美沙二人は、隣り合わせで汽車の座席に座っていた。
目の前ではアームストロングが腕を組みどっかりと座り込んでいて、その横でエドが身を小さくしげっそりとした様子で座っている。腕が無い、要するに錬金術が使えない状態のエドと、鎧が壊れ自分では歩けない状態のアル。スカーはまだ、エドを狙っているかも知れない。護衛が必要だという事で、アームストロングが名乗り出た。他の者達は、それぞれ仕事があったりスカー相手では力不足だったりしたのである。
美沙は正面に座る二人を交互に見つめる。
「何か……こうして見ると、やっぱエドって――」
「小っさいとか言うなよ!!」
美沙が口にする前に、エドは噛み付くように叫ぶ。
と、コンコンと窓を叩く音がした。外にヒューズが立っているのに気付き、黒尾が窓を開ける。彼は、「よっ」と軽く手を挙げた。
「こんにちは、ヒューズ中佐」
「司令部の奴ら、やっぱり忙しくて来れないってよ。代わりに俺が見送りだ。
そうそう、ロイから伝言を預かってきた」
ヒューズはそう言ってエドに目を向ける。
エドは目をパチクリさせた。
「大佐から?」
ヒューズは頷き、伝える。
「『事後処理が面倒だから、私の管轄内で死ぬ事は許さん』――以上」
「『了解。絶対てめーより先に死にません、クソ大佐』って伝えといて」
「エドってば! すみません、ヒューズ中佐」
美沙は謝ったが、ヒューズは大らかに笑っていた。
「あっはっは! 憎まれっ子世にはばかるってな! エドもロイの野郎も、長生きすんぜ」
汽笛が鳴り、車掌の笛が鳴る。
ヒューズは一歩下がり、敬礼した。
「じゃ、道中気をつけてな。中央に戻る事があったら、声かけろや」
美沙達も、それぞれ敬礼を返す。
発車を知らせるベルの中、汽車は駅を滑り出た。
ヒューズの姿が見えなくなり、アームストロングは手を下ろす。
「我輩は、機械鎧の整備師とやらを見るのは、初めてだ」
「正確には、外科医で技師装具師で機械鎧調整師かな。昔からの馴染みで安くしてくれるし、良い仕事するよ」
「その整備師のいるリゼンブールとは、どんな所だ?」
「すっげー田舎。何も無いよ」
そう言って、エドは窓枠に肘を突き、風景に目をやる。
外では日が暮れかけ、空が茜色に染まっていた。
「つーか、東部の内乱の所為で、何も無くなっちゃったんだけどね。軍がもっとしっかりしてりゃ、賑やかな町になってただろうなぁ」
「……耳が痛いな」
「そりゃいい。もっと言ってやろうか」
エドは軽く返し、それからふっと笑みを浮かべた。
「……本当、静かな所でさ。何も無いけど、都会には無い物がいっぱいある。それが俺達兄弟の故郷、リゼンブール」
美沙はきょろきょろと辺りを見回していた。
そして、会話が途切れたのを見計らい、アームストロングに問いかける。
「あの、アルが見当たらないんですけど……ちゃんと乗ってるんですよね?」
「ふっふ。ぬかりは無いぞ」
そう言ってアームストロングは、アルが現在、家畜車両にいる事を話した。
「一人じゃ寂しかろうと思ってな!」
「てめえ、俺の弟を何だと思ってんだ!!」
「むうッ、何が不満なのだ! 広くて安くて賑やかで、至れり尽くせりではないか!」
「何がですか!?」
「ふざけんな――っ!!!」
「私、アル連れて来ます!」
賑やかな四人を乗せて、汽車は夕焼けの中を走っていた。
No.11
いくつかの町を通り過ぎ、汽車はリゼンブールへと向かう。
とある駅に停まった時、本を読んでいたアームストロングが突然窓に飛びついた。窓際でうとうととしていたエドが、びっくりして身を引く。
「ドクター・マルコー!!」
アームストロングは、ホームにいる人物の背中に呼びかけていた。黒尾の後ろから、美沙も窓の外を覗き込んでいる。
声を掛けられた男性は立ち止まり、振り返る。その表情は、徐々に険しくなっていった。
「ドクター・マルコーではありませんか!? 中央のアレックス・ルイ=アームストロングであります!」
マルコーと呼ばれた男性は駆け出した。まるで逃げるかのように、駆け去って行く。
その背中を見ながら、美沙がアームストロングに問うた。
「知り合いですか?」
「うむ……中央の錬金術研究機関にいた、かなりやり手の錬金術師だ。錬金術を医療に応用する研究に携わっていたが、あの内乱の後行方不明になっていた」
その説明を聞くなり、エドが立ち上がった。席を離れ、出口へと向かう。
「降りよう!」
「む? 降りるのはリゼンブールと言う町では無かったのか?」
「そう言う研究をしていた人なら、生体錬成について知ってるかもしれない! アルと荷物降ろさないと! 早く!
