クリーチャーはシリウスの元を離れこそすれども、「不死鳥の騎士団」についての情報をナルシッサ・マルフォイに明かす事は出来なかった。本部の所在、そのメンバー、屋敷で見聞きした任務に通ずる情報、シリウスが禁じていた情報は何一つ、他言する事が出来なかった。
 しかし、シリウスは大切な事を一つ禁じ忘れていた。――シリウス・ブラックが、ハリーにとって大切な人物であると言う事。
「クリーチャーの情報で、ヴォルデモートはある事に気づいた。ハリー、君がどんな事があっても助けに行く人物は、シリウス・ブラックだと言う事にじゃ」
「それじゃ……僕が昨日の夜、クリーチャーにシリウスがいるかって聞いた時……」
「マルフォイ夫妻が――間違いなくヴォルデモートの差し金じゃが――クリーチャーに言いつけたのじゃ。シリウスが拷問されている光景を君が見た後は、シリウスを遠ざけておく方法を考えるようにと」
 クリーチャーは、バックビークに怪我をさせた。ハリーがシリウスの所在を確認した時、シリウスは上の階でバックビークの手当てをしていた――
 ダンブルドアは、これら一連の事実を、クリーチャー自身から聞き出した。昨日、ダンブルドアは本部へ行く用事があった。
 ハリーの言葉から事態を把握したスネイプは、本部へと連絡した。シリウスはダンブルドアへの報告のために残るように指示したが、彼がスネイプの指示を聞き入れなかったのは、知っての通り。結果、ダンブルドアは全員出払い無人となった本部で、笑い転げるクリーチャーから何があったのかを聞く事になった。
「それで……クリーチャーは先生にそれを全部話して……そして、笑った?」
 ハリーの声は掠れていた。サラは、一度に知らされた事実を整理しきれずにいた。
 ダンブルドアとハリーは、クリーチャーの行いについて問答していた。クリーチャーは、シリウスに心から忠誠を感じてはいなかった。シリウスのクリーチャーへの態度については、サラも咎めシリウスと口論になった事があった。
 サラが、シリウスを説得できていれば。シリウスへは忠誠心を抱いていなくても、サラが嫌がる事に思い当たる程度に、サラがクリーチャーの信頼を得られていれば。そもそも、クリーチャーにシリウスの所在を確認した時に、サラもハリーと一緒に行っていれば、クリーチャーは嘘を吐くことは出来なかったかもしれない。
 サラの行動次第で、シリウスの死は逃れ得るものだったのかもしれない。
 ダンブルドアがシリウスのクリーチャーへの態度を口にした事で、ハリーは再び憤り怒鳴り散らしていた。しかしもう、サラには彼を止めるほどの気力は残っていなかった。二人が何を話しているかさえ、ほとんど聞き流している状態だった。

 クリーチャーが、裏切った。
 サラが、シリウスとクリーチャーの間を取り持つ事が出来なかったから。
 クリーチャーを差し向けたのは、マルフォイ夫妻。
 ――クリスマス。

