ごめんなさい、明美。私は、何も出来なかった。
ごめんなさい、明美。こんな事ならば、問い詰めれば良かった。開心術を使ってしまえば良かった。
ごめんなさい。
私は……貴女を守る事が出来なかった。
No.4
「あ、紅子様!」
頬を紅潮させ話しかける男子生徒に、紅子はにっこりと微笑む。
「何の用かしら?」
紅子の微笑みに男子達は更に顔を紅くし、誰が話すか互いを小突き合う。
紅子は自分の美しさを知っている。世界中の男は、全てが紅子の虜となる。――ただ一人、怪盗キッド、即ち黒羽快斗を除いては。
その快斗は昼休みである今、売店へ昼食を買いに行っている。彼と幼馴染である中森青子は、友達と一緒に弁当を広げている。
クラスの男子は当然、紅子に夢中だった。
押し付け合いの結果、その中で最も気の弱い男子がおずおずと前に出てきた。
「えっと……その……これを。お願いします!」
男子は震える手で、数枚の封筒を差し出す。どうやら、一緒に来ている男子達の物もあるようだ。
紅子は笑顔でその手紙を受け取る。
しかし、その宛名を見て表情が僅かに強張った。
「そ、それを、紅子様のご友人に渡して頂きたいんです。スキー実習の時にいらっしゃった、麻理亜様に」
「麻理亜、に……?」
「はい! 降り積もる白雪のように白く輝く髪、透き通るような白い肌、小柄で守りたいと思わせるような華奢な身体つき、端整で儚げな横顔……彼女はもう、まるで天使です!!」
熱く語る男子に、傍で昼食を取っていた女子のグループが、離れた席へと移動した。
紅子は平静を装って話を聞いている。
「もちろん、紅子様へのご信望は変わりありません! お美しい方々に二人もお知り合いになれて、なんとありがたい事か――」
ガタ、と音を立て、紅子は立ち上がった。
「私、先生に用があるので失礼しますわ」
ホホホ……と笑いながら、紅子は笑顔で教室を出て行った。
「世界中の男は皆、紅子様の虜……たった一人、黒羽快斗を除いては……」
鏡はそう言わなかったか。
鏡を割ってしまい、今では水晶を使用しているが、やはりそれでも答えは変わらない。
『そ、それを、紅子様のご友人に渡して頂きたいんです』
『彼女はもう、まるで天使です!』
頬を染め、麻理亜への憧れを口にする男子達。紅子を目の前にしながら。
世界で最も美しい者は、紅子である筈なのに。
紅子は拳を握る。掌中にある手紙が、ぐしゃりと握り潰されるのも構わない。
……待って。
紅子は、「世界で」と聞いた。麻理亜は別の世界から来たのだ。別の世界の者なのだ。
まさか、事実、麻理亜の方が美しい者であるのだろうか。麻理亜が来た事で、紅子は一番ではなくなってしまったのだろうか。
廊下にいる生徒達は、口々に話しながら小走りに過ぎ去っていく。紅子はその流れに逆らって歩きながら、物思いに耽っていた。
「紅子ちゃん〜!」
無邪気で無駄に明るい声に呼ばれ、紅子は立ち止まり振り返った。
予想通り、声は青子の物だった。青子は小走りで紅子の下へと駆け寄る。
「こんな所にいたのね。あのね、麻理亜ちゃんが来てるの! 今、教室にいる。紅子ちゃんも行こっ」
紅子は、青子に腕を引かれ、教室へと来た道を戻っていった。
麻理亜は、校舎裏でキョロキョロと辺りを見回していた。目の前に校舎はあるものの、窓は少なく――それも小さな物しか無く、中へ入る扉は見当たらない。背後の茂みの向こうには、麻理亜が飛び越えてきたフェンスがある。正門を見つける事が出来なかったのだ。
麻理亜は地べたに座り込み、手荷物を確認して肩を落とす。紅子の為に作ってきた弁当は、やはり、フェンスを飛び越えた事によって中身が少々シャッフルされてしまった。
