「あの関根って人の後を追い駆けるんだな!」
「げっ!? お前ら、寝てたんじゃなかったのかよ!?」
ホテル前のロータリーに姿を現した三人に、コナンはぎょっとして叫んだ。
夜の間、阿知波に動きはなかった。平次と合流して小五郎を使って関根に鎌をかけ、後は動きを見る……予定だったのだが。
寝入っていたはずの元太、光彦、歩美の三人は、準備万端でコナンの隣に並んでいた。明らかについて来るつもりだ。
「あっ。来たよ、コナン君のお師匠さん!」
「師匠じゃねーって……」
「なんや、なんでこいつらまでおんねん」
バイクを回して来た平次は、子供達を見て目をパチクリさせる。
「今日は僕たちも捜査に加えさせてもらいますよ!」
「コナン一人に抜け駆けなんてさせねーかんな!」
「あのなぁ。遊びに行く訳じゃねぇんだぞ。あんな大規模な爆発起こしたような犯人なんだ。何があるか分かったもんじゃねーし……」
「危ないのはコナンくんだって一緒じゃない! 私たち、お姉さんの力になりたいの!」
「おねーさん?」
「キュラソーの事だよ。昨日、テレビ局でどうやら目撃されちまってたらしい……」
きょとんとする平次に、コナンはヒソヒソと説明する。
「あー……」
平次は納得したように声を漏らし、それから子供達に向き直った。
「まあ、今日のところは堪忍したってや。姉ちゃんの事なら、俺らに任せて……」
『お前ら俺の和葉に何さらしとんじゃ!!』
「ちょっ……なっ、あ゛ああああああああああ!?」
突如、流された録音音声に、平次は言葉にならない悲鳴を上げる。子供達は各々、手にスマートフォンを構えていた。
「捜査に入れてもらえないなら、これ、和葉お姉さんの前で流しちゃうもん!」
「誰の影響でそんな手ェ覚えたんやろなァ……」
平次はジトっとコナンを見下ろし睨む。
「さすがにそれは、和葉姉ちゃんにも悪いんじゃねぇか? ホラ、今、百人一首頑張ってるのに邪魔しちゃあ……」
「あ……」
コナンのフォローに、子供達は顔を見合わせる。さすがに、今の和葉を動揺させるような真似は、良心が痛んだらしい。
ダメ押しとばかりに、コナンは続けた。
「それに移動はバイクだし……連れて行こうにも全員乗る事はできねーから……なっ? お前らは昨日みたいに関係者を調べておいてくれよ。そういうの得意だろ?」
「……わかりました。任せてください」
「人数オーバーじゃしょうがねぇもんなあ……」
「悪ぃな」
「自分ら、その録音ちゃんと消しとけよ」
念を押し、平次はコナン一人を載せてバイクで去って行った。
「残念だったねー……」
「仕方ありません。僕らは僕らで、調査を続けましょう」
肩を落とし、ホテルに戻ろうとしたところで、元太はふと足を止めた。
道路の向こう側に、人影があった。遠目にも分かる大きな指輪。どこかで見たような気がするが、思い出せない。
「元太くーん、何してるんですかー!」
「行っちゃうよー!」
「あ、ああ……」
止めていた足を動かし、光彦と歩美の後を追う。
ロビーへと入ったその時、背後で爆発音が響き渡った。反射的に、三人は外へと飛び出す。
ホテルを出て右手、交差点の辺りに黒い煙が立ち昇っていた。
+++から紅の恋歌 III
爆発したのは、皐月会の関根が乗っていた車だった。警察車両に護衛され、他の皐月会のメンバーも前後を走っていたらしい。
コナンと平次も彼らを追っていたものと思われるが、無事だという連絡と共に「危ない真似はするな」と釘を刺されたのみで、それ以上の情報は貰えなかった。
「まーた、コナンだけ抜け駆けかよ」
「皆は、私と一緒に大阪観光行こっか」
次の間で和葉が特訓の再開準備を行う傍ら、不平不満を垂らす子供達に蘭が言った。
「えーっ」
「それじゃあ、大阪城へ行きたいです!」