 四つの事実が、サラの脳内をぐるぐると回っていた。
 ……彼は、この事を知っていたのだろうか? 再びサラから親を奪う事になるであろう、この作戦を。





No.72





「サラ、大丈夫かね?」
「えっ……あっ、はい」
 ダンブルドアの声に、サラは我に返った。ダンブルドアはうなずくと、話を始めた。
「本来ならば、五年前に話すべきじゃった……」
 そう前置いて話したのは、五年前、サラとハリーがホグワーツに通い始めるまでについてだった。
 サラも、ハリーも、幸せとは言い難い幼少期を過ごして来た。「生き残った子」を喜んで引き取るであろう魔法使いは、たくさんいた。それでもなぜ、あの家にいなければならなかったのか。
「君達には共通点がある。ハリーは母親、サラは祖母が、君達を救うために死んだと言う事実じゃ。ヴォルデモートが予想もしなかった持続的な護りを、彼女達は残して行かれた。今日まで、君達の血の中に流れる護りじゃ。それ故わしは、君達のその血を信頼した。サラはリサ・シャノンが亡くなった後もナミ・モリイの元に残す事にし、ハリー、君の事は母上のただ一人の血縁である妹御の所へ届けたのじゃ」
「叔母さんは僕を愛していない。僕の事なんか、あの人にはどうでも――」
「しかし、叔母さんは君を引き取った」
 ダンブルドアはハリーの言葉を遮った。
「やむなくそうしたかも知れんし、腹を立て、苦々しい思いで引き取ったかもしれん。しかし引き取ったのじゃ。そうする事で、叔母さんは、わしが君にかけた呪文を確固たるものにした。君の母上の犠牲のおかげで、わしは血の絆をもっとも強い盾として君に与える事ができたのじゃ」
 ハリーは母親の血縁者、サラは祖母の血縁者が住む所を家と呼べる限りは、ヴォルデモートはその家でサラ達に手出しする事が出来ないらしい。ハリーの方に至っては、一度ハリーを追い出そうとした事もあったが、ダンブルドアが吼えメールを送って何とか止めたらしい。
「そして五年前、君達がホグワーツにやって来た」
 ダンブルドアは話を続けた。
 ダンブルドアの話は、ほとんど思い出話だった。それでも、この後に何か飛んでもない話が待ち受けているに違いないと構えさせるものがあった。
 五年前、サラとハリーはヴォルデモートから賢者の石を守り切った。その時、ハリーはダンブルドアに尋ねた。
『――そもそも、ヴォルデモートはなんで殺したかったのでしょう?』
 ほんの赤子だったハリーとサラ。到底闇の帝王の脅威になどなり得ない。それでも彼は、その赤子を狙っていた。その家に、障害たる騎士団の魔法使いが三人もいたにも関わらず。
 ハリーに尋ねられた時、ダンブルドアは迷った。迷い、回答を先送りにする事に決めた。その荷を負うには、まだ幼すぎる、と。
 二年目には、秘密の部屋で学生時代のヴォルデモートと対峙した。その時は、ハリーの傷痕について触れた。何故、蛇語を話せるのか。傷痕が、ヴォルデモートとの繋がりを作っているのではないか。そう、聞いた覚えがある。
 この時もダンブルドアは迷い、そして話さない事を選んだ。十二歳では、十一歳と大して変わらぬから。疲れ果ててはいたが、戦いの勝利に意気揚々とするハリーとサラに、話を聞かせる事は出来なかった。
「わかったか? ハリー、サラ。わしの素晴らしい計画の弱点が、もうわかったかな? 予測していた罠に、避けられる、避けねばならぬと自分に言い聞かせていた罠に、わしははまってしもうた」
 サラは首をひねる。ダンブルドアの話は、あまりにも難解な謎かけだった。
 ハリーも、ダンブルドアの言いたい事がわかりかねている様子だった。
「僕、わかり――」