軽く溜め息を吐き、杖を取り出す。立ち上がり、辺りに人がいないのを念入りに確認してから再び座り込んだ。
呪文を唱え、弁当箱の縁を杖で軽く叩けば、みるみる内に弁当は元通り整えられていった。
無事元通りになった弁当を見て笑みをこぼし、蓋をして風呂敷で包んで鞄にしまう。それから、目の前の校舎を仰ぎ見る。窓が少ないのは、こちら側は日が照らないからだろうか。規模は全く違うが、コンクリートで出来た壁が、石造りのホグワーツを思い出させる。あちらは変わりないだろうか。アルバスやリチャードはどうしているだろう。二人は相変わらずだろうか。
ぼんやりとそんな事を考えていて、ふと、声が聞こえる事に気がついた。少し先で、校舎は窪んだ形になっている。その場所に、誰かがいるようだ。
麻理亜はそっと立ち上がり、そちらへと歩いていく。声は段々と近付いてくる。
「ああ――それじゃ、頼むぜ? ああ、うん、明日の晩だよ。明日は満月、ショーには打って付けだしな……」
角を曲がった所にいたのは、一人の男子生徒だった。ちょうど今話し終えたらしく、電話を切っている。先ほどまでのは、電話の会話だったようだ。
「誰と電話?」
突然背後から掛かった声に、快斗はギクッと反応する。
振り返れば、そこにいるのは紅子の友人、紫埜麻理亜だった。麻理亜の方も、その生徒が青子から紹介された黒羽快斗である事に気がつく。
「あら、貴方……。こんな所で、誰に電話してたの?」
「ちょっと、知り合いに……オメーこそ、なんでこんな所にいるんだよ?」
「この近くに来たもんだから、紅子に会おうかなって思って……」
そう言って麻理亜は辺りを見渡す。
やはり、ここにも校舎へ入る扉は無い。
「……なあ、一つ聞いてもいいか?」
快斗の言葉に、麻理亜は振り返る。
「麻理亜、お前は何処まで知っている?」
「え……?」
麻理亜は訳が分からず、きょとんとする。
それから一泊置いて、思い当たった。快斗が言っているのは、紅子の事だろうか。彼は紅子が魔女だとしっているのだろうか。
「紅子の力の事? 貴方も知ってるの? どうして?」
「そりゃ、色々あってな……それじゃ、紅子が魔女だって事は知ってるんだな? 他の事は?」
「他?」
他にもまだ何かあると言うのだろうか。
考えてみるが、心当たりが無い。まさか、明美とは何の関係も無いだろう。
「私が知ってるのは、それだけよ」
そう言い、肩を竦めて見せる。
「それより、教室まで案内してくれないかしら」
廊下を歩けば、生徒達が足を止め、目をパチクリさせて振り返った。日本の高等学校に、銀髪に橙色の瞳、派手ではないとは言え私服の少女が紛れ込んでいれば、目立たぬ方がおかしい。
教室へ着いた時には、既に廊下を塞ぐほどの野次馬を引き連れていた。
先ほど紅子に手紙を託していた男子生徒達は、麻理亜の来訪に目を輝かせて駆け寄る。当然、女子達は良い気がしない。第二の紅子がやって来たのだから。
そんな中、青子は女子であるにも関わらずぱっと顔を輝かせて麻理亜の下へ駆け寄った。
「麻理亜ちゃん! 久しぶり!」
「久しぶり、青子。ねぇ、紅子いる?」
「あ〜……さっき、出て行っちゃった。連れて来るね」
言うが早いか、青子は教室を飛び出して行った。
青子が教室を出て行き、麻理亜は質問攻めに遭っていた。家は何処か、年齢は、学校は、家族は。年齢と学校についてはそれと無く誤魔化した。
「家は、紅子と一緒に住んでるわ。居候って奴ね。今じゃもう、紅子達が家族のようなものよ」
一通り質問を続けると、一人の男子が興味無さ気に新聞を読んでいた快斗を振り返った。
「おい、快斗! お前、手品が得意だったよな。麻理亜様に見せてやれよ!」