すいませーん。降ります!」
言いながら車両を出て行き、傍に立つ車掌に声をかける。
やがて、アルと荷物が汽車から降ろされた。アルがアームストロングに運ばれて降りてくるなり、エドは身を引く。
「うわ! アル、羊くさっ!!」
「好きで臭くなったんじゃないやい!」
黒尾は苦笑を漏らし、そしてふと背後を振り返った。
美沙が目敏くそれに気付く。
「どしたの?」
「今、そこに――」
言いかけ、黒尾は言葉を途切れさせる。そして、首を振った。
「……否、何でもない」
美沙は首を捻る。
エドの声が掛かった。
「おい、美沙! 黒尾! 行くぞ」
「あ、うん」
美沙は黒尾を横目で見ながらも、エド達の方へと駆け寄って行った。
黒尾は再度、そっと背後に目をやる。
見知った人物がいた気がしたのだ。しかしもう、そこには誰の影も認める事が出来なかった。汽車の扉が閉じ、ゆっくりと動き出す。
「黒尾!」
汽笛の音に重なり、エドの呼ぶ声がする。
黒尾は顔を元に戻すと、彼らを追いかけて行った。
駅を出て、エドは傍を通りかかった人に声を掛ける。
「あの、さっきここを通った……えーと……」
「こう言うご老人が通りませんでしたかな?」
そう言って、アームストロングが手帳を差し出した。そこには、先程見かけた男性の似顔絵が描かれている。
「絵、上手いですねぇ……」
美沙が感嘆して呟く。
アームストロングは誇るように言った。
「我がアームストロング家に代々伝わる、似顔絵術である!」
絵を見て、声を掛けられた男性は声を挙げる。
「ああ、マウロ先生!」
「知ってる、知ってる!」
「マウロ?」
聞きなれない名前に、アームストロングは尋ね返す。
町の人々は、口々に話した。
「この町は、見ての通り皆貧乏でさ。医者にかかる金も無いけど、先生はそれでも良いって言ってくれるんだ」
「良い人だよ!」
「絶対助からないと思った患者でも、見捨てないで看てくれるよな」
「おお。俺が耕運機に脚を巻き込まれて死にそうになった時も、綺麗に治してくれたさぁ!!」
「治療中にこう……ぱっと光ったかと思うと、もう治っちゃうのよ」
その言葉に、黒尾達は反応を示す。
「光……」
「うむ。恐らく、錬金術だ」
エドの呟きに、アームストロングが頷く。
「そうか。偽名を使って、こんな田舎に隠れ住んでいたのか」
「でも、なんで逃げたんだ?」
「ドクターが行方不明になった時に、極秘重要資料も消えたそうだ。ドクターが持ち逃げしたともっぱらの噂だった……。我々を機関の回し者と思ったのかも知れん」
話しながら、アームストロングが先頭に立って階段を上る。町の人に教えてもらった、マルコーの診療所だった。
アームストロングはアルの入った箱を抱えている。エドが、扉に手を掛けた。押し開いた扉は、ギィと音を立てる。
「こんにち――」
銃声が鳴り響いた。危機一髪、エドは銃弾を避ける。その表紙に美沙が引っ張り、アームストロングの所まで下がって彼を見つめた。
マルコーは銃を構えていたが、その手は震えている。
「何しに来た!!」
「落ち着いてください、ドクター」
言いながら、アームストロングが一歩前に出る。
だが、マルコーは落ち着きそうに無かった。
「私を連れ戻しに来たのか!? もうあそこには戻りたくない! お願いだ! 勘弁してくれ……!」
「違います。話を聞いてください」
「じゃあ、口封じに殺しに来たか!?」
