席を探してジニーと歩いていたアリスは、前方に二人の少年を見つけた。一人は、よく知った生徒だ。ジニーも同じく気付いたらしく、手を振る。
「コリン! 久しぶりね。そっちの子は?」
 コリン・クリービーの隣には、彼をちょうど一回り小さくしたような男の子がいた。きょろきょろと落ち着かな気に辺りを見回している。
「弟のデニスだよ。デニス、話した事があるだろう? クラスメイトのジニーと、スリザリンのアリス。ほら、サラ・シャノンの妹の」
「スリザリン?」
 出された寮の名に、デニスが警戒するのが分かった。
 ジニーが苦笑する。
「大丈夫よ、アリスは。私も、貴方のお兄さんも、友達だもの」
「よろしくね、デニス」
 アリスはにっこりと笑い、手を差し出した。デニスはちらりと不安げにコリンを振り返り、それからおずおずと手を差し出した。その手を取り、アリスは握手する。まだ少し引きつってはいたが、デニスも微笑んだ。
「貴方達も、まだ席が見つかってないの?」
「うん、そうなんだ」
 アリスの問いかけに、コリンが頷く。ジニーは傍のコンパートメントの扉に目をやった。
「そこは?」
「あ、そこは……」
 言いよどんだコリンに構わず、ジニーは扉を開ける。そして、中の人物に放しかけた。
「ねえ、ここの席空いてるかしら? アリスとコリンと、彼の弟も一緒なんだけど」
 コンパートメントの中から僅かに声が聞こえた。ジニーは振り替える。
「大丈夫ですって。ここにしましょう」
「うん……」
 コリンは渋々と頷き、荷物を運び込む。その後に続いてコンパートメントに入って、アリスはコリンが渋っていた理由を理解した。
 ブロンドの髪を腰まで伸ばした、飛び出しそうな大きな目の少女が窓際に座っていた。左耳に挟んだ杖、コルク栓を繋げたネックレス、耳にぶら下げたラディッシュ――異様、彼女の姿はその一言に尽きた。ルーナ・ラブグッド、レイブンクローの三年生だ。何度も薬草学の授業で見かけているが、彼女の変人っぷりは周知の事実だった。一度作業の組が同じになり話しかけてみたが、上手く会話にならず断念してしまった。
 ジニーは、ルーナと親しいように見受けられる。ルーナの大きな目が、アリスに向けられた。
「アリス・モリイだよね。スリザリンの」
「ええ。久しぶり、ルーナ」
 アリスはにっこりと愛想の良い笑顔で答える。コリンとデニスは、いかにも居心地が悪そうにしていた。
「アリス、ルーナと親しかったの?」
「薬草学の授業で一度、一緒に組んだ事があるの。スリザリンって、レイブンクローと一緒だから」
「えっと……何読んでるの?」
 何とか会話で居場所を確保しようと、コリンが口を挟んだ。ルーナの読んでいる雑誌を指差す。ルーナは、雑誌を上下逆さにして読んでいた。その表紙には、『ザ・クィブラー』と書かれている。
「見かけない雑誌ね」
「ルーナのお父さんが作っている雑誌よ」
 答えたのはジニーだった。
 ルーナは再び、雑誌へと視線を戻していた。コリンが戸惑いながら、ジニーとアリスに話しかける。
「えっと……そう言えば、今年はクィディッチのワールドカップがあったんだよね。二人は、見た?」
「ええ、見たわ。私達、貴賓席だったの。ねえ、アリス?」
 アリスはこくんと頷く。コリンとデニスは興奮した表情になった。
「わあっ、凄い!」
「僕、まだクィディッチって見た事無いんだ。ハリー・ポッターやサラ・シャノンも、寮の選手なんだよね? あと、闇の印がどうのって話をホームで聞いたんだけど、それは何?」
「簡単に言えば、『例のあの人』の印よ。夜中に、死喰人の残党による暴動があって……あれさえ無ければ、本当に最高の一日だったのに。ねえ?」
 ジニーは同意するように頷く。そして何があったのか、詳細を話し出した。