「おい、光彦……」
元太の言葉を遮り、光彦は蘭に背を向け元太と歩美を引き寄せる。
「いいですか、大阪城はこのすぐ近くです。途中には……」
「あっ。日売テレビ!」
歩美がパンと手を打って顔を輝かせる。
一方、元太はまだ飲み込めていない様子だった。
「日売テレビは、昨日爆発があったじゃないですか。日売テレビに行きたいと言えば当然反対されるでしょうけど、通りがけになら様子を見られるかもしれません。
通りかかりではあまり見られなくても、大阪城なら近いです。展望台からならテレビ局も、何なら今朝事件のあった交差点も見られるかもしれませんし、こっそりはぐれて戻って来る事だってできます」
「光彦お前、頭いいな!」
「他にも行きたい所があるなら……」
「大阪城でお願いしまーす!」
揉めているのかと心配げに声を掛けた蘭に、三人は声をそろえて答えた。
大阪城まで行って、トイレと偽って日売テレビへ。首尾よく抜け出す事はできたものの、テレビ局前まで戻って来た元太はヒィヒィと息が上がっていた。
「疲れたぁーっ。あんなに歩くと思わなかったぜ……」
「堀がありますからね……。蘭お姉さんも、もうトイレから出て来て探しているでしょうし、急ぎましょう」
戻って来たものの、日売テレビは今日も封鎖されていた。あれだけ大きな爆発があったのだ。崩れた社屋は取り囲まれ、近付く事ができない。どこもかしこも警察官が立っていて、こっそり潜り込む事も到底できそうになかった。
「せっかくここまで来たのに、収穫無しかよぉ……」
元太が情けない声を出す。
「歩美ちゃんがお姉さんを見たのは、どの辺りでした?」
「こっち!」
歩美は先頭に立って、昨日、ビルから出た後に小五郎と合流した所まで向かう。ビル前広場は規制範囲となり入れなかったが、歩道から見る事はできた。
「あそこにいた時に、人混みの中――あの辺を、お姉さんが走って行ったの」
「お姉さんはどちらへ?」
「そっちの方」
歩美は、川沿いの道路の方を指差す。
「でも、いっぱい人がいて、ちゃんと行き先は見れなかったから……」
「この道路の先が、今朝、爆発があった場所ですね……」
「あーっ!!」
突然の叫び声に、光彦と歩美はビクリと肩を揺らす。
「何ですか、元太君、急に!?」
「思い出したんだよ! 今朝、ホテルの前で見た奴! 昨日、テレビ局にもいた奴だ!」
「今朝? 元太君、何を見たんですか!?」
「えーっと……」
元太は、今朝見た人影を光彦と歩美に説明する。ホテルの向かい側にいた、大きな指輪の人物。
「同じ人が、昨日、ビルの前にいたんだ。爆発を眺めてた……」
「どうしてそれをもっと早く言わなかったんですか!」
「だって忘れてたんだよ。どこで見たのか……両方の現場にいるなんて、やっぱ怪しいよな?」
「犯人だと断定はできませんが、もしかしたら事件と関わりがある人物かもしれません……」
「警察の人に話した方がいいかなあ?」
歩美が、ビルの周りに点々と立つ警察官の方を振り返りながら問う。
「どうでしょう……現場同士が近いので、元々この辺りに住んでいるか働きに来ているだけって可能性も……元太君、その人物は何か怪しい行動を取っていましたか?」
「いや……昨日は他の人たちと一緒でビルを見てるだけだったし、今朝も道路の向こうにただ立ってるだけだったよ。でっかい指輪だなあって覚えてただけで……」
「道路の向こう……ロータリー側じゃなかったんですか?」
「あ、ああ……」
「ロータリーなら車を待っている事もあるでしょうけど、いったい何をしていたんでしょう……」
光彦は考え込む。
頭を悩ませる三人を物陰から見つめる人影がある事に、誰も気付いてはいなかった。
