れる死喰人。その場に居合わせるサラ達――
 大理石の階段を下りる途中で、前を行く二人に追い付いた。
「魔法省に死喰人が?」
 サラの話を聞いたハリーとロンは、案の定半信半疑の様子だった。
「脱獄した死喰人の連中が、魔法省に? そんなの、自ら捕まりに行くようなものじゃないか。第一、どうやって魔法省に潜り込んだって言うんだ? 魔法省も、流石にそこまで馬鹿じゃないだろ……」
「それは分からないわ。もしかしたら、死喰人がいたあの場所は魔法省じゃないかも知れないし……ただ、神秘部と何か繋がりはあると思う」
「ルシウス・マルフォイがファッジと会ってた」
 ぽつりとハリーが言った。
「夏休みに、裁判で魔法省に行った時だ。君のお父さんも一緒に目撃してる。死喰人が易々と出入りしてるんだ。仲間を引き入れるくらい、そんなに難しい事じゃないかもしれない……」
「それに、ほら、マクネア。覚えてる? バックビークの処刑に来ていた人。あの人も、墓場に集まった死喰人の中にいたわ」
 ハリーとサラの話に、ロンは不安げな表情になる。
「それで、サラが見た光景が正しかったとして、死喰人は……」
「ネビルに磔の呪文をかけていた」
「ほら、やっぱりおかしいよ。ハリーとサラはまだ分かるさ。でも、どうしてそこにネビルまでいるんだ? ハリーじゃなくてネビルを狙うって言うのも……」
「脅しかも知れないわ。私達が、言う事を聞くように……」
 その時、ハーマイオニーが走って来て、話は一時中断となった。
「ねえ、『数占い』は上手く行ったと思うわ。夕飯の前に、急いで星座図を見直す時間があるわね……」
 ハーマイオニーにも「占い学」で見た事を説明しようと思っていたが、その言葉で後回しとなった。まだ、今夜の試験は残っている。それに、今のハーマイオニーに話しても、不確かなサラの予見よりも目前に迫る試験勉強の方が重要視されるだろうと言うのが、満場一致の意見だった。

 天文学の実技試験は、夜中の十一時過ぎに、天文塔の天辺で行われた。空気が澄んでいて星空も明るく、良い天文観測日和だったが、ひんやりとした空気が少し肌寒かった。
 マーチバンクス教授の合図で、生徒達は一斉に望遠鏡と星座図に取り掛かり始めた。
 静かな夜だった。ふくろうの鳴き声すら聞こえず、ただ羽ペンの音と望遠鏡の位置を調整する音だけがその場に満ちていた。
 どれ程の時間が経ったろうか。星座図への書き込みをあらかた終えた頃、遠くで扉をノックする音と、低い吠え声が聞こえてきた――ファングだ。
 サラは望遠鏡から目を離し、校庭を見下ろした。暗闇の底のような校庭の向こう、森のふちにハグリッドの小屋が見えた。そこだけポッと橙色の明かりが灯っていて、五人の訪問者を照らし出していた。その内の一つ、先頭に立つずんぐりとした影に見覚えがあった。ハグリッドの小屋の扉が開き、五つの影は小屋の中へと消えて行った。
 おおいぬ座を星座図へと書き込みながら、サラは気が気ではなかった。こんな時間に、アンブリッジがハグリッドに何の用だろう? それも、四人も護衛を連れて。嫌な予感がしてならない。
 最後の星を書き終え、図面を見直していたその時、またしてもファングの吠える声が静かな夜に響き渡った。
 サラだけでなく、複数の生徒が校庭の方を見た。トフティ教授がコホンと咳払いした。
「皆さん、気持ちを集中するんじゃよ」
 多くの生徒が試験に戻ったが、サラはじっとハグリッドの小屋を見据えたままだった。
 トフティ教授がもう一度、今度ははっきりと大きく咳払いした。
「あと二十分」
 サラは顔を正面へと戻し、横目でハグリッドの小屋を見つめる。試験どころではなかった。
 ――いったい、何が起こっているのか。ここでサラ達がのんびりと試験なんて受けている間に、取り返しのつかない事が起こってしまうのではないか。
 バーンと大音響がして、ハグリッドの小屋の扉が勢い良く開いた。サラは腰を浮かせる。
 ハグリッドの巨大なシルエットが、五人の魔法使いに取り囲まれていた。五つの赤い光線が、ハグリッドへと向かう。
「やめて!」
 ハーマイオニーが叫んだ。――それが、サラが最後に聞いた声だった。