「君達をあまりにも愛おしく思い過ぎたのじゃ」

 サラは目を瞬く。
「わしにとっては、君達が幸せである事の方が、君達が真実を知る事より大事だったのじゃ。わしの計画より君達の心の平安の方が、計画が失敗した時に失われるかもしれない多くの命より、君達の命の方が大事だったのじゃ。つまり、わしはまさに、ヴォルデモートの思うつぼ、人を愛する者が取る愚かな行動を取っていたのじゃ」
「私――私、先生には警戒されていると思っていました」
 ダンブルドアの、全てを見透かすような視線が苦手だった。本心を探られているような、そんな気がしていた。
 シリウス・ブラックとの関係、ヴォルデモートやスリザリンとの血縁を知って、納得さえしていたのだ。――ああ、だから私はダンブルドアから真の意味での信頼は得られないのだと。
 ダンブルドアは、首を左右に振った。
「とんでもない。いや――完全に否定は出来ないじゃろう。しかし、君自身を疑っていた訳ではない。わしは、判断しかねておったのじゃ。予言の言葉が、どちらの意味を成すのか――順に、説明しよう」
 質問しようと口を開きかけたサラを制し、ダンブルドアは再び話を続けた。
 三年目もやはり、ダンブルドアは話さなかった。しかし、まもなく時が来るであろうと予測していた。
 四年目にはヴォルデモートが復活を遂げ、すぐにも話さなければならない状況に陥った。しかし、それでも話さなかった。
「そして、今夜、わしは、これほど長く君達に隠していたある事を、君達はとうに知る準備が出来ていたのだと思い知った。わしがもっと前にこの重荷を負わせるべきであった事を、君達が証明してくれたからじゃ」
 それからしばらく、ダンブルドアは黙り込んだ。この話でサラやハリーが察する事が出来ると思っているのなら、買いかぶりすぎだ。ハリーが痺れを切らして、声を発した。
「まだわかりません」
「ヴォルデモートは、君達が生まれる少し前に告げられた予言のせいで、幼い君達を殺そうとしたのじゃ」
 ――予言。
 神秘部にあった、予言の球。ヴォルデモートは、それを手に入れようとしていた。ヴォルデモートは予言の全文は知らなかったが、予言がされた事自体は十五年前に既に知っていたのだ。赤子の内に殺しておく事で、予言が達成されると信じた。
 結果、サラの事は取り逃がし、ハリーに掛けた呪いは跳ね返り、力を失った。
 肉体を取り戻してからと言うもの、ヴォルデモートは予言の全文を聞く事を決意した。前回は持たなかった「武器」と言うのが、この予言の事だった。それは、どのようにすればハリーを滅ぼす事が出来るかと言う知識であった。
「予言は砕けました」
 ハリーが答えた。
「石段にネビルを引っ張り上げていて。あの――あのアーチのある部屋で。僕がネビルのローブを引っ張って破ってしまい、予言が落ちて――」
「レパロも駄目でした」
 サラが後を続けた。
「特別な修復方法でも――?」
「砕けた予言は、神秘部に保管してある予言の記録に過ぎない。しかし、予言はある人物に向かってなされたのじゃ。そして、その人物は、予言を完全に思い出す術を持っておる」
「あっ」
 サラは小さく声を上げた。
「『S.P.TからA.P.W.B.Dへ』って――『アルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドア』……?」
「さよう。名前をきちんと憶えてもらえると言うのは、気持ちの良いものじゃ」
 ダンブルドアはにっこりと微笑み、それから真剣な顔つきになった。
「十六年前の冷たい雨の夜、ホッグズ・ヘッドのバーの上にある宿の一部屋じゃ。わしは『占い学』を教えたいという志願者の面接に、そこへ出向いた……」
 十六年前、教職志願者の面接を行ったものの、その結果は不採用となるはずだった。有名な予見者の曾々孫であったが、本人には才能が見受けられなかったのだ。
 しかしながら、その結果はすぐに覆される事となる。
 ダンブルドアは突然立ち上がると、フォークスの止まり木の脇にある黒い戸棚へと歩いて行った。戸棚から出したのは、「憂いの篩」。それを机の上に置き、自分のこめかみに杖を与えると、取り出した記憶の糸を水盤の中へと落とした。
 水盤から、一人の女性の姿が現れた。ショールを何枚も巻き付け、眼鏡の奥には何倍にも拡大された巨大な目。シビル・トレローニーが発した声はいつものささやくような声ではなく、掠れた荒々しい声だった。

『闇の帝王を打ち破る力を持った者が近づいている……七つ目の月が死ぬとき、帝王に三度抗った者たちに生まれる……そして闇の帝王は、その者を自分に比肩する者として印すであろう。しかし彼は、闇の帝王の知らぬ力を持つであろう……一方が他方の手にかかって死なねばならぬ。なんとなれば、一方が生きる限り、他方は生きられぬ……帝王誕生から五十三回、天が廻った時、彼らの行く末の柱となりし者が生まれるであろう……』