白い四本の柱に支えられたアーチ状の入口と玄関ホールに構える西洋風の広い階段は、ホグワーツとはまた違うとは言えども、様式が全く異なる他の日本家屋に比べどこか懐かしさを感じる。
麻理亜は図書館を訪れ、今日も皐月会について調査を続けていた。
今朝も、テレビ局の近くで爆発があったらしい。巻き込まれたのは、皐月会の面々。どうもこの事件、皐月会の影がちらつく。もしかしたら昨日の爆発も、皐月会を狙ったものなのではないか。
「……あ」
読み終えた本を棚に返し、麻理亜は足を止める。そこは、雑誌コーナーだった。文芸の週刊誌の表紙、大小様々な文字の羅列の中に紛れる「皐月会」の文字。
こういう資料もあるか。麻理亜は雑誌を手に取り、席へと戻る。
皐月会の会長、阿知波研介をピックアップしたインタビュー記事だった。阿知波不動産の創立者である事、皐月会は元々は彼の妻である阿知波皐月が作った会である事、この辺りは昨日調べた範疇だ。
新しい情報は無さそうか。諦めつつページをめくった麻理亜の手が、ピタリと止まった。
『――皐月さんの大切な試合の前日には、必ず洗車をしてゲンを担ぐのだと言う』
(洗車……?)
麻理亜は昨日調べた新聞記事の写しを取り出す。何枚かのコピー用紙の中に、それはあった。
会の存続を賭け、名頃会の会長が皐月へと持ちかけた勝負。結局、対戦相手の名頃が失踪した事で皐月の不戦勝となった。
阿知波邸の前で撮られた写真。背後に映り込む車。もちろん、阿知波会長のものだろう。車種も週刊誌のものと一致する。
不戦勝記事に写った車は、洗車後には見えなかった。
(どういう事……? 阿知波会長は、この日、勝負が行われない事を知っていた……? それじゃあ、名頃会長の失踪って……)
皐月杯当日。会場となる阿知波会館の前に麻理亜はいた。
(しくじったわね……観客も、事前の届出が必要だったなんて……)
会場周辺のあちこちに見られる警察車両。入口に設けられた手荷物確認所と、金属探知機。出入りはもちろん規制され、何人もの警察官が入場する人々をチェックしている。
恐らく、蘭や子供達も和葉の応援に来ている。……望みは薄いが、行ってみるか。
麻理亜は、列の後ろに並ぶ。案の定、登録無しとして入口で止められる事となった。
「えーっ。知り合いのお姉さんの応援に来たのに!」
麻理亜はぷくーっと頬を膨らませる。警察官は困り顔だった。
「でも、今日は事前登録のある人しか通しちゃいけない事になっていてね……。お嬢ちゃん、保護者の方は?」
「皆、先に中に入っちゃったの! 毛利小五郎おじさんや蘭お姉さん、登録されてなあい?」
「毛利……毛利小五郎? 毛利さんの知り合いか……」
「毛利さん、有名人だから……名前だけ……」
押され気味の警官に、隣の警官がヒソヒソと耳打ちする。
「一緒に来てる他の人たちも名前言えるもん! 江戸川コナン、小嶋元太、円谷光彦、吉田歩美! どうっ? あと、平次お兄さんも、もしかしたら一緒かも。服部平次」
警察官達の顔色が僅かに変わる。そう言えば、平次の父親は大阪府警本部長だったか。
「あれ? 麻理亜ちゃん? どしたん?」
掛けられた声に振り返る。会場内からこちらへやって来るのは、合気道の道着を着た和葉だった。百人一首も衣装は同じ……と言う訳ではないようだ。向こうに、和葉と同じ年頃と思われる一団がいた。和葉と似た和装の者もちらほらいるが、いずれも着物のように袖が長く、柄も華やかだ。恐らく、生地も違う。ジャージの参加者もいるのに道着を着ているのは、気合を入れるためだろうか。
「この子、アタシの応援やから大丈夫やで」
警察官は顔を見合わせる。
「まあ……子供だしな……」
「ありがとう、和葉お姉ちゃん」
何とか入口を通る事ができ、麻理亜は和葉に頭を下げる。