「先生」
 サラの声に、何人かの生徒が振り返った。
「体調が優れなくて……医務室へ行ってもよいでしょうか」
「あ、ああ」
 声を上げたハーマイオニーを叱責しようとしたトフティ教授は、不意を突かれたようにうなずいた。
「しかし、残り時間も少ないから、もし良くなっても――」
「大丈夫です。回答は終えているので」
 静かに言うと、鞄を持って席を離れる。その顔は蒼白で、灰色の瞳は何かに取り憑かれたように焦点が定まっていなかった。
 鞄の中から引っ張り出した透明マントを被ると、螺旋状の階段を降りて行く。向かう先はもちろん、医務室ではない。その足並みは次第に速くなり、やがて駆け出した。
「……悪いね。借りるよ、サラ」
 彼女は小さく呟き、杖を振った。
「――アクシオ! ニンバス!」





 階段を駆け下りながら呼び寄せた箒は、ちょうど玄関ホールを出ると共に馬車道の方から飛んで来た。風を切って飛んで来る箒に飛び乗り、ハグリッドの小屋へと向かう。騒動にはもう一人、参加者が増えていた。
「何の理由があって攻撃するのです? 何もしていないのに、こんな仕打ちを――」
 四本の赤い光が、マクゴナガルを襲った。
「――ミネルバ!」
「卑怯者!」
 ハグリッドが怒号を発した。怒鳴り散らしながら、近くにいた魔法使いに殴り掛かる。ハグリッドの拳を食らった者達は数メートルも吹っ飛び、動かなくなった。
「プロテゴ!」
 ハグリッドに向けて杖を振る。飛んで来た失神呪文は弾かれ、ハグリッドには当たらなかった。
 突然の援護にアンブリッジはきょろきょろと辺りを見回す。しかし、透明マントを被った犯人の姿を見る事は出来なかった。
 彼女は音もなくアンブリッジの背後へと降り立つと、その耳元で囁いた。
「――久しぶりだね、ドローレス」
 アンブリッジは悲鳴を上げて飛びのいた。声の元を探そうと見回すが、当然、その姿は見えない。
 聞こえた声に、ハグリッドはハッとした顔をしていた。
「まさか――」
「私の親友達にずいぶんと手荒な真似をしてくれたね。私が黙っているとでも――」
 杖を握った手を挙げる。ハグリッドが叫んだ。
「――やめろ、リサ! お前がその姿で手を出しちゃなんねぇ!」
 ハグリッドはファングを担ぎ上げると、校門の方へと走り出す。アンブリッジは困惑しながらも、叫んだ。
「捕まえなさい! 捕まえろ!」
 そして自らも、ハグリッドへと失神呪文を放つ。リサはハグリッドとアンブリッジらの間に割って入り、盾の呪文を唱えた。後を追おうとする魔法使いには足縛りの呪いで足止めする。
 失神呪文は一発もハグリッドに当たる事はなく、ハグリッドは闇へと消えた。
 ハグリッドが逃げ遂せたのを確認すると、リサはふらりとその場を離れた。
(ミネルバ……)
 倒れ伏した親友の容体が気になったが、リサにもあまり長い時間は残されていなかった。ここで倒れてアンブリッジでも見つかろうものなら、サラがまずい事になる。
 それに何より、伝えなければならない。リサの意識がはっきりしている内に。――ハリー達に会わなければ。彼らならば、話も早いはずだ。
 リサはニンバス1000に跨り、城へと戻る。マダム・ポンフリーが飛び出して来るのと入れ違いに、するりと玄関ホールに入り込んだ。
 視界に霞が掛かり始める。リサは、積極的にサラの力を奪おうとはしなかった。いくら彼女の力が大きく、血縁からも取り込みやすいものだったとしても、アンブリッジらとの戦闘でほとんど使い果たしてしまっていた。
 透明マントを脱ぎ、天文塔を上る。ハリー、ロン、ハーマイオニー以外にサラと親しい生徒を、リサは知らなかった。彼ら三人か――あるいは、双子の妹だと言うエリ・モリイでもいれば。
「あら? サラ・シャノン? あなた、医務室へ行ったんじゃ――」
 声が聞こえて、顔を上げる。知らない女子生徒の二人組だった。レイブンクローの青いネクタイが見えた。
 もう一人が、心配そうに顔を覗き込む。
「酷い顔色よ。大丈――」
「頼みがある」
 覗き込んだ女子生徒の腕を、リサは掴んだ。
「ハリー・ポッターに伝えてくれ……この子から、日記を取り上げて欲しいと。もし、これからも日記が応答するなら……それは、私ではない……か、ら……」
 困惑するレイブンクロー生の前で、リサは意識を手放した。





 真っ白な空間。日記の主は深い眠りに落ち、何の記憶も再生される事のないその場所に、二つの人影があった。
 少年は、宙に浮かぶようにして眠る少女の頬をそっと撫でる。
「可哀そうに。日記に注がれる力の吸収を拒んでいなければ、こんな事にはならなかっただろうに」
 少女は固く目を閉じたままだ。彼女はしばらく、目を開ける事はないだろう。再び、彼女に力が与えられない限り。
「おやすみ、リサ……君の孫娘の相手は、僕に任せるといい」
 リサの額にキスを落とし、トム・リドルはフッと微笑んだ。


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2018/01/08