 クリービー兄弟は神妙な顔で話に聞き入る。ルーナも再び雑誌から顔を上げ、ジニーをじっと見つめていた。





No.7





 土砂降りの中を城へと向かったサラ達は、頭のてっぺんから足の先まで文字通りずぶ濡れだった。玄関ホールへと駆け込み、ロンは頭を振る。動きに合わせ、水がそこら中に飛び散った。
「ひでぇ。この調子で降ると、湖が溢れるぜ。僕、びしょ濡れ――うわあっ!?」
 ロンの言葉は、途中で叫び声へと変わった。大きな赤い水風船がロンの頭上へと落ちてきたのだ。風船は割れ、ロンはハリーの方へとよろめいた。
 続けてもう一つ、水風船がハーマイオニーとハリーの間に落ちた。足元で破裂した水風船は、サラ達の靴下に冷たい水しぶきをかけた。サラはキッと頭上を見上げる。
 ポルターガイストのピーブズが、生徒達目掛けて水風船を投げつけていた。生徒達は押し合いへし合い、水風船の砲弾から逃れようとする。
 不意に、彼の投げた水風船が空中で重力に逆らいUターンした。進行方向を変えたそれは、ピーブズの身体を通り抜けて天井に当たり破裂した。
「あっ、そうか。幽体だものね」
「首絞めは見たくないわよ」
 サラの呟きを聞きとがめ、ハーマイオニーが咄嗟に言った。サラは口を尖らせる。ピーブズに向け、軽く杖を振った。
 ピーブズは、投げようと狙いをつけていた水風船を取り落とした。背中を反らせ、悲鳴を上げる。背中の痛みにもだえながら、ピーブズは退散して行った。
「サラ、ナイス!」
 ロンが手を挙げ、サラはハイタッチする。ハーマイオニーは肩を竦めた。
「首締めとあまり変わらない気がするけど」
「背中を引っかいたのよ。一瞬なだけ、良いでしょう? 通常の呪文じゃ、当たらないんだもの」
 大広間から、マクゴナガルが出て来た。騒ぎを聞きつけたらしいが、ちょうど収束したところだ。
「何かありましたか?」
 マクゴナガルは、近くにいるサラ達へと問いかけて来た。サラはロンの陰に隠れて杖をしまう。ハリーが肩を竦め、首を振った。
「いえ、何も」
 マクゴナガルは腑に落ちない表情をしながらも、生徒達を大広間へと誘導する。マクゴナガルの前を通り過ぎて大広間へと入り、四人は顔を見合わせて笑った。
 いつもながら、大広間は見事な飾りつけだった。一番奥のテーブルへと歩きながら、ロンがサラに尋ねた。
「乾かす呪文とかって無い?」
「さっき言ってちょうだい。一応、廊下とかでの魔法は禁止だもの」
 膨れっ面になるロンの頭に、花柄のタオルがかぶせられた。ロンは慌ててハーマイオニーの手から逃れる。
「嫌だよ、そんな女物使うの」
「風邪ひくよりはマシでしょう。雨が強いみたいだから、着替えの時に荷物から出して来たの」
「自分で拭くよ」
 ロンはタオルだけ渋々と受け取った。サラとハリーは顔を見合わせクスクスと笑う。
 頭だけはタオルで拭いても、四人とも全身びしょ濡れである事には変わりなかった。席に着き、サラはローファーを脱ぐ。つま先に突っかけて持ち上げると、中に溜まっていた水がざばっと流れ出た。
「足がぐじょぐじょ。気持ち悪いわ……」
 隣では、ハリーが「ほとんど首なしニック」に受け答えながら、サラと同じようにスニーカーの中の水を捨てていた。
「早く組分け式にしてくれるといいな。僕、腹ペコだ」
「わーい、ハリー! サラ!」
 聞こえて来た歓声に振り返ると、コリン・クリービーがテーブルの向こうで大きく手を振っていた。サラは軽く手を振り返すだけで直ぐに視線を外した。ハリーは警戒しつつも返事する。案の定、コリンは更に話し掛けてきた。
「ハリー、何があると思う? 当ててみて、ハリー、ね? 僕の弟も新入生だ! 弟のデニスも!」