あまり乗り気でない快斗を、男子達は立ち上がらせて麻理亜の前へと連れて来る。マグルの手品を知らない麻理亜は、呆然とその様子を見守っていた。
状況を飲み込めていない麻理亜の前で、快斗はポケットからハンカチを取り出す。初歩的な物で構わないだろう。
「えー。ここに取り出したるは、タネも仕掛けも無い一枚のハンカチ……」
快斗は左手を軽く握り、右手に持ったハンカチをその中に押し込める。
「ワン、ツー、スリー!」
快斗は両手を開いたが、そこにハンカチは無かった。代わりに、一輪の花が現れる。
「この花は、美しい貴女に」
例え乗り気では無くても、やはり根はマジシャンだ。客を楽しませようとする心が、そこに顕在している。
麻理亜は花を受け取り、唖然としていた。手品に驚いている訳では無かった。麻理亜は飛んでもない勘違いをしていた。
「貴方、魔法が使えるの!?」
「まあ、これくらい、簡単だな」
快斗は鼻高々に話す。まさか、麻理亜が本気で魔法と思っているとは、思いもしなかった。
「私、貴方の事マグルだろうとばかり思ってた。さっきの話し方じゃ、他の皆は出来ないのよね? こっちじゃあ、マグルの前で魔法を使っても平気なの? マグルは魔法の存在を認識してるの?」
「へっ?」
流石に、何かがおかしい。
快斗を始め、一同は麻理亜の話について行けず、呆然とする。
「そうなら、最初に言ってくれればいいのに。貴方、紅子の事は知ってるのよね。あのね、私も――」
麻理亜はハッと気がつき、大きく跳躍してその場を退いた。
麻理亜がいた位置に大きな盥が振ってきて、麻理亜の傍にいた男子生徒が被害を被った。教室の出入り口に、紅子が立っている。
「ちょっと、紅子。危ないじゃない、突然。
ああ、そうそう。私、紅子にお弁当を――」
麻理亜の言葉も聞こえぬかのように、紅子は真っ直ぐ麻理亜へと歩いてきたかと思うと、腕を掴みグイグイと引っ張っていく。何やら怒っているらしい。
「ちょっと、紅子? どうしたのよ、一体――」
麻理亜は、引きずられるようにして教室を出て行った。
屋上には、二人の人影があった。方や、漆黒の髪を風になびかせた、上品で整った顔立ちの、スラリとした少女。方や、白銀の髪を風になびかせた、これまた整っていて何処か幼さの残る顔立ちの、小柄な少女。
紅子と麻理亜だ。
「貴女、何を話そうとしてた……?」
紅子は怒りのあまり顔を青くしていた。
麻理亜は平然と答える。
「何って、私も魔女よ、って」
「貴女、馬鹿?」
紅子は大きく溜め息を吐く。怒る気力も失せてしまった。
「黒羽君は既に私の事を知ってるから兎も角、他の人の前で話そうとするなんて」
「だって、快斗だって皆の前で魔法を使ったじゃない。この世界じゃ、非魔法使いの前でも魔法を使って平気なんじゃないの?」
「黒羽君のは手品よ。魔法じゃないわ。人間の小技で、タネも仕掛けもある」
「手品?」
「一見、魔法のように見えるけれど、違うの。魔法無しで、そういう風に見える事をして観客を騙してるだけ」
「おいおい、随分な説明の仕方だなぁ」
快斗が、屋上へ出る扉の前に立っていた。
苦笑しながら、こちらへやって来る。
「観客は、騙される事を楽しんでるんだ。手品だって、魔法に負けず劣らず面白いもんだぜ?」
紅子はツンとそっぽを向く。
突然、快斗の口調が真剣になった。
「――それで、聞きたい事があるんだけど」
「また、『聞きたい事』?」
「それじゃ、確認したい事でもいい」
麻理亜に茶化され、快斗は言い直す。
紅子はフッと笑む。
「内容によっては、答えてもよくってよ」