 トレローニーの姿は再び銀色の渦の中に沈み、消え去った。
 サラも、ハリーも、ダンブルドアも、しばらく何も言わなかった。
 七つ目の月が死ぬとき。紛れもなく、七月の末――ハリーの誕生日だ。そして、闇の帝王自身が印す――
 サラはちらりと隣に座るハリーに目をやる。くしゃくしゃの前髪は戦いの中でくっつき合い、稲妻型の傷痕が髪の間に見え隠れしていた。
 神秘部で見た予言には、サラの名前も記されていた。七月末の誕生日も、傷痕も、サラには当てはまらない。あてはまるとすれば、後半の一文。
 ――彼らの行く末の柱となりし者。
 ハリーに問われたダンブルドアが説明する解釈は、サラのそれと一致していた。
「それは――僕ですか?」
 ハリーは、か細い声で尋ねた。
「奇妙な事じゃが、ハリー。君の事ではなかったかも知れんのじゃ。シビルの予言は、魔法界の二人の男の子に当てはまりうるものじゃった。二人ともその年の七月末に生まれた。二人とも、両親が『不死鳥の騎士団』に属していた。どちらの両親も、辛くも三度、ヴォルデモートから逃れた。一人はもちろん君じゃ。もう一人は、ネビル・ロングボトム」
 サラは目を瞬く。思いも寄らない名前だった。
 それでは、ネビルが予言の『闇の帝王を打ち破る力を持った者』かも知れない? ――いや。
「印……」
 サラがつぶやいた言葉に、ダンブルドアはうなずいた。
「ヴォルデモートは予言の通りにした。あやつはハリー、君を選んだ。ネビルではない。あやつは君に傷を与えた。その傷は祝福でもあり、呪いでもあった」
「でも、間違って選んだかもしれない! 間違った人に印をつけたかもしれない!」
 ハリーは、断固として予言を否定しようとしていた。予言された人物が、自分である事を。
 ――ヴォルデモートを殺さねばならないのが、ハリー自身である事を。
「ヴォルデモートは、自分にとって最も危険な存在になり得ると思った男の子を選んだのじゃ」
 ネビル・ロングボトムは、純血だ。それでもなお、ヴォルデモートはマグルの血も混じるハリーを選んだ。そして印をつける事により、ハリーに力と未来を与えた。
 ヴォルデモートが知っている予言の情報は不完全なものだ、とダンブルドアは話した。ホッグズ・ヘッドでの面接時、店には予言を盗聴していた者がいた。しかしその者は、予言の途中――三度抗った者の元に七月に生まれると言うところまでしか聞かぬ内に、店を追い出された。結果、ハリーを襲う事で印をつける事になるとは知らずに、赤ん坊の内に殺してしまおうとした。ハリーが『闇の帝王の知らぬ力』を持つ事も知らなかった――
「だけど、僕、持っていない……!」
 ハリーは絶望したような声で叫んだ。
「僕はあいつの持っていない力なんか、何ひとつ持ってない。あいつが今夜戦ったようには、僕は戦えない。人に憑りつく事もできない――殺す事も――」
「……ハリーが出来ないなら、私がやる。『柱』って……私の事なんですよね、先生?」
 サラは硬い表情で尋ねた。
 名前が書かれていた以上、サラも予言に含まれている事は間違いない。ダンブルドアは、うなずいた。
「トム・リドルが生まれたのは、大みそかの夜――ちょうど、サラ、君が生まれた五十三年前じゃった」
 今度は、ハリーがサラを見る番だった。そして、ハリーは気付いたように叫んだ。
「でも、サラは双子だ。同じ誕生日なら、エリがいる。サラも、二人のどちらか――? でも予言には印なんて話は――?」
「エリは、一月一日生まれなのよ。私達の出産は、日を跨いでいるの」
「その通り。『柱となりし者』については、サラしか該当する子供がいなかった。予言の最後は知るはずもないが、リサ・シャノンの孫であるサラと共にいた事も、もしかしたらあやつの判断材料になったのかもしれぬ――
 この『柱となりし者』について、わしはどう判断すべきか分かりかねておった。先ほど言っておったのはまさにこの事じゃ。戦いの鍵となる事は間違いない。しかし、その者自身はどちらの味方となるのか……数奇な事に、予言に該当する子供は、グリフィンドールとスリザリン、双方の血を引いておった。そして、リサ・シャノンが亡くなってからというもの、マグルの子供を襲うようになっておった」