「まずは、その銃を下ろし――」
「騙されんぞ!!」
「落ち着いてくださいと言っておるのです」
そう言って、アームストロングは抱えていたアルを投げた。マルコーは大きな鎧の入った箱が直撃し、その場に倒れた。
「私は耐えられなかった……」
何とかマルコーに銃を手放させ、黒尾達は部屋の中でマルコーの話を聞いていた。
「上からの命令とは言え、あんな物の研究に手を染め……そしてそれが、東部内乱での大量殺戮の道具に使われたのだ……。本当に酷い戦いだった……。無関係な人が死に過ぎた……」
イシュヴァールの事を言っているのだ、と黒尾でさえも分かった。
マルコーが研究に携わっていた物は、イシュヴァール殲滅戦に使用された。だが、一体何を研究していたのだろうか。
そう思っていると、アームストロングが彼に尋ねた。一体何を研究し、何を盗み出して逃げたのか、と。
マルコーはこめかみを押さえて俯く。そして、言った。
「――賢者の石を作っていた」
黒尾は息を呑む。
賢者の石。これまで、どれ程捜し求めていた事か。けれども手掛かりは一切掴めず、伝説上を出る事は無かった。それを、彼は作っていたと言う。
マルコーが棚から出した小瓶には、赤い液体が入っていた。黒尾は目をパチクリさせる。
これが、賢者の『石』?
疑問に思っていると、彼は小瓶にしたコルク栓を抜き、中身を机に垂らした。その行動に驚く黒尾達の前で、液体は固体へと形を変えた。エドがそっと指を出し突く。石は、突かれるのに従ってぷよぷよと震えた。
「『哲学者の石』『天上の石』『大エリクシル』『赤きティンクトゥラ』『第五実態』――賢者の石に幾つもの呼び名があるように、その形状は石であるとは限らないようだ。
だが、これはあくまで試験的に作られた物でな。いつ限界が来て、使用不能になるか分からん不完全品だ。それでも、あの内乱の時、密かに使用され絶大な威力を発揮したよ」
「不完全品とは言え人の手で作り出せるって事は、この先の研究次第では完全品も夢じゃないって事だよな」
エドはそう言うと、顔を上げマルコーの方へと身を乗り出した。
「マルコーさん、その持ち出した資料を見せてくれないか!?」
「ええ!? そんな物、どうしようと言うのかね。アームストロング少佐、この子は一体……」
「国家錬金術師ですよ」
静かに言ったアームストロングの言葉に、マルコーはショックを受けた様子だった。
「こんな子供まで……。潤沢な研究費を始めとする数々の特権につられて視覚を取ったのだろうが、何と愚かな!! あの内乱の時、人間兵器としての己の在り方に耐えられず、資格を返上した術師が何人いた事か!! それなのに、君は……」
「馬鹿な真似だと言うのは分かってる! それでも!!」
エドはマルコーの言葉を遮り、叫ぶ。
破壊された右腕の付け根に手をやり、マルコーを正面から見据えた。
「……それでも、目的を果たすまでは、針のムシロだろうが座り続けなきゃならないんだ……!!」
そう言って、エドは彼に明かした。
自分達が旅をしている理由を――自分達が犯してしまった過ちを。
そして、黒尾達の事情。エド達の行った事と、リンクしている可能性。
「そうか……禁忌を犯したか……」
エドの話を聞き終え、マルコーは呟くように言った。
「驚いたよ。特定人物の錬成を成し遂げるとは……。君なら、完全な賢者の石を作り出す事が出来るかも知れん」
エドの表情がぱあっと明るくなる。