「……麻理亜は、魔女なのか? 『こっちでは』ってのは何だ? 一体、麻理亜は何処にいたんだ?」
「そうね、私は魔女だわ」
麻理亜はまるで今日の夕食のメニューでも答えるかのように、軽く答える。
「魔女よ、私も。紅子とは違うタイプだけど。
それから、私のいた所だけど――異世界よ。信じるか否かは、貴方達の勝手だわ」
「麻理亜!」
勝手にすらすらと秘密を話す麻理亜を、紅子は止めようとする。
麻理亜は軽く肩を竦めた。
「別に、私の事なんだからいいじゃない。それに、彼は紅子が魔女だってを知ってるんでしょう? 信用が置けるからでしょ。まさか、弱み握って脅されたりしてる訳じゃあるまいし。だって、それなら魔法でちゃちゃっと何とか出来るでしょう? 違う?」
「それは……そうだけど……」
紅子は言いよどみ、口を噤んだ。
麻理亜は突然、「あーっ!」と叫び声を上げる。
「大変! もう行かなきゃ、バイトに遅れちゃう!
紅子も快斗も、じゃあね。青子によろしく!」
麻理亜は、今にも転げ落ちそうな勢いで階段を駆け下りて行った。
喫茶店の前まで来て、麻理亜は思わず僅かに眉を顰めて立ち止まった。
血の臭いが、それと分かるほどに漂っている。
明美が久しぶりに来ているのだろうか。ここ最近、明美は姿を見せなかった。その間に、一体何があったのだろう? 以前にも増して、監視がいる。
第一、監視がいる事自体が以前と違う。今日は、他所へ遊びに来た訳ではない。南洋大学前の喫茶店。普段のスケジュールなのだ。それなのに、監視がいる。
麻理亜は中を気にしつつ、裏手へ回る。店の者は裏口から入らねばならないのだ。
店の制服に着がえると、麻理亜は注文された料理や飲み物を客の所へと持って行く。時間が時間だけに、店は混み合っている。
店内を目まぐるしく動き回っていると、突如声を掛けられて麻理亜は停止した。
明美だ。正面に座っている、赤みがかった茶髪の女性は誰だろう?
麻理亜は笑顔で、二人の座る席へと近付いて行ったが、数メートル手前で足を止めた。明美は首を傾げている。
「どうしたの、麻理亜?」
「……ううん。別に、何も。
そちらは、どなた? 初めて来るわよね」
「宮野志保。私の妹よ」
志保は座ったまま顔だけこちらを向き、軽くお辞儀した。
「ああ、貴女が? 話は明美から聞いてるわ。私は紫埜麻理亜。ここで働いてる内に、貴女のお姉さんと親しくなったの。よろしくね」
「……」
志保は油断無くこちらの様子を伺っている。
麻理亜は苦笑した。
「あら……私の顔に、何か付いてる?」
「いえ……」
志保はハッとし、顔を背ける。
だが、やはり警戒は解かなかった。
「すみませーん」
「は〜い、ただいまー。
――じゃ、明美。また後でね。志保も、後で話しましょう」
麻理亜は離れたテーブルに着く客の方へと歩いていった。
明美と志保――二人は、僅かながらも、彼女達を見張る者達と同じ匂いを纏っていた。
「ねぇ……お姉ちゃん。何なの、彼女?」
「何って?」
明美は平然とした様子でジュースに口をつける。
志保は、注文を取り奥へと下がる麻理亜に目をやった。
「とぼけないで。お姉ちゃんも気づいてるでしょう。彼女……私達組織と同じ気配気配がする」
「麻理亜は組織の者じゃないわよ。多分ね」
「分かってるわよ。組織とは違うわ……似ているけれど、違うのよ。でも彼女、只者じゃないでしょう?」
「さあ?」
言って、明美はグラスをテーブルの上に置く。
「私達、お互いの事はあまり話さないのよね……。どうにも訳有りらしい、ってお互い気づいてるけど、根掘り葉掘り聞いたりはしないの」
「確かに、それならこっちも都合がいいだろうけど……でも、素性の分からない人と親しくなるなんて……」