「ええって。麻理亜ちゃんこそ、ありがとう。応援に来てくれたんやろ? 先に東京帰るって聞いとったけど……」
「えっと、そのつもりだったんだけど、予定が変わって。それに、和葉お姉ちゃんが大会に出るって聞いたから……」
「ありがとう。めっちゃ嬉しいわァ」
「遠山さーん」
集団の方から、声が掛かる。和葉は慌てて応える。
「はーい。すぐ行きますー! それじゃ、これから試合やから……。観戦はあっちの建物やで。蘭ちゃん達もおると思う」
「うん。ありがとう」
和葉は軽く手を振り、集団の方へと駆けて行く。その背中に、麻理亜は叫んだ。
「和葉!」
和葉が少し驚いた表情で振り返る。麻理亜は、にっこりと微笑った。
「……お姉ちゃん。頑張ってね」
「任しとき! 絶対負けへんで!」
ニッと笑って、今度こそ駆けて行く。
集団に戻ったところで、茶髪の女の子にチクリと何か言われているようだった。一昨日、和葉に勝負を持ちかけていた子だ。
たくさんの高校生達。百人一首ではないが、麻理亜も少し前まではあの中にいたのだ。普通の学生のように学校へ通って、和葉達とおしゃべりして、笑って、青春して。――その立場も、作られたものではあったけれども。
「ありがとう、和葉。……ごめんね」
麻理亜が会場の入口で一悶着していた頃、キュラソーも同じく警備の固められた会場に足踏みしていた。
東京までの切符は平次が用意してくれるとの事だった。とは言え、事件が起こっている最中、子供達やコナンを置いて帰る訳にもいかない。
ポーチの有無も、平次伝いに確認してもらっている。もし見つかるようなら、こちらで麻理亜の姿になった方が安全だ。
連続する爆破事件。平次の話では、名頃会から皐月会へ移籍した会員が連続して狙われているとの事だった。次に事が起こるなら、恐らく今日この会場だろう。
(この姿で正面突破は無理ね……)
警察があまりに多過ぎる。
森に囲まれた会館。キュラソーは、西側を仰ぎ見る。駐車場とも逆方向となるそちら側は、人気も少ない。
(あちらからなら……)
阿知波会館の敷地内には、お土産屋も設けられていた。試合まで、まだ少し時間もある。席の確保は蘭と静華と未来子に任せ、元太、光彦、歩美は土産屋へと来ていた。
「ちぇー。コナンの奴、また抜け駆けかよ。昨日の事件の事だって、結局何も教えてくれねーしよぉ……」
「指輪の人の事、コナンくんに話しそびれちゃったね」
「仕方ありません。僕たちは僕たちで、調べる事にしましょう」
「あっ、あれ何だ? うまそう!」
食べ物を見つけた元太は、ころりと表情を変えて店前に駆け寄る。
店先の窓越しに、千枚漬けが並べられていた。元太は迷わず、購入している。
「元太くん……」
購入するなり、元太は袋を開けて中身を鷲掴みにする。
「ええっ!? ここで食べるの?」
「腹ぺこなんだよ。ほら、美味いぞ!」
そう言って、元太は豪快に齧り付く。途端に、重ね合わさった大根の合間から汁が飛び散った。
「きゃあっ」
「ちょっと、売り物汚さないでおくれよ!」
「ご、ごめんなさい……!」
バタバタと慌てて店先を離れる。離れながら、光彦はスマートフォンを操作していた。
「光彦くん、何してるの?」
光彦はニッと悪戯っぽく笑う。
「ほら、さっきの。元太くんが怒られているところ、撮っちゃいました」
「お前……」
「あ、そろそろ開始時刻ですね。戻りましょう」
「元太くん、手洗って来なよー」
服で手を拭こうとする元太を見咎めて、歩美は言う。
「でも洗っても、どうせ服で拭くんだし……」
「歩美のハンカチ貸してあげる。ハイ」
「それじゃあ、僕達、先に戻ってますね」
光彦と歩美と分かれ、元太はトイレを探して走る。