「あ――良かったね」
「弟ったら、もう興奮しちゃって! グリフィンドールになるといいな! ねえ、そう祈っててくれる? ハリー?」
「あ――うん。いいよ」
 それからハリーは、サラ達の方へと振り返った。
「兄弟って、だいたい同じ寮になるよね? ――あ」
 聞いてから、思い出したらしい。ハリーはサラを見つめた。サラはひらひらと答えるように手を振る。
「ここに違う例がいるわよ。見事に三人バラバラ」
「それから、パーバティ・パチルもよ。あの子達も双子だけど、一人はレイブンクローだわ。あそこは一卵性双生児なのにね」
 教職員テーブルに着いた職員の人数は、マクゴナガルを差し引いても一人足りなかった。闇の魔術に対する防衛術の新教師がいない。とうとうその人物が現れないままに、マクゴナガルが一年生を連れて入って来て、宴会が始まった。
 ハリーは自分の時以来初めて組分けを見るので、帽子の歌が違う事に驚いていた。コリンの弟、デニス・クリービーは希望通りグリフィンドールになり、満面の笑みでコリンの所へと駆け寄って行った。クリービー兄弟がサラとハリーの方を見て騒ぐのを、二人は聞こえないふりをしてやり過ごした。
 組分けを待つ一年生の列が無くなり、漸く食事が現れた。皆と一緒に取り皿を山盛りにしながら、サラはふと呟く。
「……そう言えば、シリウスって食事どうしてるのかしら」
「あら。サラ、貴女、自分の父親なのにシリウスって呼んでるの?」
 サラの独り言に、ハーマイオニーが反応した。サラはジュースを注ぎながら呻く。
「だって、去年知ったばかりなのよ? 幼い頃は一緒に住んでたって言っても、私には記憶が無いし……寧ろ、知ってからはずっと憎んでいたくらいだもの。『お父さん』なんて呼び方、どうにも慣れなくて……」
「手紙とか、本人と話すときは? 『貴方』だけじゃ、困る場合もあるでしょう?」
「……手紙、まだ書いてないわ」
「えぇ!?」
 ハーマイオニーは一瞬、食事の手を止める。ぽかんとサラを見つめ、溜息を吐いて再び手を動かし出した。
「シリウス、可哀想……」
「アリス達にも言われたわ」
「当然だわ。きっと待ってるわよ、貴女からの返事。――かぼちゃジュース、取ってくれる?」
 サラは呻きながら、目の前の瓶をハーマイオニーに渡す。シリウスからは何枚も手紙を貰っているし、恐らく返事を待っているだろうというのも同感だ。そうは思っても、何を書いて良いのか分からなかった。
 会話が途切れると、ハリー、ロン、ニックの会話が聞こえてきた。ピーブズは、宴会への参加を断られて機嫌が悪かったらしい。結果、先ほどの玄関ホールだけでなく、厨房でもひと悶着あったそうだ。
「厨房で、何やったの?」
「ああ、いつもの通りです。何もかも引っくり返しての大暴れ。鍋は投げるし、釜は投げるし。厨房はスープの海。屋敷僕妖精がものも言えないほど怖がって――」
 ハーマイオニーがゴブレットを倒す音が、ニックの台詞を遮った。
「ちょっと、ハーマイオニー。何やってるのよ」
 かぼちゃジュースの黄色い染みがテーブルクロスに広がって行くのを見て、サラは慌ててハーマイオニーのゴブレットを起こした。ハーマイオニーは愕然とした表情で、ニックを見つめていた。
「屋敷僕妖精が、ここにもいるって言うの? このホグワーツに?」
「左様。イギリス中のどの屋敷よりも大勢いるでしょうな。百人以上」
 ハーマイオニーの反応に面食らいながら、ニックは答えた。
「私、一人も見た事が無いわ!」
「そう、日中は滅多に厨房を離れる事はないのですよ。夜になると、出て来て掃除をしたり、火の始末をしたり……つまり、姿を見られないようにするのですよ。良い屋敷僕の証拠でしょう、存在を気付かれないのは」