「『素性の分からない』って……そんな、大げさな……」
「だって、そうでしょう? 彼女の家族は? 年齢は? それぐらいは分かってるわよね?」
明美は思い起こすように視線を上に向ける。
「そう言えば、親の話は出てきた事がないわね……。――でも、それは一緒に暮らしてないからってだけよ。紅子って女子高生の家に、居候してるらしいから」
表情を凍りつかせた志保を見て、明美は慌ててフォローを入れた。
「――年齢は、聞いてないわねぇ……。でもきっと、私達と同じぐらいなんじゃないかしら」
「私とお姉ちゃんを一括りにして『同じぐらい』って言うなら、それは随分広い範囲になるわね……」
「だって、麻理亜って銀髪だし、目の色も変わってるじゃない? だから見た目じゃどうも、判断しにくいのよね……」
明美は再び、グラスを手に取る。
「年齢と言えば……あの子もよく分からないのよね。江戸川コナン君」
「江戸川コナン?」
「ほら、この前話した、眼鏡の男の子よ……」
明美はグラスを戻し、前に身を乗り出すようにして話す。
「ほらぁ……貴女も何か用があって、米花町の誰かの家に行ったって言ってたでしょ?」
「ああ、工藤新一……」
「そうそう、あの近所の探偵事務所の子よ! なんか変わってるのよね……。子供の癖に落ち着いてるって言うか、大人っぽいって言うか……」
「それより、お姉ちゃん大丈夫? なんか、ヤバイ事になってるって聞いたけど……」
「心配しないで……上手くいってるから……。
心配なのは志保! 貴女の方よ! いい加減、薬なんか作ってないで恋人の一人でも作りなさいよ!
お姉ちゃんは大丈夫だから……」
「あら? 志保、帰っちゃったの?」
ようやくピークの時間も過ぎ、麻理亜は明美のいる席へとやって来たが、既に志保はいなかった。
全く手の付けられずに冷え切ったコーヒーが、明美の前の席に置かれている。
「ええ……あの子、忙しいから。私も、そろそろお暇するわ」
「ああ、そう……」
麻理亜は一歩下がり、明美の通る道を空ける。
そのまま行こうとする明美を、麻理亜は呼び止めた。少し間が空いた。
「……何かあったら……頼る術が無くて、もうどうしようもなくなってしまった時は……私がいるって事、思い出してね……。
私は、明美の味方だから。例えどんな事に巻き込まれようと、明美を守りたいの。
……だって、友達じゃない」
やはり、麻理亜は気づいているのだ。具体的内容は知らずとも、明美が組織に関わっている事を。
麻理亜を巻き込む訳にはいかない。
志保も、麻理亜も、守りたかった。この任務が成功すれば、明美と志保は組織を脱退する事が出来る。組織は、麻理亜の調査から手を引く。そういう手筈だ。
「麻理亜こそ」
「え?」
明美は、屈託無く笑う。
「麻理亜も、自分の事、頑張りなさいよ? 早く、『旧友達』のいる『外国』に戻れるといいわね。
心配しないで。私は大丈夫だから……」
それから再び、明美はパタリと店に来なくなった。電話も繋がらない事が多くなった。
そして次に明美を見た時、名前は違っていた。だが、顔写真は確かに明美のものだった。
新聞の記事だ。
『十億円強奪犯自殺』
「……ちょっと。貴方達」
追っていた標的を見失い、またも撒かれたかと思った。しかし、彼女は彼らの背後に現れた。
黒いローブを纏い、白く輝く銀髪を風になびかせ、橙色の瞳には強い光が宿っている。
「明美が関わっていた者達よね? 私を、貴方達のボスの所へ案内しなさい」
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2007/07/21