建物に入ってすぐの所にあったが、試合開始前とあって長蛇の列だ。入口も狭く、手を洗うためだけに入るのも並ばなければ厳しそうだ。
外を駆け回り、ようやく水道を見つけた。手を洗い、ついでに服も濡らしてみたが、こちらはもう落ちそうにない。
と、観戦席のある建物の方から歓声が聞こえた。
「げっ。始まっちまったか!?」
歩美から借りたハンカチで手を拭きながら、慌てて元来た道を引き返す。
道すがら、見覚えのある顔を見つけて元太はハタと足を止めた。
作業服を着た、大男。厳つい顔、手には大きな指輪。間違いない、これまでの爆発現場で目撃しているあの男だ。
男は、コソコソと人気の無い方へと歩いて行く。明らかに怪しい。
元太はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「よーし……」
「元太くん、まだ来ないね……試合始まっちゃったのに」
「どこまで行ったんでしょう。まさか、迷ってるんじゃ……」
蘭も、心配げに画面と後方の出入り口とを交互に見る。
「……私、様子見て来る」
蘭が立ち上がったその時、DBバッジの受信音が鳴った。
『おい、コナン、光彦、歩美、聞こえるか?』
「元太くんです!」
「もーっ、何してるの? 試合始まっちゃったよ!」
『しーっ』
元太にしては珍しく、声を抑えている。そして、言った。
『あの指輪のおっさんを見つけたんだよ! 怪しい動きをしてて……』
光彦と歩美は顔を見合わせ、立ち上がった。――これは、緊急事態だ。
「僕達、元太くんを迎えに行って来ますね!」
「えっ、でも二人だけじゃ……」
「大丈夫! 蘭お姉さんは、和葉お姉さんの事、見守ってあげてて!」
迷う蘭に言いおいて、光彦と歩美は観客席を出て行った。
「指輪のおっさんって何の話だ、元太?」
平次と共に監視カメラの映像を見守る最中、元太から来た通信。コナンは発信ボタンを押し、元太に問う。
『テレビ局にいたおっさんを、昨日の朝、ホテルの前で見かけたんだよ! そのおっさんが、今度はここに……建物に入って行ったぞ』
「待て。元太、お前今、どこにいるんだ? 蘭達と試合を見てるんじゃないのか?」
「観客席にはおらんようやで。後の二人も今席立ったわ」
監視カメラの映像を見ながら、平次が話す。
コナンも画面に目を向ける。光彦と歩美は通路に立ち止まり、DBバッジに耳を傾けているようだった。
元太の姿はどこにも見当たらない。
「ちょォ待て、あいつ……!?」
平次が画面の一つを指差す。観客席の画面に映るのは、よく知る少女。光彦と歩美の動きに気付き、後をつけるように動き出す。
「紫埜……!?」
『えっ? 麻理亜ちゃんもそこにいるんですか?』
「あ、いや……それより元太だ! お前、今、どこにいるんだ? 危ない真似は――」
『しーっ。何か出して置いてる。何だ、あれ……えっ!? 爆弾!? そうはさせねーぞ! おい!!』
「おいっ、馬鹿!」
元太の声が大きくなり、次の瞬間、爆音、そしてノイズがバッジの向こうで一瞬響き、何も聞こえなくなった。
「おい、元太!? おい!! 返事しろ!!」
『元太くん!? どうしたんですか!!』
『返事してよ、元太くん!!』
聞こえるのは光彦と歩美の声ばかり。
眼鏡の追跡機能を操作するも、元太のDBバッジだけ発信が途絶えていて拾えない。
「おい、工藤!」
平次はテントの幕を持ち上げ、外を見つめていた。コナンはテントの外へと駆け出る。外では、警察やスタッフの者達が騒然としていた。
建物の向こう、西の森に細く立ち上る黒煙。
「……クソッ!」
悪態をつくと。不穏な煙の方へとコナンは駆け出した。
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2021/05/04