「でも、お給料は貰ってるわよね? 休暇も貰ってるわよね? それに――病欠とか、年金とかも色々?」
 ――始まった。
 サラは敢えて食事に専念する。ハーマイオニーは、夏休みのウィンキーの一件から屋敷僕妖精の事に対して神経質になっている。こうなったハーマイオニーは、誰にも手がつけられなかった。ニックはハーマイオニーの主張に笑い、それが尚更彼女の神経を逆撫でた。ハーマイオニーは「奴隷労働」だと言って、それから食事を一切放棄した。ロンがどんなに勧めようとも手をつけず、仕舞いにはロンも諦めてしまった。

 やがてデザートが消え、ダンブルドアがいつもの諸注意の為に立ち上がった。持ち込み禁止品の追加についての話、森への立ち入り禁止、続いて告げられた話にサラは絶句した。
「今年は、寮対抗クィディッチ杯は取りやめになる。これを知らせるのは、わしにも辛い役目での」
 一斉に驚きと不満の声が上がる。グリフィンドールのテーブルを見回すと、選手は誰もが呆然とダンブルドアを見上げていた。
 ざわめきを遮るようにして、ダンブルドアは続ける。
「これは、十月に始まり、今学年の終わりまで続くイベントのためじゃ。先生方も殆どの時間とエネルギーをこの行事のために費やす事になる――しかしじゃ、わしは、皆がこの行事を大いに楽しむであろうと確信しておる。ここに大いなる喜びを持って発表しよう。今年、ホグワーツで――」
 耳を劈くような雷鳴の音が、ダンブルドアの言葉を遮った。
 大広間の扉が開いていた。玄関ホールの窓から差し込む雷の光を背にして、男が戸口に立っている。大広間の天井は、外と同じ情景だ。天井を走った稲妻が、男の風貌を照らし出した。男はフードを脱ぐと、教職員テーブルへと歩き出した。
 思いも寄らぬ登場をしたこの男が、闇の魔術に対する防衛術の新しい教師だった。マッド−アイ・ムーディ、闇祓いだ。
 遮られたダンブルドアの話の続きは、もう予想がついていた。今年、ホグワーツで行われるもの。三大魔法学校対抗試合。ドラコが話していた、あれの事だ。
 ふと、ハーマイオニーがサラを見ている気がした。しかし振り返った時にはもう、ハーマイオニーはダンブルドアを見つめ話に聞き入っていた。サラはちらりとハリーとロンの方を見る。電車での彼らの様子からしても、三人はこの話を聞いていなかったようだ。サラがドラコから聞き隠していたと知ると、面倒な事になりそうだ。
 選手に候補出来るのは十七歳以上のみ。ボーバトンとダームストラングの代表団の到着は十月。それらを告げて、ダンブルドアの話は終わった。皆が大広間を出る扉に向かう中、フレッドとジョージは棒立ちになっていた。ハリーとロンも呆気にとられて座ったままだ。
「そりゃあ、無いぜ!」
 そう言って嘆いたのは、ジョージだった。
「俺達、四月には十七歳だぜ。なんで参加出来ないんだ?」
「俺はエントリーするぞ。止められるもんなら止めてみろ。代表選手になると、普通なら絶対許されない事が色々出来るんだぜ。しかも、賞金一千ガリオンだ!」
「うん」
 焦点の定まらない目で、ロンが答えた。
「うん、一千ガリオン――」
 衝撃に打ちのめされている男達を、サラとハーマイオニーとで急かし、六人は大広間を出て行った。八階のグリフィンドール談話室へと向かいながら、フレッドとジョージは本格的に年齢制限を掻い潜る方法を議論し始めた。
「おい、ロン。俺達がダンブルドアを出し抜く方法を見つけたらどうする? エントリーしたいか?」
「どう思う?」
 ロンはサラ達へ話を振った。ハリーが頷いた。
「立候補したら気分がいいだろな。だけど、もっと年上の選手が欲しいんだろうな……僕達じゃまだ勉強不足かも……」
「僕なんか、絶対不足だ」