「じゃあ……!」
「資料を見せる事は出来ん!」
そう言い放ったマルコーは、断固とした態度だった。
エドは声を挙げるが、彼は折れない。椅子を引き、席を立った。
「話は終わりだ。帰ってくれ。元の身体に戻る、故郷へ帰るなどと……それしきの事の為に、石を欲してはいかん」
黒尾は言葉を失う。
異世界から来たと言う話を彼が信じてくれたか否かはこの際、大した問題ではない。ただ、元の姿に戻る、元の世界に戻ると言う事を、「それしきの事」と軽くあしらわれたのがショックだった。
エド達の身体の事だって、深刻な問題の筈だ。皆の問題が解決する鍵を、彼は握っている。なのに……。
エドは机に手を突き立ち上がる。
「それしきの事だと!?」
「ドクター、それではあんまりな!」
アームストロングさえも、咎めるように声を挙げる。
マルコーは背を向けたまま、ぽつりぽつりと言った。
「あれは見ない方がいいのだ。あれは、悪魔の研究だ。――知れば、地獄を見る事になる」
「地獄ならとうに見た……!」
一瞬、マルコーはエドに気圧されたようだった。
しかしやはり背を向け、首を振る。
「……駄目だ。帰ってくれ」
黒尾達一行は、マルコーの家を後にした。
駅のベンチに座り、汽車を待ちながらアームストロングが尋ねる。
「本当に良いのか?」
「え?」
「資料は見れなかったが、石ならば力ずくで取り上げる事も出来たろうに」
「あ〜、喉から手が出る位欲しかったよ、マジで!!」
目の前に提示された目的の物を取り上げられたようで、エドは不機嫌な表情だ。
「でも、マルコーさんの家に行く途中で会った人達の事を思い出したらさ……。この町の人達の支えを奪ってまで元の身体に戻っても、後味悪いだけだなーって。また別の方法探すさ。――な」
そう言ってエドはアルに目を向ける。アルは、「うん」と頷いた。
それからエドは、黒尾達を振り返る。
「美沙達も……それで、良いよな?」
気を遣うような尋ね方だった。タッカーに指摘された事を、気にしているらしい。事実、タッカーに指摘される以前から、気付いていた事だった。ただ、それを言及せぬようにしていただけで。責めたくなかった。彼らもきっと、確証を得るのが怖かった。だから、ずっと黒尾達はその話題を避けて来ていたのだ。
美沙が、エドの頭をくしゃりと撫でた。
「あったり前でしょーっ。何、気を遣うような聞き方してんの。私達なんて錬金術の知識も無くて、あんた達兄弟の好意に甘えてるような立場なんだから」
「や、やめろよ!」
エドは照れたように言って、美沙の手を払う。
それから、アームストロングに尋ねた。
「少佐も、良かったのかよ。マルコーさんの事を中央に報告しなくてさ」
「我輩が今日会ったのは、マウロと言うただの町医者だ」
アームストロングはしれっとした調子で言う。黒尾はふっと微笑む。
エドも、笑っていた。
「あーあ、また振り出しかぁ。道は長いよ、まったく」
「君!」
掛かった声に、黒尾達は振り返る。
マルコーが駅に入って来た所だった。急いで追って来たのか、やや息が乱れている。
マルコーは、白い封筒を手に持っていた。
「……私の研究資料が隠してある場所だ」
言いながらこちらへ歩いてきて、江戸に封筒を手渡した。
「真実を知っても後悔しないと言うなら、これを見なさい。
そして、君ならば真実の奥の更なる真実に――」
しかし、彼は途中で首を振る。