 サラは居心地悪く身を縮める。
 ヴォルデモート側の武器となり得るのではないか。そう思われても仕方がない経歴だった。
「しかし、君はグリフィンドールを選んだ。わしが、言った事を覚えておるかね、サラ? 大切なのは、『何を選ぶか』じゃと。君の選択は、予言の意味をも左右する、非常に大きな影響を与えるものだったのじゃ。そして君は、ハリー・ポッターと交友関係を築こうとしていた。そこでわしは確信したのじゃ。君は、ハリーのそばにいるべきだと。一年生の時に、まだ絆も生まれぬ内に疎遠になりかけた時は、少々焦ったがの」
「あ……っ。『禁じられた森』の罰則……あれを指示したのって、スネイプじゃなくてダンブルドア先生だったんですね?」
「スネイプ『先生』じゃよ、サラ」
「おかしいと思ったんです。彼が私達の仲を取り持とうとするなんて」
「サラ、君が『柱となりし者』である事には疑いの余地がない。じゃが、予言の一文を忘れてはならぬ――『一方が他方の手にかかって死なねばならぬ』。その力を持っているのは、ハリーだけなのじゃ」
「でも――僕――」
「神秘部に一つの部屋がある」
 ダンブルドアは言った。
「常に鍵が掛かっている。その中には、死よりも不可思議で同時に恐ろしい力が、人の叡智よりも、自然の力よりも素晴らしく、恐ろしい力が入っている。その力は、恐らく、神秘部に内蔵されている数多くの研究課題の中で、もっとも神秘的なものであろう。その部屋の中に収められている力こそ、君が大量に所持しており、ヴォルデモートには全くないものなのじゃ。その力が、今夜君を、シリウス救出に向かわせた。その力が、ヴォルデモートが憑りつく事から君自身を護った。なぜなら、あやつが嫌っておる力が満ちている身体には、あやつはとても留まる事ができぬからじゃ。結局、君が心を閉じる事が出来なかったのは、問題ではなかった。君を救ったのは、君の心だったのじゃから」
「予言では……確か……一方が生きる限り……」
「……他方は生きられぬ」
 ダンブルドアが言った。
 ハリーは、絶望に打ちひしがれた顔をしていた。
「それじゃ……それじゃ、その意味は……最後には……二人の内どちらかが、もう一人を殺さなければならない……?」
「そうじゃ」
 長い沈黙が校長室に満ちた。
 もうだいぶ日も上がったのか、大広間へ朝食に向かう生徒達の声が聞こえた。この壁の向こうではいつもと変わらぬ日常が流れている事が、サラには信じられなかった。ふくろう試験も、アンブリッジとの抗争も、遠い昔のようだ。
 まるで、サラ達だけが、別世界に放り込まれてしまったかのよう。
 サラは再び、隣に座るハリーの手を取った。ハリーが振り返ったのが分かったが、サラはキッと正面を見据えていた。
 ――覚悟を決めなければならない。それが、サラ達に課せられた使命ならば。
 ハリー一人で背負える荷ではない。幸い、サラは『柱となりし者』だ。彼の柱となり、支えなくては。
「もう一つ、ハリー、サラ、わしは君達に釈明せねばならぬ」
 ダンブルドアが言った。迷いのある口調だった。
「君達は、たぶん、なぜわしが君達二人を監督生に選ばなかったかと訝ったのではないかな?」
「いいえ」
 サラはけろりと答えた。こればかりは、訝りようもなかった。
「ハーマイオニーは優秀ですから」
「そうじゃな。しかし、君ももちろん、選択肢にあった。ミス・グレンジャーは非常に勤勉で優秀な魔女であるが、君も彼女に劣らぬ。そして何より、君達を選ぶ事が君達への強い信頼を示す事にも繋がったじゃろう。
 しかしながら、わしは君達を選ぶ事を避けた……白状せねばなるまい。わしは、こう思ったのじゃ……君達はもう、十分過ぎるほどの責任を背負っていると」
 ダンブルドアの頬を一筋の涙が流れ、長い銀色の髭へと滴った。


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2018/07/16