 フレッドとジョージの後ろに、ネビルがいた。ネビルは肩を落とし憂鬱そうに言った。
「だけど、ばあちゃんは僕に立候補して欲しいんだろうな。ばあちゃんは、僕が家の名誉を上げなきゃいけないっていっつも言ってるもの。僕、やるだけはやらな――うわっ!」
 ネビルの身体がガクンと下がった。階段の中ほどで、足がはまってしまっている。ハリーとロンとで、両側からネビルを抱えて引っこ抜く。
「でも、年齢制限があったのはラッキーなんじゃない? それを理由にすればおばあ様も何も言わないんじゃないかしら」
 サラは言ってみたが、ネビルは首を振った。
「君は僕のばあちゃんを知らないんだ」
 ロンは、ケタケタと笑っている甲冑の面頬を乱暴に引き下げ黙らせていた。
 ジョージが監督生から予め合言葉を聞いていたお陰で、七人は談話室へと入れた。談話室にはいつものようにフカフカの赤い絨毯が敷かれ、その上に肘掛け椅子やテーブルが置かれている。暖炉では火がパチパチと音を鳴らし、談話室に心地良い暖かさを満たしていた。サラは、ハーマイオニーの眉が一瞬で吊りあがるのを見逃さなかった。
 「おやすみ」と挨拶を交わし、サラとハーマイオニーは女子寮への階段を昇る。ハーマイオニーがボソッと呟いた。
「奴隷労働」
 サラはぎょっとハーマイオニーの横顔を見る。
「奴隷労働だわ。今まで、何も知らずに任せていたなんて。料理も、選択も、駅からここまで荷物を運ぶのも、全部屋敷僕妖精がやらされていたのよ!」
「でも、ほら、ホグワーツには百以上の屋敷僕妖精がいるのでしょう? だったら、数でどうにかなってるんじゃないかしら。何処にでもいるじゃない。従業員だと思えば――」
「従業員ですって? 給与を貰っていないのに? 休みもなく働かされているのに? 奴隷労働以外の何物でもないじゃない!」
「……」
 触らぬ神に祟りなしだ。そう悟って、サラは黙り込んだ。
 寝室に運び込まれた自分の荷物を見て、ハーマイオニーの表情は更に険しくなる。サラは無言のまま自分の荷物が置かれている所まで行き、ごそごそとパジャマに着替え始めた。
 着替え終わってベッドに入ろうと靴を脱いでいるところへ、ハーマイオニーが話しかけてきた。屋敷僕妖精の話をするときのようなピリピリした様子は、幾分か消えていた。
「ねえ、サラ。若しかして貴女、知ってたんじゃない? 三大魔法学校対抗試合の事」
 やはり、気付かれていたか。サラは、隠す事無く頷く。
 あの場で言わないでくれて良かった。ロンやハリーの前に、ドラコから聞いていたなどと明かそうものなら不機嫌になる事は必至だ。
 ハーマイオニーは「やっぱり」と言った。
「情報源はマルフォイってところかしら」
 そう言うハーマイオニーの口調は、意外にも何処かツンケンしていた。
「怒ってるの?」
「マルフォイの電車での態度にね。でも、年齢制限! エントリーも出来ないなんて、きっと今頃さぞかし悔しがっているでしょうね」
「何だか、一年生の時のクィディッチみたいね。あの時もドラコってば、入学前まで選手になる気満々だったのよ」
「それじゃあ、今回も前例を破って貴女とハリーが選手に?」
 ハーマイオニーは冗談めかして話す。サラは笑った。
「まさか。今回は、校内のクィディッチとは話が違うのよ。他校との折り合いもあるし、そんなの認められないわ。私も、その目を掻い潜ってまでエントリーしようなんて思わないもの」
 そう言って、肩を竦める。
 話しながら、妙な白々しさをサラは感じていた。強ち、あり得ない話でもないのではないか――そんな予感がしていたのかも知れない。


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2010/07/05