「――否、これは余計だな」
そう言うと、背を向け去っていった。去りながら、手を挙げて背中越しに話す。
「君達が元の状態に戻れる日が来るのを、祈っておるよ」
黒尾達は唖然と彼を見つめていたが、やがて、深々と頭を下げた。
長く深く礼をし顔を上げた時には、もうマルコーの姿は無かった。美沙はふっと笑い、横に立つエドを見下ろす。
「良かったね」
「ああ」
短く答えるエドの表情も、何処か嬉しそうだった。
黒尾は、マルコーの立ち去った先をじっと見つめていた。……何だろう、何かが引っかかっている。
彼が研究していたのは、賢者の石。けれどそれは、不完全な物だった。
そしてハッと気がつく。賢者の石の不完全品。それは今までにも、目にした事のある物では無いか。
汽車が汽笛を鳴らし、ホームに入ってくる。停車した汽車に乗り込もうとするエドを、黒尾は呼び止める。
「……ね、エド」
「ん?」
「リオールで……あのエセ教主が持っていたのも、マルコーさんのと同じようなのだった?」
「いや……もっと小さくて、石らしく硬かった。けど、多分マルコーさんが作ったのと同じだと思うぜ。いくら不完全品つったって、賢者の石なんてそう何人も研究に成功しては無いだろうし……」
黒尾は口を真一文字に結んでエドの話を聞いていた。そして、ふいっと背を向け歩き出す。
「えっ、おい! 何処行くんだよ! 発車しちまうぞ!!」
「ちょっと忘れ物して来ちゃったみたい! 私、次の汽車で行くから、気にしないで先行ってて!」
言って、黒尾は駅を出て行く。先程往復した道をもう一度通り、マルコーの家へと急ぐ。
コーネロは、偽者の賢者の石を持っていた。彼が作り出したとは思えない。何者かが、彼に手渡したのだ。
そして恐らく、それはマルコーが研究していた物。
黒尾の脳裏に、駅で見かけた人影が蘇る。誰とはっきり見る事は出来なかった。けれど、胸騒ぎがしてならないのだ。
マルコーの家の前の階段まで来た所で、彼の家の扉が開いた。出て来たのは、見知った人物。
黒尾は目を見開く。予感は当たった。――そして、遅かった。
彼女も目を丸くしていた。しかし直ぐに、冷たい笑みを浮かべる。
「あら……驚きね。気付いていたの?」
「……それじゃ、中央からずっとつけて来ていたって訳? 私自身も、自分の勘の良さに驚いてる所だよ。ラスト……!」
黒尾は、階段の上に立つ彼女をキッと睨みつける。
「まさか、マルコーさんも……」
「彼なら生きているわよ」
ラストは言って、階段を降りて来る。
「生かす必要がある人材、って事?」
「貴女が知る必要なんて無いわ」
「目的は、研究資料?」
自分の横を通り過ぎて行くラストを追って歩き、黒尾は尋ねる。
ラストは視線だけを黒尾に向けて冷たく言った。
「言った筈よ。要らない詮索ばかりしていると、命を落とす事になるって」
「マルコーから聞き出したって訳だ……」
ラストは立ち止まる。そして笑みを浮かべた。
「悪いけれど、貴女達が研究資料を目にする事は無いわよ。他の子達は皆、リゼンブールへ行ってしまったのでしょう? そして貴女は彼らに追いつかない限り、研究資料が何処に隠されているか知る事は出来ない。
マルコーに聞いたって無駄よ。彼が口を割る事は、もう無いわ。彼も、この町を消されたくはないでしょうからね」
「……」
駅へと去っていくラストの背を、黒尾はずっと見つめていた。
2009/08/02